MENU

ハイレベルな作品揃いで激戦となった審査!第16回藝大アートプラザ大賞審査会取材レポート

ライター
藝大アートプラザ
関連タグ
コラム

ピカピカの1年生からプロ顔負けの大学院生まで、藝大の学生なら等しく門戸が開かれている「藝大アートプラザ大賞」。2022年で16回目を迎える、藝大発の学内公募展です。

審査を経て無事入選を果たした作品は、藝大アートプラザにて展示・販売されます。今回は過去最高となる133点もの応募がありました。そこで、2021年12月17日、東京藝術大学の会議室にて、応募規定を通過した全作品が集められ、大賞以下各賞を決定するための審査会が実施されました。

3時間以上に及ぶ厳正な審査の結果、大賞1点、準大賞2点、ゲスト審査員賞1点、アートプラザ賞1点がそれぞれ選ばれています。

今回、審査にあたったのは全部で6名ものアートの達人たち。芸術学科教授の木津文哉先生、彫刻科教授の原真一先生、工芸科教授の三上亮先生 、ゲスト審査員としてお迎えした服飾史家・中野香織さんの4名に、小学館と藝大アートプラザからそれぞれ1名ずつを加えた総勢6名です。

そこで、今回は、審査の結果選ばれた5点の作品を中心に、各賞の選定にあたった審査員の皆様のコメントや、審査の様子などを詳しくお伝えしていきます。

想像していたよりも厳正な審査が行われていた!

ところで、こうした藝大アートプラザ大賞の審査って、どのように行われているのかご存知でしょうか?

まず、準備が凄い。広い会議室一室を押さえ、ロングテーブルの上に、見栄えに差がつかないように一様に出品作品をずらりと並べます。一方、各審査員には、すべての出品作品について詳細情報がまとめられた作品プロフィール(作家のコメントも読めるようになっている)があらかじめ配布されます。

この作品プロフィールは、一体どのように使われるのでしょうか?原先生に質問してみました。

「まず作品が優先です。この作品はちょっと気になるな…という時に、作品プロフィールを見るようにしています。この時に、作品の外観だけではわかりづらい文脈やコンセプトなどを補足してくれるような情報があるとうれしいですね」とのことでした。

審査員は、このプロフィールを片手に、各作品が置かれたテーブルを巡回。「入賞作品候補」だと感じた作品に投票を行います。

投票後、アートプラザの職員が各作品に示された投票数をチェックして、複数名で集計作業にあたります。そこで、得票数が上位だった作品を入賞候補作品としてホワイトボードに書き出すことで、投票~集計作業が完了します。

驚いたのは、審査では、この投票プロセスを全部で3回繰り返すということ。1回だけじゃないんです。だから、審査員は何度も何度も同じ作品を見ては、少しずつ作品への理解を深めながら、各作品とじっくり向き合うことができるのです。

各投票が終わるたびに、付箋紙が多かった作品が各賞受賞候補として少しずつ絞られていき、3度目の審査では10作品程度まで候補が絞られていきます。最終審査となる3回目の投票で最高評価を獲得した作品が大賞、次点の2作品が準大賞を見事に獲得することになりました。

2回、3回と審査を重ね、同じ作品に何度も目を通すことで、作品に秘められた本質的な価値を見抜きやすいようにする。その結果、賞に足る作品が最後に残るようになる。そんなシステムがしっかりできあがっているのが、藝大アートプラザ大賞なんです。

前置きが少し長くなりましたが、それではここからは各受賞作品の紹介と、審査員からのコメントをそれぞれ紹介したいと思います。


大賞(1点)

甘甜「紅」
(大学院美術研究科博士後期課程文化財保存学専攻保存修復日本画研究領域2年)

今回大賞を受賞した甘甜(かんてん)さんは、中国から日本画を学びにきた留学生。色使いや作画のセンスには、独自の感性が感じられました。先生にお聞きしてみます。

「日本人、外国人関係なく、まずは作品本位で見ていっていますから、特に作家の国籍などは気にして見ないんだけど、作品の内容や、作品が帯びている世界観が少し他と違うかなと思いました。静かだけど、深みを感じました。あとで作家名を聞いて、中国の留学生の作品だったとわかったわけですが、言われてみたら日本人の感性とは、若干違う感じもありますね。日本画の伝統技法を使いながらも、作家の心身に染み込んだ中国の伝統や価値観などが作品へと投影されているのかもしれませんね。」(三上先生)

ここで非常に興味深かったのが、第一次審査から第三次審査に至るプロセスで、甘甜さんの「紅」が徐々に評価を上げていったことでした。最終的に第3回投票でトップとなったことで大賞受賞につながりましたが、第1回投票が終わった時点ではそこまで目立った評価ではなかったのです。

一体、何が起こっていたのでしょうか?三上先生に聞いてみました。

「彼女の作品は、最初は気にならなかったのですが、何回も投票を重ねる中で最後に見え方が変わったんですね。私の中で、ひょっとしたらこの作品は、長く見飽きない良い作品なんじゃないかなっていう感覚が生まれました。確かに、一見目立たないようには見えます。

だから、どうしてもパッと見て目立つ作品が上位に来ることが多い第一次審査では、そこまで票が集まらなかったのではないでしょうか。ですが、こうした一見地味に見えるかもしれないような作品が大賞を獲ったのは、藝大ならではの良い点だと思いますね。ぱっと見てキャッチーなものが受ける時代にあって、藝大アートプラザ大賞ではこうしたものとは違う作品が大賞を獲っていきますね。」


準大賞(2点)

長谷川雅子「月兎home」
(大学院美術研究科博士後期課程美術専攻油画研究領域1年)

ポップだけれども少し懐かしい雰囲気も漂う、デザイン性に優れた本作品には、1970〜80年代のサブカル文化からの影響についての言及がありました。

「最初見たときから、1970年代の前衛漫画雑誌『ガロ』で活躍して、一斉を風靡した鴨沢 祐仁(かもざわゆうじ)からの影響を感じましたね。彼は絵本からテレビCM、イラストブックなど、様々な媒体で引っ張りだこだった大人気のイラストレーターだったんだけど、90年代からの画材のデジタル化の波に乗れず、早逝しちゃった作家なんです。彼女の作品には、昔のアナログな手描き時代に多くいたイラストレーターの匂いを感じますね。狙っているのか、たまたま偶然そうなっちゃっただけなのかは聞いてみないとわからないけれども、もし前者だったとして、オマージュやパロディとしての表現であるならば凄い勉強家だと思うし、たまたま似てしまったなら、良い意味で器用な描き手だなと感じましたね。全作品の中では、完成度の高さやバランスの良さで票が集まったのだと思いますね。」(木津先生)

森聖華「ダラダラ自然釉フグ貯金箱」
(大学院美術研究科修士課程工芸専攻陶芸研究分野1年)

お腹をプクーッとふくらませたような、可愛らしさが目を引くフグの貯金箱。細長く開いた口から、硬貨や紙幣を入れていきます。

「彼女はまだ大学院の一年生だけど、非常に技術力が高いですね。コントロールしやすい電気窯ではなく、より難度の高い薪窯を使って焼いていますが、薪窯らしい深みのある表情が生かされていますね。魚鱗の表現やフグの質感を上手に表現できています。

粘土の性質をうまく計算に入れて造形できていますね。ただのリアルではなく、フグが膨らんだ感じがよく出ています。ちょっとおかしみもあって、可愛い部分もあるでしょう。こうした造形力の高さも、準大賞に選ばれたポイントですね。」(三上先生)


アートプラザ賞(1点)

真田将太朗「collection of me」
(美術学部芸術学科2年)

一見、なんでもないような焦げ茶色の木箱ですが、開けてみると、フタの部分と入れ物の部分がそれぞれ額のように仕立てられていて、それぞれに油絵まみれのパレットとペインティングナイフが貼り付けられている。そんな、一風変わった仕掛けが特徴的な作品が、アートプラザ賞に選出されました。

「僕は洋画出身で油画専攻・修了なので、正直なところをいうと、画面の上にものを貼り付けていく本作のようなスタイルの作品は、過去にもたくさん見てきた記憶があります。確かに新鮮さという意味では、大賞・準大賞に比べると少し薄かったのかもしれません。ですが、敢えてそういうのを今どき意識してやっているのであれば、よく勉強しているのだなと思いましたね。と、同時に、もっと自分のオリジナリティを出してほしいというリクエストもあります。」(木津先生)


ゲスト審査員賞(1点)

渡邉泰成「V-various-」
(大学院美術研究科修士課程先端芸術表現専攻1年)

さて、大賞、準大賞の3点の選出が終わったあと、最後に「ゲスト審査員賞」の選定に入ります。こちらは、ゲスト審査員の中野香織さんに選んでいただきました。早速コメントをいただきます。

「バナナのポップな感覚に惹かれ、ゲスト審査員賞に推薦させていただきました。リアリティがあるようで、ない。ないようで、ある。バナナの上に斑点状に配置された赤、黄色、緑などの色彩も一歩間違えるととてもチープな感じにも見えてしまいがちだけど、その紙一重のところで踏みとどまっている。色彩の絶妙なバランス感覚もいいですね。自宅に持ち帰って、家に飾っておきたいです。」(中野香織さん)

知名度が上がり、作品レベルは向上。もっと大胆な着想を求める声も

藝大アートプラザ大賞がはじまって以来、ほぼ最大級の応募作品が集まった今回の第16回藝大アートプラザ大賞。応募作が年々増加する中で、確実もレベルアップしているようです。全体の応募状況について、まず原先生にお話を伺ってみました。

「外部の審査員の先生にもお越しいただくなど、話題性も高まっていることで、学生のモチベーションにもつながっていると思うんですね。ただ、まだ藝大生全体に完全に浸透しているわけではなく、ある程度の領域にとどまっている感じはありますね。藝大には、斬新な制作や活動をやっている多くの学生がいます。こうした学生にも応募してもらえると、もっと藝大アートプラザ大賞は面白くなりそうですね。」

その上で、今回の全体的な印象や審査を終えての総評をお聞きしてみました。順番にご紹介します。

「3回に分けて投票を進めていく中で、3回とも作品が違うように見えたのは興味深かったですね。最初は派手な作品や精巧に作られた作品がいいなと思ったのですが、回を重ねるにつれて、それだけではない、心にひっかかりの残る作品や、個性がじわじわと滲み立ってくるような作品にも魅力を感じるようになりました。楽しかったです。」(中野香織さん)

「藝大アートプラザ大賞の面白いところは、絵画的な作品、立体的な作品、工芸的な作品、あるいは、これらの分野をまたいだような作品も見られるところ。回を重ねるごとに、全体的な完成度も年々上がってきているように感じますね。ただ、これは回を重ねた公募展では致し方ないことではありますが、これまでの藝大アートプラザ大賞での受賞傾向にあわせこんだような、いわゆる予定調和的な作品も増えてきたように感じます。おとなしくなってきたというか。もっと挑戦的な作品なども見てみたかったですね。」(三上先生)

「50年以上も美術の世界で活動していると、自分の中で情報と経験の蓄積が飽和状態になっているので、審査の際に、物故作家など先達が残した類似作品が各出品作の延長線上に透けて見えるんです。だから、どうしても各学生の作品と向き合うと、小さく、薄っぺらく見えてしまうこともあります。ただ一方で、こうした先入観みたいなものを取っ払って見ていくと、確かに若い学生は無知かもしれないけれど、面白がって表現を試みている無垢な感じも伝わってきます。こうした純粋さは今の僕にはない部分でもあるので、ある種の羨望も感じます。自分にとっても良い刺激になっていますね。」(木津先生)

「例年通り、様々な素材、技法、作品が出てきたので、楽しく審査を行うことができました。ただ、サイズが小さい作品が多いので、熱量が少し不足しているかなと思っています。審査のポイントは、作家が真剣に自分のモチーフ、自分のテーマというか、制作に対して、切実な思いで取り組んでいるかどうかというのが作品から伝わってくるかどうかです。その点、受賞作品は、周囲の評価を気にしないで、自分のやりたいことを掘り下げている感じが良かったですね。だから、小品であっても、熱量を注ぎ込んだ作品をもっと学生には作って欲しいですね。」(原先生)

最後に、各先生方から、藝大生に求めるメッセージをいただきました。

「自分の世界をしっかりと出してほしいですね。賞を取ろうが取るまいが気にしないで、挑戦してほしい。応募規定にサイズ上の制約があるためか、自身の代表作品や勝負作品をモデルとして、それをただ小さくしたようなミニチュアやコピー作品のように見えた作品もありました。でも、そういうのはすぐに見抜かれてしまう。賞に合わせて作品をつくるのではなく、もっと自由に忖度なしで作品制作に向き合うと面白くなるかなって思いますね。(三上先生)

「まずは、地道に毎日手を動かしてほしい。たとえば絵画なら、毎日絵を描くということをやっていないと、線も引けなくなってしまう。ものを描くというのは、半分以上観察です。写真を撮ってそれをトレースするのはすごく簡単なんだけど、対象を見て、それを簡単な線で特徴をとらえて、似ているように描くっていうのは非常に難しいんです。特に人物を描いた時、その人物の内面や雰囲気が表現されているというのが分かる作品にするのはすごく難しいので。それをトータルでデッサン力というんです。それを獲得するには毎日、退屈な作業をしないと身についてこないですよね。」(木津先生)

「やっぱり今、アートも多様化していて、情報もすごく多いので、みんな混乱しちゃうと思うんですよね。そういう不安は作り手にもあります。果たして、うまくいくだろうか…みたいな。それを身近な情報で埋めちゃうのは良くない。そこで踏ん張って、自分で手を動かす、体を動かしながら探していく。少しだけ長い時間をかけて作るようにしたほうがいいと思うんです。入試のデッサンなどを見ていると、藝大生はみんな凄い実力とセンスを持ち合わせた人たちだということがわかります。でも、入学後はどうしても目標が散漫になったり、意欲が薄くなってしまいがちになるから、そこでもう一度きちんと自分と向き合ってほしいですね。時代にあった新しさはすぐに求めなくてもいいので、じっくりと自分の中で切実さと情熱を見つけ出していってほしいですね。」(原先生)

新年1月8日から展示がスタートしています!

第16回藝大アートプラザ大賞展は、2022年1月8日から展示がスタート。各賞受賞作品をはじめ、審査を通過した全入選作品が、展示・販売されます。また、大賞・準大賞受賞者3名への受賞者インタビューや、展示レポートなども、順次藝大アートプラザHPにて公開予定です。

大賞・準大賞受賞者を筆頭に、この中から将来の大巨匠が輩出されるかもしれません。ぜひ、若い学生たちの夢を乗せた珠玉の作品群をお楽しみくださいね。

第16回藝大アートプラザ大賞展
会期:2022年1月8日 (土)~2月13日 (日)
営業時間:11:00 – 18:00
休業日:1月11日(火)、17日(月)、24日(月)、25日(火)、2月7日(月)
入場無料、写真撮影OK


取材・文/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

おすすめの記事