気がつけば早くも桜の季節がやって参りました。就職や進学など多くの人にとって人生の節目になる3月は、何か新しいことをちょっと始めてみたくなる季節でもありますよね。 藝大アートプラザでも、いよいよ春本番を迎える3月20日から、満を持して新しい企画展がスタートしました!
展覧会のタイトルは「花と蕾展」。テーマに合わせて、絵画や彫刻、陶芸などバラエティ豊かな春の訪れを感じさせてくれる作品群が集まりました!なんと今回展覧会に出展してくれた作家は57名。2018年10月にオープンして以来、過去最大の点数が集結した本展は、本当に見どころいっぱいの企画展となっています。
さっそく、そのハイライトを紹介していきたいと思います!
食卓が華やかに!新生活にアーティストの美しいうつわはいかが?!
まずぐるーっと展示会場を回ってみましょう。すると、すぐに気づくのが陶磁器やガラス工芸など、大量のうつわの数々。一輪挿しや花瓶といった花器をはじめ、ご飯茶碗、平皿、向付茶碗、コップなどの食器類など非常に充実しています。
どの作品も、わりと買いやすい価格帯で出品されているため、これを機に初めてアート作品を買ってみようかな?という方にもぴったりかもしれません。
それでは、1つずつ作品を見ていきましょう。
花井健太「鉄釉線紋飯椀」「苔玄釉線紋飯碗」「深皿」「割山椒」
花井健太、左奥から「鉄釉線紋飯椀」(8,250円/税込)、「苔玄釉線紋飯碗」(8,250円/税込)、「深皿」(6,600円/税込)、「割山椒」(8,800円/税込)
まずはこちらの花井健太さんの作品群。在学時は彫刻科でしたが卒業後は陶家の修行を積みました。独立後は「花輪窯(かりんがま)」を開窯し、鳥取で作陶されています。注目したいのは、全作品に共通して使われている漆黒の地にかけられた灰緑色の釉薬です。この釉薬は、「苔玄釉」(たいげんゆう)という花輪窯が独自開発した釉薬なんです。細かくまだら模様にかかったその文様は、中国伝来の油滴天目茶碗を連想させました。
花井健太「苔玄釉盃」(5,500円/税込)
こちらはお酒を頂くにはぴったりの盃なのですが、高台の高さといい、サイズ感といい天目茶碗のような端正さ。こういう器で毎日ご飯を頂ければ、ご飯の白さが際立っておいしいでしょうね!
松田剣「植木鉢 白焦」
松田剣「植木鉢 白焦」(4,400円/税込)
続いては、美濃焼・瀬戸焼の産地に岐阜県で作陶する松田剣さんの作品。 なんと意表をついて、植木鉢を出品してくれています!
うつわの表面を覆う白土には、焦げたようなユーズド感があります。触ってみると釉薬もかけられておらず、ザラザラした土臭さ満載。美術品として家で大切に飾るよりも、ヘビーに使いこむことでもっと味が出てきそうな感触です。しかも、大きさの割に非常にリーズナブルな価格なので、オススメかも!
前沢幸恵「緋線模様盃」「緋線模様梅小鉢」「緋線文様花小皿」
前沢幸恵、奥から「緋線模様盃」(6,600円/税込)、「緋線模様梅小鉢」(6,600円/税込)、「緋線文様花小皿」5,500円(税込)
こちらは、桜の花びらを思わせる華やかな文様が刻み込まれた前沢幸恵さんの作品群。うつわの見込み(内側部分)に浮かび上がった独特の文様の質感は、器面の外側に貼り付けた陶土の成分が焼成時に見込み部分へと染み出してくることで表現されています。見た目以上に非常に高度な技法で制作されているのですね。
ホッと心が落ち着く日本画が充実
河原佳幸「富士と桜」(60,500円/税込)、薦田梓「春香 Ⅴ」49,500円(税込)
河原佳幸「夜桜」(55,000円/税込)、大島利佳「春はもうすぐ」(78,100円/税込)
本展では、絵画作品も非常に充実。中でもまずパッと目を引いたのが日本画系の作品の存在感でした。岩絵具や水彩絵具を使って描かれた、「桜」や「富士山」「美人」といった人気画題で描かれた佳作が続々。早速初日から売れている人気作品もありました。
薦田梓「春香 Ⅴ」
薦田梓「春香 Ⅴ」49,500円(税込)
こちらの作品は、濃いピンク色を基調として、温かみのある淡い色使いが春の訪れを感じさせる抽象絵画。といっても難しいところは全くなく、見ているだけで気持ちが温まってくるような春らしい作品。オフィスの会議室などに掛けてあれば、打ち合わせも捗りそうです!
郝玉墨「花非花」
郝玉墨「花非花」(158,180円/税込)
こちらの端正な顔つきの色白美人は、中国出身の郝玉墨さんによる作品。郝さんは、第13回藝大アートプラザ大賞展で「小学館賞」を受賞した実力者ですね。(第13回 藝大アートプラザ大賞展 出品作家インタビュー 郝玉墨さん)
流行の現代風美人画スタイルとは違い、どちらかといえば鏑木清方などの伝統的な近代日本画に近いテイストなのが印象的でした。
触ったり写真に撮ったり?!体験型展示が楽しい!
展示風景
本展では見て回るだけでなく、触ったり写真に撮ったりと「体験型」の展示もいくつか用意されているんです。まず、チェックしてみたいのが企画展示室の絵画コーナーの前に設置されている透明なアクリルの窓枠。青沼優介さんによる「Blanket portrait」という作品です。
青沼優介「Blanket portrait」
この作品は何だろう?と思って伊藤店長に聞いてみたら、今回から藝大アートプラザに来ていただいた方向けに、記念写真が撮れるフォトスポットを用意しました!とのこと。関係者の方に、使い方を実演していただきました!
青沼優介「Blanket portrait」(非売品)
こんな感じで、フレームの向こう側に入って撮影します。でも、これじゃ顔が全部映らないのでは?と思って伊藤店長に聞いてみると、「記念写真を撮ってSNSにアップしたいけれど、セキュリティが心配だという方のために、顔を程よく隠せるような仕組みになっているんです」とのこと。用意周到です(笑)アート作品らしいひねりの利いたフォトパネルですよね。
青沼優介「Blanket portrait」(非売品)
ちなみに、作品に至近距離まで近づいて見てみると、ガラスには、たんぽぽの綿毛が貼られていました。地味な作業ですが、これだけの量を集めてくるのは本当に大変。見た目以上に手間暇がかかった作品なのです。
竹下洋子「テキスタイル付きニットスカート」「手描き布キャミソール ニット肩ひも付」
左:竹下洋子「テキスタイル付きニットスカート」(50,600円/税込)、右:竹下洋子「手描き布キャミソール ニット肩ひも付」(56,100円/税込)
本展ではアーティストによる洋服も登場。1997年より「Yoko Takeshita」ブランドを立ち上げ、ご自身の出身地・九州を中心に活動するニットデザイナー竹下洋子さんの新作です。竹下さんは、現在島根県隠岐島にアトリエを構え、里山の自然からインスピレーションを得たニットによる手編みの作品を毎年精力的に発表されています。
竹下洋子さんの作品群。洋服以外にも色々用意されています。
これらのニット作品は、見て楽しむだけでなく実際に試着して楽しむこともできるんです。作品の前に試着用の鏡が設置されていますので、ぜひ気軽に身に着けてみてください。
ちなみに、購入した後はどうやって洗えばいいのか気になりますよね。そんな疑問に先回りするように、作品ひとつひとつに手入れの仕方が詳細に解説された竹下さんの手書きによるメモがちゃんとつけられていました。アフターフォローもバッチリ!嬉しい配慮ですよね。
岡田敏幸「花の指輪入れ」
岡田敏幸「花の指輪入れ」(176,000円/税込)
続いては、歯車の仕掛けによって「動く」木工作品を精力的に発表している岡田敏幸さんの春の新作「花の指輪入れ」が登場。歯車の横についているハンドルを回すと、花が大きく開閉する仕組みになっています。大きな花の花芯のまわりに指輪などアクセサリを収納するのですね。
岡田敏幸「花の指輪入れ」(176,000円/税込)/ハンドルを回すと花が開きます!
本作は、ぜひ手にとってハンドルを回してみてください。(※やさしく扱ってくださいね!)オーガニックな木の手触りが小さな子供のおもちゃのようでもあり、童心に帰れます!
ユルかわ過ぎる癒やし系作品も!
小林佐和子「福もの」(6,600円/税込)、小林佐和子「若竹に子犬」(24,200円/税込)
小林佐和子「みつけた」(25,300円/税込)、小林佐和子「うさぎと梟」(8,250円/税込)
本展では、小品を中心に、思わず気持ちがゆるくリラックスできるようなかわいい作品も登場。今回、展示会場で見つけたゆるくてかわいい作品を一挙に紹介してみたいと思います!
小林佐和子「若竹に子犬」「みつけた」
小林佐和子「若竹に子犬」(24,200円/税込)
まずは小林佐和子さんの作品。練り込みという高度な技法を駆使して制作されており、見た目以上に手間がかかっています。出展されるたびに毎回大人気で、今回も小皿や小鉢、湯呑など数点が並びましたが、展示初日に即日完売でした。
小林佐和子「みつけた」(25,300円/税込)
見てくださいこのかわいい黒猫!桜と椿の片身替わりの五角形の小鉢の真ん中にちょこんと首から上だけ顔を出したキュートな姿に一発でやられました(笑)
近正匡治「桜魚のスカーフリング」
近正匡治「桜魚のスカーフリング」(27,000円/税込)
続いては、動物の頭部を型どった香合など、コミカルでユーモラスな表情の木彫作品が人気の木彫作家・近正匡治さんの作品です。本作「桜魚のスカーフリング」は、昨年春の企画展「おめでとう!の春色展」でも出品された人気作品。
桜の花びらをしたかたどった尾ひれに、ほんのりピンク色に彩色されているところもいいですよね。
東條明子「ここが好き」
東條明子「ここが好き」(88,000円/税込)
そして、本展No.1の圧倒的な可愛さを誇っていた木彫作品がこちら。手のひらサイズの小さなオブジェなのですが、もう360度どの角度から見てもスキのない可愛さなんです!!
東條明子「ここが好き」(88,000円/税込)
肩から下げているポシェットの形も、さりげなく猫の顔になっていますね。まさにネコ好きにはたまらない逸品に仕上がっていました。東條さんの作品には熱心なファンが多いと聞きましたが、いやこれは納得です!!
松田剣「赤イケル」「白イケル」
松田剣「赤イケル」(6,600円/税込)、「白イケル」(6,600円/税込)
こちらは、先程ワイルドな植木鉢を紹介させていただいた松田剣さんの一輪挿し。「イケル」と名付けられた妖怪のような謎の動物はゆるキャラのようで、見ているだけで楽しい気持ちにさせてくれました。
じわじわと心に染みる個性派作品はいかが?!
さて、展覧会で観られるのは美しくて個性的な作品だけではありません!作家の個性が爆発した、オリジナリティあふれる作品も多数ありました。
渡邊渓「浮游Ⅻ」
渡邊渓「浮游Ⅻ」(88,000円/税込)
こちらは渡邊渓さんの流木を使った木彫作品。渡邊さんの修了制作展の作品でもあります。
本作で奇勝な景観を生み出すために使われた素材は、「流木」なのだそうです。長い時間をかけて洗われて形作られた複雑なフォルムをほぼそのまま活かし、そこに人間や羊を型どった小さな木彫を配置することで、意味深な世界観を作り上げています。
渡邊渓「浮游Ⅻ」(88,000円/税込)/羊と一緒に遠くを見て佇む人物は何を考えているのか、じっくり作品の前で味わってみるのもいいですね。
額賀苑子「サーフェイス(レリーフ)」
額賀苑子「サーフェイス(レリーフ)01」(55,000円/税込)、額賀苑子「サーフェイス(レリーフ)02」(50,600円/税込)
続いては、絵画コーナーに展示されている人物頭部を型どった2つの陶彫作品。一つは横を向いた青年像、もう一つはローマ・ギリシャ彫刻のような古代人風の人物を描いているようですが、どちらも正面から見ると微妙に違和感を感じます。
額賀苑子「サーフェイス(レリーフ)02」部分(50,600円/税込)
違和感の正体は、微妙な「ズレ」です。たとえばこちらの古代人風の作品では、ブレた写真のように目・鼻・口が正面を向いたものと、微妙に(向かって)右を向いたものと2つついていますね。ピカソの絵のように正面、斜めから見た複数視点が一つの作品内に織り込まれている面白い作品でした。
作田富幸「gathering roses」「チューリップマニア」
作田富幸「gathering roses」(47,300円/税込)
さて、最後に紹介するのが毎回非常にユニークな着想で、ダークな雰囲気の個性派作品を制作する作田富幸さんの版画作品。本作は、様々なバラが集まってできた一種のだまし絵的な女性像ですね。
作田富幸「チューリップマニア」(27,500円/税込)
こちらは、チューリップだけで構成された、横を向いた女性像。面白いのは、この両作品ともバラやチューリップといった単一の植物だけで女性像に見立てて描いているところ。首の部分が茎や葉を使って表現されているのが本当に巧いですよね。アルチンボルドへのオマージュが利いた、遊び心満載の作品には不思議と見飽きない奥深さを感じました。
伊藤店長の新作も登場!
伊藤久美子「souvenir」(59,400円/税込)
本展には伊藤店長の作品も登場!「ピンク」と「緑」が使われた春らしい新作。花と蕾展のポスターに使うキービジュアルを撮影した時の印象からインスピレーションを得て制作されたそうです。じっと見ていると、優しい気持ちになれそうな、穏やかな作品でした!
気が滅入る毎日ですが、美にあふれるスポットとして頑張ってオープンしています!
本展「花と蕾展」では、過去に何度も出品して頂いているおなじみの作家から、今回から初登場となる気鋭の若手作家まで本当に多数の作品が集まりました。長引くコロナ禍への対応が続く毎日ですが、アートの力で頑張って乗り越えていきたいですね。
会期:2020年3月20日 (金) ~ 4月26日 (日)
取材・撮影/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)
※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。