COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

現代アートから日常使いのうつわまで!個性が伯仲した陶芸展「手から手へ」【かるびの「秘境」藝大探検 Vol.22】

2020/12/09 コラム

豊福誠教授の退任を記念して開催中の企画展「手から手へ」は、藝大の陶芸研究室を卒業した選りすぐりの作家が大集合。

展示でも、コンセプチュアルな造形の現代アートから、電子レンジや食洗機に入れてもOKな実用性の高いマグカップやパスタ皿(※ただしアート性は言うまでもなく凄い)まで、バラエティに富んだ作品が並びました。見た瞬間、「本当にこれ、陶芸研究室という一つのグループに属する集団から出てきた作品群なのだろうか?」と思ってしまうほど、良い意味で作品の傾向が見当たりません。

しかし、どの作品も本当によく練り込まれていて、探求熱心な各作家の創造性や研究成果が作品に反映されていることがわかります。

前回は三上亮先生発案の観葉植物と植木鉢がセットになって一つの作品として展示されていた「藝大植物園」を特集した記事を書かせていただきました。ですが、本展には植木鉢以外にも良作・傑作が所狭しと展示されています。

そこで、本稿ではいくつかの切り口で僕がセレクトしたお気に入りの作品を一挙に紹介してみたいと思います!

1.植物だけじゃない!?動物もたくさんいます!

前回の「藝大の猫展2020」でもそうでしたが、やきものと動物彫刻は相性が抜群。立体としての存在感、生き物としてのあたたかさや生命感を表現するには、陶磁器のもつ独特の質感がぴったりです。

本展でも、シリアスで写実的な作品、古代からタイムスリップしてきたような幻獣、見るだけで癒やされるようなゆるカワなモチーフまで、様々な作品が登場しています。


北郷江「I hold my an important」192,500円

まず最初は北郷江さんの作品から。年月を重ねたようなユーズド感を醸し出すため、光沢を抑えた独特の釉薬(または化粧土)の使い方が印象的です。はじめて見た人からは、「良い木彫作品ですね?!」と勘違いされることもよくあるのだとか。

本作は、写実的でシリアスな造形ながら、ウサギの肩にヘビが絡みつくという非常に不思議な組み合わせの作品。すべて手びねりで、紐作りで作られています。


北郷江「I hold my an important」(部分拡大)

北郷さんにお聞きしてみました。

「普通だったらあまり考えつかないような組み合わせですが、人も動物もそれぞれ違うけれど、一緒に共存しながら生きていくのは可能である、といったようなストーリーを作品に込めています。気持ち悪い、とか、怖い、といった感情を一度取っ払って、生き物として共存する大切さを表現してみました。」

もう1点見てみましょう。


北郷江「吠える犬~電波に吠える~ the barking dog / no.2」44,000円

こちらは、オフィスビルのような建物の上に、威嚇するような表情で這いつくばる犬を描いた不思議な取り合わせの作品。ぜひ、自分なりに色々なストーリーをイメージしながら作品と一緒に楽しんでみてくださいね。


北郷江「吠える犬~電波に吠える~ the barking dog / no.2」(部分拡大)

ちなみに、北郷さんのInstagramには本作の制作シーンもアップされています!
https://www.instagram.com/p/CC5mwceDDdv/


廣瀬義之「釉彩色絵 雨上がり」308,000円

続いては、加藤土師萌~藤本能道と東京藝術大学で連綿と受け継がれてきた色絵磁器の伝統と技術を継承する廣瀬義之さんの作品です。廣瀬さんは、東京藝術大学の学長も務めた師匠・藤本能道の最晩年の作陶活動を内弟子として支えました。

本展に出品されている色絵花鳥の作品群は、藤本能道の世界観を忠実に引き継いだ逸品揃い。日本画が好きな方には特に馴染みやすいのではないかと思います。


廣瀬義之「釉彩色絵 雨上がり」(部分拡大)

ぜひじっくりと鑑賞してみたいのが、純白な器面に絵付けされた動物や昆虫たち。鳥や花だけでなく、カエルやカニなど、ちょっと意外な動物たちも絵付けされていて、思わず目を見張ります。


廣瀬義之 左から「色絵 蟹文酒杯」25,300円、「色絵 蟹文片口」47,300円

特に面白かったのは、カニ尽くしの2つの酒器です。うつわの周囲(内側にも?!)に所狭しとカニが乱舞するデザインは非常に風流でした。これを眺めているだけで、お酒が進みそうですよね。


廣瀬義之 「色絵 蟹文酒杯」「色絵 蟹文片口」(部分拡大)

続いては、前回記事でも「令和の縄文土器?!」としてご紹介させて頂いた大藪龍二郎さんの制作した一対の幻獣のオブジェ。植木鉢同様、うつわの表面には金属質の釉薬をたっぷりかけ、焼成時に割れないよう強度を増しています。


大藪龍二郎「縄文阿吽大口真神像」1,100,000円

パッと見た第一印象は、「神社の狛犬みたいだな」という感想でした。

実は、大藪さんは先日本作と同様のコンセプトで制作した一対の狼の作品を、狼信仰で著名な武蔵御嶽神社(東京都青梅市)に奉納したばかり。この時神社に奉納された狼像は、同社の護符に描かれた狼の姿かたちに忠実に作ることを意図していたため、スマートな造形でした。


大藪龍二郎「縄文阿吽大口真神像」1,100,000円

今回は、それよりも筋肉質でワイルドな外見に仕上がっています。タイトル通り「縄文土器」を強く想起させる造形が非常に特徴的。体表の毛並みも、縄文時代の制作方法に忠実に「縄文原体」(※縄文時代、土器制作に使われた、模様をつけて土を固めるための道具)が使われています。

特に、しっぽやたてがみの造形からは火焔型土器を彷彿とさせる雄々しい力強さが感じられますよね。見る人によっては、鎌倉時代の質実剛健な仏教彫刻を連想する人もいるかもしれません。


大藪龍二郎「縄文阿吽大口真神像」1,100,000円

とにかく凄い力作。もし自宅の玄関などに飾っておけば、悪霊を追い払ってくれそうなご利益もありそうな、鬼気迫る作品でした。

2.見る人のインスピレーションを掻き立てる現代アートも!

ありとあらゆる素材を組み合わせて、自由に表現される現代アートの世界。陶磁器を主体として制作された現代アートには、3次元の立体ならではの確固たる説得力が備わっています。置いておくだけで、その場の空気をガラリと変えてしまったり、見る角度が変わるとまた全然違う印象が出てきたり・・・。

本展でも、そんなユニークで独創的な現代アート作品が登場。ひと目見て、何か自分の心の中にひっかかるものがあればしめたもの。基本はガラスケースなしの裸展示なので、心ゆくまで至近距離で、または様々な視点で楽しんでみて下さい。


髙岡太郎「Stock」550,000円「Freight-01」638,000円

こちらは、見た瞬間、思わず何だこりゃ?と考え込んでしまうかもしれない不思議なオブジェ。本展で出品されている中でも最大サイズの作品の一つです。

工芸というジャンルは、製作・流通・小売など各産業との結びつきが強く、製造から販売まで様々な各工程を経ることで成り立っています。そこに、他の美術分野とは違うユニークな特徴や強みを見出した髙岡さんは、「移動する時点での造形」、つまり工芸作品そのものだけでなく、工芸作品が梱包され運搬されるという性質を一つの作品の中に混在させたい、と考えて本作を手掛けました。


髙岡太郎「Stock」(部分拡大)

木箱や運搬具の中に入ったやきものを見てみると、絵付けや釉薬が削ぎ落とされて、まるで工業製品のように画一化されています。アート作品として鑑賞される対象である一方、現代社会では他の生活用品などと同様に実用品としての側面も持ち合わせている工芸作品の性質を、抽象化して表現しているのですね。面白い作品でした。

隣を見てみると、コンクリートブロックのような形をした、中が空洞の大きなオブジェが独特の存在感を放っていました。


高橋侑子「block」440,000円

本作は、2020年3月に東京藝術大学大学院を修了した高橋侑子さんの修了制作です。作品コンセプトは「陶芸においての焼成」です。釉薬が溶けたり、形が縮まったりといった、窯の中で陶磁器を焼いた時の現象に特に興味を抱いた高橋さんは、本作では磁器の土に釉薬を混ぜ込んで、溶けやすい土を作ってから窯で焼きあげました。


高橋侑子「block」(部分拡大)

近くに寄ってみると、収縮時に発生した形のゆがみや豪快な割れ目、断層に露出した古代地層のような細かいヒダなど、やきものならではの様々な表情が楽しめます。

普段、造形のインスピレーションはどこから得ているのですか?とお聞きしたら、「地層の断面や岩石、砂漠が広がる風景など、時間の積み重ねが感じられるような世界中の景色にインスピレーションを受けて制作しています。」と教えて頂きました。大納得です。


中蔦雄里「砂層」各99,000円

最後にご紹介するのが、絵画と陶彫の境界線上にあるような不思議な作品。遠くから壁にかかっている作品を見ると、何かの厚紙や布切れのように見えるかもしれません。

でも、近づいてよく見てみると、やきものだった・・・!

といったように、一種の「だまし絵」のような新鮮な驚きが味わえる作品です。

今度は限りなく接近して作品を鑑賞してみましょう。


中蔦雄里「砂層」(部分拡大)

すると、表面は細かい線が折り重なったような、独特の繊維状の趣が感じられます。なんだかホワイトチョコレートの「紗々」みたいだな・・・と思っていたら、ビンゴでした!

「紗々」が大好きな中蔦さんは、このロッテのロングセラー商品から着想を得て、線をひたすら積層することで厚みをつけ、布のようなイメージの作品を作ることを考えつきました。ヒダを打ったような歪みの造形は、窯の熱による変形。偶然性にある程度ゆだねています。

作品は美しく端正ですが、制作工程は泥臭いです。マヨネーズ容器にちょうど良い硬さになるよう調整した土を入れて、線状になった土を絞り出していきます。それをひたすら2~3時間。さながら自動車の耐久レースのように、延々とこの作業を続けることで、こうした織物のような質感の陶板に仕上がっていくのだそうです。

まるで抽象絵画のような一定のリズム感が感じられますが、土の絞り出しは全てフリーハンドで対応。訓練の賜物ですね。「音楽を聞きながら、リズム感良く土を絞り出すようにしています」と笑顔で話してくださいました。

3.用の美!日常生活で使って楽しめるうつわも多数あります!

陶磁器系のアート作品の良いところは、愛でるだけでなく日々の生活の中で気軽に使えることです。光や熱にも比較的強く、壊れにくいうつわ類は保管の手間も非常に楽です。僕も、藝大アートプラザで購入したパスタ皿を、毎日のように使い倒しています。ここでは、使っても楽しい作品群を紹介します!


樋口拓「海沫皿」(左)、「紫蘇葉鉢」(右)各7,700円

まず、季節を選ばず食卓に彩りを添えてくれそうなのが、樋口拓さんのパスタ皿とどんぶり。寒色系の色合いなのに、独特の温かみが感じられるまだら模様のデザインは、和洋問わず様々な生活空間にフィットしそうです。


平井雅子「木の葉文大土鍋」44,000円

冬といえばやっぱり鍋の季節ですよね。こちらの平井雅子さんの土鍋は、世界に一つしかない「アート土鍋」です。

こうした土鍋には耐火性・衝撃性を高めるために素地・釉薬ともに「ペタライト」という石をベースとした土が使われます。普通の陶磁器と違って直接火にかけて頻繁に急熱・急冷されるため、通常の陶土・磁土ではすぐに割れてしまうのですね。

土鍋用に用意した土をまず練り上げ、そこから呉須(青系)、鉄絵(茶系)、銅(緑系)の3色を使って木の葉や木の実など、鍋の季節にフィットした絵柄を載せていきます。落ち葉が虫食いなのも、枯れた美しさがあって味わい深いですよね


平井雅子「木の葉文大土鍋」

ぜひ、平井さんの「蓋」付き作品は外観だけでなく中も覗き込んでみて下さい。かならず蓋を開けた時、新しい絵柄に出会えます。本作でも、鍋の底に1枚の木の葉が隠れていました。完食した時、鍋底にこうした絵柄を見つけるとホッとできそう。平井さんの作品には、こうした優しい気遣いが溢れています。

本展には、モンドリアンのような抽象的な市松模様が特徴的な作品、動物をモチーフとしたかわいい作品など、他にも多数の平井さんの作品が出品中。こちらのインタビュー記事でも数多く取り上げられています!

★「「手から手へ」豊福誠教授退任記念 歴代教員による作品展」出品作家インタビュー 平井雅子さん(工芸科陶芸専攻卒業)


島田文雄「彩磁薊文八角組皿」(5枚組)66,000円

続いては、2015年まで陶芸研究室を率いていた島田文雄先生の作品。島田先生は、同郷の巨匠・板谷波山にインスパイアされ、研究を重ねた末に波山が極めた特上の青白磁の世界観を完全再現させることに成功した凄腕作家なのです。


島田文雄 左から「釉下彩椿文面取徳利」49,500円、「釉下彩椿文酒盃」27,500円、「釉下彩椿文皿」44,000円

本展で注目したいのは、島田先生が手掛けた日用食器。いつもよりも少しだけ贅沢気分を味わえるような、「ハレ」の日に使いたい茶碗やお皿は絶品。草花の上品な上絵付け、澄み切った白磁の高級感、釉下彩の優しい風合いはどれも抜群の存在感でした。来客をもてなすために、ここぞという時に使ってみたいハイクオリティな作品です。


山本裕里子「ブローチ」各2,750円

最後にご紹介したいのが、山本裕里子さんが手掛けた「やきもの」製のアクセサリーです。

「大きな窯が使えなくなったコロナ禍以降は、自宅の窯で陶板やアクセサリーなど小物類の制作に力を入れてきました」と話してくださった山本さん。本展では、イヤリング、ピアス、ブローチなど、様々なアクセサリ類を出品して頂いています。

普段手掛ける陶磁器には、抽象的な絵柄を絵付けすることも多いという山本さん。アクセサリーも、独特の幾何学形をしていますね。非常に手に取りやすい価格なので、ぜひ藝大アートプラザ訪問記念に一ついかがでしょうか?!

画像越しではなく、ぜひ直接見にきて楽しんで下さい!

残り約1週間となりましたが、まだまだ売約済の赤いシールがつけられていない掘り出し物はたっぷりあります!あの巨匠の作品がこんなにお得に買えちゃったりするの?!という宝探し的な感覚も味わえます。

陶芸研究室で切磋琢磨した歴代の選抜メンバーが魅せる、陶芸の奥深い世界をたっぷりと楽しんでみてくださいね!

展覧会名:NIPPONシリーズ② 「手から手へ」
豊福誠教授退任記念 歴代教員による作品展
会期:2020年11月20日 (金) ~12月13日 (日)
開催時間:11~18時
入場無料
休業日:11月24日(火)、30日(月)、12月7日(月)


取材・撮影/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。