COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

「Glass Wonderland」出品作家インタビュー 及川春菜さん(修士課程工芸専攻2年生)

2020/03/11 インタビュー

企画展「Glass Wonderland」で、ホワイトキューブの壁一面を使って連作を展示している及川春菜さん。作品中には英語による意味深な言葉が表され、一見難解なようですが、お話を伺うと、心に残ったイメージや言葉など、自分の気持の断片を作品に落とし込んで共感を呼びたい、というシンプルな思いが伝わってきました。

及川春菜

展示室奥の壁一面で展示されているのは、修了制作だそうですね。

今年の卒展で発表した修了作品です。壁にも掲示してあるのですが、私は中学生の頃から詩を書くのが好きで、その詩をもとに作品をつくっています。その詩で表しているような、幼い頃に感じた孤独感や、大人になってから感じ始めた孤独を見る人と共感し、寄り添いたいと思ってつくったのが、この作品です。

左から 及川春菜「Sign」「WHY?」「steamy mirror」「Don’t you ask why?」「もっと私に、もっとあなたに。」「落ちていた魚」「花のある生活-ii-」「花のある生活」「Where is My head」「花のある生活-i-」
左から 及川春菜「Sign」「WHY?」「steamy mirror」「Don’t you ask why?」「もっと私に、もっとあなたに。」「落ちていた魚」「花のある生活-ii-」「花のある生活」「Where is My head」「花のある生活-i-」

ライトにしたのはなぜでしょうか。

北国の田舎町で育ったので、しんしんと降る雪景色をイメージしています。雪が降るなかで、ぽつんぽつんと明かりが灯っている窓を見ると、少し寂しい気持ちがして、そういった情景からインスピレーションを受けています。

左から 及川春菜「花のある生活-ii-」「花のある生活」「Where is My head」「花のある生活-i-」
左から 及川春菜「花のある生活-ii-」「花のある生活」「Where is My head」「花のある生活-i-」

詩の言葉や、蛇口のある作品のシンク中など、あちこちに魚が登場しますね。

幼い頃、古い自動車学校をリノーベーションした建物に住んでいました。家の前が自動車学校のコースになっていて、そこで遊んで育ちました。雨が降ると近くの川が氾濫して、そのコースは低いところにあるので、水没して湖みたくなってしまいます。何日かして水が引くと、川に戻れなかった魚があちこちに落ちて死んでいて、それが記憶に残っています。そういった、小さい頃一人遊びをする時に感じていた孤独感の表れなのかもしれません。

及川春菜「steamy mirror」
及川春菜「steamy mirror」

また、私の夢のなかには魚や水が出てくることが多いのですが、あるとき、夢では海水魚も淡水魚も関係なく、いろんな魚が入り混じっていることに気がつきました。それから、人も同じ見た目をしているけれども、海水魚と淡水魚みたいに息がしやすい環境としにくい環境があるのかなと思ったりして、魚をモチーフにすることが多くなりました。

及川春菜「もっと私に、もっとあなたに。」「落ちていた魚」
及川春菜「もっと私に、もっとあなたに。」「落ちていた魚」

文字を多用していますね。

どこかで見て心に残ったフレーズを書きとどめて、それをドローイングして作品に落とし込んでいます。たとえば、「More for me, More for you.」は、よく聞いていた曲のなかで印象に残ったフレーズです。「もっと私にもっとあなたに」って欲深い私にぴったりだと思ってメモしました。「Why don't you ask why」は、高校の廊下に貼ってあった貼り紙で目にしたフレーズです。

及川春菜「Don’t you ask why?」
及川春菜「Don’t you ask why?」

「Where is My head」も何かで見た言葉なのですか?

自動車学校に住んでいたのは小学6年生までで、中学1年生からはもう少し都会的なところに移りました。友達はできたのですが、好きなものがまったく違って、それでも話を合わせてしまって、そのときにふと「あれ? 自分の考えはどこにあるの」「自分って何?」と思いました。その気持ちから、「自分」を「頭」ということにして「Where is My head」という言葉を考え、頭のない人の形のガラスに記しました。

及川春菜「Where is My head」
及川春菜「Where is My head」

伝えたいことは複雑ですが、あえてわかりやすい英語にしています。英語にすると、一度日本語に翻訳して解釈するので、簡単な言葉であっても考えることはひとそれぞれ違います。そうやって考える幅をもたせることで、私と同じような気持ちに共感してくれる人が出てきてくれるのではないかと思っています。

文字の書体もそれぞれ違いますね。

ドローイングしたときの手書きのままの文字をトレースしています。「花のある生活」のお花もシンクの魚も、ドローイングで描いたかたちを、なるべくそのままにしています。私の場合、何個描いても最初のものが大体、一番良いのです。

及川春菜「花のある生活」
及川春菜「花のある生活」

なぜ「steamy mirror」には、蛇口があるのでしょうか?

これは感覚的につくったもので、頭に思い浮かんだイメージとしか言えません。私の夢に水場がよく出てくるので、卒制(学部の卒業制作)でもお風呂をつくりましたし、洗面台やトイレ、タイルもよくモチーフにします。とくにタイルには何かを解体するイメージを託しています。私の孤独を解体して一つ一つわかちあいたい、孤独感を共感して抱きしめたいといった気持ちでつくっています。

「花のある生活-i-」「花のある生活-ii-」などはよく見ると、平らなガラスではなく正方形の模様がついていますね。

これもタイルを型取りしてガラスを詰めて焼いています。触ってみると凹凸があることがわかると思います。雪のイメージで、あえて気泡もはいるようにしています。

及川春菜「花のある生活-i-」
及川春菜「花のある生活-i-」

ガラスのまわりは何でできているのですか?

コンクリートでつくっています。コンクリートを型に流し込み、固まる直前に竹串で花の模様を即興的に引っ掻いています。まるで、校庭に落書きを残すような感覚です。幼少期に住んでいたところにあった、教習場の自動車のコースは草が生えっぱなしで、そこに咲いている花や植物の記憶が影響しています。

「Sign」はひときわ抽象的ですね。

これは古いマンションや建物の階段にある、階段標識をイメージしています。細長いガラスの中に蛍光灯が仕込まれていて、両端に各階を示すための「1」「2」と書かれているものです。それがなぜだか好きで写真をよく撮っていて、作品にしたいなと思いました。このように、自分のなかの印象に残っているものを集めて作品にして、自分の記憶や幼少期の気持ちを誰かと共感したいと思っています。

及川春菜「Sign」
及川春菜「Sign」

各作品から垂れ下がるコードも印象的です。

あえて目立たせるように黒く塗って統一しています。L字の金具も黒く塗りました。タイルの目地も黒くしています。きっと、最初に構想をドローイングしたときのコードや金具の線のイメージが残っています。

アクセサリー類も展示していますね。

修了制作をつくる合間にピアスやイヤリングをつくりました。金彩という、ガラスに金を焼き付ける技法で装飾しています。金液という赤茶色の液体を含ませた筆で模様を描いて、窯に入れて焼いて熱を加えると金色になります。帯留めは昨年の銀茶会というイベントに出したもので、これにも金彩を施しています。

及川春菜「glass earrings-#-」「glass earrings-*-」「硝子帯留め-南天-」
及川春菜「glass earrings-#-」「glass earrings-*-」「硝子帯留め-南天-」

帯留めの技法は「パート・ド・ヴェール」というものです。修了作品と同じ技法です。平らな四角の形をワックスという蝋でつくってから、その上にラインワックスという細い蝋を熱で曲げて模様をつくって、それを型取りして、脱蝋します。その型のへこんだところに、粉末状のガラスを糊で溶いたものを詰めて焼いています。色の違うところは、そこだけ違う色のガラスを詰めています。

藝大入学の時点からガラスを専攻しようと決めていたのですか?

専攻はいろんな素材を触ってから決めようと思っていました。もともとガラスに興味はありましたが、当時は学部にガラス専攻がありませんので、鋳金を専攻しました。自由に粘土やワックスでかたちがつくれる鋳造は、体感的に好きでした。型に流す素材は違っても、ワックスを使うことやタイルのモチーフ、コンクリートの組み合わせは当時始めたことなので、どういうスタイルが好きかを学部時代に学んだのだと思います。鋳金で制作しているうちに、型にガラスを流しても面白そうだなと考えて大学院ではガラスを選びました。パート・ド・ヴェールは、透明感がなくて気泡がはいってもやもやとしているところが好きです。また、作業が大掛かりな鋳金とは違って、一人でもくもくと制作できるのも自分には合っています。

及川春菜

美大を目指したきっかけを教えてください。

ものづくりをしたいと思っていたのですが、決定的なきっかけは、高校2年生のときに地元であったアートトリエンナーレにボランティアとして参加したことです。そのイベントの招待作家に恩師である斎藤史門先生や当時藝大の先端芸術表現科の教授だった高山登先生などと出会い衝撃を受けました。高山先生には「おまえは芸術に対して何も考えていない!」と泣かされ、この人を見返したいという気持ちと、先生方と同じフィールドに立ちたいって気持ちが高まり、「藝大に入るぞ」と火が付きました。美大を目指す人もいない田舎でしたし、藝大自体を知らない人も多いですし、誰も藝大に本当に行くなんて思ってなかったと思います。両親の支えがあったからですが、両先生に出会ってなかったら今の自分はなかったです。ありがたいです。もしも、田舎で美大に行けるわけないと思っている子がいたら、会って「行けるよ」と言いたいです。

今年で修了とのことですが、卒業後はどうするのでしょうか?

空間デザインの会社に就職して空間デザイナーとして働きますが、ものをつくるのは好きなので、作品制作も続けていきたいです。というより、やらずにはいられない気がします。今は、絵を描いてドローイングとガラスと一緒に出したら面白いなと思っています。詩もありますし、やりたいことはいっぱいですが、今のスタイルは変えずに続けていきたいです。

●及川春菜プロフィール

1993 年  宮城県生まれ
2014 「仙台アンデパンダン展2014」出展
2015 「日々のエトセトラ」出展
「仙台アンデパンダン展2015」出展
2016 「TOCOHA-COLLECT "Nouvelle Vague"展」出展
「FIGARO japon」作品掲載
2017 「imono collection」出展
「Rooms FINAL 2017」出展
個展「優しすぎてくるしい」
「MOUNTAIN CHAIN」出展
2018 東京藝術大学美術学部工芸科鋳金 卒業
同大学大学院美術研究科修士課程工芸専攻陶芸(陶・磁・ガラス造形)入学
「Ms.Fes.」出展
「越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭2018」出展
2020 2人展「私達は理想と現実を行き来する」


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

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