日本のアートを世界に接続する!アートウィーク東京を手掛けるギャラリスト・蜷川敦子さんに聞く【Take Ninagawa】

ライター
菊池麻衣子
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さまざまな特色を発揮しながら運営されている各地のアートギャラリーや画廊をめぐり、ギャラリストたちの多彩な視点をアーカイブしていく特集企画「ギャラリー・ライブラリー」。

蜷川敦子(にながわ あつこ)さん(写真)は、2008年に東京・東麻布にギャラリー「Take Ninagawa/タケニナガワ」を設立。以降、国際的な文脈の中で日本のアーティストを紹介することに努めてきました。世界的なアートフェアで、出展には厳しい基準が設けられているアート・バーゼル(ArtBasel)とフリーズ(Frieze)の両方に出展するなどその活動は精力的です。
2023年からは、「アート・バーゼルバーゼル」のセレクションコミッティーを務めています。2022年に本格始動したアートの祭典「アートウィーク東京」の共同創設者にしてディレクターでもあります。幅広い活動をされている蜷川さんに、ご自身のギャラリーにてお話を伺いました。

※アイキャッチ画像:©Katsuhiro Saiki

ニューヨークから帰国してギャラリーをオープン

—— 蜷川さんは、大学生時代からギャラリストになることを決意していたとのことですが、なぜそのような意思を持つようになったのですか?

蜷川 親が市民活動をしていましたので、どうすれば未来を作ることができるのか、そこに私自身はどう関わるのか、興味を持っていました。団体行動が得意ではなかったため1対1のコミュニケーションで社会問題にアプローチできるアートに興味を持ちました。そして大学で美術史・芸術学を学びました。

—— 大学卒業後は、本場のアートシーンを学ぼうとニューヨークへ渡ったそうですが、そこではどのような体験をされましたか?

蜷川 ノンプロフィット(非営利活動)かコマーシャル(商業活動)か悩んだのですが、日本に国際的に認知されたマーケットがなかった時代に学生をしていたので、コマーシャルへのアプローチの方が当時は意義があると考え、コンテンポラリーアートのマーケットの本場ニューヨークへ行きました。フィジカルな場所を持つべきか、場所を固定する必要があるのか、といったことを考えながら、オルタナティブな方法を探るなか、誘っていただいたスペースで展覧会を企画したり、リサーチと実践を重ねていきました。ニューヨークはアートシーンのパイが大きく、若い人にも実験する場所を提供してくれる街だったと思います。

—— 日本に戻り、2008年にTake Ninagawaギャラリーを立ち上げましたね。まずどのようなところからスタートしたのですか?ギャラリーを立ち上げる際に苦労したのはどのような点ですか?

「15」展示風景 2023年 Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo, photo by Kei Okano.

蜷川 ギャラリーを立ち上げるにあたっては、資金と場所に加えて、一緒に仕事をしていくアーティストの協力が必要なのは当然ですが、ギャラリービジネスを機能させるために必要なのは、ミッションと、美術の知識と、ネットワークです。ギャラリーを始めた頃に出会った数名の先輩や友人たち、また一緒に仕事をしてきたアーティストの方々が私を国際的なアートシーンで通用するギャラリストとして育ててくださったように思います。

——どのようなミッションを掲げたのですか?

蜷川 Take Ninagawaは、コンテンポラリーアートを扱うギャラリーです。コンテンポラリーアートはインターナショナルであることがベースにありますから、日本に限らず国際的なアートシーンで仕事をするということを決めていました。日本でアートを勉強したという経緯もあり、日本のアートをインターナショナルなディスコース(※注1)に組み込むというミッションを掲げてギャラリーを立ち上げました。

(※注1)ディスコース(discourse):言語による表現、特に思想や文学の分野で使われる言葉や言説を指す。美術においては、評論家など専門家による評価といった言説など。フランス語ではディスクール(discours)。

アーティストたちをリプリゼント(代理)する

—— 「日本のアートを、国際的なアートシーンで理解・評価されるような方法で展示し、言語化して伝える」ということですね。だとすれば、ミッションを共に達成していけるようなアーティストを選ぶことがギャラリーとしてとても重要だと思われますが、どのようなアーティストたちとお仕事をされていますか?

蜷川 アーティストがギャラリーを選ぶと言った方が正しいと思います。私の好きな傾向は、「パフォーマンス」「チャンス」「社会性」で、このあたりを作品に取り入れているアーティストにより興味を惹かれます。または、そういった要素を取り入れているアーティストとの仕事に魅力を感じて、そうなっていったのかもしれません。チャンスを受け入れる知性と、作品の自律性を他人に委ねることのできる懐の深さにグッときます。

—— Take Ninagawaもそうですが、世界のコンテンポラリーギャラリーはそのように協働しているアーティストたちを「リプリゼント(代理)」すると表現していますね。

蜷川 ギャラリーはアーティストを代理するのが仕事ですので「リプリゼント」です。アーティストと直接、長期的に仕事をして、ギャラリーでの個展開催、作品販売、アーカイブに加えて、作品制作、国際芸術祭への参加や、美術館での展覧会を手伝ったり、書籍を出版したりします。アーティストがキャリアを形成するにあたってのサポートやプロモーションをしているという感じです。

大竹伸朗さんにアプローチ

—— 「リプリゼント」は、そもそも日本にはなかった概念なのでしょうか。「インターナショナルなディスコースに組み込む」ということは、概念やシステムも含めて世界の舞台に通じるものを構築していくことなのですね。Take Ninagawaがリプリゼントしているアーティストの一人として、大竹伸朗さんがいらっしゃいます。彼のような巨匠アーティストとお仕事をするようになったのはどのようなきっかけからですか?大竹さんを説得なさるにあたって重要だったポイントを教えていただけますか。

蜷川 もともとは同じ時代や社会的な問題意識を共有する同世代のアーティストたちと一緒に仕事をしていたのですが、彼らがどこから影響を受けたのかと突き詰めていくと、大竹伸朗さんにたどり着きました。ぜひ大竹さんと一緒に仕事をしたいと考えたのですが、Take Ninagawaがまだ立ち上がったばかりの2008年には、大竹さんは既に素晴らしいキャリアを築いていらっしゃいました。もちろん私からお願いに伺ったのですが、まず、大竹さんの作品をどのようにプロモーションしていきたいかを伝え、展覧会のプランをプレゼンしました。気がついたらギャラリーをオープンしたばかりの年に、三部作で大竹さんの個展を開催することができました。

大竹伸朗さんの作品(中央)が展示された現在のギャラリー内観。「15」展示風景 2023年,Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo, photo by Kei Okano.

上記写真中央の大竹伸朗さんの作品 大竹伸朗《残景 34》2022年
©︎ Shinro Ohtake, courtesy of the artist and Take Ninagawa, Tokyo, photo by Kei Okano.

—— それ以来、大竹さんとのパートナーシップが続いているのですね。昨年から今年にかけて実施された、東京国立近代美術館での大竹さんの大回顧展は記憶に新しいところです(富山県美術館への巡回展は、2023年8月5日(土)―9月18日(日))。美術館とはどのような関係づくりをされているのでしょうか。

東京国立近代美術館「大竹伸朗展」、会期2022.11.1–2023.2.5の展示風景。 撮影:菊池麻衣子

蜷川 一緒に仕事をしているアーティストの作品が良い美術館で紹介される事はとても大切です。なぜなら、美術館は市民のヘリテージ(遺産・継承物)を作っていくところだからです。美術館で開催された展覧会は、未来に対して語りかけていくことができるので、将来にわたって共有されていきます。私も、キュレーターが何を考えているか、いま何を見て何に対して価値を見出しているのかを常に理解できる場所に身を置けるよう努力しています。例えば、国際展のオープニングや、アート・バーゼルバーゼル(※注2)のようなアートフェアのオープニングで世界中から集まってくるキュレーターや同業者たちと情報やアイディアを交換したりしています。

(※注2)アート・バーゼルバーゼル:アート・バーゼルは、スイスの都市バーゼルで毎年開催される世界最大規模のアートフェア。開催地は4か所で、スイスのバーゼル、アメリカフロリダ州のマイアミ、香港、パリで開催されている。そのうち、スイスで開催されるフェアをアート・バーゼルバーゼルと呼ぶ。

夢のアート・バーゼルに出展

—— アートフェアのアート・バーゼルとフリーズに継続的に参加されているTake Ninagawaですが、いずれも出展するのは簡単なことではありません。特にアートバーゼルバーゼルは、約300前後のフェア出展の枠に世界中から1000を超えるギャラリーの参加申込みがあり、厳しい選定基準が設けられているそうですね。しかも、毎年常連で参加しているギャラリーですら来年も参加できる確実な保証がないと言われています。どのようにして参加するきっかけをつかまれたのですか?

アートバーゼル2019のエントランス。 撮影:菊池麻衣子

蜷川 ギャラリストになると決めてニューヨークでリサーチをしていた時からアートフェアというツールを使って国際的なアートシーンにコミットすると決めていました。アートフェアは世界に山ほどあり、若手の登竜門のようなものもあります。例えばマイアミにはNADAというニューヨークのギャラリーが集まって作っているアートフェアがあり、2007年に初めて出展しました。2010年にはフランスのアートフェアFIACの若手セクションに、2011年にはフリーズロンドンの若手セクションに出展するなどして、国際的なアートフェアのサーキットに入っていきました。
2013年にはフリーズ(ニューヨークとロンドン)に加えて、アートバーゼル(バーゼルと香港)に出展することになりました。とはいえ、ブースの出展料も高いですし、この時点ではまだギャラリーを立ち上げてから5年目でしたので、毎回「今回失敗したらつぶれる」という綱渡り状態でした。

「アート・バーゼルバーゼル」のセレクションコミッティーになる

——そんな蜷川さんは、今や世界最高峰のアートフェア「アート・バーゼルバーゼル」のセレクションコミッティーでいらっしゃいます。コミッティーのメンバーは世界中から選ばれた8名で構成され、東アジアから選ばれたのは蜷川さんが初めてとのことですね。どのような役割を担われているのですか?

蜷川 基本的な役割は、アートバーゼルバーゼルへの出展アプリケーションを全部読んで選考することです。また、変わりゆく世界の状況をアナライズして、アートフェアがどうあるべきか考えを共有します。

—— 2022年から本格始動した新たなアートの祭典「アートウィーク東京」は、アートバーゼルと組み、蜷川さんは、共同創設者にしてディレクターでいらっしゃいますね。

蜷川 もともと日本では、アートバーゼルを招聘したいという動きがあったようなのですが、なかなか実現しませんでした。そんななか、私が東京のアートシーンをバスでつないでインターナショナルにアクティベートするための「アートウィーク東京」を企画すると、アートバーゼルから一緒にやりたいと提案がありました。

「アートウィーク東京」2022年の様子。撮影: 菊池麻衣子

—— 思わぬ方向から、アートバーゼルの存在が日本に顔を出すことになったのですね。蜷川さんが、バーゼルのセレクションコミッティーであることからくる信頼も大きいのではないでしょうか。「アートウィーク東京」のスタートの経緯や今年の見所を教えていただけますか?

蜷川 そもそも「アートウィーク東京」を作ろうと思ったきっかけは、世界中でアートのエコシステムが健全ではないという議論が起こっていたなか、パンデミックが起こり、インターナショナルディスコースを作る場所に誰もアクセスできなくなったことです。メガギャラリーの台頭で若手のみならず中堅ギャラリーの存続も危うい状況が世界中で問題となり、そういった状況ではシーンが疲弊していまい、全てのステークホルダーにとってよくないと議論がある一方で、解決方法はなかなか見つからないでいました。アートウィーク東京を作ることで、アートシーンを担うコミュニティの力によって東京のアートシーンをアクティベートし、パンデミックで切り離されたローカルのアートシーンを国際的なシーンと接続することがいま必要と考えました。同時にアートのディスコースをもう一度マーケットと接続することも重要なことであったので、ディスコースを作る美術館とマーケットを作るギャラリーの両者に参加していただこうと考えました。アートバーゼルからいただいたコラボレーションの話は、その実現のための大きな力になると思い、大きな覚悟と労力が必要でしたが、日本のアートシーンのためにやってよかったと思っています。

—— 「アートウィーク東京」では、都内に点在するギャラリーと美術館が広範囲にわたってバスでつながれていますね。

蜷川 東京のアートシーンをアクティベートするという事は現実的にはなかなか容易では無く、なにせ街が大きいので、まずは全ての会場を繋ぐシャトルバスの運行が必要と考えました。予算取りのために最初に対応したのがシャトルバスのシステム構築です。シャトルバスを機能させるには15分間隔でバスが必ず来ることが必須で、例えば50のアートスペースを回る場合は、、、と考えながら2時間ほどで作りました。

「アートウィーク東京」2023年のバスルート

「買える展覧会」を企画

——あの複雑なバスシステムを2時間で考案されたとは驚きです! マーケットと美術館を切り離さないために、工夫された事はありますか?

蜷川 バスのシステムを考えたのは私ですが、実際に運行しているのは中城慎能さんという「AWT BUS」のプロジェクトマネジャーです。エクセル上では実現できても、リアルライフでの実現は本当に大変だったと思います。今年は新しく、展覧会形式のセールスプラットフォーム「AWT FOCUS」を考案しました。「AWT FOCUS」は、国際的かつ歴史的な視座を持って企画された、美術館で開催される展覧会なのですが、作品を購入することもできます。今回は、近現代美術の専門家で滋賀県立美術館ディレクターの保坂健二朗さんにキュレーションをお願いしました。会場は、現存する日本最古の私立美術館である大倉集古館です。ここが私たちが近現代美術史を知ることができる教育的な場となり、同時に作品を購入することで将来にわたって日本のアートシーンにコミットするきっかけをつかむことができることを目指しています。

ダイナミックな今後の展望

——ご自身のギャラリーについて、これからの展望を教えてください。また、「アート・バーゼルバーゼル」のセレクションコミッティーなどの国際的な役割についてとともに、「アートウィーク東京」の今後についても伺いたいです。

蜷川 Take Ninagawaに関してはグループ展をもっとやってみたいと思っています。引っ越してスペースが広くなったことで企画する楽しさを感じています。今のグループ展も、海外のギャラリストの協力を得て20名ほどのアーティストの作品を一同に紹介しています。ギャラリーはアートの実験場なので、なかなか日本で見られない作品や価値観を共有していけたらと思っています。

「アート・バーゼルバーゼル」のセレクションコミッティーについては、ユーロセントリック(ヨーロッパ中心主義)で動いてきた世界のアートシーンがアジアをどのようにとり込んでいくか見届けたいと思っています。

加えて、「アートウィーク東京」は、クロスカルチャーを目指して、コンテンポラリーアートだけでは無く、建築、食、デザイン、ファッションにもどんどん関わって文化産業のネットワークを作りたいと思っています。これはライフスタイルとしてアートが受け入れられるようになった今こそ作るべきことだと思っています。同時に、アートの価値を作ってきた学術的側面をみなさんと共有し理解を深めていただくことによって、安全なアートマーケットの構築を目指したいと思っています。

info

Take Ninagawa展覧会情報 『15』

期間:2023年5月20日–9月22日
参加作家:
青木陵子|バス・ヤン・アデル|泉太郎|アンドロ・ウェクア|フランツ・エアハルド・ヴァルター|ヤン・ヴォー|大竹伸朗|ミハイ・オロス|ケン・オキイシ|スキ・ソギョン・カン|河井美咲|河原温|笹本晃|テア・ジョルジャゼ|䑓原蓉子|パティ・チャン|シャルロッテ・ポゼネンスケ|松本力|宮本和子|山崎つる子|吉増剛造|ミカ・ロッテンバーグ
HP:https://www.takeninagawa.com/

アートウィーク東京開催概要(2023年)

名称:アートウィーク東京(欧⽂:Art Week Tokyo、略称:AWT)
会期:2023年11⽉2⽇(⽊)〜11⽉5⽇(⽇)(4⽇間)10:00〜18:00
※VIPプレビュー⽇程として10⽉31⽇(⽕)、11⽉1⽇(⽔)の2⽇間を予定。
※会場やプログラムにより時間が異なる場合があります。
会場:都内50の美術館/インスティテューション/ギャラリー
会場:⼤倉集古館(AWT FOCUS)、「AWT BAR」ほか各プログラム会場
主催:⼀般社団法⼈コンテンポラリーアートプラットフォーム
提携:アートバーゼル(Art Basel)
特別協⼒:⽂化庁
公式サイト:https://www.artweektokyo.com/

アートウィーク東京モビールプロジェクト

名称:アートウィーク東京モビールプロジェクト
会期:2023年11⽉2⽇(⽊)〜11⽉5⽇(⽇)(4⽇間)10:00〜18:00
主催:東京都/アートウィーク東京モビールプロジェクト実⾏委員会
【料⾦】
・AWT BUSの乗⾞無料。
・参加ギャラリーの⼊場無料。参加美術館ではAWT会期中に限り所定の展覧会にてAWT特別割引適⽤。
・AWT FOCUSの⼊場は⼀般、高校生以上有料(⾦額未定)、中学生以下無料。

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