COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

企画展「おみやげ 展 -Souvenirs of life-」店長・伊藤久美子さんによる、みどころ解説

2019/10/17 インタビュー

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新生アートプラザ誕生から1年を記念する企画展、「おみやげ 展 -Souvenirs of life-」が2019年10月5日からスタートしました。身近にある日常的な営みのツール「おみやげ」と「アート」がどう結びついているのか、そして1周年の企画展にこのテーマを選んだ理由を、藝大アートプラザのチーフアートディレクター、伊藤久美子さんにうかがいました。

「おみやげ」と聞いて最初に浮かんだイメージと、実際の展示作品から受ける印象がかなり違いました。

確かに「おみやげ」という言葉は、他者への贈り物である「gift(ギフト)」という意味で使われることが多いですね。でも「おみやげ」を表す「souvenir (スーベニア)」という言葉の語源には出来事から得られ、自身の中に残るもの」という意味があります。私たちそれぞれの心に残り続ける思い出や感情、忘れられない景色などを、人生がもたらす「おみやげ」と捉え、「人生のおみやげ」を本展テーマとしました。

ここに集まった作品は時間や記憶に結びつくものが多く、作家自身にとっての「人生のおみやげ」であるといえます。また、作品というのは、作家自身がこれまでの時間の中で得てきたことから成り立っています。作品を作る上での技術の習得には相応の時間がかかりますし、表現のための手法や素材の選択、さらに形や色彩の選択とその実現までの時間が、作品には集約されています。作品そのものが、作家にとっての「人生のおみやげ」であるともいえます。

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海老塚季史「shoppingbags18」(26,400円)、素材はレジ袋、魔除けのブレスレット、新聞紙、糸、織り、「shoppingbags06」(26,400円)、素材はレジ袋、寒天、糸、織り。旅先で手元に来た、その土地の空気や文化が感じられるレジ袋に、その土地の思い出を詰め込んで帰ってくるイメージを表現

作品=作家の「人生のおみやげ」。それが1周年の企画展のテーマとして「おみやげ」を選んだ理由なのですね。

「人生のおみやげ」を1周年のテーマにしたのには、もうひとつ理由があります。藝大アートプラザは、作品の展示のみではなく販売もしていることが大きな特徴です。作家にとっての人生のおみやげである作品は、購入された方の生活や空間で新たな時間を共に過ごします。そうしていつかその方の人生のおみやげとなって欲しい…。それはお客様と作家の間に生じる、作品を通したコミュニケーションであり、そうした出会いの場となることが、藝大アートプラザの目指すところでもあります。

それもあって、記念すべき1周年には、アーティストによる「人生のおみやげ」をテーマにした作品を展示するのがふさわしいのでは、と考えました。

最初は何がテーマかわかりにくかったのですが、それは作家の個人的な思い出がモチーフとなっている作品もあるからなんですね。

多くの場合、人は自分の記憶や想いを補完して作品を鑑賞するので、同じ作品を見ても人それぞれに違うイメージを受け取ることが多々あります。つまりアート作品には、「鑑賞者によって最後に作品が形作られる」という側面があるのです。本展のようなテーマでは特にそうした“イメージの補完”が起こりやすく、そうした面白さを鑑賞者に体験していただけるのでは、ということも、今回の企画展の狙いのひとつです。作品はある意味、鏡のようなもので、心の動かされ方―-例えばそれは好きという反応でも、あるいは嫌いであっても―に、鑑賞者自身が映し出されます。それが作品に相対する面白さであり、それを狙ってあえて作品に、鑑賞者の想いを投影できる“余白”を設けている作品もあります。

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川上椰乃子「凪の日」(495,000円)紙本彩色

例えば、川上椰乃子さんの「凪の日」という作品は、広大な海辺の風景の中に小さく、水浴びをする人が描かれています。私は始め、この絵に描かれているのは子どもたちだと思い込んでいましたが、改めて細部を見るとビキニ姿の女性もいて、登場人物たちはもう少し年齢が上であることに気づきました。私の持つ海のイメージや記憶から、そう思い込み、記憶していたのだと思います。この絵を見て、海水浴で感じた水の冷たさ、夏の日差しのまぶしさを思い出す方もいるでしょうし、自然への畏れを感じる人も、ある種の寂寥感を抱く人もいるかもしれません。最終的な着地点は、鑑賞者にゆだねられているのです。

酒器や衣類など、生活の中で実際に使用できる作品が多いのも、今回の特徴ですね。

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例えば酒器は、ともにお酒を酌み交わす人とのいろいろなシーンに立ち会いますし、陶や漆のような素材は長く使い続けることで育ちます。晴れの日の乾杯や、ひとり静かな夜に一献傾けたりする時間がと、使う人の手がその酒器さらに磨いていくのです。

作品には、子ども時代のまなざしを表現したものも多くあります。

「人生のおみやげ」=思い出や感情というテーマのため、確かに子ども時代のまなざしが感じられる作品も多いですね。子どもの頃、その目にはどんな風に世界が見えていたのか、作家の原風景を覗くようでとても興味深いです。作品を観ながら、鑑賞者自身の子どもの頃の思い出や感覚も蘇るかもしれません。皆様それぞれが「人生のおみやげ」に出会い直す、そんな展覧会になれればと思います。

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根岸一成「のらねこタッチの1秒前」(17,600円)リトグラフ、「まほろば」(68,750円)リトグラフ、「たいむかぷせる」(37,400円)リトグラフ、アクリル絵の具)、「えんぴつぼうやのひとふでがき」(18,150円)リトグラフ。夢中で過ごした幼少期の記憶、ぬくぬくとした気持ちに浸るような居心地のいい記憶の原風景を表現

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三島一能「「シロツメクサ/ティアラ」(2,750,000円※参考作品)950銀、ロジウムメッキ、「シロツメクサ/リング」(27,500円)950銀、硫化仕上げ、セラミックコート。摘んだ花で結ってもらった指輪や冠の思い出を、ずっと残る素材のジュエリーで表現

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東條明子「友達」(69,300円)檜に彩色。子どもの空想の友達、友達が持っていた大きなクマのぬいぐるみ、暖かい感情がテーマ

※今回特別に、VR動画を制作しました。

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「おみやげ 展 -Souvenirs of life-」
2019年10月5日 (土) - ~10月27日 (日)
休業日:10月7日(月)、15日(火)、21日(月)
入場無料


取材・文/桑原恵美子 撮影/ANZ 福永仲秋

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。