「第15回 藝大アートプラザ大賞展」審査員による受賞作の講評レポート

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作品紹介

1月8日(金)、学生を対象に作品を募集したコンペティション「第15回 藝大アートプラザ大賞展」の審査が行われ、受賞作5点が選ばれました。

今回の審査員は、芸術学科教授の木津文哉先生、彫刻科教授の原真一先生、工芸科准教授の三上亮先生、そして、NHKエデュケーショナルプロデューサーで、「日曜美術館」はじめ、多くの美術番組に携わってきた倉森京子さんをゲスト審査員にお迎えしました。

入選作品を選定する第一次審査、入賞候補作品を選定する第二次審査、そして受賞作を確定する第三次審査を経て、全98点の応募作品のなかから得票数順に、大賞1点、準大賞2点、アートプラザ賞1点の計4点を選びました。また、それらとは別に倉森さんが、ゲスト審査員賞1点を選びました。

受賞作品を発表するとともに、審査員のコメントもご紹介します。

大賞

水巻映(美術学部彫刻科3年)「Recording media Estimated 1980s」

石からカセットテープの形を丹念に彫り出した作品。カセットテープという近過去の物体が考古遺物のように表現されています。

「彼(水巻さん)は、昭和の電話とか、昭和の車とか、昭和のデザインに興味を持っています。この作品はカセットテープを、オリジナル性を敢えて入れずに、そのまま石に写し替えることで、いまの世の中に昭和のものが化石として出てきたというシチュエーションをつくりあげています。石を薄く彫ることや、工業的な直線を手作業で彫るには、かなりの技術がいるのですが、彼は器用なのでそれができています。

他の出品作品を見てもよくわかりますが、自分の頭のなかでイメージしたものを表現して、それにコンセプトを貼り付けようとする人が多い一方、対象物を丹念に見て素直に写し取ることをやっている人はほとんどいません。頭のなかのイメージを表現しようとすると、自分の解釈でなんでもできてしまうので、どうしても楽なほうに流れがちです。たとえば、細かい葉っぱがたくさんついたリンゴの木を描こうとすると、描写も細かくなって大変なので、葉の表現自体を取っ払ってしまうのですね。若い頃からそれをやってしまうと、身にならず、楽をしているだけになってしまいます。

逆に彼は、自分の作為を排除して、そのまま写すところから始めているところが、他の人と違います。その苦労は伝わりにくいのですが、謙虚に対象物や素材に向き合っているところが、いいところだと思います」(原先生)

準大賞

清水雄稀(大学院美術研究科修士課程工芸専攻陶芸1年)「操壺・AMU」

一見、信楽焼の古い壺のようなのですが、施されている模様はハート、星、クローバー、スペードなどポップです。壺の蓋には鎖が付けられ開かないようになっています。

「陶芸研究室の生徒自身で窯を設計して作品を焼く課題でできたものだと思います。今年はコロナの影響で、例年のカリキュラムを変えて、集団ではなく個人で窯をつくるようにし、徹夜をして焼くのではなく短時間で結果を出せる窯を考えなさいと言っていました。一日で焼けるようにするために、生徒たちが何回もトライ&エラーを繰り返してきた姿を見てきました。その成果が出たのだと思います。

ポップな模様と渋い壺がうまくミックスしています。壺のプリミティブな表情は、薪だけで焼いて灰が溶けた自然釉が醸し出しています。内面的なことを言いますと、彼はコンセプトシートに「開かない壺、なりたい自分」と書いています。彼は、なにかに閉じ込められて、何をやっていいかわからない、といったようなことを言っていました。きっと開かない壺に自分の心情を託しているんじゃないでしょうか。自ら窯をつくって焼くという原初のやきものに戻って作業しているだけでなく、いまの自分の気持ちに向き合って、蓋が開かない壺という自己の表現まで至った形が面白いのだと思います」(三上先生)


三上亮先生

筧由佳里(大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画2年)「星の降る街」

筧さんが旅行で訪れたイタリアの街を、油絵の具とテンペラで描いた作品です。

「ナイーブな絵ですが、頑張って描いていますね。テンペラは顔料を卵のタンパク質で溶くので、アクリル絵の具に比べて色が温かいのが特徴です。その良さが出ています。また、日本画で用いる砂子の技法を踏襲して、夜空の星に見立てた金箔を散らし、「星の降る街」という題名を表現しています。額と絵も合っていて良いですね。

年々、賞に出品する人たちと年齢が離れて、ここ10年くらい加速度的に平面の絵画をつくる共通言語が変わっている気がします。極端に言うと、僕が学生の頃はこういう、ほんわかした心情的な絵画は描いてはいけない、もっとストイックな作品をつくらなきゃだめだとされていました。ほかの絵画の出品作もそうですが、自分に忠実にのびのび描いていて、いい意味で僕ら世代の身に染み付いている絵画はこうあらねばならないという価値観から解き放たれています。その反面、終着点が見えているのだろうかという危惧も持ちます。情感的な心象風景を40年、50年描き続けていけるのだろうか、そこが少々心配です」(木津先生)


木津文哉先生と原真一先生

アートプラザ賞

皆川百合(大学院美術研究科博士後期課程工芸専攻染織1年)「絞染分綿地艶出海宙模様」

絞り染めで表した抽象的な文様を絵画のようにタブロー仕立てにした作品です。

「最初、染織ではなくいわゆる絵画だと思って見ていました。よく見ると絞り染めであることがわかり、一般的に染めという技法に期待するのではないアプローチで作品化しているところに惹かれました。色もとても美しいです」(倉森さん)

「染織ではなく絵画作品として見ていました。染織だとわかったうえでよく見ると、絞りで偶然にできたにじみなど、絵画とは違う染織ならではの現象が見えてきます。それらと自分で意図的に描いている部分の対比も面白いです。色感も良いですし、抽象表現としてよくできています。

さらに言うと絵画ではなく、染織をやっていること自体への問いを立ててみるのはどうだろう。言われないと染織だとわからずに絵画として見られてしまうのだったら、なぜ絵を描かないの?ということになってしまう。ぱっと見て絵画とは違う作品表現になると良いと思います」(三上先生)

ゲスト審査員賞

城山みなみ(大学院美術研究科修士課程工芸専攻鋳金2年)「Seasonal Blocks」

和柄からインスピレーションを受けた、カラフルな木製の積み木。組み合わせ次第でさまざまなかたちができます。

「色もきれいで、付属のパターンブックを見るといろんなかたちができることも伝わってきて、子どもに限定というのではなく楽しめる作品だと思いました。遊ぶだけじゃなくて、花瓶敷などに使ってもよいかもしれません。箱に「Seasonal Blocks」とタイトルが書いてあるのを見た時に、出品作の色以外にも、季節に応じていくつもの異なる色のバージョンが増えていくのかなと想像が広がって、惹かれました。渋い日本の色だとか、秋の色や春の色など、無限のバリエーションができそうです」(倉森さん)


倉森京子さん

最後に今年の応募作品全体についての印象も伺いました。
「彫刻には3Dプリンターを使った作品もありましたし、UV加工を使った作品も増えています。油画の学生がどれくらい頭がやわらかいのか知らないけど、3Dプリンターとかレーザーカット、プロッターとか、ハードが安くなっているのでいろんな機材が使えるのに、結構みんな手描きですね。かといって、新しいやり方と対峙して手描きの良さについて考えて、それでも手描きのほうが面白いと考えた上で自覚的に選択している作品は少ないです。手描きの良さを知ったうえで新しいハードを取り入れていくと、藝大生にしかできない面白い世界ができると思います。とにかく、今できることはたくさん作品をつくることですね」(木津先生)

「バリエーションが豊かで審査していて面白かったです。去年よりも力のこもった作品が多いように思いました。絵画にもう少し気持ちの入ったものがあるともっとよくなるなと思いますね。絵画は、新旧が混じっているフィールドなので、もっといろんな表現が出てきてもいいと思うのですが、なぜかこのコンペに出てくる絵画はあっさりしています。抽象画にしても具象にしてもうちょっと思いを込めて描けると思います」(原先生)

「これまでの審査でいちばん楽しく見ることができました。以前は、自分の表現よりもアートプラザという場に寄せている作品が多かった気がするのですが、今回はそういう作品が少なく、自由につくっていたように思います」(三上先生)

この記事で紹介した5点の受賞作、そして本コンペティションの入選作は、「第15回 藝大アートプラザ大賞展」で展示・販売いたします。この賞をきっかけに活躍する作家も多くいます。作家としてのスタート地点に立ったばかりの学生による作品をぜひご覧ください。今後、大賞、準大賞受賞者のインタビューも公開する予定です。

「第15回 藝大アートプラザ大賞展」
会期:2021年1月23日 (土) – 3月14日 (日) 
営業時間:11:00~18:00
月曜定休(2月1日は営業)
入場無料

※卒展期間中(1/29-2/2)は、大学構内、大学美術館、東京都美術館の3会場ごとに事前予約が必要になります。
アートプラザのみご利用になる方も、大学構内の事前予約をお願いいたします。予約は卒展開始1週間前から受付いたします。
詳しくはこちらをご覧ください。


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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