COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

プロデューサーに直撃! 「デザイン科見本市」みどころ解説

2019/07/03 インタビュー

現在開催中の「SHOWCASE〜デザイン科見本市」は、デザイン科助教のリトル 太郎ピーターさんと、修士課程デザイン専攻を修了した山田勇魚(いさな)さんがプロデューサーを務めています。お二人に展覧会の見どころや、参加した作家の作品や作風について伺いました。

「デザイン科見本市」は、藝大デザイン科の在校生や卒業生による作品を集めた展覧会です。デザインと聞くと、一般にはポスターや書籍などのグラフィックデザイン、商品を中心としたプロダクトデザイン、ファッションデザインなどをイメージしがち。いったいどんなものが展示されているの?と思っている方も多いのではないのでしょうか。もちろん、家電や文具、アクセサリーなど卒業生が関わったプロダクツなど、「デザイン」という言葉からイメージしやすいものもありますが、今回の展覧会にはオブジェや彫刻、絵画など、デザイナーとしてよりかは、アーティストの活動として生み出されたものも多く展示されています。

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「デザイン科見本市」展示風景

既に藝大アートプラザでは、日本画や陶芸ガラス、彫刻の研究室展を開催していますが、これだけジャンルを横断したものが並ぶ研究室展は初めかもしれません。そもそも藝大のデザイン科はどのようなことを学ぶ場所なのでしょうか。山田勇魚さんは次のように説明します。

「平面や立体に限らず様々な分野のデザインを学べる場所です。毎年全国から45人の学生が入学し、課題を通してグラフィックデザイン、情報デザイン、プロダクトデザイン、空間デザイン、環境デザイン、映像、描画、理論などの領域に触れ、切磋琢磨しながらそれぞれの道を探求し、その成果を卒業制作で1年間かけて制作し発表します」(山田さん)

「デザイン」と一言で言っても、藝大デザイン科には10個の研究室があり、その活動はさまざま。ワークショップを開催したり、ウィンドウディスプレイをつくったり、展覧会を開催したり......。作品をつくって終わりなのではなく、それを社会にどうつなげるか、というところまで思考する学科と言えるかもしれません。

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「デザイン科見本市」ホワイトキューブの展示風景

今回の展示には、山田さんと、助教のリトル 太郎ピーターさんが選んだ23名の作家が参加しています。それぞれ、どのような意図で声をかけたのでしょうか。

「デザイン科の多様性を体現するような作家にお声がけしました。具体的には、なるべく展示作品が色々なジャンルにまたがるように、また、それぞれの分野で興味深い活動をされている方をお呼びしています。あまり他の科では見られないような活動をしている方にも声をかけています」(リトルさん)

「今回重視したのは藝大デザイン科の多様性です。デザイン科の卒業生、在校生の中でも作家色の強い人物や、企業に勤める傍らで作家活動をしていたり、製品やグラフィックでも遊び心のある作品を発表している作家を選びました」(山田さん)

山田さんによると、藝大のデザイン科には、受験戦争を勝ち抜いたオリジナリティの強い45名が集まってきています。ですので、卒業して半分以上の学生が企業に就職する一方、毎年2、3名は作家活動に専念する人がいるそうです。また、一度企業で経験を積んでから作家活動を始め人たり、勤めながら作品を作り続ける人も多くいます。

それでは、展示室を見ていきましょう。まず、入口を入って真っ先に目に飛び込んでくるのが、和菓子や小豆テーマに活動を続ける、境貴雄さんの作品です。

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境貴雄「J-sweets#140」

「小豆をヒゲに見立てたファッションである"アズラー"の仕掛け人、境貴雄さんは大学院デザイン専攻の空間・演出研究室を修了しています。アズラー自体はモキュメンタリー(架空の出来事に基づいてつくられるドキュメンタリー風表現方法)の中の出来事のはずなのですが、すでに5000人がアズラーになったことを考えると、すでに現実として流行していると言っても良いのかもしれません。

ちなみに、彼の作品で使われている小豆は本物ではなく、彼自身が一粒ずつ作ったものです。一見コミカルな作品でありつつも、じっくり見てみると分かる確かな造形力が見どころです。

なお、境さんは今回の展示ではアズラーの写真、小豆を使った立体作品、アズラーの撮影会、そしてアートプラザ前に設置予定の等身大アズラー顔ハメパネルなど、八面六臂の活躍をしています」(リトルさん)

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手製のあずきのヒゲをつけた「アズラー」姿の境貴雄さん。

境さんの作品と呼応するかのように、ポップでキッチュな雰囲気を放っているのが、梅田啓介さんのコーナーです。カラフルな食材が美しく詰まったお重やお弁当の写真、それらの写真を掲載した写真集が並んでいます。

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梅田啓介さんの展示コーナー。「おべんとう本」「おせちパンフ2019」などが並ぶ。

「梅田さんは京都で会社員をする傍、お弁当アーティストとして活躍しています。彼は凡そ7年前から始めたお弁当生活を続ける中で、弁当箱をキャンバスに見立てて様々な作品を制作しています。モンドリアンをオマージュしたお弁当や、千枚漬けで作った下着を大きくあしらったお弁当など、見ていて楽しいお弁当だけでなく、ゴマを使ってお米の上にデッサンをした弁当や、見事にレイアウトされたおせちなど、確かな造形力とセンスを感じさせるお弁当まで。お弁当という素材が限られた支持体に描かれる彼の作品の幅広さは必見です。

勿論あくまでお弁当ですので、作られた作品はその日のうちに食べられてしまう運命にあります。ポップで楽しげなだけでなく、砂絵のような儚い美しさをもはらむところも魅力でしょう」(リトルさん)

小野哲也さんの立体作品は、繊細さが際立つ作品です。

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小野哲也「Laila」

「メカやロボットをモチーフに立体彫刻を制作している小野さんは、アズラーの境さんと同じく空間演出研究室を修了し、現在デザイン科の立体工房で非常勤講師をされています。

現在、時流としてAIやアンドロイド、ロボットが盛んに研究されていますが、小野さんの造形表現の特徴は"人間の役に立つ機械"とは違ったところにあります。というのも、彼がモチーフとしているのはガンダムなどに代表されるフィクションのメカであり、なかでも特にプラモデルなどの造形表現に着目しているからです。フィクションメカのもつ魅力である「強さ」や「異質さ」には膨大な表現方法の蓄積があり、独特の文化が醸成されています。小野さんの考える新しい立体彫刻の可能性はそういったところにあるそうです。

フィクションに登場するメカは、ともすると無骨で"強さ"が強調された造形が多いですが、小野さんの作品には緊張感すら漂う繊細さがあります。繊細さや緻密さは彼の作品のもつ魅力でもあるのですが、それらの表現によって際立つメカとしての"異質さ"も見どころだと考えます」(リトルさん)

展覧会開幕時にはなかったのですが、最近追加された作品もあります。

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鉾井喬「風の記憶-東京藝術大学-」
※ドローイングを描く際に使用する「風で動く立体彫刻」。展覧会には出品されていません。

「鉾井喬(ほこいたかし)さんはやはり空間・演出研究室出身で、現在デザイン科の立体工房で非常勤講師をされています。彼は学生時代に、鳥人間コンテストで人力飛行機のパイロットを務めたことがあり、その経験から、一貫して"風"をテーマとした作品を制作しています。

鉾井さんはこれまで様々な手段を使って風を視覚化することを試みてきましたが、最近では風によって生じる痕跡を作品として発表しています。彼が"自然と人との共同制作の絵画作品"と呼ぶこれらの作品は、人と自然の関係性・環境問題をテーマとし、鑑賞者に風を想起させることを目的に作られているそうです。

今回彼が出品したのはそういった作品のひとつで、"風で動く立体彫刻によって描かれたドローイング"と"風でうつろう風景を捉えたピンホール写真"で構成されています。ぜひ作品をご覧いただき、痕跡が記録された場の空気感や風を想像してみてください。

鉾井さんは、同様のテーマの作品を、8月下旬に群馬県で開催される"中之条ビエンナーレ"でも発表する予定だそうです。こちらもぜひチェックしてみてください」(リトルさん)

それでは、奥の展示室ホワイトキューブに移動しましょう。

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大島利佳「ぽっぷ」 下大島利佳「ひんやりときめき」

「大島利佳さんは学部4年生。アクリル絵具を用いて日本画とも洋画とも取れるタッチで主に少女の日常を描く作家です。学部生の課題と並行して年間数十作品を制作・発表していて定期的にグループ展や個展を開催しています。豊かな表情と繊細に描かれた髪の表現が魅力的な作品です」(山田さん)

大島さんには、以前の展示でインタビューをしていますので、こちらの記事もよろしければお読みください。

左手の壁面で、日用品を用いて少し不思議な世界観をつくりだしているのが、藤村駿斗さんの作品です。

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藤村駿斗「イデア idea」 上・下:藤村駿斗「ゲーム game」

「藤村さんは学部では建築デザイン・設計の分野を専攻し、大学院では空間・演出研究室を修了しました。藤村さんは、既存の空間に介入し、窓や壁・鏡などの要素の一部を変形させることで、矛盾や違和感を起こさせるインスタレーション作品を多数制作してきました。今回の出展作品は、鉛筆やトランプなど、皆さんにもなじみのあるモチーフを変形させることで、鑑賞者にものの姿や存在について問いかけています」(山田さん)

その隣で、あえて一昔前のCGのように犬やキリンなどの動物やサラリーマンなどを表わしているのが、安藤俊己さんの作品です。

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左から 安藤俊己「白い犬Ⅱ」「赤い首輪の猫Ⅱ」「キリン」「コアラ」「サラリーマン」「忍者」

「安藤さんは、描画・装飾研究室を修了しました。企業に勤める傍で印刷の可能性を研究しながら作家活動をしています。半透明のフィルムと薄い和紙を重ね、平面でありながら不思議な奥行きを感じさせる作品や、今回の作品のように3DCGによるソリッドな描写と、手作業の仕上げとの融合を図ったものなどがあります」(山田さん)

最後に展覧会にいらっしゃるお客様へのメッセージを伺いました。

「デザイン科に対して、"服をデザインしているの?"と思ったり、先入観のある方も多いと思うのですが、そういった先入観とは違うデザイン科の一面をぜひ見て欲しいです。デザインにはいろんなジャンルがありますし、デザイン科を出て、まったく別のことをやっていながらも、作品のなかにデザイン科ならではのコンセプトやロジックが入っていることもあります。展示を見た後で、デザインに対する考え方がちょっとでも変わったら、嬉しいです」(山田さん)

いかがでしたでしょうか? 「デザイン科見本市」は、デザインの間口の広さ、そして奥深さを知るための入口となる展覧会です。7月15日(日)まで開催中ですので、ぜひ皆様、足をお運びください。


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)鉾井喬「風の記憶」の写真以外

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。