藝大アートプラザが「ドロT」を推すのはなぜ?100万人に届けたい「アートに参加する楽しさ」と支援のかたち

ライター
中野昭子
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藝大アートプラザの一角で近頃、特に大きなエリアを占領しているTシャツたち。なぜアートギャラリーにTシャツが?

これらは、若き藝大アーティストたちによる「ドローイングTシャツ」、略して「ドロT」という呼ぶのだそう。手掛けるアーティストは、油画を専門とする人から、工芸を専攻した人などさまざま。いずれも、布用の画材を用いて、直接Tシャツに描いており、世界でたった1点しかない貴重なものばかり(その意味では8800円は大変手頃なお値段かも)。

とはいえ、なぜ藝大アートプラザは「ドロT」を全面展開しているのでしょう? 藝大アートプラザタイムズ編集長・高木史郎に、ドロTにかける熱い思いを語ってもらいました。

意義1:100万人にアートを届ける

藝大アートプラザタイムズ編集長・高木史郎の談

藝大アートプラザには、藝大出身のアーティストの手によるさまざまな作品がありますが、その中でも一押しの作品がドロTです。なぜならドロTは、以下の3つの意義を持っているからなのです。

私は「日本中の家をアートだらけにする」ことを目指していて、アートプラザは「最初にアート作品を買う」場所であってほしいと願っています。そんな思いがあって、小さいアート作品も扱っているのですが、例えF0号(18cm×14cm)の絵画であっても、アートとしての存在感はありますし、飾る場所を選びますよね。日本の居住空間を考えると、一般の方が作品をたくさん買うのは限界があります。

その点、Tシャツだったら日常的に使うものだし、小さく折りたためるので、何枚あってもいいですよね。10枚くらいあっても邪魔になりません。私もドロTを3枚以上持っていますが、全然困らないですね。

先日、誠品生活日本橋とアートプラザがコラボして、誠品生活日本橋内にPOPUP企画を展開しました。誠品生活日本橋は、「くらしと読書のカルチャーワンダーランド」をコンセプトに掲げつつ、若手アーティスト・クリエイターの発掘・支援に積極的な取り組みを展開している空間ですが、そこで一番売れたのが、なんとドロTでした。これはやはり、ドロTはカルチャーの要素もありつつ、暮らしの中で取り入れやすいからだろうと思います。

誠品生活日本橋でのPOP UPの様子。展示・販売されたものの中でもっとも多くの人が手に取ったのが、「ドロT」だったそう。

私は日本中にあまねくドロT、ひいては「アート」を届けたいと思っています。日本の人口1億2000万人のうち、ほんの1%でもいいので、ドロTを着ていただけたら嬉しいですね——それでも100万人以上になりますが。とにかく、多くの人に、「アートを身に着ける楽しみ」を味わっていただきたいのです。

意義2:「アートって何?」の答えを示す

アートという言葉は、出来上がった作品に対して使われがちですけれど、アーティストは作品をつくる時にさまざまな試行錯誤や挑戦を行っていて、鑑賞者が目にするものは、無数の作業を経た最終形態です。アートにはさまざまな考え方があるとは思いますが、私にとってアートとは、彼らの思索の過程や制作の工程、さらには完成した作品を通して作家と鑑賞者が関わり合うことまで含めた「集合体」のことだと思っています。

そう考えると、アートはプロセス全てを含むものと捉えてもいいはずですが、多くのアーティストがそのプロセスは見せません。たとえば油画の作家でも、たくさんのドローイングなどを経て作品を描いていきますが、その過程で出た多くのドローイングは、ほとんどの場合廃棄されてしまいます。私は捨てられてしまうドローイングが持つ「軽やかさ」のようなものも、本作と同様に美しいと感じますし、本作に至るまでのプロセスとしておもしろいと感じます。
だからそれらをTシャツに描いていただけば、ひとつ目の意義も叶うと思ったのです。

通称「ホワイトキューブ」と呼ばれる個展スペースは、この日はドロTなどの作品に埋め尽くされていた

現在アートプラザで展示・販売しているドロTは、約10名の作家に描いていただいたものですが、絵画専攻の方だけではなく、彫金や漆芸を専攻した方もいます。工芸畑の方の制作において、ドローイングが残ることは珍しいですし、プロセスを見られる機会はほぼありません。そういった方のドロTを見ると、普段は知ることができない作家の頭の中を覗いているようなわくわく感を覚えます。

ドロTは、一枚一枚アーティストが直接Tシャツに描くため、当然デザインもそれぞれ異なりますが、作家によっては普段作っている作品とは、テイストや方向性がまったく異なることもあって、それが非常におもしろいとも感じます。
例えば、ガラス工芸作家のクリスティーナ・ヴェントゥロヴァーさんのガラス作品は、緻密で幻想的な雰囲気を持っていますが、ドロTは素朴な柄がとてもかわいらしいです。

クリスティーナ・ヴェントゥロヴァーさんの作品の一つ。企画展「The Art of Tea」展より。

また、鋳金作家の佐治真理子さんの作品は、大変カラフルな仕上がりですが、本作のほうは鋳金で色を使えないため、作家が色をどのように捉えているのかが垣間見えます。

佐治真理子さんの作品の一つ。企画展「The Art of Tea」展より。

そういった作家による違いも、Tシャツという同じ土台に描いている分、観る人にも明確に伝わってきます。

それにドロTを購入して着るということは、その人自身が鑑賞者でありながらアート活動に参加もしていることになるのではないでしょうか。アートは発信する側の一方通行になりがちですが、受け手が「着る」という行為を行うことで、双方向化されるように思います。

「アートって何?」と考えた時、人それぞれの答えがあるとは思います。でも、ドロTの存在によって、アートが完成した作品だけを指すのではなく、作家の制作プロセスや作風の多様性も含むものであり、作品を見て選んで購入し着用することで鑑賞者も参加できるものなのだとすれば、「アート」の定義はもっと広くて豊かなものになる気がするのです。

意義3:若手クリエイターへの支援

藝大アートプラザでは、基本的に展示する作品は作家からの委託販売の形式を取っているのですが、ドロTに関してはすべてその場で買い取り、展示・販売しています。

今の日本において、若手アーティストは本当に厳しい経済状況に置かれていて、日々何かしらの仕事を持ち、働きながら自身のアート活動を行っている人がほとんどです。ドローイングは作家本来の活動ですし、作家の頭の中にある絵をTシャツに描いていただくことは制作の一環ですので、ドロTはアート活動をお金に変える最初のステップになると思っています。実際、アートに関係のないアルバイトをするよりもドロTを描いているほうがいいと言って協力してくれる作家もいます。

ドロTを制作するアーティストのYasuko SAITOさん。藝大美術学部絵画科で油画を専攻した後、同大学院修士課程を終了し、現在は作家活動に取り組む。手掛けるドロTは、「ドローイング」の枠を超え、抽象性とともにデザイン性が高く、藝大アートプラザの「人気作家」となりつつある。

彼らの多くがドロT制作を「おもしろい」と言ってくれます。それはおそらく、普段とは異なる画材や題材、作風やテーマに挑戦できるからでしょう。それはきっと、それぞれが真剣に取り組んでいる本作への制作活動にも何かしらのインスピレーションを与えるものだと思います。

このような3つの意義から、今後もドロTの作家は増やしたいと思っています。一点ものという事を考える手頃な値段で購入できますし、画材は布用ですので洗濯しても絵は落ちません。生活にアートを取り入れるきっかけ、そしてアート活動に参加するきっかけになり、それが若手クリエイターへの支援にもつながるドロTを、藝大アートプラザではぜひ広く訴求していきたいと思っています。

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