COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

選びぬかれた精鋭たちの個性派作品が勢揃い!「The Prize Show-藝大アートプラザ大賞受賞者招待展-」【かるびの「秘境」藝大探検 Vol.31】

2021/09/24 コラム

年に1回開催される「藝大アートプラザ大賞受賞者招待者展」。これまで15回開催されてきた学内公募展「藝大アートプラザ大賞」の歴代受賞者のみを対象として、新作を中心に作品を展示・販売する、年に1回の藝大アートプラザにとってのお祭り的な展覧会です。

「The Prize Show!」と銘打ってスタートした今年の展示は、8月28日からスタート。早速拝見しましたが、その作品のレベルの高さに驚きました。本当に粒ぞろいでレベルが高い!これぞ藝大クオリティ!と唸ってしまいそうな作品群がずらりと展示室に並んでいました。

展示室を見回してみて気づいたのは、「藝大アートプラザ大賞」を受賞している作家さんは、その後藝大アートプラザの各種企画展でもたびたび出品され、かつ人気作家になっていることが多いということです。

そこで、まずレポート第1弾では、「藝大アートプラザ初心者」向けに、僕がおすすめしたい作家を5名ピックアップして、掘り下げてご紹介したいと思います!

オススメ作家①:小林真理子さん


小林真理子「遠く星影」34,100円

近年、藝大アートプラザに積極的に出品されている小林さん。彼女は、「光」のもつ多様な形やきらめきを、幻想的な油彩の抽象画に仕上げる名手です。

「光や眩しさ、儚さを感じるもの、生命力や記憶、言葉などを手掛かりに作品を制作しています」と語る小林さんは、本展のために7点を出品されました。


小林真理子「命、織りあげて」56,980円(左)、「水の記憶」41,030円(右)

光の粒子が降り注ぐような作品や、光が乱舞する動きのある作品、雄大な宇宙空間を思い起こさせるような作品など、「光」一つをとってみても、様々なイメージを描き分ける小林さんのイマジネーションと表現技法の豊かさが、非常に印象的です。


小林真理子「眩しさのかたち-光舞う季節-」99,000円(※この作品のみ額装がないので、展示していません。)

どの作品も「青」を基調とした涼しげな色彩なので、じっと見ていると心身を優しくクールダウンしてくれそうです。癒やしが欲しくなったときに、ふと眺めたくなる絵画でした。

オススメ作家②:鈴木初音さん


鈴木初音「寝息」55,000円

鈴木初音(すずきはつね)さんは、第14回藝大アートプラザ大賞展で「月夜」という作品で準大賞を受賞。それ以来、近年最も精力的に藝大アートプラザの企画展へ作品を出品されている人気作家の一人となりました。

彼女の作品の特徴は、中世的な神話世界を体現したような神秘的なイメージが描き出された画面。そして、それを支える制作技術も要注目です。古代から伝わるフレスコ画技法の一つ「グラフィート(ズグラフィート)」というユニークな技法で描かれているんです。


鈴木初音「昼寝」24,200円 ※常設展示コーナーで販売中


鈴木初音「旅の途中」16,100円 ※常設展示コーナーで販売中

通常のフレスコ画は、水と反応して徐々に固まっていく消石灰(漆喰)の性質を利用して、消石灰がまだ生乾きで柔らかい状態の時に、壁に絵の具を染み込ませながら絵を描いていきます。描き終わり、漆喰が固く引き締まると顔料もそのまま安定して定着。壁画として完成します。

例えば、ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂に描いた「最後の審判」や、ダヴィンチが描いた「最後の審判」などは、フレスコ画の代表作としてよく知られています。


鈴木初音「寝息」部分拡大

ですが、グラフィートの場合は、生乾きの壁に描くのではなく、生乾きの壁を掻き落としていくことで、絵柄を作っていきます。

一番下の層にセメントを塗り、その上に顔料を染み込ませたモルタルを塗り、そこから生乾きのモルタルを削っていくことで、絵柄を作っていくんです。ちょっと版画の「彫り」に似ていますよね。

彼女の作品制作は、常に時間との戦いです。

なぜなら、モルタルが乾くと完全に硬化して石になってしまい、削ることができなくなるから。許された作業時間は、わずか1日足らずなのだそうです。

一度掻き落とすと後戻りはできず、かつ、集中的に一気に作りこまなければならない緊張感の中で制作されているわけですね。


鈴木初音「森の入り口」88,000円

実は本展では、グラフィートとは全く違う手法を使った作品も出品されました。それが、本作「森の入り口」です。

本作で絵を描くために使われるのはセメントやモルタルではなく、木と紙です。なんとご自身で自分の畑から育てた「芋」から繊維を取り出し、手漉きした和紙に、熱したコテなどで焼き目をつけて描く「焼き絵」技法を駆使して画面を作っています。


鈴木初音「森の入り口」(部分)/木枠にも細かく文様が施されています。丁寧な手仕事の跡がそこかしこに感じられる力作です。

和紙のカンヴァスを支えるのは、木を円形に曲げて作った作品木枠です。無数の糸で作品を張るという、打楽器のような構造になっています。これも趣が感じられて面白いですよね。

木やモルタルなど、遥か昔から身の回りに存在する素朴な素材を組み合わせ、自分オリジナルの表現技法へと高めていく鈴木初音さん。今後もいろいろ引き出しを増やして、面白い作品を作ってくれそうです。

鈴木初音さんへのインタビュー記事はこちらから

オススメ作家③:堀口晴名さん


堀口晴名「宇宙遊泳」55,000円

堀口晴名(ほりぐちはるな)さんは、第14回藝大アートプラザ大賞展で「小学館賞」を受賞。保存修復油画研究室での学びが反映されたような、非常に細密で丁寧な作品づくりが特徴的。

本展で展示されているのは、約10cm×10cmほどの非常にコンパクトな作品ですが、まず、パッと見て「かわいい!」と目を奪われますが、見どころはそれだけではありません。

顔を近づけ作品に接近してみると、非常に手の込んだ、熟練した技術を要する作品であることがわかってきます。


堀口晴名「想う」66,000円

実は彼女の作品は、布製のカンヴァスではなく石膏や板に、鶏卵と顔料を混ぜた絵の具で描く「テンペラ技法」という、西洋美術の古典的な技法で表現されています。通常の油絵に比べると、やや平面的に見えるのはまさにテンペラ技法の特徴。


堀口晴名「雪解け」60,500円

また、線刻で刻んで描かれた背景を見ていくと、日本画的なモチーフも入り混じっています。大学時代、日本画を研究されていたという堀口さんのルーツが感じられました。


堀口晴名「雪解け」(部分拡大)

このように伝統的な西洋美術と日本美術が融合し、その上に非常にかわいいモチーフが描かれるのが堀口さんの現在のスタイル。非常にコンパクトなサイズなので、壁に掛けたり、机の上に置いたり、様々な楽しみ方ができそうです。

堀口晴名さんへのインタビューはこちらから

オススメ作家④:川島理恵さん


川島理恵「rainbow donut」9,900円(右)、「mini drop(水紫)」「mini drop(翡翠)」各3,850円

川島理恵(かわしまりえ)さんは、第4回藝大アートプラザ大賞展で「藝大Bion賞」を受賞されたガラス工芸作家。現在は企業で働きながら、並行して個人の制作活動でも活躍されています。

藝大アートプラザでは、常設展示コーナーでの人気作家陣の一人。飴玉のような形の美しいガラスのアクセサリ類や、羊をかたどった可愛いペンダントなどが好評です。


川島理恵「にじのおとしもの」22,000円

本展でも川島さんの新作が登場。金平糖のような突起状の7色のガラス玉が連結した「にじのおとしもの」は非常に華やかで印象的でした。長引く在宅ワークの自宅オフィスのお供として、机の上に置いて眺めたり、インテリアコーディネートのアクセントにも良いですね。


川島理恵「Sherryシリーズ」各7,700円

こちらの「Sherry.」シリーズは、ご自身のトレードマークでもある、突起状のガラスを羊に見立てて作ったペンダント作品。羊の体にあたる部分にはサンドブラストをかけ、マットな質感に仕上げられています。顔が「黒」と「白」のバージョンがあります。つけても眺めても楽しい逸品です。

オススメ作家⑤:VIKIさん


VIKI「緑の陽射しを隣で浴びて」41,800円

VIKIさんは、第14回藝大アートプラザ大賞展で「準大賞」を受賞。現在、先端芸術表現科の4年生ですが、すでに学外での個展やグループ展でも引っ張りだこの人気作家となっています。


VIKI「踊る少女の前髪」44,990円

VIKIさんの作品で特徴的なモチーフが、モチーフに使われた大量のスーパーやコンビニでもらえる感熱紙の「レシート」です。自らも「感熱アーティスト」と名乗っていらっしゃいます。

本展に出品された各作品の特徴は、レシートが一行ごとにバラバラに切り刻まれ、幾層にも重ねられて無数に貼り付けられたテクスチャーの面白さ。少し引いて作品を眺めてみるとぼやけた水墨画の模様のようにも見えますが、ぐっと近づいてみると、「あっ、レシートだな」と気づきます。


VIKI「踊る少女の前髪」(部分拡大)/レシートが一行ずつ短冊状に切り取られ、縦横に折り重なって貼り付けられています。

本展に出品された作品群は、線状に切り刻まれた幅数ミリのレシートの断片が縦、横に90度で交差するようランダムに配置され、モンドリアンの抽象絵画のような味わいが感じられました。

考えてみれば、「レシート」は、現代の大量消費社会で、激しく移り変わる流行や消費スタイルの中で失われていく記憶の儚さを象徴するような存在なのかもしれません。

人々の生活の記録が文字情報として刻み込まれているのに、レシートはほとんど取るに足らない存在として、その場ですぐに捨てられてしまいます。しかも、感熱紙に刻まれた購入記録は、時間の経過とともに少しずつ薄くなり、やがて消えゆく運命にあるわけです。(※レシート表面は、それぞれ印字が消えにくいように丁寧に特殊処理が施されているそうです)


VIKI「改札を越える前に」44,990円

誰もが日常生活の中で「空気」のように接しているのに、これまでほとんど誰もアートのモチーフとして用いてこなかった「レシート」を使った唯一無二のアート作品は、非常に見ごたえがありました。

日々進化し続けるVIKIさんの今後の作品を追いかけるのが楽しみです。

VIKIさんへのインタビュー記事はこちらから

アートのかけらコーナーもオススメ!

本展でも、過去の展示で好評だった「11,000円」均一の「アートのかけら」コーナーが設けられています。本展出品作家による、下絵やエスキース、ドローイングの小品から、やきものや工芸などの習作などがズラリと並びました。

せっかくなので、一つ紹介しておきましょう。


アートのかけらコーナーで存在感を放つVIKIさんの作品群。VIKIさんが毎日描き続けているドローイング作品は、こちらのアカウントから楽しむことができます。(https://www.instagram.com/drawing.viki/)上

こちらは上記で紹介したVIKIさんの作品。VIKIさんは、レシートをモチーフとした作品以外に、毎日欠かさずドローイング作品を1日1点Instagramで発表中。「アートのかけら」コーナーでは、直近で描かれたいくつかのドローイング作品が展示販売されています。

藝大アートプラザの歴史とエッセンスが詰まった展覧会でした!

長年研究を積み重ね、作家オリジナルの技術を極めた作品、独自の世界観が強く打ち出された独創的な作品など、どれも見応え抜群の作品が揃いました。

本展へ出品している多くの作家は、卒業生/在学生を問わず、学内外で個展やグループ展を通して、これからも作品を発表し続けてくれるはず。作家独自の世界観が打ち出された個性的な作品群が揃いました。本展で、ぜひお気に入りの作家を見つけてみてくださいね!

会期: 2021年8月28日(土) ~ 10月3日(日)
営業時間: 11:00~18:00
休業日: 9月21日(火)、27日(月)
入場無料、写真撮影OK
展覧会情報: https://artplaza.geidai.ac.jp/news/2021/08/the-prize-show.html


取材・文/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。