COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

藝大×子ども展vol.1 森の宝物をさがしに 出品作家インタビュー 高井碧さん(修士課程 デザイン専攻2年生)

2019/08/08 インタビュー

今回の展覧会でもっとも大きな作品「もりのひと」の作者・高井碧さんは、作品を作る過程を大切にしています。表現したいテーマについて調べ、消化したうえで、自分が一番素敵だと思った世界を形に残したいと語ります。そう思うきっかけには、ある国で生活したことが関係していました。

news190808_01.jpg

「もりのひと」は架空の生き物を表現しているのでしょうか?

そうです。森にいる、普段は動かないけれども動くかもしれない生き物を表しています。木は一箇所に根を張ったら二度と動かないですが、もし木が動いたらどうかなと考えてつくり始めました。真ん中あたりのつやっとした黒いつぶつぶは、木の皮などに生えている地衣類(菌類と藻類の共生している生物)が静かに眠っているイメージです。木の皮に(魚の)クマノミみたいに住み着いているところが素敵だなと思っています。

news190808_02.jpg
高井碧「もりのひと」

上の方は顔に見えますね。

顔のつもりでつくっています。森に入ると木漏れ日や葉っぱの反射などでキラキラっとしますよね。その瑞々しさや生きているなと感じさせる気持ちを、顔や表情をつくることで表そうとしました。こういう大きい生き物をつくるときは、目の部分に力のある素材を使いたいので、七宝焼でキラっとさせています。七宝焼は人工物なのですが、ぎゅっと詰まった物質としての力がまるで生きているかのようで好きです。

このような作風に至ったきっかけはありますか?

私は、学部は多摩美(多摩美術大学)のプロダクトデザイン専攻に通っていました。そこでは、ニーズがあるものや、新しい技術で新しいものをつくることが良しとされていたのですが、課題をこなすうちに、そのようなものづくりは吸収してすぐに吐き出すアウトプットの作業のように感じてしまってしっくりこなくなっていました。次第に、ものをつくるのだったらつくりたいものについて調べて蓄えて消化して形にする、何か自分の中に残る考え方でつくりたいと思うようになりました。例えば「もりのひと」だったら、写真集や図鑑で地衣類について納得するまで調べて、それから造形をします。木と地衣類が一緒に生活しているという情報を噛み砕き、そのおもしろさを、架空の生き物に詰め込んでいくうちに、ここの膨らみは絶対こういう形にしたいとか、造形に対するこだわりが生まれました。見たり、考えたり、調べた知識を生き物に擬態させているのかもしれません。

「青い鳥」「白い鳥」は鳥にも見えますし、魚のようでもありますね。

恐竜の図鑑を見たときに、形は似ているのに絶滅した生きものと、生き残ったものがいるのが不思議でした。もし絶滅したはずの生き物が生き残って、鳥のような魚のようなそれぞれの両方の性質をもった生き物に進化していたら面白いかなと思ってつくりました。

news190808_03.jpg
高井碧「あおいとり」「しろいとり」

美大、藝大を目指した理由は?

私が通っていた高校は、進学校だったので頭のいい人ばかりでした。いろんな勉強をしましたが一番惹かれるのは絵で、絵の話だとどんな友達も、この風景が素敵だねと言って一緒に盛り上がることができました。そこから、素敵なものについての感じ方が共通言語になる世界っていいなと思い、美大を目指しました。

現在のようなものづくりをするつもりで受験したのですか?

素敵なものを世の中の多くの人に発信したいという気持ちがあったので、プロダクトデザインがいいだろうなと思っていました。ただ、多摩美時代にフィンランドのアールト大学に交換留学をしたことで、日本とは別の価値観があることを知って考え方が変わりました。日本人のもの作りはスピードが早いです。フィンランドの人はのんびりしていて、大学も休憩時間をたっぷりとって、一個一個丁寧に生きていこうとしています。白夜の時期には仕事が終わったあとにピクニックをしている人を見たり、そんな穏やかな生活を目の当たりにしているうちに、いっぱいつくることやいっぱい発信することが幸せなのだろうか考えてしまいました。大勢の人に素敵と言われることも楽しいけど、メインでやりたいのは、自分が一番素敵だと思える形を見つけること。その方が有意義で豊かだなと思いました。

生きていくうえで大切にしていることが日本とは違うのでしょうね。

フィンランドにいたときに、「日本はテーマパークみたいだよね」と言われたことが印象に残っています。遊ぶ場所はたくさんあっても暮らすところではないということですよね。生まれたときから物質的に豊かな世界にいると、それを普通だと思って、ものがなかったときにイライラしてしまったりするのですが、最初からものがない世界にいれば、イライラしたり悲しくなることもないんですよね。そういうことに気づけたことが、つくる物の方向性をかえた気がします。

立体をつくっていますが、大学院で彫刻ではなくデザインに進んだ理由はあるのでしょうか?

迷ったのですが、絵やグラフィックが好きなこと、七宝焼とか樹脂や漆とか、いろんな素材を研究するのにはデザインが良いと思いました。また、私はレーザーカッターで木を切っているので、そういう方法が彫刻学科では邪道かな、と思ったというのもあります。もちろんデザインも彫刻も両方好きです。

news190808_03.jpg

今後はどのように活動を展開していきたいですか?

まずは修了制作を頑張りたいと思いますが、そのほかに、地域アートにも興味があります。今、長野県伊那市の高遠町でバス停をリフォームするプロジェクトをやっています。普段の作品作りとは少し違いますが、このプロジェクトでも伊那のものをリサーチして、地域を知って制作することができるので楽しいです。また、いま、自分がやっていることがデザインなのかアートなのか自分でもわかっていません。ですが、工業的に量産するシステムもこれから必要だと思っているので、布の柄を考えて着物をつくったり、アニメーションに挑戦した見たり、自分が素敵だと思える形をいろんな分野でとにかくつくり続けたいです。そして、いつか自分の作品に、世界観だけじゃない、揺るがないコンセプトを見つけられたらいいなと思っています。

●高井 碧プロフィール

1994 年  宮城県生まれ
2017 年  多摩美術大学美術学部生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業
2018 年  東京藝術大学大学院美術研究科修士課程デザイン専攻 在籍


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。