藝大アートプラザでは、年に一度、藝大の現役学生を対象にアートコンペ「藝大アートプラザ大賞」を開催してきました。過去13回の歴代受賞者の新作による展覧会「藝大アートプラザ大賞受賞者招待展」を2019年11月1日から11月17日(日)まで開催。そのみどころを、藝大アートプラザのチーフアートディレクター、伊藤久美子さんにうかがいました。
■若々しい感性やエネルギーを感じさせる作品が多い
「藝大アートプラザは、“芸術と社会との新しい出会いの場”として、東京藝術大学に設立され、学生の制作活動を学外に発信することも目的の一つとしています。その一端として年に一度、現役の学生が応募できるアートコンペを行っています。学部、学年を問わず全学生が応募できるコンペですので、様々な作品が集まります。本展はその中から選ばれた受賞者33名の新作展となりますので、絵画・彫刻・工芸などの各分野の若手作家による力作が並んでいます。
上は40代から、最年少はまだ現役の学生もいます。いずれも技術的に高く、すでに作風がしっかり確率している作家もいれば、新たな試みに挑戦し模索していることが感じられる作品もあります。瑞々しい感性による作品たちはエネルギーに溢れ、今この時だから生み出されたものばかりです。お気に入りの作家を見つけて、毎年の変化を追いかけていく楽しみ方も若手作家ならでは。住宅に飾りやすいサイズの絵画や彫刻もたくさんありますので、ぜひこの機会に、コレクションに加わる1点を探していただければ幸いです」(伊藤さん)
■かわいらしい発想も、大胆な発想も
東條明子さんの「dress」という作品は、大切なものをすべて肌身離さず持っていたい女の子をイメージ。大切なものがたくさんありすぎて、少し窮屈になって、ちょっぴり困っているけれど、でも身に着けずにはいられない。そんな困惑がかわいらしい表情とポーズから感じられますね。
▲東條明子「dress」(181,500円)、檜に彩色
でも後ろを見ると、そんな女の子のドレスの下から、いたずらっぽい表情の猫がこっそり顔をのぞかせています。この猫は、愛情という束縛から逃れようとする気持ちを象徴しているようにも見えますし、大切なものが多くありすぎて、ドレス(心)にしまいきれずはみだしてしまいがちな女の子の心をあらわしているようにも見えます。
▲宮下咲「こころ」(15,455円)、「まよひて」(23,045円)、どちらも版画、コラージュ
宮下咲さんの「こころ」「まよひて」は、一見、領収書と原稿用紙に書かれた落書きのよう。何かを書きつける途中で、ふと頭に浮かんだ落書きを概念として留めるのが、作品の狙いとのことです。
▲濱口京子「Postal Summary」(38,000円)、United States Postal Service宅配箱、感光乳剤
濱口京子さんの「Postal Summary」も一見、ボロボロの宅配用ボックスに見えます。でもじつはこの作品は、宅配用の箱の片面にピンホールを開け、内面に感光乳剤を塗ったもの。つまりこの箱そのものがピンホール・カメラになっているのです。この箱を郵便局に持っていき、自分宛てに郵送することで、郵送する途中の光景が露光され、乳剤面の上に重なっています。つまりこの箱はカメラでもあり、この箱自体が作品でもあるのです。
「藝大アートプラザ大賞受賞者招待展」
2019年11月1日(金)~11月17日(日)
休業日:11月5日(火)、11日(月)
入場無料
10:00~18:00
取材・文・撮影/桑原恵美子
※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。