COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

デザイン科見本市 出品作家インタビュー 境貴雄さん(修士課程デザイン専攻修了)

2019/07/01 インタビュー

衝撃的な出で立ちでインタビューに臨んでくださった境貴雄さん。このヒゲとカツラは、「アズラー」という、小豆をテーマにした境さんのプロジェクトの一貫でつくられたものです。なぜ小豆なのか、なぜ芸能事務所に所属しているのか、なぜデザイン科に入ったのかなど、さまざまなことを伺いました。

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「アズラー」のプロジェクトについて教えてください。

大学院を修了した2007年から続けている、僕の活動のメインのプロジェクトです。小豆をヒゲに見立てた最先端ファッション「アズラー」が日本で流行っている、という架空の物語を作り上げるために、アズラー姿のポートレートを撮影して、その写真をウェブサイトやSNSで拡散しています。在学中から和菓子や小豆をモチーフにして、オブジェみたいな立体作品をつくっていたのですけど、エスカレートして身に着けたい欲が出てきて、頭にかぶれる作品をつくり、その流れでヒゲをつくってみました。ポートフォリオ用に、いろんな人に付けてみたら、僕がつけるよりも反応がよかったので、モデルを募集して撮影するようになりました。今までに5000人くらい撮影しています。

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上:境貴雄「street portraits of AZURER #1026」 下:境貴雄「street portraits of AZURER #764」

小豆というモチーフを選んだきっかけは?

小さいときから、あんこを食べるのが好きでした。大学3年生の授業で古美術研究旅行に行ったとき、デザイン科では「伝統とデザイン」というテーマの課題が出されました。その課題で和菓子をモチーフにすることをひらめきました。

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境貴雄「J-sweets #140」

「J-sweetsシリーズ」について教えてください。

こちらは小豆を中心に、お饅頭やお団子、落雁などの和菓子をモチーフとしたシリーズです。日本では昔から赤という色に魔除けの意味をこめていて、小豆にも魔除けとしての役割があります。季節ごとにあんこのお菓子を食べたり、お祝いの席でお赤飯を食べたりするのは、邪悪なものから身を護り、健康を祈願することでもあります。僕にとって、小豆は幸せの象徴です。小豆をモチーフにすることで、「新しい幸せのカタチ」をつくりたいなと思っています。

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境貴雄「J-sweets #121」

小豆を貼り付けるモチーフは、どのように選んでいるのでしょうか?

プロレスラーのマスク、小便小僧、招き猫など、小豆のイメージと対極にあるキッチュなものを選んでいます。和菓子や小豆の高尚なイメージと、キッチュなイメージとのギャップで、化学反応を起こし、和菓子の新しい一面を見せようとしています。

本物の小豆に見えますね。どうやってつくっているのでしょうか?

小豆はすべて紙粘土でつくられています。紙粘土をひと粒ずつ手で丸めて、ひと粒ずつ串に挿して、ひと粒ずつ色を変えながら塗っていきます。本物の小豆も色や形に個体差があるので、それがリアリティになるのだと思います。

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境貴雄「J-sweets #123」

芸能事務所に所属していると伺いました。

芸能プロダクションに所属して、アーティスト活動+タレント活動もやっています。といっても、芸人ではないので、小豆を使ったコントとかはやっていません(笑)。アズラーはアート活動なのですが、拡散していくプロジェクトなので、アートの界隈だけではなく、一般の人にも広めたいという思いがありました。なので、積極的にテレビやラジオ、雑誌などのメディアに出るようにしていまして、それをきっかけに事務所から声がかかりました。アズラーを拡散していく方法の1つとして、芸能プロダクションのマネジメントによるタレント活動だったということです。

このような志向になったのは、もしかしたらデザイン科出身だからかもしれません。デザイン科では、つくりたいものをつくっておしまいではなく、できたものを社会にどうつなげていくのか、ということを学びます。作品をツールにして社会とどうつながっていくかと考えたときに、僕は芸能活動とアートがリンクしても面白いんじゃないかなと思いました。

境さんは大学に入学したときから、作家志望だったのですか?

そうでした。高校生の頃はグラフィックデザインが好きだったのでデザイン科を志望していたのですけど、予備校に通っているうちに現代アートに興味を持ってしまい、アーティストになりたいなと漠然と思い始めて、大学に入ってすぐに自分のアート活動をし始めました。彫刻科や油画科を受験する選択肢もありましたが、素材や技法に縛られたくない思いがあって、自由度の高いデザイン科を選びました。

作品発表の仕方を学ぶ授業があるのですか?

そのような授業はないのですが、僕は在学中からアート活動を始めていたので、デザイン科の課題に対しても王道ではない答え方をしていました。おそらく他の科だと「自由なことをやってていいじゃん」で終わってしまうのですが、デザイン科の場合は、教授から「デザイン科にいるのに、なんで君はこんなことをしているんだ!」とつっこまれる。そのときに教授を納得させるプレゼンテーションをしなくてはならないので、自然と鍛えられました。今振り返るとアズラーという説明しづらい不思議な活動を、一般のラジオやテレビでわかりやすく伝えることに近いですね。

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藝大を目指したきっかけを教えてください。

中学2年生のときに自分が描いた絵を美術の先生が褒めてくれました。子どもって褒められると嬉しいじゃないですか。それで、美術の授業と関係なく絵を描いては、先生に見せに行って、どんどん描くのが好きになりました。その先生に美術系の高校があることをすすめられて、その高校に進学しました。そこで油画、デザイン、彫刻などいろんなジャンルの作品をつくり、その結果、グラフィックデザインがかっこいいいなと思ったので、トップの藝大デザイン科を目指しました。

今後については、アズラーを続けていくのが第一の目標ですか?

アズラーのプロジェクトは死ぬまで続けていくつもりです。今、12年目で5000人以上撮っているので、近い目標として1万人は撮りたいなと思っています。また、希望者から私物をお預かりして、そこにオーダーメイドで小豆を付ける「小豆の生活」というプロジェクトも続けていきたいです。壊れたiPhoneや子どもが小さい頃に履いていた靴とか、捨てることのできない思い出の私物を作品化して、一生とっておけるものにします。小豆をきっかけに相手の人と対話したり、思い出を聞くことが僕の活動において重要です。僕にとって小豆はコミュニケーションツールと言えるかもしれません。

●境 貴雄プロフィール

1978 年  東京都生まれ
2005 年  「明日はどっちだ」オオタファインアーツ / 六本木
2007 年  東京藝術大学大学院美術研究科修士課程デザイン専攻 修了
2011 年  「Wabi Savvy」JAUS / ロサンゼルス
「OHAKO」ICN gallery / ロンドン
2014 年  「AZURER Photo Session」hpgrp GALLERY / ニューヨーク
2016 年  「EAT! "Enjoy Art and Table"」スパイラルガーデン / 南青山
2018 年  「AZURER Photo Session」SOGO百貨 / 台北
現在   AZURER(アズラー)ディレクター、芸能プロダクションBBE所属タレント

作品収蔵先 高橋コレクション、ガナアートセンター(韓国)他


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

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