浮世離れマスターズのつあおとまいこの2人が今回訪れたのは、東京・上野の東京藝術大学美術学部の一画にある藝大アートプラザ。なんと、藝大の中で、学生や教員のアート作品を展示販売しているのです。考えてみれば、藝大はクリエイターの宝庫。日々、多くの作品を生み出し続けている。そしてアート作品は誰かが購入・所有することで、新たな輝きを持ち始めるのです。つあおとまいこは、「えっ? こんな作品もあるのか?」と興味ランランに歩き始めました。
えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。
今回は、2022年2月26日から開催中の企画展「Under Construction 変わり続けるアートの広場」をレポートします。
〈企画展コンセプト〉「Under Construction=工事中」、2022年の藝大アートプラザのテーマです。今回の展覧会ではまさに工事中のアートプラザをみなさんにご覧いただきます。ギャラリーも!作品も!作家も!そしてスタッフも!いつ来てもわくわくとドキドキが止まらない「変わり続けるアートの広場」=藝大アートプラザをお楽しみください。
学生の作品を学内で買えるのは珍しいかも
つあお:今日は、美術記者兼私立美大の教員であるたわくし(=「私」を意味するつあお語)が東京藝術大学と小学館の共同事業である藝大アートプラザにお邪魔したわけですが、結構面白い発見がありましたよ!
まいこ:同じ芸術系の大学でもここが違うとかがあったのですか?
つあお:まずここでは、学生の制作した作品が買える!
まいこ:大学の中で学生の作品を販売するのって珍しいんですか?
つあお:すべての芸術系大学の運営を知っているわけではないのですが、キャンパスの中で作品を売っていることはあまりないでしょうねぇ。
まいこ:そうなんですね。
つあお:でも考えてみたら、現役の学生の作品でも街なかのギャラリーで販売していることもないわけではない。卒業後は、美術家として生きていくなら、むしろ普通になりますもんね。
「壁画」というジャンルにハッとする
まいこ:なるほど。作家にとって作品は表現の成果なのだけど、世の中一般では販売される物でもあるということですね。こちらのコーナーでは、学科ごとに作品が並んでますよ!
油画、日本画、壁画、彫刻などの専攻別に並んだコーナーも
つあお:大学らしい感じですね! 油画とか版画とか日本画とかいろいろあるんですけど、「壁画」というジャンルがあることには、ちょっとハッとしました。
まいこ:つあおさんが勤めている多摩美大にはないのですか?
つあお:ありません。油画専攻辺りに含まれるということだと思うんですけど、ジャンルとして独立してあるのを見ると、それはそれで面白い。
まいこ:どんな点が面白いのでしょう?
つあお:持ち運びのできるカンヴァスに描くのと壁に描くのとでは、技法も描く内容も社会的意義もずいぶん変わってきそうなので、壁画専攻の必然性があるように思えるんです。
まいこ:確かにー! でもここで飾られている作品は、あんまり壁画っぽくないかも。
壁画専攻鈴木初音さんの作品『草むら』『寝息』の展示風景
つあお:持ち運び自由な感じですし、何しろ小さいですからね。でもね、画面の肌合いに壁画感がばりばり表れている。
まいこ:確かに、ちょっとざらっとしていて、拡大したら壁になりそう。
つあお:ほかにも、同じく壁画専攻からの出品がありますね。こちらはどうも石を素材にして作ってるみたいです。
壁画専攻武田充生さんの作品『旅-樹-』ほかの展示風景
まいこ:石の断面に自然に現れた模様を生かして人や風景を描いているのかな? ユニークですね!
つあお:きっと、こういう方は、石をじーっと眺めていて、ある時ふとひらめいたりするんだろうなぁ。
変顔が素敵な犬を発見!
まいこ:素敵! 石つながりでいうと、私はこちらの大理石の動物にとても惹かれます。
つあお:この犬みたいなのですか?
國川裕美さんの作品『bedolinton』の展示風景
まいこ:はい! ガラス窓の外で中を眺めていた時から気になっていました。
つあお:ぱっと見でシロクマかと思ったけど、よく見ると違う。何となく夢を見ているような顔の表情が面白い。
まいこ:これは吹いてくる春風のほうに鼻を向けてクンクンしてるところですね!
つあお:犬になりきるまいこさん!
まいこ:犬の気持ちは任せてください! 17年一緒に暮らした愛犬から学びました。
つあお:犬ってほんとにこんな表情するんですか?
まいこ:しますよ! うちで飼っていたパッピ君も、こんな顔をすることがありましたもの。この彫刻はベドリントンテリアみたいですね。
つあお:へぇー。それはどんな犬なんですか?
まいこ:もこもこして顔が細長くて目がその真ん中にある…変な顔が特徴なんです。
つあお:この変顔は素敵ですね。
まいこ:この子が家に来てくれるといいな!
つあお:お祈りします。
ウサギとカメの物語?
つあお:この作品を作った國川裕美さんは、カメなんかも作ってる。
まいこ:カメも人面みたいなとぼけた顔をしていてかわいい
つあお:すごくかわいいと思います。カメはほかの作家さんも作ってます。
まいこ:意外な人気(笑)! 國川さんのカメさんは砂岩で作ったようですが、こちらのカメさんは何で作ったんだろう?
松尾ほなみさんの作品『遅足』の展示風景
つあお:まるで木彫みたいに見えるけど、素材のところに「漫画本」って書いてある。
まいこ:えー! 確かに作品をよくよく見ると、漫画本を真横から見たときみたいな紙のページの断面が見えてきます! 細かい!
つあお:作った方は、よっぽど漫画好きなんでしょうかね。
まいこ:ひょっとすると紙フェチなのかも? この分厚いページの中に物語がたくさん詰まってたりするコンセプトなのかしら?
つあお:そもそもタイトルがすごくいい。『遅足』ですから。
まいこ:ウサギとカメの物語?
つあお:真下に別の作家のウサギの作品が置いてあるのがまた気が利いている。
下のウサギの彫刻は中莖あかりさんの作品『rabbit』
まいこ:連想ゲームみたいにつながって展示されているのも楽しいですね。そういえば、角川武蔵野ミュージアムで松岡正剛さんが構成したライブラリー(エディットタウン)の本も同じく連想でつながっていくように並んでいたな~。
レトロなのにコンテンポラリーな部屋に合いそう
宮下咲さんの作品『I’d like to give it to her』の展示風景
つあお:さっきのカメの彫刻は漫画本で作ってましたけど、原稿用紙を作品にしたものがあって、文章を書くことを仕事としている身としては、なんだかワクワクしてます。
まいこ:味がありますよね。版画で原稿用紙をプリントして、文字もちょっとだけ書いてあって不思議!
つあお:実はたわくし、もともと字が汚くて、原稿用紙に字を描くのが大嫌いだったんです。でも、こういうのだったら気持ちいいなぁとか、今なら思えます。
まいこ:確かに! 字が個性的であればあるほど作品になりそう。レトロなのだけどアクリルで挟んであるので、コンテンポラリーなお部屋に似合いそうなところがかっこいい!
つあお:うん、超かっこいい!
まいこ:同じ作家さんの作品がこの上にもありますが、こちらにも原稿用紙の切れ端が入っていて面白いですね。
宮下咲さんの作品『其れについての記述』の展示風景
つあお:横に貼り並べているのは切手なのでしょうか?
まいこ:写真を切手サイズにカットしたようにも見えます。かわいいなぁ。原稿用紙に鉛筆で書かれた「メルボルン」という言葉が意味深!
つあお:こちらの原稿用紙は本物っぽく見えますね。何だかみんなかわいい。藝大アートプラザは、教員の作品と学生の作品とがごちゃまぜで売ってるっていうのも、面白いところだったりしますね。
まいこ:両方が同じ土俵で販売されるなんてことは、なかなかなさそうな気がします。さっき教員のO JUNさんの作品があったのを発見しましたが、学生の作品とは特に区別せずに掛かっていました。
つあお:そうそう。全然普通に並んでいて、プロフィールを読まないとわからない。O JUNさんがすごい作家だと知っているたわくしとしては、逆に面白い。学生の中にもこれからすごい作家として巣立って行く人がいるでしょうし、何だかいいなぁと思いますよ。
まいこ:年齢にかかわらず才能ある表現が同じ空間で出合っているなんて、素敵です!
チャーミングな世界観に一目惚れ
つあお:この三井田盛一郎教授の作品も味わい深いですね!
三井田盛一郎教授の作品『ハナノヒト』ほかの展示風景
まいこ:ちょっぴりゴシックホラーの感じがしてますが、赤いお花におじさんの顔が描かれていて、結構チャーミング!
つあお:おじさんがチャーミングになるのは、たわくしとしても素晴らしいことだと思います。
まいこ:と思いきや、下に並んだ瓶の中に閉じ込められている紙片のおじさんはちょっと怖い!
つあお:何となくワンカップ日本酒の瓶の中に閉じ込められているみたい。すごく親しみが持てるなぁ。これを家でさりげなく食卓の上に置いたりするとよさそうじゃないですか。きっと家の者には気づかれないような気がするんですよ。そんな中で、アートを一人密かに楽しんじゃうみたいな…。
まいこ:何これ! って、中の紙を捨てて瓶だけ洗って食器と一緒になってそう(笑)。
つあお:うわー。それはやばいかも。妄想だったか(笑)。
まいこ:1万円以上しますからね。でも先程の赤い顔をしたおじさんの絵は、桁が違いますから、同じ世界観を家に持ち帰るのであればワンカップの作品も悪くないですね!
まいこセレクト
ガラス窓に描かれたロゴ。日比野克彦さんの作品だった! 手前に2つ並んでいるのは、東京藝術大学謹製のビスケット。やはり箱に日比野さんのデザインがあしらわれている
ネットでちらほら見ていた藝大アートプラザのロゴがなんかかわいらしくていいなと思っていたら、入り口のガラス窓にデカデカと描いてあるではありませんか!
しかも、こちらには音符が入っています。透明なガラスに描いてある音符がそのまま飛び出してきて音を奏でるかのように軽やか♪ 聞けば、美術学部長(2022年4月から学長)の日比野克彦さんの作品とのこと。音楽と美術が合体しているのは、藝大ならでは!
値段が付くのか分からないけど、この窓ガラスを外して、自宅の窓枠にはめてみたいという衝動に駆られました。
つあおセレクト
藤崎りらさんの作品『家族になった猫』『帰りを待つ猫』の展示風景
彫刻科の学生の猫2体。技法はなんと「張り子」。でも、木彫感がたっぷり出ている! 持ってみたらおそらく異様に軽いんでしょうね。張り子といえばまず虎を連想しますから、それが猫というのも楽しい。彫刻家があえて張り子を作るという発想自体も面白いですね。この大きさの木彫の猫を彫るのは、藝大の学生にとってはすごく難しいというわけではないでしょうから。鑑賞するほうとしては、「騙される快感」みたいなものを期待します。
つあおのラクガキ
浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。
Gyoemon『誤植妖怪』(2015年)
つあおは美大の教員ですが、絵を描くのはシロウト。「ラクガキスト」を名乗って、勝手に下手絵を描いてきました。美大で勇気が必要だったのが、自分の絵を学生たちに見せること。どう考えても、デッサンなどを学んできた彼らのほうが上手だからです。しかし、あるとき見せてみると、悪くない反応。もちろん教員の絵をけなすわけにはいかないでしょうから、90%はお世辞だと思いますが、調子に乗って、Tシャツにプリントしたり、連載記事に掲載したり。また、そのTシャツを授業に来ていくと、毎回写真を撮っていく学生がいたり。世の中には一定の割合で無駄が必要なので、と勝手に理屈をつけて描き続けております。
この作品は、文章を書くことを仕事にしている者が最も怖く感じている妖怪です。旧作ですが、お楽しみいただければ幸いです。
展覧会情報
企画展:Under Construction 変わり続けるアートの広場
開催期間:2022年2月26日(土) – 4月17日(日)
住所:〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学美術学部構内 藝大アートプラザ
営業時間:11:00〜18:00
定休日:月曜(月曜日が祝日の場合は営業し、翌火曜日に休業)
※定休日に関わらず、展示替え期間中は休業。
取材・文/浮世離れマスターズ(つあお&まいこ) 建物外観・内観写真 撮影/五十嵐美弥(小学館)
※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。