COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

藝大の猫展2020 出品作家インタビュー 川口麻里亜さん(日本画専攻4年生)

2020/10/09 インタビュー

「藝大の猫展2020」に合わせて開催した学生対象のコンペティションで、83作家116点のなかから「猫大賞」を受賞した「いつものおやつ」。作者の川口麻里亜さんは、学部4年生ながら多くの学外展示に参加して実力をつけてきた努力家。絵がうまくなるために川口さんが起こしてきた行動とは…。受賞作や普段制作している作品についてお話を伺いました。

「猫大賞」の受賞おめでとうございます。

ありがとうございます。去年の猫展を見て、絵画よりも立体作品が目立っていたイメージがあったので、絵画で大賞をいただけたことは新鮮でびっくりしました。


川口麻里亜「いつものおやつ」

「いつものおやつ」のモデルは川口さんが飼っている猫でしょうか。

実家は猫だけでなく、犬や鳥など、いろんな動物を飼っていた家なので、もともと動物に親しみはありましたが、この絵は街で見た猫のイメージを元にしています。いま住んでいるところが猫のたくさんいる街なので、野良猫や猫カフェにいる猫をスケッチして描きました。

変わったポーズをとっていますね。

画面にオーソドックスに収まっているのはあまり好きではないので、ぱっと見たときにどうなっているかわからないような姿勢になるように、構図を工夫しています。猫は犬と違って関節がやわらかいので、この作品のようなぐにゃっとした姿勢で描けます。

猫のまわりにあるのは布でしょうか。

私が飼っていた猫はふかふかの生地が大好きでした。温かい布の上に乗ったり、布を巻き込んだりしていました。この絵には猫柄、肉球柄、ストライプなど、複数種類の布を描いています。糸のように見えるところは、和紙や折り紙の繊維です。破いて貼ってその上から新岩絵具を乗せています。箔や、キラキラした絵の具も使っています。絵の中で遊びながら、色の響き合いを見て調整しました。


川口麻里亜「いつものおやつ」部分

当初、猫大賞の募集の締め切りは春でしたが、新型コロナウィルスの関係で秋に延期されました。この作品は春の締め切りに合わせて描いたのですか。

春の締め切りに合わせて完成させたのですが、コロナのことがあって制作期間が延長されたので、8月にふたたび絵を見てイメージを練り直して、上から加筆しました。もともとは春のイメージの目を閉じた猫でしたが、目を開けた猫に変更しました。また、テレビからいつもどおりの日常こそが幸せなんだ、という言葉が聞こえてきて、タイトルも「いつものおやつ」に変更しました。背景の色を緑に変えたので、それに合わせて額装もし直しました。

「藝大の猫展2020」以外の作品についても教えてください。

最近自分のなかで猫ブームが到来して猫を多く描いていますが、犬派です。でも犬よりも樹木が好きで、とくに巨樹が好きです。この作品は、通学路に生えていた銀杏の木を描いたものです。大学に入って初めて日本画を描いたときの作品で、思い入れがあります。木を取材するための旅行にもよく出かけていますし、「藝大ヘッジ」という大学外周の柵の植樹活動にも参加して、その支援グッズのクリアファイルの原画(3種のうち1種)も描いています。


川口麻里亜「曉白く寿ぐ」
※「藝大の猫展2020」の出品作品ではありません。


藝大Hedgeクリアファイル。藝大アートプラザにて販売中。

その後、木だけでなく動物も描くようになったのはなぜでしょうか。

友達や先輩と集まってギャラリーを借りて展示をしたり、学外の展覧会に参加したりすることがあるのですが、そのような展示に出品する小さな画面の作品に、大きな木を描くことがとても難しかったんです。それで、身近な動物を描くようになりました。

これが猫を描いた初期の作品です。この作品を出品した展示では、2枚の絵を1対で出して欲しいと言われていたので、同じテーマのものを対で描こうと思いました。私はタイトルを先に決めて絵を描くことが多いです。このときは「縁羽織」と「悠羽織」という造語が頭に浮かんで、人間と動物の縁を抽象的に表そうと思って、日本で人と縁のある生き物といったら猫なので猫を描きました。


川口麻里亜「縁羽織」「悠羽織」
※「藝大の猫展2020」の出品作品ではありません。

今年のアートプラザ大賞展には「BMD」という犬の絵を出品していますね。

家で飼っていた、バーニーズマウンテンドッグという犬種の犬を、その子の性格やイメージを思い出しながら描きました。この作品もぱっと見ただけではわからない構図にしています。


川口麻里亜「BMD」
※「藝大の猫展2020」の出品作品ではありません。

去年の藝祭では油画・日本画・彫刻・デザイン科合同の有志展示を開催しました。メンバーと相談して、上野には動物園はあるけど水族館はないということで、「上野水族館」というテーマにしました。その出品作の一つが「山抱の落胤」です。取材のために訪れた兵庫県の須磨海浜水族園で、タツノオトシゴが丸まっているのを見て「こんな姿勢になるんだ」と思って、作品にしました。


川口麻里亜「山抱の落胤」
※「藝大の猫展2020」の出品作品ではありません。

現在、学部4年生とのことですが、いろんな展覧会に積極的に参加していますね。皆さん学生時代から展示に参加するものなのでしょうか。

人によります。日本画は画材の扱いが難しいので、学部の間は学校の課題に集中するのがいいと思います。ただ、それだけでは気がつかないことや学べないこともあるので、私は外の展示にも参加するようにしています。

今回の受賞作のような作品は学校の課題では描かないのですか?

描かないです。学校の課題では50号から100号くらいの大きな絵を描きます。一枚の絵にいろいろな仕事をして深みを与え、それを先生がたに見てもらってアドバイスをいただきます。ドローイングに近いような、少しあっさりした作品は課題には出さないようにして、自宅制作で勉強するようにしています。

たくさんの展示に参加することを自身に課しているのでしょうか。

今年は10以上の展示に参加しています。4年生の卒業制作で大きな絵を描きますが、それまでに練習できるのは3年間とちょっとだけの期間しかありません。学校の課題で描ける枚数は少ないので、もっと練習しなくてはと思い、小さな作品を中心に家で描くようになりました。展示という目標があると描くモチベーションになりますが、予定を入れすぎて自分で自分の首を締めているときもあります(笑)。

なぜ日本画専攻を選んだのでしょうか。

絵は小学生のときからずっと好きでした。最初は美術の道を選ぶつもりはなかったのですが、小学4年生のときの担任の先生が図工の時間に私が描いた絵をコンクールに出してくれて、それがきっかけで美術の道を意識するようになりました。藝大の日本画の入試は、デッサンに透明水彩で着彩するのですが、そのレベルがとても高いことを知って、そのような絵を自分も描けるようになりたい、追いつきたいと思って日本画を受験することにしました。当時は日本画が何かもよくわかっていなくて、負けず嫌いなので実力を付けたいということしか考えていなかったです。入学してから日本画の良さを学び始めて、いまでは日本画を選んでよかったと思っています。

今後の展望を教えて下さい。

私の制作のステイトメントは、どこかの誰かの心に寄り添うような作品を描くことです。もっと実力をつけたいですし、チャンスがあれば日本画材以外も使ってみたり、いろいろ挑戦してみたいことはありますが、このステイトメントは変えずに今後も制作を続けていきたいです。

●川口麻里亜プロフィール

1996 年  大阪府生まれ

美術学部絵画科日本画専攻4年在学中


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。