ぶっくりと頬を膨らませたフグのコミカルな表情が楽しく、自然釉の風合いが美しい作品「ダラダラ自然釉フグ貯金箱」で第16回藝大アートプラザ大賞・準大賞を受賞した森聖華さん。早速、作品制作に対する思いや今後の抱負などをうかがってきました。
■このたびは、準大賞受賞おめでとうございます。まずは、準大賞受賞作品「ダラダラ自然釉フグ貯金箱」について、コンセプトやテーマを教えていただけますか?
左右対称な形が崩れないよう気をつけつつ、フグのぷっくりとした形を愛らしい感じにしたいと思って制作しました。可愛らしいフォルムと対照的に、ドロドロした渋い感じのギャップみたいなものの面白さを出してみようと思って。
森聖華「ダラダラ自然釉フグ貯金箱」
■今回の作品は、電気窯ではなく、取手キャンパスの穴窯で焼かれていますよね。焼成時の温度調整などが難しいのに見事なクオリティだと、審査員の三上亮先生も称賛されていました。
私一人で火を焚いたわけではなく、先輩方のフォローがあってのものなので、完全に私だけの力量ではないのですが、嬉しいです。交代制で8時間おきに穴窯の火の番をするのですが、チームで担当するので、先輩方や同級生に教わりながらできたのは良かったです。応募作品と同じような作品を全部で6作品窯に入れたのですが、窯の中の一番手前側で、火がしっかりと当たって、その中で灰も程よくかぶったことで、良い風合いになったと思います。
実際に穴窯で作品を焼いている時の一コマ(※森聖華さんのTwitterより引用)
■これは、貯金箱なんですよね?お金が溜まった後に割るのがもったいない感じもしますね?!
そうです。硬貨だと、だいたい30万円程度は入るような大きさだと思います。でも、これは振れば口からも出すことができるので、割らなくても大丈夫です。
■今回、準大賞を受賞した「ダラダラ自然釉フグ貯金箱」以外では、普段は主にどのような作品をつくられているのですか?
マグカップをつくるのが好きです。自分の好みのものをつくりたいと思って工夫してきたんですが、その中の一つ「ヨーヨーマグ」が代表作になっています。私は子供の頃からヨーヨーがずっと好きで、そのかたちや雰囲気を作品のデザインへと落とし込めたらいいなと思って試行錯誤を続け、こんな感じになりました。ヨーヨーマグの青い作品は穴窯で焼成し、最後に縁に金彩を施しています。
バラエティに富んだ色彩が魅力的な森さんのマグカップ。手前右・中が代表作「ヨーヨーマグ」。(※本展には出品されていませんが、写真とは別デザインの「ヨーヨーマグ」が1月26日からスタートするミニ企画展示『アートのかけら』に登場予定です)
取っ手のところもくるんとした形にして、ヨーヨーの持ち手をイメージしています。
■色彩にも好みやこだわりなどはあるのですか?
最近は、釉薬や生地に銅を使った「緑」が好きだなと思い始めました。たとえば、今日、撮影用に持参した作品にも、色々な緑が反映されています。銅系の釉薬は、窯の中に酸素を十分に送り込みながら焚く「酸化焼成」で緑色に発色するんです。
■ご自身でもネットで販売されていて、売上はかなり好調のようですね?
TwitterなどSNSで作品を載せてみたら、思いのほか反響がありました。多分、最初に発表した時期が夏だったこともプラスに働いたのかもしれません。2021年の夏は、コロナの影響で夏祭りなどもなくて、ちょっと自粛疲れではないですが、そういった夏らしさを感じさせるものへの渇望などにも後押しされて買っていただいたのかなと思いました。
■SNSでは、頻繁に作品制作の様子をアップされていますが、森さんは、制作ペースはかなり速いほうですよね?
本格的な絵付けに入る前に、素焼きした作品群。非常に精力的に作陶に取り組んでいる。(※森聖華さんのTwitterより引用)
そうですね。プロの方に比べるとまだまだ全然遅いかもしれませんが、たくさんつくること自体は苦にならないです。一度にバーっとつくりますし、ヨーヨーマグなどは、これまでも数多くつくりこんできているので形も決まっていて、比較的手掛けやすいというのもあるかもしれません。2021年の夏から200点以上はつくったと思います。
■普段、作陶する際は藝大の校舎でやっていらっしゃるんですか。
自宅と学校のどちらでも制作しています。マグカップはろくろが必要なので学校でやっていますが、フグの貯金箱は、粘土を板状にして石膏型にはめるまでを全部自宅でやりました。
■ところで、森さんが藝大に入ろうと思った理由やきっかけを教えて頂けますか?
昔から、なにか工作でモノをつくるのが大好きで、高校も美術系のコースがあるところに進学しました。その延長線上で、大学では美大を受験しようと考えていました。最初は別の大学に進学先を希望していたんですが、せっかくなら日本で一番の美大を受けてみよう、と思ったんです。デッサンに苦手意識がかなりあったんですが、2浪した後になんとか合格することができました。
■藝大に入学した時、最初から陶芸を専攻にしようと考えていらっしゃったのですか?
工芸科では1年時に各専攻を回って実技を一通り体験してから、専攻を決める「ドサ回り」と呼ばれる仕組みがあるので、まず「ドサ回り」を通して一番しっくりきた陶芸に決めました。また、ガラスにも興味があり、研究室が陶芸とガラスが一緒になっていたりしたので、ガラスを触れる可能性もあるのかなと思ったのも陶芸に決めた理由の一つでした。
■ここまでのお話を伺っていると、どちらかというと生活の中で使うような実用的な作品が多いように感じましたが、今後も実用的な工芸分野を多くつくっていかれる予定ですか?
そういうわけでもないんです。確かにマグカップはつくっていて楽しいんですが、それと同様にコンセプトを重視した美術作品も制作したいと考えています。普段は、生活の中で使えるような工芸作品を多くつくっていて、卒業制作や修了制作をつくるとなると、ちょっと現代アート寄りの作品をつくっていくような感じですね。
■最後に、藝大での今後の研究予定などを教えていただけますか?
2022年3月を区切りとして、いったん休学しようと思っています。休学中は、完全に一人で作陶してみる、というのはどんな感じになるのか確かめつつ、将来的にライフワークとして陶芸をやっていこうと思っているので、どこでどのように活動しようかということをじっくり考えて決めていこうと考えています。
■そういえば、本展開催中に、初個展も上野キャンパスの近辺で開催されるのですね?
マグカップなどの生活工芸が中心ですが、谷中の「七面坂途中」というギャラリーで1月26日から私の初めての個展『瑞々』を開催することになりました。ちょうど藝大の卒業制作展の期間中なので、皆さんに足を運んでもらいやすいように、谷中でやろうと決めました。展示準備など、いろいろと慣れないことも多くて大変なのですが、楽しみにしています。
■最後に、将来の目標や今後の抱負などがあれば、教えて下さい。
基本的にはのんびり暮らしていきたいと考えているので、マグカップなどを作りながら、いろいろ固定概念などに囚われることなく、純粋な表現としてのアート作品なども手掛けていきたいなと思います。
●森聖華プロフィール
1996 | 年 | 長崎県生まれ |
2017 | 年 | 東京藝術大学 美術学部・美術研究科入学 |
2021 | 年 | 東京藝術大学 美術学部・美術研究科工芸科陶芸専攻 卒業 東京藝術大学 大学院美術研究科修士課程 工芸専攻陶芸研究分野1年 在学中 第7回平成藝術賞 受賞 藝大アートフェス ゲスト審査員賞 アートルネッサンス賞 受賞 |
2022 | 年 | 第16回藝大アートプラザ大賞展 準大賞受賞 |
第16回藝大アートプラザ大賞展
会期:2022年1月8日 (土)~2月13日 (日)
営業時間:11:00 – 18:00
休業日:1月11日(火)、17日(月)、24日(月)、25日(火)、2月7日(月)
入場無料、写真撮影OK
取材・文/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(※3~5枚目は作家提供)
※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。