COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

「藝大アートプラザ大賞受賞者招待展」出品作家インタビュー牧野真耶さん(油画技法材料研究室修了)

2019/11/13 インタビュー

胡粉(貝殻からつくった白色顔料)を使った下地に、藍で「染めて」絵画をつくる牧野真耶さん。既製の支持体と絵具の組み合わせにとらわれず、支持体から考えて作品をつくるのは、学生時代の授業の影響が強いそうです。画家として生きていく目標のために牧野さんがとった行動とは。

2008年に「藝大BiOn賞」を受賞したときも、現在と同じ胡粉と藍を用いるスタイルだったのですか?

そうですね。油画出身なのですが、水彩とかインクとか草木染めの染料など、支持体に浸透して発色する素材に興味がありました。藍は工芸で用いられることが多い染料ですが、その色の美しさに惹かれていて、工芸ではなく鑑賞するための絵画として発表できたら面白いかなと思って、大学1年生のときから使っています。他の染料も使っていたのですが、一番しっくりきたのが藍でした。


牧野真耶「夜の森」

藍を使ってどのように画面に色を定着させるのでしょうか?

藍の染料液をつくって、そこに画面自体を漬けたり、刷毛で塗って上から浸透させたり、最後に水で洗うこともあります。建てた状態(還元操作をして水に溶けるようにした状態)の染料液は、一定の時間が経過すると、酸化して染まらなくなってしまいますので、新鮮なタイミングを逃さずに作業をすることが重要です。

胡粉の下地と藍を組あわせようと思った理由は?

油画専攻の1年生のカリキュラムに、支持体について研究する授業がありました。カンヴァス地だけでなく、白亜地や胡粉地など、パネルにいろんな支持体を塗って、絵具とどう反応するかを学びます。それまでは売っている支持体を買ってきて、描くところから表現が始まっていたのですが、支持体から考えるようになりました。この授業で初めて胡粉地を使ってみて、吸収性の下地なので染料と相性が良さそうでしたし、色の幅も出せるし、丈夫だし、布に染めるよりも退色も遅いといった諸々の理由から、胡粉地に染料を用いるようになりました。

日本の古い絵にも胡粉を盛り上げて模様を表わしているものがありますよね。

技法としては日本画と同じですが、使っている素材が日本画とは違います。日本画で使う膠は、牛や鹿のものが多いですが、油画科で使うのは柔軟性もあって強靱な兎の膠です。これは、何度も染めたり、洗ったり、こすっても、そこまで崩れることはないので、私の作品には向いています。

描くモチーフは自然の景色なのでしょうか?

「夜の花」は、金木犀がモチーフになっています。金木犀があると、見えないところでも香りが漂ってきて、その香りをきっかけに色々なことを思い出します。嗅覚と記憶は脳のなかで直結しているらしく、無意識のうちにふと過去に戻ったような、現在から過去のことを見ているような、どちらかわからない瞬間があります。そういう感覚が好きなんです。金木犀に、在りし日の感情を呼び覚まされる感覚を象徴させています。ですので、金木犀を見る時に蘇った個人的な思い出を描いているわけではありません。


牧野真耶「夜の花」

「森に佇む」「夜の森」などの森のシリーズは、葉っぱをモチーフにしています。形の面白い葉っぱを見た時に、幼少期に森で遊んでいたときの土の匂いや植物の香りなどを思い出すことがあります。こちらについても、葉っぱを見たことによって思い出した事柄そのものを表現したいというよりも、葉っぱを見たときの感情や心の動きを表現しようとしています。


牧野真耶「森に佇む」

「雪もよう」でも、雪そのものではなく、雪が降ったときのしんと音がなくなるかんじとか、寒いけどふんわりとした暖かい空気感を出せたらと思っています。

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牧野真耶「雪もよう」

金木犀といっても、お花だけで、茎や木の幹は描かれませんね。

説明的に「これはこうなんです」と決まった見え方にしたくなくて、見ている人が楽しむ余白を大事にしています。ですので、モチーフも具体的になりすぎないようにしています。金木犀のかたちは、×印にも見えるし、飛行機みたいだという人もいるし、適度にシンプルなので気に入っています。雨を描く場合も、雨が降っている風景にはしたくないので、雨粒のかたちを抽象的に見えるようにしています。森のシリーズの葉にしても、葉っぱにも見えるし木にも見える形にしています。

藝大に入ったきっかけについても教えてください。

小さい頃から絵が好きでしたし、よく描いていたのですが、それを生業にしようとは思っていませんでした。ですが、高校の美術の先生と出会って考えが変わりました。その先生は、教師でありながらほぼ画家で、美術準備室ですごく大きな絵を描いていているような人でした。それがかっこよくて、画家という生き方にリアリティを感じたんです。それで、自分もやりたいと思って、色々な美大を見学に行きました。藝大の油画には、映像をやったり、インスタレーションをやっている人もいて、自由なところに惹かれました。そもそも私は藝大に入学することが目的ではなく、その先、画家になることが目的だったので、藝大であれば選択肢を増やすことができるかなと思いました。


牧野真耶「森」

大学院は油画の技法材料研究室に進んだのですね。

学部1年生の頃から大学院は技法材料に行こうと決めていました。色々な実習ができるので、卒業後の活動の選択肢が広がるように思いましたし、疑問に思ったことを質問ができる環境に身を置きたいと思っていました。

具体的にどのようなことを学ぶのですか?

マリア様を描いたイコンなどに使われる黄金背景テンペラをやってみたり、牛乳からとるカゼインを媒材(定着するための糊)として使ってみたり、自分で油絵具用のオイルを配合して、どうしたら油絵具がきれいに塗れるのか試してみたりしました。色材の研究もあって、ワインから色素をとりだしてみたり、石をくだいて顔料にしてみて、油と練って油絵具をつくったり、メーカーさんと一緒に研究したりしました。学校というより研究機関のようでした。

今後の抱負や目標はありますか?

より削ぎ落とした表現でどれだけ広がりを見せられるか、ということに興味があるので、そういったミニマルな表現を考えてみたいと思っています。また、素材も今は藍を中心にやっているのですが、昨年ぐらいから鉛筆のドローイングも発表していまして、そのような鉛筆による表現も続けていきたいです。今までデッサンのためにしか鉛筆を使ってこなかったのですが、一番基本的な素材でありながらいろいろな表現ができるのが改めて面白いと思っています。

牧野真耶プロフィール

1980 年  神奈川県生まれ
2007 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻 卒業
2009 同大学大学院美術研究科油画技法材料研究室 修了
2011 2012年 夏の藝術祭(日本橋三越本店)
2014 六花亭 六花ファイル第5期(六花文庫/札幌)
2015 VOCA展2015(上野の森美術館)
2016 ここにあるけしき(藤沢市アートスペース)

【個展】

2016 年  窓の外は(六花亭福住店/札幌)
2017 年  ゆるやかな日々(かわかみ画廊/青山)
2019 年  日記(かわかみ画廊/青山)

取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

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