COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

「音でつくる・音をつくる・かたちをつくる」 谷岡靖則先生によるみどころ解説

2019/11/27 インタビュー

「音でつくる・音をつくる・かたちをつくる」は、音をテーマにした、彫金・鍛金・鋳金の3つの研究室の展覧会です。今回の展覧会のプロデューサーで、鋳金の准教授である谷岡靖則先生と一緒に展示室をまわりながら、展覧会の企画意図、先生の作品やその他の出品作品について伺いました。

金工の展覧会で、「音」をテーマにしたのはなぜなのでしょうか。

彫(金)・鍛(金)・鋳(金)で展示をやることになったとき、一番共通しているのが、音で判断することだと思いました。工芸の作家は素材と向き合うので、五感をつかってつくっています。そのなかでも、金工の作家にとって音はとくに重要です。たとえば、薄い金属板を成形する場合、銅板などを鋼鉄でできた当金に当て、それを同じ鋼鉄で造ったハンマーで叩くのですが、板と当金とハンマーがきちんと中心に合っているときれいな音がして、ずれていると良い音はしません。ヤスリで表面を削る場合も、きちんと面に当たっていないと、変な音がします。このように、音を感じないときれいな造形はできません。彫・鍛・鋳で、技法も考えていることも違いますが、音をテーマにすれば、観客のかたに新しい観点で作品を見ていただけるのではないかと思いました。


「音でつくる・音をつくる・かたちをつくる」展示風景

このお話が展覧会タイトルの「音でつくる」に相当することですね。「音をつくる」はどういったことでしょうか。

今回の展示では、関連企画として、打楽器奏者の永田(砂知子)さんに、鉄製のスリッドドラム「波紋音(はもん)」を演奏していただきます。永田さんの演奏を初めて聞いたとき、僕が作品をつくるときに聞いているような金属の音で、音楽をつくっている人がいることに驚きました。永田さんの演奏で金属の音を感じてもらうことで、金工作品を見るときの幅も広がるのではないかと思っています。また、会場にも永田さんの音楽を流しています。

たしかに、「波紋音」は硬そうな鉄でできていますが、驚くほど柔らかな音を発します。作品の造形としてのイメージと、発する音の差も感じていただけるかもしれませんね。

そうですね。作品の形を見るだけでも、シャープなシャキシャキという音や柔らかい音など、いろんな音が感じられます。固定観念にある金属の見方とは、違ったものの見方が提案できていれば嬉しいです。


「音でつくる・音をつくる・かたちをつくる」展示風景

展示の一角に金工作品の制作風景の映像が流れていますね。

永田さんのような演奏家による美しい音楽を聴くことも大事ですが、金属をハンマーで叩いている様子、機械の旋盤が金属を削っている様子、金属を切り落とす様子、糸鋸で引いている様子などを映像で流すことで、制作と音が密接にリンクしていることを、表現しようと思いました。


会場で流している制作風景の映像。これは手ヤスリで白銅という金属を削っている様子。

彫金、鍛金、鋳金の違いについても教えていただけますか。

基本的に鍛金は、加工された金属を叩くことによって形をつくっていきます。彫金は、金属の板を彫って絵画的に表現したり、板を加工して立体にしたものの表面を飾っていきます。鋳金は、金属を溶かして型に流し込んで造形します。

出品作品は音をテーマにつくっていただいたのでしょうか。

音をテーマにつくってくださいと直接的にお願いしたわけではありません。なかにはテーマに合わせてつくってくれた人もいますが、普段どおりに自分の作品をつくっている方もいます。観る人が、音と絡めてイマジネーションを膨らませられれば良いと思っています。


瀬田哲司「Sound Medal (Lilium formosanum)1」を手に取る

谷岡先生の出品作品についても聞かせてください。

床に展示している「無題」は三半規管と蝸牛管を表わしています。三半規管は平衡感覚を感じているところで、蝸牛管は音を拾っている器官です。鼓膜から伝わってきた音を、蝸牛管のところに通っている神経で整理して脳に電気信号として送り、我々ははじめて音として感じています。


谷岡靖則「無題」

耳になかの構造を作品化しようと思ったのは、元来先生が金属と音の関係に注目していたからなのでしょうか。

じつは、それは関係ありません(笑)。単純に形がきれいだと思ったからです。もともとは耳そのものの形をつくっていたのですが、そのために人体の解剖図を見ていたときに、三半規管の解剖図をきれいだなと思いました。その後、ある研究所で、実際のキツネの三半規管を見せていただく機会を得て、その美しさに感動しました。形のきれいさだけでなく、そこに機能的な意味合いがあることにも惹かれています。

「膜-HAND」は、手を表したシリーズですね。

どちらかというと、手というよりも膜のつもりでつくりました。内側と外側の間にある、皮膚のさらに外側の膜に興味があります。ですので、できるだけ薄くつくろうとしています。型に金属を流す時、重力で流せるのは厚さ3mm弱までですので、遠心力や吸引する力を借りて金属を流しています。原型は服飾に用いるレースを使っています。なかには何もないけれども手の形があったことがわかったり、その手の形によって表情も出せたり、手袋にも見えたりして面白いです。


谷岡靖則「膜-HAND Ⅺ.R」

人体の部位に興味があるのですね。

人間のパーツを昔からつくっています。最初は足からつくりはじめたのですが、そのきっかけは、昔バイクに乗っていたときに大怪我をしたことです。そのときの怪我で、いまも2cmくらい右足が短いのですが、そのことで、人間の体の機能や、人間がいかにバランスをとって歩いているか考えるようになりました。その象徴として、足や人体のパーツをつくるようになりました。三半規管や膜もその一環です。

ここからは一緒に展示を見ていきたいです。直接音の鳴る作品を作った人も何人かいますね。平島鉄也さん「YURAYURA―メンダコー」はひと目見たら忘れられません。

メンダコというタコをモチーフにしています。動かすとカンカンと音が鳴ります。体の動きに合わせて耳も動きます。平島さんも鋳金の出身者です。


平島鉄也「YURAYURA―メンダコー」

ジェームズ花蓮さんの「cluste.1」「cluster.2」は、永田さんのライブで演奏された作品ですね。

叩く金属パーツの形によって、音も変わります。クッションの上にパーツを置いているだけですが、クッションがあることによって、床に直接置くよりも音が響きます。それぞれのパーツは板状の蝋を上から落として偶然できた破片のかたちです。それを鋳造して金属に置き換えています。


ジェームズ花蓮「cluste.1」「cluster.2」

青木亨平さんの「Hissing」は、鋭い音がする作品ですね。持ち手は猫のしっぽのようで、金属の先は猫の手の形のようにも見えます。

バネに使うかなり強い金属を使っています。振ると音が鳴り、音をしたときの映像も流れています。


青木亨平「Hissing」の音を出してみる。

三三鋳金工房さんは、これまでの藝大アートプラザの展示にも参加しているので、何度か作品を見たことはありますが、音のなるものは初めてみました。

ベルや小型の梵鐘です。お寺の梵鐘などは、むかしから鋳金の技法でつくられています。この作品は、音をつくるための道具としての形になっています。


三三鋳金工房「小さなベル/ひょう/うま/うさぎ」


三三鋳金工房「小鐘『山と月夜』」

内堀豪さん作品はミニマルな器にも見えますが、これも楽器なのですね。

バチがありますので、これも音を鳴らせる作品です。実際に叩いてみると、硬い音がします。梵鐘などとは下に向かって音がこもるようにつくりますが、これは上に向かって形が広がっているのが、珍しいですね。どちらも銅に箔(金箔・プラチナ箔)を押していますが、音は違います。


内堀豪「vessel 1」「vessel 2」

楽器ではありませんが、前田宏智先生の乾杯用カップは、カップ同士を軽く触れさせると、美しい音がなります。

銅や錫ではなく特殊合金を使っています。素材から美しい音が鳴るように考えてつくったのだと思います。表面の模様は、彫金の技法で叩くことによってテクスチャーを出しています。鍛金でも金属を叩きますが、表面の加工というよりも、叩くことによって形をつくっていきます。鏨で表面を装飾的に細かく加工していくのは彫金的な技法です。


前田宏智「Cheers♩‿♩(乾杯用カップ)」

音を発する作品以外についても見ていきましょう。鍛金専攻の金子マヤさんの作品です。

こちらの作品は、音をイメージした作品です。タイトルも「Step〜tantan〜」「Step〜tenten〜」「Step〜kankan〜」ですから、3種類の金属を叩いたときの音でしょうか。


金子マヤ「Step〜tantan〜」「Step〜tenten〜」「Step〜kankan〜」

佐瀬梓さんの作品は表面のマチエールが豊かですね。

青は銅が錆びたときに生じる緑青の色で、茶色は顔料を焼き付けているのかもしれません。ヨーロッパ風の着色方法と日本風の着色方法を混ぜていると思います。タイトルからもわかりますが、「すとん」や「むっちり」など、擬音を表わしています。


佐瀬梓「onomatopeia『むにゅっ』/『すとん』/『ぽてぽて』/『ぽてっ』/『むっちり』」

上田かなさんの作品は図形のような形ですね。

こちらも音をイメージしていますね。もしかしたら、音の波形を表わしたのかもしれません。鉄は温度を高くすると酸化して色が変わります。バーナーを当てて、300~600度くらいの温度に上げると、このような色になります。


上田かな「track 1」


上田かな「track 2」

松渕龍雄さんの作品は、何かの塔のようなかたちですね。

こちらは、中にオイルを仕込めるようになっていて、先端の布製の芯に火を灯せます。江戸時代など、皿に油を入れて燃やして灯りにしていましたが、そのようなものですね。


松渕龍雄「我、一片雲に惟う」

花器をつくっている方も多いですね。

鋳金のブロンズに花を生けると花の寿命がもちます。そういう効果もあるため、ブロンズで花器をつくる方は多いです。


石川将士「Vase_Sit」「Vase_Female」

たしかに、花瓶に10円玉を入れると花に良いと聞いたことがあります。ほかにも、アクセサリー類も多く並んでいますね。

三島一能さんは彫金専攻の方です。隙間があいているのが見える通り、小さな板を点でつなげてつくっています。鉱物のようにも見えてきます。


三島一能「Ridge/ブローチ」「SQUARE/ブローチ」

江原(真理子)さんも彫金の方です。板を糸鋸でくり抜いて透かしにしています。


江原真理子「ブローチ」「ピアス」「ネックレス」

北野真理子さんのブローチは、椿をモチーフにしていますね。

この花びらの形は、鉛筆でクロッキーを描くように、蝋をフリーハンドで切って鋳金の原型をつくっていくので、柔らかい自由な線が描けます。ただ、花びらが揺れる動きや音をイメージしないと、このような輪郭線は描けません。そうやって、蝋でつくった花びらに雄しべと雌しべの凸凹をつけ、型をつくり金属を流し込んで、さらに金や銀でメッキしていると思います。簡単そうに見えますが、なかなか手が込んでいます。金属をのこぎりで切ると、どうしても硬い線になって、このようなちょっとした膨らみは表現できません。このような表現ができるのが鋳金の特徴です


きたのまりこ「椿 ハート」「椿 花と枝葉」

藝大アートプラザがリニューアルして以来初となる、美術と音楽の領域がリンクする展示です。金属の音を聴きながらつくった作品、音をイメージさせる作品、音が鳴らせる作品。金属と音というテーマでゆるやかにつながった作品が、一堂に会しています。ぜひ会場に足をお運びください。


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。