COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

第14回藝大アートプラザ大賞展出品作家インタビュー 鈴木初音さん(修士課程絵画専攻壁画2年)

2020/02/06 インタビュー

鈴木初音さんは、大学院の壁画研究室の2年生。準大賞を受賞した「月夜」は、フレスコの一種である「グラッフィート」の技法で制作されました。下描きなし、石灰が固まるまでの限られた時間に引っかきながら描くという、制約の多いスタイルに鈴木さんがこだわる理由とは…。

鈴木初音

受賞を聞いての感想を教えて下さい。

アートプラザさんには、去年の春から作品を出す機会をいただいているのですが、学生最後の年にこんなふうに賞がいただけて率直に嬉しいです。感謝でいっぱいです。

鈴木初音「月夜」
鈴木初音「月夜」

壁画の技法を応用して制作しているのですか?

フレスコの応用の技法の一つ「グラフィート」でつくった作品です。パネルに寒冷紗という薄い布を張ってセメントを塗ります。その上に青の顔料を混ぜたモルタルを塗り、さらに白い石灰のクリームを薄く塗ります。モルタルと石灰が乾く前にひっかくと、ひっかいたところに下の層の色が出て、絵が表せます。

どのくらいの時間で固まるのでしょうか?

気候にも左右されるのですが、この作品は半日程度で乾いて、引っ掻けなくなりました。固まると石灰の化学変化でカッチカチになって、絵が石になります。ですので、石灰を塗ったら「わーっ」と勢いよく描かなければなりません。引っ掻きながら「まだいけるかな?」と様子をみつつ、引っ掻けなくなったときが終わりです。間違えても後戻りできませんし、不自由なようですが、油絵だとずっと描き続けてしまうタイプなので、自分にとっては制約が設けられている方が描きやすいです。

鈴木初音「月夜」
鈴木初音「月夜」(部分)

完成が明確にわかりますね。グラッフィートですと、大きな画面の作品は描けないのでしょうか?

修了作品で、この何倍かある大きなものをつくりましたが、ラップをして乾かないように工夫しても、1日以内に作業を完了しなければなりませんでした。もっと大きな作品をつくる場合は、部分塗りをして継ぎ足すそうです。私は、石灰の水分があるからこそ描けることに惹かれていますし、また、限られた時間で絵を封じ込められる感じが好きなので、一度塗りで完成するようにしています。

引っ掻くときに下描きはするのですか?

ここに木がある程度のざっくりした構想は、スケッチブックにメモ的に描きますが、石灰自体に下描きはしません。いつも月から描き初めて、引っかき残していって、下の方の草など細かい部分は現場で考えます。現場性を重視しています。

黄色や緑っぽい色も見えますが、白い石灰の下の層には、青以外の色も塗っているのですか?

青く全体に塗った後に、緑と黄色とブルーの顔料を撒いて、上から石灰を塗っています。引っ掻くと、お花のところにちょうど黄色が出てきたりして、宝探しみたいで楽しいです。

側面も凝っていますね。

作品全体を絵にしたいという願望がありまして、額装にはしないで、側面にも絵を描きました。下には根っこ、上には鳥を描いています。

鈴木初音「ふりつもる」
鈴木初音「ふりつもる」
※常設展出品作品です。

神話のようなモチーフに見えます。何か物語があるのでしょうか?

人をモチーフにした方が、絵が描きやすいというだけで、あまり理由はありません。今回の場合、女性が手にしている植物が折れてしまったので、男の人が花を差し出しているとか、若干のストーリーはあります。私のアトリエは取手校舎にあるのですが、木や土や人を描くことが多いのは、取手の環境でものをつくっていることも影響しているかもしれません。取手は自然が豊かです。アトリエの扉を空けると草が生い茂っていて、雑木林の隙間から月がよく見えます。そこで畑をやっていて、自然と接しながら作品を描いています。

アトリエで畑をやっているのですか?

私と入れ替わりでアトリエを出た人から、畑を受け継ぎました。そしたら先生が苗をくれたんです。ある日、アトリエに行ったら苗が並んでいて(笑)、それを植えて野菜を育てました。そのなかに菊芋という茎が太い種類の芋があって、芋は食べたのですが、茎も何かに使えないかなと思って、紙をつくってみました。和紙の授業で習ったことを応用して、茎のスポンジ状の部分を取り出してミキサーにかけて、薄くして乾かしたら、紙ができました。それに絵を描いたものも、修了制作展に出しています。圧倒的に場所に育ててもらった2年間でした。そのなかの一つの作品が素敵な賞をもらえて嬉しいです。

鈴木初音

今年で修士課程は卒業になりますが、博士課程に進学するのですか?

今年で学生生活は終わりです。卒業して、制作を続けながら、一度、学校の外で生きていくことを経験した方がよいかなと思っています。いまは制作を続けられる場所を探しているところです。場所に根付いて絵を描くタイプなので、私が描けそうなものがあるところに行くのが重要なのかなと思っています。せっかく身に付けたグラフィートの技法を使って、今後も絵を描き続けていきたいです。

●鈴木初音プロフィール

1995 年  神奈川県生まれ
2018 多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻卒業

2020年現在  東京藝術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻壁画2年


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

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