合唱と和楽器の可能性を探り、未来へ広げる。「藝大の軌跡-過去と現在を繋ぐ音楽たち」レポート

ライター
中野昭子
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コラム

上野・藝大アートプラザでは企画展「藝大アートプラザ・アートアワード受賞者展」の開催期間中、アート作品に彩られた展示空間を舞台に、東京藝大音楽学部の学生によるスペシャルコンサートを全5回にわたり開催いたします。

3月の開催スケジュールはページ末尾をご覧ください

2024年2月18日(日)の第3回「藝大の軌跡-過去と現在を繋ぐ音楽たち-」は、混声合唱や邦楽五重奏などによる幅広い内容で、東京藝術大学の前身となる“音楽取調掛”と、近代日本における音楽教育の第一人者である“伊沢修二”の功績を辿るものです。

出演は、松村百花(ソプラノ)、佐藤真子(アルト)、宮田爽佑(テノール)、浅沼大陽(バス)、屋代紗央里(尺八)、鹿野竜靖(十七絃)、丹生谷愛恵(箏)、前川梢(箏)、小原瑠里(箏)の9人で、曲目は、混声合唱「朧月夜」「蛍の光」、沢井忠夫編作曲「君が代変奏曲」、内田拓海作曲「イサワ・リミックス」。
30分程度の演奏時間中、藝大アートプラザは、過去と現在を繋ぐ和の音楽が響きわたる大変ユニークな空間になりました。

藝大ゆかりの曲に加え、今回初公開の新曲も!?

最初に披露されたのは、4人の混声合唱「朧月夜」「蛍の光」。「朧月夜」は藝大の前身である東京音楽学校出身の岡野貞一が作曲を、「蛍の光」は東京音楽学校の前身である音楽取調掛出身の稲垣千穎が作詞を手掛けており、藝大にゆかりの深い曲です。春の気配が漂うこの日に相応しく、優しくゆったりとした曲調で、空間は穏やかな雰囲気に満たされました。アーティストたちの伸びやかで美しい歌声を聞いていると、人そのものが素晴らしい楽器なのだなと実感させられます。

続いて演奏された「君が代変奏曲」は、藝大出身の沢井忠夫による編作曲で、箏が四面、尺八が一管という一風変わったアンサンブルによる変奏曲。凛と響きわたる尺八と、風のそよぎや川の奔流といった豊かな連想を誘う箏の音が際立ちます。慣れ親しんでいるはずの「君が代」の印象がガラッと変わる、新鮮でドラマチックな曲でした。

そしてラストの「イサワ・リミックス」は、今回初披露される新曲で、東京音楽学校の初代校長である伊沢修二の詞に、藝大の音楽学部出身の内田拓海が曲をつけた大変贅沢なもの。現代の視点からの伊沢への評価と、伊沢自身によるテキストを活かしたこの曲は、箏と混声合唱による音色がポップでユニークな、大変印象深い作品です。

合唱の西洋的な音階と箏の日本的な音階を共存させるのはとても難しいそうですが、いずれの曲も声や楽器の個性が際立ち、過去と現在、西洋と日本といった境界を超えたハーモニーが堪能できる、非常に充実した演奏でした。

この日演奏された箏の音色はダイナミックでかっこよく、「これが箏なの!?」と驚かされました。

昔ながらの音色を取り入れながら、新しい可能性を追求する試み

十七箏を演奏した鹿野さんに話を伺ったところ、本企画は、西洋の音を取り入れた伊沢修二の詞を蘇らせながら、伊沢が提案・就任した音楽取調掛の歴史を振り返る試みとして、合唱だけではなく、尺八・十七絃・箏という日本の昔ながらの楽器の音色を組み合わせたそうです。
箏の演奏は、定規を使うなど、ほんの数年前に始まった新しい奏法なども試みたとのこと。箏はまだまだ可能性がある楽器なので、固定されたイメージが変わるようにしたい、とのお話でした。

今回のコンサートの感想を伺うと、「演奏時、お客様との距離が近いために空気感が肌で伝わるのが良かったです。緊張したけれど楽しい経験でした」と笑顔に。新しい試みを行うと、外からの視点が得られる上、前例ができて発展するので、今後も新しい可能性を追求したいとのこと。多様な楽器と交流して何ができるか探っていきたい、と語っていました。

スペシャルコンサート今後の開催スケジュール

2024年3月16日(土)13:00-13:35

「ハープデュオStellaHarparumによるアートとハープを楽しむ午後」

※当日13:00-13:35の間会計業務を一時中断させていただきます。
※録音・撮影はお断りしております

2024年3月17日(日)14:00-14:30

「珠玉のオペラコンサート

※当日14:00-14:30の間会計業務を一時中断させていただきます。
※録音・撮影はお断りしております

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