COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

おめでとう!の春色展 出品作家インタビュー 近正匡治さん(彫刻科修了)

2019/04/10 インタビュー

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桜餅や柏餅に顔をつけた香合、魚の形のスカーフリングなど、ユーモラスな木彫をつくる、近正匡治(こんしょうまさはる)さん。近正さんは、生活のなかで息づく彫刻を制作することを心がけています。

スカーフリングはどのようなきっかけで誕生したのですか?

自分はいつも首に手ぬぐいを巻いていているので、そこに通せるものを探していました。あと、スカーフを巻きたいけれど、ちょっと恥ずかしい気持ちがあって、自分で作っているものをつけるのならばスカーフも巻きやすいかなと思いました。

konshow_sakurauo.jpg近正匡治「桜魚のスカーフリング」

このような作品以外にも制作しているのですか?

現在の展示には、手にとっていただきやすい小物を出品していますが、自分のメインの作品は、干支の兜をかぶった木彫のムシャ人形です。最初は自分の子どものためにつくってみたのですが、いまは注文も頂けるようになりました。お客さんと話しながら、希望のモチーフを入れたりしてつくります。

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近正匡治「たつきみくの兄妹ムシャ」個人蔵
※藝大アートプラザでは販売されていません。

お子さんが生まれる前はどのような作品をつくっていたのですか?

自分が乗ることができる鯨の船とか、ペンギンのそりとか、今の作品とは違います。彫刻というと、駅前にある不思議な形のモニュメントとか、銅像とか、浮世離れしている感じがしますよね。なので、もっと身近な彫刻をつくりたいと思って模索していました。若いミュージシャンが路上で歌っているように、街なかで彫刻をつくりだしたら面白いんじゃないかと思って、「彫刻ライブ」もやりました。飲み屋さんの駐車場を昼間借りて、いきなり人の顔を彫ってみました。不思議そうに見ている人が多かったですが、話しかけてくれる人もいました。当時はグループで活動していたので、韓国の明洞などでも路上で人の顔を彫ったりしました。木から徐々になにかが生み出されてくるのは面白いですよね。

なにをきっかけに彫刻を始めたのですか?

はじめから彫刻家を目指していたわけではなくて、高校のときの美術の先生が藝大の油画出身で、彫刻をやってみたらと勧められて足を踏み入れました。最初は油絵を描いていましたし、いまでも好きですが、先生の一言で方向転換してみて、やってみたら面白かったので今まで続いています。そんな理由で藝大に入ったので、入学後、自分の中の彫刻を探す時間は必要でした。

木という素材を選んだ理由はありますか。

優柔不断なので粘土だと終わりが来ないのですよね。木は削ったところが悪いと思っても基本的につけ足すことはできません。決断を迫られるという点で自分に合っていました。あと、木が自分に足りないところを助けてくれる気がしています。木も生きているので、生きたかんじの人形になるんです。最近は人間の肌の色に近そうな質の木も見分けられるようになってきました。

konshow_kougou.jpg奥から時計回りに、近正匡治「猪の香合」「狼の香合」「桜餅の香合」「柏餅の香合」
※現在展示されているのは、「桜餅の香合」と「柏餅の香合」のみ。

卒業してすぐに作家活動一本に絞ったのですか?

そんなことないです。藝大でも「作家をやるなら女にはうつつを抜かさず打ち込め」と言われたこともありましたが、僕の中では彫刻とか作家をやることよりも、結婚して家族をつくって幸せに生きていくことが大切だったので、結婚しました。子どもができて、育てていたら、いままでいろいろ考えていた、コンセプト探しみたいなことが、そんなに重要ではない気がしてきました。単純にかわいいからこれをつくりたい、という気持ちに気がついて、子供の顔をつくり始めました。おもちゃや家具もつくりました。

学生時代は、とにかく大きいものを作れという空気がありました。あとさき考えなくてもよいから、でっかいものをつくって自分を表現しよう、みたいな。けれども、結局それを持って帰ることができずに、放置されて朽ちていくのを見ていると、小さくても、自分で使える彫刻も悪くはないと思うようになりました。作家としての世界は小さくなるかもしれないですが、生活のなかでどうやってアートが生きていけるかということも大切です。なので、作品は手元に残さずにどんどん出ていってほしいですね。

今後はどのような方向に進んで行きたいですか?

偉大な作家になるというより、「他人に求められること」「自分がやりたいこと」「報酬」のバランスを模索し続けて、生きていくことが自分の作家としてのスタイルかなと思います。現在は、自由の森学園という中高一貫校で講師をやっているのですが、子どもたちに教えることや、友達の仕事の手伝いに呼んでもらえることも、その一部です。少し前までは、作家一本でやっていかなければいけないと思っていましたが、べつに副業していてもいいし、生活ともバランスをとりながら自然体で生きていけたらいいなと思えるようになってきましたね。

●近正匡治プロフィール

1975 年  生まれ 
2003 年  東京藝術大学彫刻科大学院修了
2004 年  埼玉県飯能市にアトリエを構える
2006 年  日韓両国での展覧会の企画開催。文化庁日韓交流事業に認定
2009
〜2019
年  夫婦展、個展、野外出店、百貨店催事など多数開催、参加(日本橋小津和紙ギャラリー、高円寺ギャラリー工、根津汐花など)
2016 年  木彫フォークアートおおや実行委員会特別賞


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。