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藝大出身アーティスト・絹谷幸太インタビュー。石と対話し学んだこととは?

ライター
菊池麻衣子
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インタビュー

「石は生きています。石は地球の出来事を記憶しています。あなたは石のメッセージが分かりますか?石に触れて、耳を当て、匂いを嗅いで、一緒に語りかけてみませんか?石は皆さんと話をしたがっています。」

これは、絹谷幸太(きぬたにこうた)さんが今まで制作してきた全ての彫刻から私たちに送っているメッセージです。
彼は、このメッセージが鑑賞者に上手く伝わり、みなが石の作品を触り、五感で感じてくれるよう、色々な工夫をしています。

筆者が初めて彼の作品に出会った時もそうでした。

たまたま通りかかった「東京ガーデンテラス紀尾井町・いりや画廊」のギャラリースペースに、まるで生きているような親しみやすい形をした彫刻や、カラフルな石を積み上げた彫刻が見えたのでふらりと寄ってみたのです。

最初に目に飛び込んできたのが、「どうぞご自由にお触りください」と書かれた看板で、「Don’tTouchMe!! 」のDon’tが、赤いバッテンでしっかりと消されていました。

筆者は、「なんてステキなんだろう」と好奇心全開で全ての作品に触りました。

この時ご本人はいらっしゃらなかったのですが、会場にあるキャプションや資料から、ここにある彫刻作品が、ブラジル、ノルウェー、インド、アフリカなど世界各国の石から彫り出されたものだということがわかりました。そして、絹谷さんが作品で表現するのにぴったりな石を探し求めて世界中を旅している話や、石が何億年も昔の地球の動きを刻んでいる話がとても面白く、この石のストーリーを彼自身から聞いたらどんなに素晴らしいだろうと思いました。彼が滞在制作をしたことがあるブラジルの、5億年前の青色花崗岩から彫ったという、深いブルーの作品を心に刻み、会場を後にしました。

石と対話をしながら彫る?

絹谷さんにお会いできたのは、それから3年後の2020年。12月に、銀座の吉井画廊で開催された個展でした。紀尾井町の展覧会で心に刻んだあのブルーの石から創った彫刻、ピンク色の石の彫刻、ベージュ色の石の彫刻に囲まれて笑顔で迎えてくれた彼に、筆者は、矢継ぎ早に質問して石のストーリーや絹谷さんの体験について伺いました。
そして彼は、イタリア・ローマとベネチアで過ごした幼少期に、広場で、噴水彫刻によじ登り、石畳に寝転がったり、その匂いを嗅いだりした体験が、五感のすべてを使って石と対話しながら制作する今の姿勢に大きく影響していることを語ってくれました。
帰国して成長した彼は、高等学校時代に彫刻家の柳原義達先生と運命的な出会いを果たして彫刻家になることを決心します。それから日大芸術学部に進み、土谷武先生の指導の下、石彫実習で生まれて初めて彫った石が真鶴産の新小松石でした。東京藝術大学大学院では、米林雄一先生に師事したとのことです。学生時代「ノミの先を石のかたまりの中心部、石の核に向けて打ち、石と対話しながら彫る」大切さを身につけていったそうです。

絹谷幸太さん

東京藝大大学院在学中と卒業後にも、ドイツやブラジルへの留学やフランスでの滞在制作などにチャレンジして、さらにその感性を磨かれた絹谷さん。
例えば、吉井画廊で展示していたこのお花型の作品は、パリにある「サクレ・クール寺院」の建材の石と同じものを使用して彫ったものです。アトリエで彫り始めた時に、ふわっと香水のような香りがしたので、「何だろう?」と思って振り向いたら、なんと自分の彫刻からワインの香りが放たれていたといいます!
長年ワインのブドウを育んできた土壌や、そこで作られたワイン、ワインと共に過ごした人々の時間などなど…。石に刻まれたその記憶を絹谷さんが彫ることで解き放ったのですね。

フランス産の石灰岩から彫った「花のイデア」

また、5億年前のブラジル産青色花崗岩から彫った新作にも出会えました。今回も触らせてもらうと「場所によって温度が違うのを感じてみてください」と絹谷さん。確かに! 真ん中の辺りはふわっと暖かくて、端っこはヒヤッとしました。石はみな、一様に固くて冷たいと思っていたのでとてもびっくり。厚みや、削り方によってできるテクスチャーの違いや石の組成の違いで体感温度が変わってくるとのことです。
感覚的なことが、科学的な説明からも鮮やかに解き明かされていきました。

ブラジル産青色花崗岩から制作した作品

温度も香りも感じられ、形も有機的でまるで生き物のようなのが絹谷さんの彫刻の魅力です。
それにしても、これだけ石と対話できるようになるためには、何か大きなきっかけはあったのでしょうか?

彫刻家として初めて石の声を聞く

「2003年に日本橋三越本店で初個展の予定だった私は、展覧会が間近に迫り精神的な焦りから素材をねじ伏せるような傲慢な気持ちで彫り続けていました。5トンを優に超える巨大なギリシャ産の真っ白い大理石です。するとある日、その大理石から急に跳ね飛ばされて、左足首靱帯を二本も断裂する大怪我をしてしまいました。ブラジル留学をする直前のことです。泣いて石に謝りながら松葉杖をついて制作を続けていたのですが、数日後に、ド-ンという今まで聞いたこともないような爆音が石から響きました。最初は何の音だかわからずに周りを見回していたのですが、それは不自然な力をかけ続けられた大理石の怒りの声だったのです。
そして近づいてみると、左端の密着していた部分に、髪の毛一本分くらいの隙間が開いたことに気がつきました。自分が石の声を聞かずに、自然に反する力をかけ続けたために、大砲のような音を立てて割けたこの隙間を、決して忘れないように私はあえて作品に残しました。
これを機に、何千万年、何億年も前にできた石に謙虚に向き合い、石と対話しながら彫っていく、いや、自分の心が彫刻されるように石との対話を重ねていくという制作姿勢が確固たるものになりました」と絹谷さん。

怒りの声を爆発させたギリシャ産の白大理石。
向かって左端の上下が接しているように見える部分には、わずかな隙間が開いています。

爆音を響かせてから20年経った今は、穏やかに包み込んでくれるゆりかごのような存在になっています。中に入ると、耳に当てた貝殻から聞こえてくるような音に全身が心地よく包まれます。ゆっくり揺らすと、究極にリラックスして眠くなってくるほど!

石は共生のお手本

そんな絹谷さんが石から読み取って伝えてくれるストーリーの中でも、「現代の私たちに必要だ」と感じるのが、「石が共生する様子」です。この作品を見てください。

『人・芽』というメッセージを金色で彫った作品

絹谷さん曰く「この石は、ブラジル・ミナスジェライス州Salinas(ササリナス)で、かつて川から運ばれた石ころが何億年もかけて出来上がったものです。いろいろな石が多方面から運ばれ、寄せ集まり、長い年月をかけて変形し、固まっています。その大きな原石の一面を磨いて3cmくらいの薄さでスライスし、良いなと思った模様の断面を作品にしました」。
なるほど~。なんだか、いろいろな具が入った煮凝りのようにも見えてます。よくよく見ると、今まさに融合しようとしている石達や、片方が変形してもう片方を受け入れている石などがあります。
「46億年の造山活動によって様々な鉱物が創造され、山々が形成されて行きます。永い年月による気象の変化で山が削られ、岩石は水によって運ばれ、摩耗しながら小さくなって行きます。川底で堆積した石ころが寄り集まって固まって出来た礫岩になります」と絹谷さん。
彼は、地質学者の足立守先生(名古屋大学特任教授)から石の組成や歴史などの情報・知識を常時熱心に学び、感覚だけではなく、時間をかけて石に刻まれたエビデンスも丁寧に読み取っているとのこと。それでお話に説得力があるのですね。
「この作品にはなぜ人という字を書いたのですか?」と尋ねると、
「石は喧嘩をしません。互いにゆずりあって平和です。人間もそこから学んでいきたいなという想いを込めて『人・芽』というメッセージを彫りました」と絹谷さん。ジーンと響きました。

皆でアトリエ訪問! 体も心も石と交流

「私は常々、作品には触れてほしいと思っています。特に子どもたちにはよじ登ったり、抱きついたりして遊んでほしいですね。子どもたちは無心になって野山を駆けまわり、何かによじ登り、新しい遊びを発見しながら五感を通じて大切な物事を感じ、学んでいきます。同じように、遊びのなかで石に興味を持ってもらえれば、さらにより深いところへと入っていきます。石に興味を持つと、国語、算数、理科、社会だけではなく、石の結晶を見ながら宇宙の話(哲学)までできるようになるのです。
そしてそれは大人にとっても同じです。作品には子どもはもちろん、大人にも触れていただき、私が石から感じたり、学んだことを感じ取っていただきたいと思っています」と語る絹谷さん。

実は、2020年から続いたコロナ禍で、展覧会に足を運んでもらうことが難しくなっただけでなく、彫刻を触ったりしてもらうことも難しくなってしまいました。何度かの緊急事態宣言もありステイホームが増える中、絹谷さんは、アトリエに人を呼べるように人工芝を敷いて彫刻作品を配置した公園のようなスペースを作りました。
コロナが落ち着いたら、ここに大人や子どもを集めて、石を五感で体験してもらおうと考えたそうです。

その目指すところが、ちょうど筆者が主催するパトロンプロジェクト(アーティストと鑑賞者がお互いにインスピレーションを与えながらバージョンアップしていく交流企画)とぴったりでしたので、2022年の5月に大人と子ども合わせて15人ほどでアトリエを訪問させていただきました。

アトリエの様子

絹谷さんの作品に乗って話を聞く子どもたち

アトリエに入ってすぐに、話が始まるのも待たずに裸足になってみながよじ登ったのが、くねくねとした形をして真ん中に穴が二つ開いている作品。大人も子どもも、座ったり寝そべったり。石なのに木よりも柔らかく感じ、体の凹凸に合わせてフィットしてきます。「何に見える?」という問いかけに、「お花」とか「ピカチュウ」など色々な声が上がりました。

「これは、私が小さい時にイタリアの広場の噴水彫刻によじ登ったら見えた雲の形です。水面に映る自分の姿が、雲の間を自由に駆け巡る孫悟空みたいに見えたりしましたよ。その時の記憶を交えながら、雲の上から地上を見下ろせるような感覚になれる作品を作りました。真ん中の穴から世界が見えるみたいでしょう?

この石はパキスタンから来たイエロートラバーチンという石で、穴が結構空いていて、あるところは硬く、またあるところはバターのようにやわらかくて彫りやすいです。みんなが乗っているところと、裏側とでは随分温度が違うでしょう?」絹谷さん。

そしてすぐ近くにあった小さな石を指差すと、「これがこのアトリエにある一番古い石です。地球が誕生して約10億年後にできた石。約34億歳です。よーく見て! ここに入っている線は、地球から湧き出たマグマが冷たい水の中に入ってきゅっと冷えて固まった部分。人類が生まれる遥か前に何が起こったかは、この石だけが知ってるんですよ。460億光年とも言われる広大な宇宙の中で、地球だけに生命が存続していることも見ています。私たちは仲良く暮らしていきたいですね」と続ける絹谷さんのお話に、みなじっと耳を傾けました。

35億年前の石

そして今度は、みなで6色のカラフルな石の作品に乗って遊び始めました。

世界六大州の石を5種類の日本の石の鎹(かすがい)がつなぐ。

子ども達が、このブルーの石は?などと、乗った石のところで聞くと絹谷さんが「それはブラジル、赤いのはインド」と答えてくれます。橋のような形をしたこの作品は、なんと、世界六大州の石からできています。右端のブルーの石から、ブラジル産青花崗岩、ドイツ産石灰岩、南アフリカ産片麻岩、オーストラリア産花崗岩、インド産砂岩、アメリカ産花崗岩です。心憎いことに、この六つの石をつなぐ鎹(かすがい)が、5つの日本の石(宮城県産「稲井石」、茨城県産「稲田石」、岐阜県産のチャート、岡山県産「万成石」、愛媛県産の三波川結晶片岩)なのです。世界をつないで、一緒に平和になるための鎹(かすがい)役を、日本が担うことができるという希望と願いがこめられた作品です。
「今日は、みなさんが来て石に触れたり、その上でお菓子を食べたり話したりしてくれたことが、今作っている作品の大切な制作プロセスです。皆さんと触れ合った体感や声や笑顔が作品に取り込まれていきます。石達も輝いて、花が咲いたようになったので、とても喜んでいたのが分かりました。そして今日友達になった作品が、今年の秋に池田20世紀美術館に展示されますので、是非再会してください」と絹谷さん。
最後に、池田20世紀美術館に展示するために制作している真っ最中の大きな作品を見せてくれました。

こちらは久しぶりに木と石のコンビネーションで制作している作品とのことです。
ロシアとウクライナの戦争で起こっている理不尽な出来事を、いつになくリアルに彫っているとのこと。5ヶ月かけて絹谷さんの思考や世界状況の移り変わりとともに変化していくこの作品は、一体どのような姿を見せてくれるのでしょうか?

絹谷幸太さんプロフィール

1973年東京都生まれ、幼少期をイタリア・ローマとヴェニスで過ごす。彫刻家柳原義達氏に出逢い彫刻を志す。土谷武氏に彫刻の基礎を学び、東京藝術大学初の彫刻博士号を取得。国費留学にてブラジル・サンパウロ大学でPh.Dを取得。国内外での制作活動や地質調査を行い、彫刻家としてのキャリアの範囲を世界に広げる。個展・グループ展を国内外で多数開催。パブリックコレクションも多数収蔵。
〈近年の活動〉
2017年ベトナムAPEC記念公園モニュメント制作設置/ベトナム
2019年新天皇陛下御即位記念モニュメント制作設置/学習院創立百周年記念会館/東京都
北野美術館戶隠館モニュメント制作設置/⻑野県、真鶴町・石の彫刻祭招待/神奈川県
2022年アーティスト・イン・レジデンス-Nagi(AIRN)/奈義町現代美術館/岡山県
現在、追手門学院大学客員教授

【池田20世紀美術館での展覧会情報】
「絹谷幸太・香菜子二人展「万物の鼓動」(仮題)」
開催期間2022年10月13日㈭~2023年1月10日㈫
休館日毎週水曜日
開館時間9:00~17:00
入館料一般1,000円高校生700円小・中学生500円

〈「絹谷幸太・香菜子二人展「万物の鼓動」(仮題)」コンセプト〉
石、大地、海、そして空の雲にまで生命が宿り、その鼓動を感じると言う兄と妹がいます。彫刻家・絹谷幸太と日本画家・絹谷香菜子。“万物の鼓動”を表現したいと兄は石を彫り、妹は絵を描きます。

兄・絹谷幸太は49歳。石が発する無言の声に耳を傾け、石と対話をしながら彫り続けて30年を超えます。ブラジル日本移民100周年記念モニュメント「夢と感謝」(サンパウロ市カルモ公園)を始めとする大作や、繊細な優しさに溢れる小品など数多く発表しています。幸太の彫刻では、よじ登ったり、触れて遊んだりして身体全体、五感を総動員して楽しんでもらいたいと言います。

妹は日本画家・絹谷香菜子37歳。墨絵をベースにした独特の色彩表現で、主に動物の生きる力強さや生命の鼓動を描き続けています。生きるものの逞しさを描いた「青龍」「白虎」、父・絹谷幸二との合作「生命の輝き」など斬新な作品を発表してきました。香菜子が日本画を描き始めたのは6歳の頃。大学時代の幸太が石を彫るときに香菜子の絵具用に石材のかけらを細かく砕いてくれたのがきっかけ。兄と妹が描く万物の鼓動。どんな物語を紡ぎだすのでしょう。

これまでの二人の作品は、下記のホームページでご覧になれます。
絹谷幸太HP
絹谷香菜子HP

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