「色から音が聴こえてくる」色彩とハーモニーがリンクするアート【アワード受賞者・藤本陸斗氏インタビュー】

ライター
中野昭子
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アーティストインタビュー インタビュー

人の数だけアートがある! 芸術に対する思いは人それぞれ。藝大アートプラザでは、アートとは何かをさまざまなアーティストたちに尋ねることで、まだ見ぬアートのあり方を探っていきます。

2023年度の藝大アートプラザ・アートアワードで審査員特別賞(エプソン販売株式会社)を受賞したのは、東京藝術大学(以下、藝大)音楽学部作曲科在籍中の藤本陸斗さん(写真下)。受賞作の「Emerged Colors 00」は、移りゆく色彩のグラデーションが静謐で美しいデジタルアートです。

今回は藤本さんに、作品の制作過程や創作全般の姿勢などを伺いました。

Photo by Yusaku Aoki

複数のズレの中で「現れた」作品

――受賞作は光のグラデーションが幻想的に移り変わっていく作品でした。どのように制作なさったのでしょうか。

藤本:まず、画像をつくってプリントアウトし、プリントした紙を写真撮影してデータ化し、撮影データを編集して制作しています。暗い場所で紙に近寄ってシャッターをゆっくりと切った時、自分の中に色が浮かび上がってくる感覚を味わいながら制作しました。

プリントアウトした画像。(画像:本人提供)

画像からプリントで出力した時の誤差やカメラで撮った時の誤差、自分の目で見た時の誤差、加えてその日の光の加減など、少しずつズレが生じています。タイトルにある「emerged」は、制作過程でズレが起こり、最終的に想定外の形で浮かび上がって「emerge(現れる)」してくる、という趣旨でつけています。

JR上野駅「PLATFORM13」で投影された藤本さんの作品。(画像:本人提供)

――藝大アートプラザ・アートアワードは東京藝大の学生・院生が対象ですが応募の多くは美術学部の学生が主で、音楽学部や中でも作曲科に所属する学生の応募は珍しいです。制作から応募に至った経緯を教えてください。

藤本:画像の作品を作りはじめたのはここ1~2年くらいです。制作のきっかけは、カメラのレンズを雑誌や新聞などに近づけた時に現れる色彩がおもしろいと感じたことで、その後、自分で画像をつくって色の違いとして並べることに着目しました。それを映像にしたのは今回が初めてだったのですが、滲んだ色が別の色合いに移り変わるグラデーションをつくりたいと思って制作しました。

視覚的な色合いと音のハーモニーがリンク

――色の変化が、時間を内在する芸術ともいえる音楽との関連を想起させます。

藤本:自分は昔から「色」に惹かれるところがあって、色と音の響きを結びつけて捉えている部分があります。色彩のグラデーションを見ていると、なんとなく「音」が聞こえてくるんです。音の中では和音が好きで、今は作曲を学んでいることもあるのですが、視覚的な色合いと音のハーモニーがリンクすると感じています。自分の中に具体的なカラーパレットと音の対照表があるわけではないのですが、その日のコンディションも含めて、音と共に色彩が現れてくる感じがします。

今回の作品は無音の作品ですが、自分の中では最終的に「音」の余韻を与えるようなイメージでいます。自分がつくった作品は音のように時間と共に流れていくものだと思っていて、今回もループ再生して繋がるようにしました。制作過程としては始まりも終わりもあるのですが、一つの作品として見ると、果てしなく流れるようになっています。

作曲はメディテーション(瞑想)

――普段制作している音楽について教えていただけますか。

藤本:アンビエント・ミュージック(環境音楽)をつくっている、という意識はないのですが、客観的に考えると、自分が制作しているのは抽象的な音楽に分類されると思います。音のイメージを掴み、体の中の空気に馴染ませながら、世界観を拡張していくイメージを持っています。

なにか具体的な物や事からインスピレーションを受けるというよりも、日常的に蓄積されているものからアウトプットしています。テーマを設定している時もありますが、基本的には自分の感情や感覚を投影していて、今は自分の手が届くところ、自分の目で見渡せる範囲でやっているという感覚があります。その意味で、自分にとって作曲は一種のケアやメディテーションだと考えています。

藤本陸斗作「Emerged Colors 00」(デジタルアート作品のスクリーンショット)

――そうした作品を他の人が聴いた時に、どう感じてほしいですか?

藤本:自分の持っている感覚や感情を共有したいと思っています。決して押し付けるということではなくて、聴いてくださる方の個人的な体験や記憶を重ねて共感していただけたら嬉しいです。

表現を通じて人と関わりたい

――音楽は昔から身近だったのでしょうか?

藤本:3歳からピアノを、11歳からクラリネットを始めました。作曲科に進んだのは、僕自身、自分で何かをつくることに生きがいを感じていて、作曲のほうがより自分を表現できると考えたためです。自然な流れだったと思います。

高校の時の担任の先生が作曲科出身の方で、僕がつくっていた曲を聴いてくれて、作曲科の受験を勧めてもらいました。

藝大はクラシカルな曲や演奏を学んでいる方が多く、そういった方の真摯な姿勢はとてもリスペクトしていますし、僕自身が今でもピアノを演奏することはあります。ただ、どちらかというと演奏家という感覚ではなく、自分の曲を自分で演奏すると自然体でいられて心地良いので弾いています。作曲した人が自分で演奏することに意義があると思っています。

――作曲する上で特に好きな楽器などはありますか。

藤本:ピアノの音と人の声です。アップライトピアノと自分の声を使って現在作品をつくっていて、今年はマックス・リヒター(Max Richter)やヨハン・ヨハンソン(Jóhann Gunnar Jóhannsson)のアルバムを手掛けている海外のレーベルでアルバムを出すことになっています。タイトルは『Distant Landscapes』で、音楽から立ち上がってくる景色を意味しています。レコードとデジタル配信という形になる予定で、デジタルが中心になるとは思いますが、できればレコードでモノという形でも多くの方にお届けしたいですね。

――音楽以外ではどのような分野に興味がありますか。

藤本:絵画や彫刻なども好きですね。どちらも「動き」が感じられるものに惹かれます。ファッションではドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)が好きで、世界観も素晴らしいのですが、服からデザイナー本人の姿が見えてくる点に憧れます。

あくまで僕の印象ですが、音楽は視覚で捉えられない分、抽象性の高いものだと思っています。その分軽やかに分野を横断したり繋いだりできる可能性が音楽にはあると考えています。将来的にはアーティスト活動で生きていきたいと思っているので、美術やファッションなどのジャンルで僕がつくった作品をいいと感じてくださった方がいればぜひ関わっていきたいです。さまざまなジャンルの方と結びつき、自分の立場から何ができるのかを考えながら仕事をすれば、新しいものが生まれるように思います。

アートは「自分がいきいきと表現できるところ」

――藤本さんにとってアートとは、どんなものでしょうか?

藤本:僕にとってアートは、自由で、自分がいきいきと表現できるところです。社会やたくさんの人との接点が僕にとってのアートだとも感じています。誰かに届けるということを常に意識しているわけではなくて、アートはいつも自分のためのものですし、呼吸と同じで、それなしには生きていけないものだと思っています。

今は、スケールの大きいことや日常から離れたことではなく、生きている環境の中で感じていること、日常の中で生まれるものを作品にしていきたいです。僕の制作は環境に向き合うことと繋がっているので、僕自身に変化があった時に作品がどう変化していくのか、自分でも楽しみです。

Photo by Yusaku Aoki

【藤本 陸斗(ふじもと りくと)】
2000 京都市生まれ
現在、東京藝術大学音楽学部作曲科4年在籍中

Instagram:https://www.instagram.com/rikutofujimoto/

主な経歴
2019 Performance for Movie ”And Your Bird Can Sing” Party, BATICA, Tokyo
2019 Performance for SKYLARKING PRESENTS Flash Back, BATICA, Tokyo
2019 Performance for SUMMER SHOT Kleiner Feigling Launch Party, CIRCUS TOKYO, Tokyo
2020 Selected for Thursday Concert 2020
2022 Selected as J-WAVE MAP Artist
2022 Remix for Oboroge (Rikuto Fujimoto Remix), Mofution Vibration
2022 Published NFT Works “Liquid Metal” and “A point in time”
2022 Performance for J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2022, Roppongi Hills, Tokyo
2023 Jingle Produce for J-WAVE Tribute to RYUICHI SAKAMOTO
2023 Sound Produce for J-WAVE TOKYO MORNING RADIO
2023 Ambient Music Workshop for Daikanyama Teens Creative
2023 Film Scoring for Small Fish by Yang Yang
2023 Performance for Exhibit the flow of the river never ceases, JAPAN ART BRIDGE, Tokyo
2023 Performance for Ukraine Charity Concert sponsored by Embassy of Ukraine, Kyoto Concert Hall Ensemble Hall Murata, Kyoto
2023 Sound Produce and Performance for Mieko Ueda × Ablankpage. Fashion Show, Nakanoshima Museum of Art, Osaka
2023 Sound Design for Gallery Cafe Room 101
2023 Sound Produce for KANKO Web Commercial Dry-wash
2023 Sound Produce (includes Orchestration) for the NHK historical Taiga drama Dousuru Ieyasu
2024 Sound Produce for GiGO Web Commercial
2024 Special Jury Prize(Epson Sales Japan Corporation), Geidai Art Plaza Award
2024 Exhibit Emerged Colors 00 at Platform13, Ueno station

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