COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

「Glass Wonderland」出品作家インタビュー 山本真衣さん(工芸専攻ガラス造形修了)

2020/03/06 インタビュー

江戸切子などに使われるカットの技法で、抽象と具象のあわいを行くガラス作品を制作している山本真衣さん。その代表作でもある「Breeze」は、イギリスと日本という2つの国で学んだ経験を活かし、短所を長所に変えることで誕生しました。その発想とは……。

山本真衣

「愛でる」は、山本さんの作品のなかでも少し変わった形ですね。

この作品は、以前実家で飼っていた文鳥をイメージしています。うちの文鳥は晩年、人の手の上で落ち着くのが好きでした。そこから手元でかわいがることができる作品をつくりたいなと思いつくりました。一時、球根にはまっていて、水耕栽培のヒヤシンスの球根から芽が出てくる様子が、とても愛おしくかわいくて、芽が出てきた様子を模したシリーズをつくっていました。そのような球根と文鳥にも、愛おしいという点で通ずるものがあるなと感じ、球根と同時期に文鳥もつくりました。このように私の身近にある美の景色を作品にすることが多いです。


左から 山本真衣「果実」「sweet smell」「果実」「愛でる」

裏返すと、さりげなく足が彫られていますね。

裏から見ると、より文鳥であることがわかります。ただ、私は、写実的なデッサンが苦手で、もともと抽象画が好きなこともあって、すべての作品において具体的になりすぎない方向性で制作しています。ですので、タイトルも雰囲気が伝わるようにはするけれども、見る人の想像力を損なわないよう最後の答えは自分からは提示しないようにしています。


山本真衣「愛でる」裏面

「果実」はフルーツをイメージしているのですね。

梨をイメージした蓋物と、イチジクをイメージした蓋物です。果物を観察したとき、細かな模様やハリ、色のかんじが美しいなと思い、わたしも生命感が伝わるものをガラスで表現したいと思いました。裏から見ると、イチジクであることがわかりやすいかもしれません。ただ、ものとして「これはイチジクです」と伝わらなくてもよいと思っているので、「果実」というタイトルにしています。


山本真衣「果実」裏面

「満ちていく」は月をイメージしています。十代の頃から月が好きでよく写真を撮っていました。よく見ると蓋にほんのりと線が入っていて、左側が月で右側は雲の様子を表しています。雲の部分は完璧な透明ではなくて、ほんのり白い部分や水色の部分があります。


左から 山本真衣「Breeze-春-」「満ちていく」「果実」「果実」「愛でる」


山本真衣「満ちていく」蓋

水玉模様のようになっていますね。

これは「ムリーニ」という技法でつくっています。模様の入ったガラスの棒をつくりそれをのばして割り、金太郎飴のようになった断面の丸いガラスを並べ、焼いています。藝大修了後、アシスタントをしていた潮工房で身につけた技術です。ガラス作家の小西 潮さん、江波冨士子さんから作家として生きて行く術も教わりました。

「Breeze」は定番のシリーズですね。

ちょうど10年前、藝大の修了制作からつくっています。テーマは季節の風の匂いです。私はイギリス留学を機に、自分は日本人なのだと自覚し始め、帰国後から日本の四季に敏感になりました。毎朝同じ時間に家を出ていると、ある日突然匂いが変わって、「今日から春だ」とか「今日から秋だ」と感じることがあります。風の匂いが変化すると、新しい世界に入ったような気分になれます。そういったイメージを作品に投影したくて制作しはじめました。


山本真衣「Breeze」
※現在は展示されていません。

ガラスの表面が美しくカットされていますね。

私のメインの技法はカットなので、削っていろんな模様にし、作品にしています。使う道具は、江戸切子で使われるものと同じ道具です。グラインダー(研磨盤)に人工のダイヤモンドが埋まっていて、それを回転させ、そこに水をかけながら、ガラスを押し付けて削ります。削るガラスは、吹いたり、ソリッドワーク(空気を入れずに透明のガラスを巻く技法)で、大きなビー玉のようなイメージでつくっています。

奥の方にいろんな色が見えています。

フリットという色の粒が入っています。一番外側の面は削ってしまうので、表面に近いところに色を入れても、削れて色がなくなってしまいます。なので、一番外側ではなく手前か、もっと前の段階で色をつけ、透明のガラスで外側を覆っています。


山本真衣「Breeze」「キモチ」
※現在は展示されていません。

木箱の中に入れて飾るものなのでしょうか。

箱のまま楽しんでもらえる作品ですが、箱に入れずにその日の気分の子を取り出して、玄関に並べてみたり、いまの時期ならばお雛様と一緒に並べてもよいです。箱に入れるようになったのは、箱に入っているだけで大切なものという事が感じられるから。それと、1個ずつ並べておくとほこりをかぶったときに手間だなと思ったこともきっかけです。箱に入れていれば、箱のまま出して飾ったり、気分じゃないときは蓋をしめてしまえば、ほこりも入らないです。

以前、アートプラザに単体の「Breeze」も出品していましたね。

単体のものが原点です。展示にくるたびに1つずつ買い集めてくださる方や季節ごとに買い足したりする方もいらっしゃいます。今回出品したのは春の「Breeze」ですが、夏だったらもう少しカラフルにしたり、冬だったら白っぽくしたり、お正月に向けてめでたそうな色合いにしたり、季節ごとに楽しんでいただくことができます。

2018年の「藝大アートプラザ大賞受賞者招待展」には、とても立派な「Breeze」のセットを出していましたね。

あのセットは幼い頃、缶のなかにお気に入りのいろんなものをガチャガチャ入れていた宝箱のイメージでつくりました。好きなものを箱に詰めるという行為自体も好きです。箱に入っているだけでなぜか特別に感じます。


山本真衣「Breeze-白虹-」 木箱製作:臼井仁美
※現在は展示されていません。

こちらのネックレスはすべてガラスでできているのですか?

ペンダントトップはガラスで、脇のビーズは天然石です。石はガラスと似ていますが、石のなかにも模様があります。その表情を活かしたいと思っています。


山本真衣「sweet smell」

常設展に別の作品もありますね。

人が集まったときに使える楽しいものがつくりたいと思いつくりました。下に敷いてあるプレートに、前菜を盛ることもできますし、赤い器には、食前酒や小さい酢の物をいれても良いです。玉状のものは、箸置きとして使ったり、食卓を飾るオーナメントにもできます。プレートは先程説明した金太郎飴状のガラスを板に並べて焼く、ムリーニでできています。コップは吹いてから削っています。


山本真衣「見つめる」
※常設展出品作品です。

最初にガラスを勉強したのは、海外留学の時なのでしょうか?

新しいことを学ぶのであれば、英語であっても日本語であっても変わらないかなと思い、留学したイギリスの大学で初めてガラスを学びました。海外留学を決めたのは、父に勧められていたことと、私自身が英語を喋れるようになりたかったからです。

どのようなことを教わるのですか?

技法も教わるのですが、何をつくりたいのか考えることがメインの課題です。たとえば、来週までにドローイングを100枚描いてきてくださいと言われて、そのなかで好きなものを5枚選んでと言われて、そこから何が見えるのか発展させます。何をつくるか決まったら、最後にそれに向いている技法を教わります。技法ありきではなくて、やりたいものありきです。やりたいことが完璧に表現できていなくてもよくて、何をやったのか、何を求めて動き、リサーチしたのか、そのプロセスを大切にする教育です。


左から 山本真衣「満ちていく」「cactus」「lotus」「spots」
※「満ちていく」以外、現在は展示されていません。

それは日本の教育とは違いますか?

違いますね。イギリスの教育はアイディア重視なので長いスパンで考えると良いのですが、技術を高めるために教えることをしません。そのためすぐには利益にならなくて、3年通って卒業したところで、コップの形すらうまくつくれなかったのです。なので、「私はどうしたらいいのだろう」と困ってしまって。そんなときに、美大留学のための専門学校でお世話になったのが、藝大の藤原先生(藤原信幸先生)だったことを思い出しまして、東京藝大だったら、日本の大学を出ていない私でも受け入れる間口があるのではないかと思い、受験をしました。実際に入ってみて、技術を高めるためには日本の教育は向いていると思いました。

逆に留学で得たことは何ですか?

常識が常識ではないことを知ることができたのが良かったです。たとえば、窓口に行列ができていて、並んでいても順番がまわってくるとは限りません。ちゃんと「待ってます」とアピールしたり、自分で聞きに行かないと自分の番は回ってきません。ルールというものはあってないようなものだと感じました。それが作品づくりにも生きています。

もともと切子に興味があったのですが、江戸切子だと青や赤のコップに切子の模様を彫るというイメージがあります。けれども、そうでなくてもいいんじゃないかと思いました。私は当時、コップを吹くことができなかったこともあり、塊に彫っても悪くないんじゃないかと思い、それで生まれたのが「Breeze」です。

短所を長所に変えたのですね。大学受験の時点でガラスをやりたいと決めていたのはなぜですか。

絵がうまいとか、 得意なものは何もなくて「私は普通だな」とずっと思っていました。ただ、中高生のときからビーズでガラスのアクセサリーをつくるのが好きだったので、美大受験を考えるようになりました。最初はアクセサリーといえば彫金かなと思っていたのですが、彫金はこんなことをやるのかなという漠然とした想像ができました。一方、つやつやでキラキラしたガラスという素材にも興味がありました。ガラスの場合は、何者なのか全く想像ができなくて、何もわからないからこそやってみたいと思いました。


山本真衣「キモチ」
※現在は展示されていません。

ガラスには夏のイメージが強いですが、山本さんの作品は違いますね。

海外ではガラス=夏というイメージはまったくないので、私のなかにも夏のイメージはなくなりました。夏はひんやりしていていいけど、冬に見るとキラキラして雪のようできれいというように、季節による見え方があって良いと思います。

今後の活動についても教えてください。

いままでは、お店に置いていただくので、売れなければ迷惑がかかってしまいますし、私もそれで生活していきたいので、人の目を気にしてつくっていました。最近は少し安定してきたので、マジョリティ向けのものだけではなく、マイノリティ向けだけれども、本当に自分の作りたいものを増やしていきたいと考えるようになりました。さきほどの「見つめる」のセットがその作例です。

●山本真衣プロフィール

1985 年  東京都生まれ
2007 ウルバーハンプトン大学美術学部ガラス科卒業/英国
2010 東京藝術大学大学院美術研究科工芸専攻修士課程 修了
2009 アナドール大学へ交換留学(1学期間)/トルコ共和国
藝大アートプラザ大賞展 大賞/東京藝術大学
2010 Kawaii大賞展 グランプリ/ 西武渋谷店
2010 〜12年 潮工房にて、小西潮、江波冨士子に師事
2011 Stanislav Libensky Award 2011 準グランプリ/ チェコ共和国
2014 太宰府天満宮宝物殿 作品収蔵
2016 ピルチャックガラススクール、奨学金授与/米国


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。