常設展出品作家インタビュー 岡田敏幸さん

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藝大アートプラザ
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インタビュー

餅つきをするウサギに、目をキョロキョロさせるフクロウ、そして歩き出すネコ。岡田敏幸さんは、歯車の仕掛けによって生き物が動く、仰天の木工作品をつくっています。大学時代に漆を専攻していた岡田さんがなぜ、いまだ確立しているとは言い難い木工のジャンルで果敢に作品を発表することになったのか伺いました。

歯車がお好きなのですか?

じつは、特別歯車が好きなわけではありません。7年ほど前に上尾東保健センターという子供向けの施設に、壁にはめる形式の動くおもちゃをつくって欲しいという依頼をいただいたのがきっかけです。当初、パチンコみたいなボールを動かすものにしたいと言われたのですが、せっかくだったらと思って歯車で動くものを提案しました。あまり時間がなかったので今に比べると仕組みは単純なものですが、やってみたら意外と簡単にできまして、そこから歯車で動かせる作品をつくるようになりました。

岡田敏幸「ふくろうのネックレス」
岡田敏幸「ふくろうのネックレス」

岡田敏幸「ふくろうのネックレス」

設計図を描いてつくっていくのですか?

最初に、ベニヤでつくった仮の歯車で中の構造を試作します。この時点では、歯車の上にくっつける動物の体や羽などのパーツは付けていません。うまく動かせるようになったら、ベニヤを型にして本番用の歯車やパーツをいちからつくりなおし、表面に見える動物も彫っていきます。本番用のものをつくる作業よりも、仮の歯車の実験に作業時間のほとんどを費やしています。だいたい、1つの作品をつくるのに1ヶ月半くらいかかります。

歯車は2枚の板が重なっていますね。

本番用の歯車は、歯先の強度を出すために2枚の板を貼って作っています。本当は木目の方向を互い違いにした方が、繊維がずれ、更に強くなるので良いのですが、木の縮み方が違うので板が反ってしまうデメリットがあります。そのため、同じ方向の木目の板を重ねています。


岡田敏幸「紅葉の歯車ネックレス」

制作していて、どの点に一番苦労しますか?

歯車を留めるための取っ手付きのまっすぐな軸を、同じ大きさでつくることが、一番大変です。これがうまくできないと、歯車が安定して動きません。削りたい木を旋盤の機械に挟んで回転させて、そこに刃を押し当てて削ります。単純な棒ならいろんなやりかたでできるのですが、取っ手がついていると難しくなります。また、時間が経つと木の形が変化することもあるので、作品ができてから一ヶ月くらい調整の期間が必要です。苦労することも多いですが、木は経年変化の美しさが魅力です。工芸全般に言えることですが、木は種類ごとの色の変化と、特に人が触った部分は独特の艶が出て美しいです。

モチーフは生き物が多いですね。

動くものをつくろうと考えると、どうしても動物が多くなってしまいます。今回トンボの作品を出品していますし、虫はモチーフに向いていると思うのですが、じつは虫が大嫌いで凝視することができないので、あまりつくることができません(笑)。今回の「トンボのネックレス」もお腹を彫るときは気持ち悪くて少々つらかったです。ちなみに、トンボの羽は右上と左下、左上と右下がクロスするように一つのパーツになって動いています。

岡田敏幸「トンボのネックレス」

ネックレスにしているのはなぜですか?

ネックレスにからくりがあったら、コンペで目を引くのではないかと思ったのがきっかけですが、実際にやってみたら面白くて、以後つくり続けています。実際に「馬のからくりネックレス」では賞もいただきました。基本的にオブジェにはしたくないので、箱だったりネックレスだったり、使えるものをつくることが多いです。

「招き猫」は、左左右右と2回ずつ手を上げるのがかわいいですね。

左右1回ずつ交互に上げるのであれば簡単なのですが、2回ずつ上げるようにするのは難しいです。猫の顔はバーニングペンという、木を焦がしながら描く、はんだごてのような形の木工専用の道具を使っています。立体的に彫ると手間が尋常じゃなくかかってしまうので、急ぎの依頼があったときは、こういったものを使います。このような壁掛けのシリーズは初めてつくりました。

岡田敏幸「招き猫」

岡田敏幸「歩む猫」

「犬筺」はどのようなきっかけでつくったのですか?

秋にここで開催された、百鬼夜行展のためにつくりました。もともと金属の貼ってある昔ながらの木の箪笥が魅力的だなと思っていて、箪笥の妖怪みたいなものをつくりたいと思っていました。調べていたら、犬のかたちをした香合を「犬筥」と呼ぶことがわかりまして、犬と箱を組み合わせることにしました。耳のように見える上部の縁の装飾は、箪笥の縁の金具をイメージしています。また、顔のところなど、あえて異なる色の素材を使って木の組みを見せています。

岡田敏幸「犬筺」
岡田敏幸「犬筺」

舌を引くと、目を左右に動かしながら背中の蓋が空く。
舌を引くと、目を左右に動かしながら背中の蓋が空く。

「うさぎのネックレス」は、どのような素材でつくっているのですか?

ネックレスのパーツや歯車は、繊維が強く粘りのある桜を使っています。杵の部分は欅で、ウサギは色を白くしたかったので栃の木を用いています。

岡田敏幸「うさぎのネックレス」
岡田敏幸「うさぎのネックレス」

岡田敏幸「うさぎのネックレス」
岡田敏幸「うさぎのネックレス」

なぜ美大を目指したのでしょうか。

高校で三者面談の進路相談があったとき、就職するのも嫌だし、とても一般的な大学に入れる学力でもなかったので、とっさに「美大に行きます」と宣言してしまったことがきっかけです。美術の先生が藝大を出ていたので、その先生からデッサンを教えてもらうことになりました。幼い頃から絵を描くのは好きでしたが、自分よりももっとうまく描ける人はいました。ものづくりという点ではラジコンが好きでしたね。はまるととことんのめりこむタイプだったと思います。

当初は何科を目指していたのですか?

車のデザインに興味があったので、デザイン科を志望していました。ただ、浪人中に通っていた予備校の鍛金の先生が、授業のなかで、短時間で粘土のウサギをつくってくれて、それに衝撃を覚えて、デザインではなく工芸に進むことに決めました。

大学時代は漆を専攻していたのですよね。

はい。色を使いたかったということと、偶然でできあがるものではなく、全工程に人間の手が入っていて思い通りにつくれるものが良いと思って、漆を選びました。その方が、褒められたときにすべて自分の手柄だと思えるのではないかと思ったんです。しかし、実際に漆の研究室に入ってみると、心の底からは、はまることができない自分がいました。

岡田敏幸「猫の筆入れ」※今回の展覧会の出品作品ではありません。
岡田敏幸「猫の筆入れ」
※今回の展覧会の出品作品ではありません。

漆の研究室ならば、木地づくりの点で木の扱い方を勉強できるのでしょうか。

当時の漆の研究室では木ではなく、乾漆という漆と布だけで形をつくる方法が主流でしたので、漆と木工が同時に学べる取手の共通工房に通いました。なかでも、漆の林暁先生には本当にお世話になりました。自分にできないと思うようなことであっても、不安な気持ちは置いて、自分のできる100%よりも20%の力を足して、挑戦する姿勢を教わりました。そのおかげで、自分で思いついたことにいろいろと挑戦できるようになりました。

岡田敏幸

何がきかっけで木工の道に進んだのでしょうか?

大学1年、2年生のときの工芸基礎の課程で、田中一幸先生の木工の授業を受けたことです。田中先生の作品がとてもおもしろくて「木工ってかっこいいな」と思いました。研究室はありませんでしたが、さきほど申し上げた取手の共通工房に通って、漆の勉強のかたわら田中先生に木工の指導を受けていました。卒業制作をつくるときは丸々一年取手に通っていました。

大学院を出てからは、長野県の上松の職業訓練校に通って、おもに家具のことを学びました。上松は松本民芸家具をつくっているあたりです。その学校の卒業後、一時期だけ藝大の大学院に木工研究室できましたので、田中先生のもとで助手もやらせてもらいました。その助手時代が終わってから、工房を立ち上げて今に至ります。

今後の抱負はありますか?

作品を売れるようにしたいです。絵画や漆、陶芸などのジャンルはコレクターがいるのですが、木工に特化して集めているコレクターはいません。変わった作品なので、正直、発表するのが怖いですし、恥ずかしい気持ちもありますが、喜んでもらえればその分だけ嬉しいです。木工のコレクターを増やすためにも、コレクションをつくっていただけるような、良い作品をつくり続けていければと思っています。

●岡田敏幸プロフィール

1968 年  埼玉県生まれ
1994 東京藝術大学美術学部工芸科卒業
1996 東京藝術大学大学院美術研究科漆芸専攻修了
2010 第2回北の動物大賞展 準大賞
2012 第2回みんなのウッドターニング展 大賞
静岡県内外広葉樹協同組合賞
2015 minne ハンドメイド大賞
ゲスト審査員賞 光浦靖子賞、片桐仁賞
2016 、2017年 高岡クラフトコンペ 入選
2019 第58回日本クラフト展 招待審査員三潴末雄賞(うさぎのネックレス)
2020 第59回日本クラフト展 入選


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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