COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

第14回藝大アートプラザ大賞展出品作家インタビュー 瀧澤春生さん(修士課程芸術学専攻美術教育2年)

2020/02/12 インタビュー

大賞を受賞した瀧澤春生さんは、大学院の芸術学専攻美術教育の2年生。社会人経験を経てから藝大に入り、教育現場にいた経験を活かしながら彫刻を制作しています。「双子」は、通学途中で気になった人物を彫ったシリーズの一つ。瀧澤さんが彫刻を通して観る者に伝えようとしていることとは…。

瀧澤春生

大賞を受賞しての感想を教えてください。

嬉しかったです。この作品はもちろん完成した一つの作品なのですが、もともとは大きな彫刻にするためのマケット(ひな型)のつもりでつくりはじめたものでした。そのため、大賞と聞いたときはかなり意外でした。

瀧澤春生「双子」
瀧澤春生「双子」

受賞作をつくったきっかけを教えてください。

じつは長い間、教員の仕事をやっておりまして、それを一度休んで藝大に通うようになりました。そのような生活の変化があったころ、通学の途中で見る景色がとても新鮮でした。そういった生活のなかで面白いと思ったことを、日記を書くように木にスケッチをしておいて、気が向いたときに彫ってく、そういうスタイルで作品をつくっています。

この「双子」も、そのようなスケッチからできた作品です。おんぶ紐をしたお母さんが、朝早い時間に双子を抱えて通り過ぎて行きました。その状況が気になったのと、お母さんは険しい表情なのですが、子どもさんは嬉しそうにしていて、必死さと幸せさの対比も面白いと思いました。ただ、作品にするときには厳しい顔のお母さんの表情を少し笑った表情にして、子どもさんも一人ずつ表情を変えています。双子の兄弟でも必ず性格が違ったりしますよね、そういったことも表現しようとしています。

瀧澤春生「双子」(部分)
瀧澤春生「双子」(部分)

このような小ぶりのスケッチ的な彫刻を作ってから、大作に挑戦しているのですか?

そうです。昨年、このようなスケッチの一つを大きな作品にしました。ただ、小さなサイズときは締まって見えたものも、大きくするとイメージが変わることもあって、課題も出てきます。なので、いくつかスケッチした彫刻を並べておいて、もっと作品として伝わりやすいものにできないかと考えたりしながら、機が熟すのを待って、それから大作に取り掛かるようにしています。この「双子」を大きな作品にして面白いのかは未知数ですが、作品が売れたので、大きくするかどうか悩む前に手元からなくなってしまいました(笑)。もちろん、大事にしてくださる人がいたら、とても嬉しいです。

瀧澤春生「双子」(部分)
瀧澤春生「双子」(部分)

どのような素材でできているのですか?

像は榧(かや)、台座は胡桃の木です。榧は保存修復の人が仏像をつくるときに使うもので、その端材をもらいました。キメが細かくて細い線を出しやすい木で、とても彫りやすいです。藝大に入ってから、いままで使ってこなかったいろんな素材に出会いました。榧もその一つです。

作品の表面に、白っぽかったり茶色い部分がありますね。

貝殻を粉状にした胡粉や柿渋を塗ってから、彫って、さらに色を塗ったりしているので、少し模様のようになっています。顔に黒い線がありますが、これはあえてデッサンした線を残しています。

入選作の「通勤ダンサー」もスケッチを元にしたシリーズですか?

「通勤ダンサー」のモデルは、つり革につかまっている自分なんです。満員電車に乗る時、足元にかばんを置く人がいると、転倒寸前になりますよね。それ自体は苦痛なのですが、倒れそうな状態の不自然さが面白くもあって、作品にしました。そのような日常生活のなかで「あれ?」っと思ったことは、他のみなさんとも共通するものかもしれなくて、それを作品でつなげられたらと思っています。

瀧澤春生「通勤ダンサー」
瀧澤春生「通勤ダンサー」

以前から人をモチーフにしているのですか?

以前から周りにいる人の行動に関心があり、何点か作っています。例えば、自分の思い通りにならない時に怒りやすい人と少し笑ってやり過ごす人との違いなどを見てなぜそうなるのかを考えながらそれをモチーフとして制作していた事もありました。このような小品のシリーズとは別に、人や猫などの生き物とその動く軌跡を彫ったシリーズもあります。

現在は大学院の美術教育専攻に在籍しているとのことですが、どのようななことを学ぶ専攻なのでしょうか。

作品制作による表現の追求と、制作から得られた考えや知恵を理論化すること、その両面から学び、多くの人に美術が人間にとって大切であることを伝えるための研究をする学科です。作品だけで表現するのではなく、こういう思いでつくっている、ということを自分で論を立てながら語れるようにします。これまで教育現場にいたこともあり、その経験を活かせるような活動を目指しているので、この学科ならば、制作と教えることがどうつながっているのかを考えていけると思いました。

一度社会に出てから大学院に入り直したきっかけは何ですか?

以前から制作を教員の仕事と共に行っていたのですが、常に制作を中心にした生き方をしたいと思っていました。
二人の子どもが大学を卒業し、自分のやりたいことに関してどうやって時間を使うか考えられるようになりました。また、美術教育に在籍し、そこから発展していった方を何人か知っていたので、自分でだけで制作を続けていくのもいいけど、一旦、仕事を休んで、美術教育で学んで、自分のできることをパワーアップさせたら、今とは違う流れができるのではないかと思いはじめました。そのようなときに、美術教育にいらっしゃった彫刻家の本郷寛先生に、「藝大に入って学びたいと思うのですが、どうですか?」と尋ねてみたんです。そしたら、「絶対に、意識が変わって作品も変わりますよ」と自信を持って言われて、それで心が動きました。この先自分が変わるかもしれないし、どうにもならないかもしれない。そんな気分を味わえていること自体が面白いです。

瀧澤春生

実際に入ってみてどうでしたか?

制作に真剣に取り組んでいる一流の人と接し、いままで自分がこれでいいんだと思っていたレベルや意識が違うことがわかりました。自分がいままでつくっていたものの甘さがわかり、つくるものも変わってきました。

話はさかのぼりますが、なぜ彫刻に興味を持ったのですか。

仏像がきっかけでした。修学旅行で行った薬師寺で仏像を見て、大きさとか「韻」のようなものがすごくて、とても感動して、言葉を介さずに人の心が動かせるものって良いなと思いました。かといって、今の時代に私が仏像をつくるのはちょっと違うなと思っているので、仏像はつくっていませんが、中心にある考え方はさほど違わないかもしれません。仏師が、仏さんの考えを自分のなかにとり入れて木に彫り表わして、それが見ているひとの気持ちを動かす。そのように、自分が面白いなと感じたものを彫り表して、それを見てくださる方にも感じてもらう。そういう意味では似ていると思います。

今後の活動についても教えてください。

まだ正式に決定していませんが、今年、海外に留学する計画を立てています。あまり海外に行ったことはないのですが、場所を変えて違う文化に触れると、日本にいるときとは意識が変わるかなと思っています。現地で、気づいたことをスケッチして、小さな木に刻んで、それを発展させていったら、きっと価値あるものになるかなと思っています。大学院を受験するときもそうですが、機会があったときに手をあげないと何も始まりません。二度目の学生生活を始めた寄り道ついでに、そういったことをやってみてもよいですよね。

●瀧澤春生プロフィール

東京生まれ
2020年現在 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程芸術学専攻美術教育2年


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。