「アトリエから~いまアートにできること~」出品作家インタビュー 濵田敬史さん

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藝大アートプラザ
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色とりどりのガラスを複雑な技法で組み合わせて、オブジェとして発表している濵田敬史さん。今回の展示には、緊急事態宣言期間中につくられた、普段の制作とは少し違った方法による作品が並びます。お話を伺うと、どんな状況であっても、ガラスという素材自体が持っている美しさを、最大限に引き出そうとする姿勢が浮かび上がってきました。

今回の出品作品は緊急事態宣言が出されている間につくった作品なのですか?

教師として勤めている学校が休みになって、どうしようかと思っているときに、家で眠っていたつくりかけの作品を見つめ直すことにしました。それまでは、学生時代に見つけた自分のオリジナルの技法で作品をつくることにこだわっていたのですが、ガラスの熔けているかたちの面白さや、熱の残滓のようなものが形になっていれば、他の方法でやっていっても良いのかなと考えられるようになって、そこから生まれた作品です。


濵田敬史「硝柱の舟」

オリジナルの技法というのは、「硝柱(しょうちゅう)の舟」のどの部分になるのでしょうか。

これは舟に見立てた作品です。板の上に棒状のパーツが立っていて、このパーツは上と下に大きく分かれているのですが、下の部分がその技法でつくったものです。学生時代、ガラスの容器のなかにガラスを詰めて熔かし込む実験をしているときに見つけた技法です。外側の硝子のなかに細かいガラスの粉とガラスの破片をギチギチに詰めて、窯で特殊な焼き方をすると、先に内側に入れたガラスの粉だけが熔けて、外側のガラスの膜を熔かさないようにすることができます。


濵田敬史「硝柱の舟」部分

透明なガラスのなかに白い雪が封じ込められているようですね。

ガラスは大きな破片だと透明に見えるのですが、細かく砕くと乱反射して白く見えます。この作品の白く見えている部分も、じつは透明のガラスの粉が熔けて、綿菓子のように固まっている状態です。その隙間から色付きのガラスの棒が見えるのが面白いです。一方、上の部分は、外側のガラスのなかに、細いパーツをつめて蓋をしただけで、焼成していません。揺らすとなかのパーツも動きます。下の台はステンドグラスのように板状のガラスをくっつけています。ガラスのさまざまな面白い表情を伝えられればと思ってつくりました。


濵田敬史「硝柱の舟」部分


濵田敬史「硝柱の舟」部分

不安定そうなかたちも面白いですね。

ガラスは、つくっている途中は熱でどろどろに熔けてやわらかく熱いのですが、冷えると固まって、このような重力に反した無茶なかたちもつくれます。昔、教授が熔けているガラスを操っているのを見た時には、魔法みたいだなと思いました。

「融合」についてもお話を聞かせてください。

ドームに閉じ込め、ガラスの膜をへだてた状態で、なかの別世界を覗き込むのがテーマです。直接なかのものを見ることができないもどかしさが、ソーシャルディスタンスに通じるのかなと思いました。コロナでソーシャルディスタンスと言われるようになって、人と人との間に距離感ができたときに、その状況と人とガラスの距離感とが重なるなと思って、この作品を発想しました。ガラスを窓として使っているときは、ガラスと人はやさしい距離で結ばれています。しかし、一度、割れてしまうと危険で近づくことができません。それが今の世の中と共通しているなと思いました。


濵田敬史「隔世ⅰ」「隔世ⅲ」「隔世ⅱ」

この作品は、とんぼ玉をつくるときに使うバーナーという道具でつくりました。細い棒状のガラスをバーナーで熔かして、ステンレスの細いパイプにくっつけてミニ吹きガラスのように吹いてつくっています。ぷくっと膨らんだ泡みたいなガラスがつながっているところが好きな部分です。完成間近に割れてしまうことも多く、スリリングな技法でつくっています。緊急事態宣言の解除後に、もう一度つくろうとしたのですが、時間が限られているなかではうまくいかなかったです。自粛期間中の落ち着いた時間だったからこそ、挑戦できたのだと思います。


濵田敬史「隔世ⅱ」部分


濵田敬史「隔世ⅰ」部分

普段の制作にバーナーは使っていなかったのでしょうか?

副業としてアロマペンダントやアクセサリーなど、身近なものを販売しているのですが、そういったものには使っていても、自分の作品に活かしたことはなかったです。今回挑戦してみて、細かなところまでつくりこめるので楽しんでできました。吹きガラスであれば外の工房を時間で借りてつくらなければなりませんし、ガラスは大掛かりな設備や特殊な道具が必要なことが多いです。そういった設備に支えられていることをコロナで痛感しました。


濵田敬史「白昼夢」「憧憬」「硝柱」
※現在は展示されていません。

緊急事態宣言中の生活はどうでしたか?

県立の高校で教えているので、授業はなくなったのですが給料の保障はしっかりしていました。普段はイベントに参加したり、教えたり、毎月なにかしら予定が入っていたので、作品にゆっくり向き合える時間が持てました。世の中が大変ななかで自分にできることは何なんだろうと考えたり、悩みましたが、せっかくだから自分を高める期間にしたいと思って、普段とは異なる作品作りに挑戦しました。


濵田敬史「憧憬」「硝柱」部分
※現在は展示されていません。

美大を受験することになったきっかけを教えてください。

中学校からエスカレーター式の進学校に通っていました。医者や弁護士になりなさい、東大に行きましょうとか、そういう雰囲気の学校で、とくに進路に疑問も持っていなかったのですが、東大行けば幸せみたいな考え方に実感が湧いてきませんでした。そんななか、高校2年生の時に、ガラスの作品を見に行ってとても感動して、自分もこういうことができるかもしれないと思って、美術を目指すようになりました。

濵田敬史写真

ガラスの魅力とは?

素材自体が美しいところです。ただのガラスのかけらでさえもきれいなので、自分が手を加えることによって、「もとのかけらのままの方がきれいだった」とならないように常に考えています。いろんな技法を使いながら、ガラスの魅力を更に掻き立て、ガラスの面白さを少しでも増幅させて、人に伝えられるようにしていきたいと思っています。

今後の目標は?

私の妻(杉山有沙)もガラスの作家なのですが、昨年、マンションの一室を借りて工房をつくって、二人で「hamagon」というブランドを立ち上げて活動しています。このままhamagonを二人で続け、成長させていくのが今の一番の目標です。いきなりガラスの作品を見に来てくださいと人に言っても難しいので、hamagonでは、ガラスのアクセサリーや器など、とっつきやすいものをつくって、ウェブサイトやイベントで販売しています。そこを足がかりに、いずれ自分たちの作品も見に来てもらえればいいなと思っています。

現在、夜間の高校と昼間の非常勤と2つの仕事を掛け持ちしています。常勤の講師になれば収入も増えるし、生活も安定するのですが、副業の規制があって、作品を販売することが厳しくなります。教師になって収入を安定させて趣味でギャラリーを借りて展示するのもいいのではないか、とよく言われるのですが、生徒たちに対しても、作家活動をして作品をつくり続けているからこそ教えられることがあると思っています。ですので、たとえ売れなくても値段をつけて、発表することは続けていきたいと思っています。

●濵田敬史プロフィール

1992 年  千葉県生まれ
2016 私立武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科ガラス専攻 卒業
2018 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程工芸専攻ガラス造形 修了

【発表、受賞歴】

2019 KENZAN2019(西新宿/パークタワー)、ふいて あんで ひいて(外苑前/アートスペースモルゲンロート)
2018 第7回現代ガラス展in山陽小野田 入選
藝大アンダーグラウンド展(東京メトロ/池袋駅)
桃源郷芸術祭(北茨城/五浦天心記念美術館)
第66回東京藝術大学卒業修了制作展(上野/東京都美術館)メトロ文化財団賞 受賞
第11回GEN ガラス教育機関合同作品展(東京/東京都美術館)
2017 +α展(千葉/千葉陶芸工房)、片~それぞれのガラス展~(東京/GALLERY RUEVENT)他


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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