「音でつくる・音をつくる・かたちをつくる」出品作家インタビュー 今関舞香さん

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藝大アートプラザ
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インタビュー

シャラシャラ、コロコロと愉快な音の鳴る作品を出品した今関舞香さんは、万華鏡作家として活動しています。そんな今関さんが最初に目指したのは、鍛金の作家でも万華鏡の作家でもなく、アニメーション作家でした。現在の活動に至るまでの壮大なストーリーを伺うと、「これだ!」と思ったらその道に邁進する、今関さんの生きる姿勢が浮かび上がってきました。

普段から音の鳴る作品を制作しているのですか?

音の鳴る作品は初めてつくりました。作品を、今回の展示のためにライブを開催してくださった、打楽器奏者の永田(砂知子)さんに演奏していただけるとのことで、最初はわくわくしてつくり始めたのですが、音が鳴るだけでなく楽器のように万人にとって心地の良い音を出さなければと思ったので、とても難しく、勉強になりました。揺らした時に音が鳴ることを目指していたので、中に仕込む仕組みを楽器店に行って考えたり、永田さんに相談もしました。


今関舞香「らんぶるたんぶる2」

顔の形をしたものから音が鳴るアイディアは、どのように思いつたのですか?

今から3年前に2年間トルコへ留学していました。そこで出会った人たちが、本当に話し好きで、チャイを何杯も飲んではよく喋り、笑っていました。そのときの声のイメージを作品にしたいと思って、顔を揺らすと笑い声のような音が鳴る作品をつくろうと思いました。


今関舞香「らんぶるたんぶる3」

中には何が入っているのですか?

それぞれ音が違うのですが、一つには細くて薄い金属のパイプを並べて、その上にレールをつくって、コインのような金属を走らせています。もう一つには、かまぼこ型の太くて厚い金属を並べて、レールをつくって、金属のボールみたいなものを走らせています。ボールが飛び出さないように屋根もつくっています。鉄筋や木琴を叩いたときのコロコロ、ポコポコした音が自分にとっての笑い声のイメージに近いなと思って、その音を意識して、実験を繰り返しました。素材や形状、音程はどうするか、どうやってステンレスの顔のなかに固定するのか、どの素材なら溶接して蓋をするときの熱に耐えられるか、完全に蓋をしてしまうので万が一、中身が壊れたときどうするかなど、考えることが膨大すぎて、無謀なのではないかと思いましたが、なんとか完成することができました。

音の鳴る作品は初めてつくったとのことですが、普段はどのような作品をつくっているのですか?

普段は万華鏡作家として活動しています。こちら(「万華鏡-Parallel in blue-」)が今回出品した万華鏡です。三角の頂点が覗き穴になっていて、そこを覗きながら光の方向を見ると、なかのガラスの棒に入ったオブジェクトがゆっくりと下へ降りてきます。さらに、金色のつまみを回すとなかのガラスの棒がまわり、垂直の動きだけでなく水平の動きが交わります。


今関舞香「万華鏡-Parallel in blue-」

いわゆる万華鏡とは違う形をしていますね。

三角形は私のオリジナルの形です。手に持てる小さな作品の場合は、かわいいポップなデザインを心がけています。システム自体はよくあるオイルワンドスコープというもので、ガラスなどのパーツとオイルを詰めた棒(ワンド)を縦にして、オブジェクトが落下するのを見ます。基本的には、ミラーの入っている筒に棒が付属しているT字形なのですが、私はそれを三角形の形態におさめて、より「スコープ感」(何かを発見するために覗き込む装置のイメージ)を強調しようとしました。私は、万華鏡を覗いた時に見える世界感と、万華鏡を覗いている人が作り出す空気感、その両方を大切にしています。また、作品を覗いている人を見た時に、何を覗いているのか気になって「はやく私も見たい」という気持ちになるような形を目指しています。


「万華鏡-Parallel in blue-」を覗く今関さん。

「万華鏡-Parallel in blue-」を覗いた様子。

大きな作品はどのような形なのでしょうか。

大きな万華鏡の場合は、具象的な形にすることもあります。万華鏡自体の形によって、中に見える世界も変わると思っています。昨年、女性と気球をイメージした万華鏡をつくりました。この作品には、母親という普遍的な存在の内側を覗いて、自分が胎児だったときにそこにいた感覚や、自分をいつでも守り包み込んでくれる存在に賛辞を送るような気持ちになりながら、万華鏡のなかに映る世界を見てもらおうという意図があります。このように、万華鏡自体の「外側」の形と、なかに映る「内側」の世界とのストーリーを考えながらコンセプトをつくっています。また、具象的なモチーフの場合は、鍛金の技法を用い、シート状の金属を金槌で叩いて、立体的な人の形に起こしています。


今関舞香「anne anne anne」
※「音でつくる・音をつくる・かたちをつくる」出品作品ではありません。


今関舞香「ゆめいじり」
※「音でつくる・音をつくる・かたちをつくる」出品作品ではありません。

美大に進もうと思ったのはなぜですか?

自然な流れといいますか、ものをつくる仕事につくのが当たり前のように思って育ちました。両親は美術系ではなく音楽系で、私も音楽をやっていたのですが、ハサミや糊を使って手を動かすのも好きで、幼稚園のときから「将来は工作屋さんになる」と言っていました。今思えば、本当にそのとおりになっています。

自然と美大受験をすることになったのですね。

受験を考えたとき、最初はグラフィック方面に進もうと思っていたのですが、予備校の授業を受けて、手を動かしてものをつくることの方が圧倒的に好きなことに気づきました。同時に、将来はアートアニメーション作家になりたいとも思っていました。そうであれば、普通は映像を学ぶことを考えると思うのですが、まず、緻密な作業をする心持ちを学びながら、ものをしっかりつくれるようになりたいと考え、アートアニメーション作家になるために工芸科に進もうと思いました。ストレートにその道に行くよりも、できるかぎり遠回りをしていろんなものをかき集めて、夢に向かっていこうと考えていました。

なぜ鍛金を選んだのでしょうか。

いくつかの専攻を体験して、陶芸のように窯で焼いたり、鋳金のように金属を流したり、いろいろな工程を経て完成形が見えるのではなく、鍛金の場合は、そのときどきの仕事が完成形に直結していることがわかりました。金槌で叩くとカーンと音が鳴って、その音のとおりの形ができます。最初から最後まで自分の手を離れることなく、金槌で叩いた槌目一つ一つが最後まで影響します。それが自分にとって理想的なもののつくりかただと直感して、鍛金を選びました。

映像の夢はどうなったのでしょうか?

鍛金を学びはじめてからも映像作品への憧れは膨らむばかりで、ありとあらゆるアニメーション作家さんのところでアルバイトをさせてもらっていました。ただ、たくさんの素晴らしい作品に携わらせてもらった結果、何も私がわざわざやらなくてもいいんじゃないかと思ってしまいました。そんな時期に、学校の古美術研究旅行の自由行動の日にひとりで京都万華鏡ミュージアムに行って、そのときに見た海外の作家の万華鏡に目からうろこが落ちるほどの衝撃を覚えました。私が興味を持っていたアニメーションは、具体的なキャラクターが動くようなものではなく、抽象的な線が波打つとか、点が点滅するとか動くとか、そういったものだったので、万華鏡を見て「私はこういう映像がつくりたかったんじゃないか! 見つけたー!」と思いました。

たしかに万華鏡も映像と言えるかもしれませんね。

自分が好きなものづくりと映像表現が合わさったものが万華鏡で、これ以上に自分にぴったりな表現方法はないと思いました。古美術研究旅行から帰ってすぐ、日本の万華鏡界の第一人者と言われる、山見(浩司)先生の門をたたきまして、先生の教室に生徒として通ってミラーのシステムに加えステンドグラスの技法も学んで、それで鍛金技法と万華鏡を組み合わせた作品がつくれるようになりました。

今後の目標について教えてください。

万華鏡をつくり続けたいです。万華鏡は一つのものをずっと見続けることもできますし、沢山のものを集めることもできますし、さまざまな楽しさがあります。手に取りやすい値段のものが見つかることも魅力です。おもちゃ、クラフト、アート、ジュエリーと、いろんなジャンルを跨いでいて、どこを選ぶかによっていろんな可能性があります。今回の展示をきっかけに音の鳴る作品にも挑戦したので、今後、万華鏡と音がコラボするような作品もつくってみたいです。さらに、そのような作品を商品化し、MoMA(ニューヨーク近代美術館)のデザインストアで販売されたらなあ・・!と夢見ています。

●今関舞香プロフィール

1987 年  東京都生まれ
2018 東京藝術大学美術研究科修士課程工芸専攻鍛金 修了
現在 同大学美術学部 工芸科鍛金研究室 教育研究助手

【略歴】

2014 年  個展 ゆめいじり/十一月画廊(銀座)
2015 個展 さよならまた来てずっといる/十一月画廊(銀座)
2016 グループ展 yabanci/Museum Pub(トルコ共和国)


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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