COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

NIPPONシリーズ① 一研展企画ドローイング展「随感随筆」開催記念座談会

2020/08/29 インタビュー

この度、藝大アートプラザでは、日本独自の技術を伝承する、絵画や工芸の研究室の展覧会を「NIPPONシリーズ」として開催することになりました。第一弾は日本画第一研究室の教員と学生によるドローイング展「随感随筆」です。この展示は藝大アートプラザの向かいにある正木記念館で開催されている、同研究室の「一研展」と同時開催されており、「一研展」に並ぶ本画とは一味違った魅力に溢れています。この展示を企画・運営している、修士2年生の惠羅由記さん、大嶋直哉さん、李雨晨さん、渡邊美波さんに、展示作品、コロナ禍での制作などについてお話を伺いました。


左から、渡邊美波(わたなべみなみ)さん、大嶋直哉(おおしまなおや)さん、李雨晨(りうしん)さん、惠羅由記(えらゆうき)さん

今回のドローイング展のタイトル「随感随筆」は皆さんで決めたのでしょうか?

大嶋さん:はい、皆で決めました。思うままに筆を動かすという意味の「随感随筆」という四字熟語からとっています。ドローイング展をやらせていただくにあたって、各々の考えるドローイングを各々の気持ちで自由に表現できるように、このようなタイトルをつけました。


「随感随筆」展示風景

なぜドローイング展になったのでしょうか?

大嶋さん:一昨年ぐらいから一研展に合わせて、ドローイングでポストカードを制作していました。その流れで、ポストカードの原画であるドローイングを展示する場所をつくろうと動きまして、今年から一研展とドローイング展を同時開催することになりました。「随感随筆」では、ドローイングを元につくったポストカードも販売します。


「随感随筆」展示風景

研展とはどのようなものですか?

大嶋さん:今年で18回目になる、大学院の日本画第一研究室の研究発表展のことです。研究室に所属している教員と修士1年、2年、研究生、全員で17名分の作品が並びます。修士2年が主体となって、勉強の一環として展示の企画や運営、広報などを行ないます。例年、陳列館(美術学部正門を入ってすぐ左の建物)で開催しているのですが、今年はさまざまな事情で使えなかったので、正木記念館という和室の会場のみで行ないます。


大嶋直哉さん

大学院の日本画のなかにいくつも研究室があるのですか?

渡邊さん:3つあります。それぞれの研究室を2名づつの先生が受け持っています。

惠羅さん:一研は植田(一穂)先生と海老(洋)先生の研究室で、お二人とも創画会所属の先生になります。

アートプラザに展示している作品と一研展に展示する作品について教えてください。

惠羅さん:普段から、日常生活のなかで制作に使えそうなものがあったらスケッチしているのですが、このポストカード用のドローイングも、そのような気になった風景をもとに、色を使って描きました。


惠羅由記「冬の木」

木々を描いているのですか?

惠羅さん:まだ寒い時期の晴れた日に葉をつけていない木が立っていて、枝の陰が木にかかっているかんじがとても好きで描きました。普段から自分で創作したモチーフではなく、存在している風景を描くことが多いです。

ドローイングときくと私は鉛筆で描くスケッチのようなものを想像してしまいますが、鉛筆に限定されるわけではないのですね。

惠羅さん:墨だけで描いている人もいれば、私みたいに色だけで描いている人もいるし、鉛筆を使って描いている方もいるし、人によって考え方はさまざまです。

大嶋さんの出品作品について教えてください。

大嶋さん:昨年度は趣味のコーヒーを描いていたので、今年はもう一つの趣味であるビールをドローイングで表現したいなと思いました。普段の制作から、素材にコーヒーを使うことが多くて、染料として染みさせたり、霧吹きをつかって裏から吹いたりして紙に表情をつくろうとしています。今回の出品作も裏面からコーヒーを吹いて、部分的に染みたかんじをつくって、複雑味をもたせるようにしています。メインのビールの黒い部分は日本画で使う水干絵具、右上の青い部分も岩絵具を使っています。


大嶋直哉「porter」

大嶋さん:僕は、普段あまりドローイングをしないので、ドローイングって何なんだろうと考えて調べてみました。ドローイングの定義は広くて、デッサンの一部だという捉えかたもありますし、絵の具や他の素材を使っていることもあるのですが、最終的には線を使って表現したものであればドローイングとして考えられ得るだろうという結論にいたりました。

普段はどのような作品を描いているのですか?

大嶋さん:風景が多いです。藝大の近所だったら不忍池だとか、谷中霊園の風景などを題材にしています。その場でスケッチを描いて、描いたスケッチを写真に撮って、写真を加工して見え方を変えたものを本画に起こすこともあります。


大嶋直哉「ほとり」
※「随感随筆」の出品作品ではありません。

研究展には何を出品していますか?

大嶋さん:水辺に生えている夏草を描いた作品を出品しています。

李さんはいかがでしょうか?

李さん:日本の建物を描いた作品を出品しています。私は中国出身なのですが、日本に来てから、日本と中国とで景色の密度が違うことに気が付きました。中国の建物の多くは大きいですが、日本にあるものは細かくて、目に入る情報量が多いです。私がいま住んでいる根津には少し古い一戸建てが密集しています。その様子が面白いなと思って根津にある建物をモチーフにしました。家の外にあった植木鉢やサーフボードも描いています。根津の家には、なぜ家の外にこれを置く?というような変わったものがあったりして面白いです。


李雨晨「1-22」

日本画の絵の具を使っているのですか?

李さん:白い部分は胡粉と水晶末や方解末などの白い岩絵の具を混ぜて塗っています。背景と建物の質感に差をつけて、視線が集まるようにしました。

一研展用にはどんな絵を出しているのですか?

李さん:一研のメンバー全員の合作の巻物と屏風の2つの作品を出しています。どちらも上野の不忍池の蓮を描きました。巻物には見頃の蓮を描いて、屏風には枯れた蓮を描きました。


李雨晨「枯蓮」
※「随感随筆」の出品作品ではありません。

渡邊さんのドローイングについて教えてください。

渡邊さん:これはコンテで描きました。ドローイングやクロッキーは普段から描く方なのですが、最近は見たものをそのまま描くというよりも、自分が感じたことを考え続けて、それが心の中でいっぱいになったときに自然と絵ができる、という感覚があります。この作品「道」も、コロナウィルスによって心におきたいろんな変化を自分なりに考えて描きました。


渡邊美波「道」

研展にはどんな作品を出品しているのですか?

渡邊さん:私は普段から飾って誰かに見てもらって初めて絵は完成すると思っていますので、作品が展示される状況を考えて制作しています。今回の展示は、正木記念館の和室を使うことになりましたが、いままで和室で飾ることを想定して描いたことがなかったので、勉強になると感じ、枕屏風をつくることにしました。

普段はどのような作品を描いているのでしょうか。

渡邊さん:たとえば、「その詩をいつも」は、去年の一研展に出したものです。姉に赤ちゃんが生まれたことによって、不思議な感覚が生まれて、気付かされることがたくさんあって、最近はその子をクロッキーさせてもらって作品に描くことも多いです。


渡邊美波「その詩をいつも」
※「随感随筆」の出品作品ではありません。

みなさんはコロナ禍でどのような制作をしていましたか?

李さん:7月まで学校に入ることができなかったので、制作場所が自分の家になりました。普段と変わって、取材も昼間ではなく夜にするようになったので、コロナ前とは昼夜逆転しました。


李雨晨さん

大嶋さん:僕は家の近所にアトリエを借りているので、普段学校に行くのと同じように昼頃から描いていました。取材はコロナの騒動になる前の2月に行っていたので、さほど影響はありませんでした。


大嶋直哉「ひろがる葦」

渡邊さん:私は気分が落ち込んでしまって描けなくなってしまいました。緊急事態宣言が出て怖くなり、1、2ヶ月描けませんでした。しかし、だんだんと、こういうときに感じたいろんな気持ちも含めて絵で表現することに意味があるのではないかと思えるようになって、今は感じたことを忘れないで制作していければと思っています。


渡邊美波さん

惠羅さん:家に絵を描くスペースがないから学校に通っていたので、学校が閉鎖されるとなにも作業ができなくなってしまいました。アルバイトも休みになってしまったので、することがなくなってしまって、運動不足にならないように遠くまで散歩をしながら、良い景色がないか探したりはしましたが、制作はできなかったです。学校に来ると絵を描く道具しかないので気持ちが絵に向かうのですが、家にいると布団もパソコンも本もあるし、誘惑が多く、難しかったです。

皆さんはなぜ日本画を専攻したのでしょうか?

惠羅さん:私は美術科のある高校に通っていました。1、2年のうちに一通りのことをやって3年生のときに専攻に分かれるのですが、油絵が全然描けなくて、彫刻も粘土が苦手で、デザインは直線を引くのが苦手で、水彩絵の具の着彩はあるがままのものを描けばいいので、一番自分に向いているなと思って、日本画を選びました。思い返すと小学生の頃から、歌舞伎、平安時代の着物や和歌など古典的なものが好きだったので消去法ではありましたが、選んでよかったです。


惠羅由記さん

渡邊さん:ある程度の技術がないと、自分の伝えたいことは人に伝えられないと感じることがありました。そのためには、当たり前のものを当たり前に描くことに重きをおくのが日本画だと感じ、選びました。上手い下手ではなくて、そのものから何を感じてそれをどう伝えるのか、というシンプルだけど一番大事なことが問われているように感じ心惹かれました。


渡邊美波「湖」

大嶋さん:高校に入る前から絵画教室に通っていて、その先生がもともと日本画をやっている方だったので、自然と日本画を選びました。日本人である以上、自国で続いてきた絵画様式を学ぶのが一番しっくりきていた、という理由もあります。

李さん:私は大学では環境デザインを専攻して、卒業後はインテリアやゲームのデザインの仕事をしていました。そのゲーム会社に勤めていたときに、日本の会社と付き合いがあったことがきっかけで、日本に行きたいと思いました。そのような経緯で日本に来て、初めて藝祭で日本画の展示を見た瞬間に、これが自分に合っていると直感しました。中国にも絵画はあるのですが、中国画は、素材やテクニックの面でかなり縛られています。ヨーロッパの油絵もきれいですが、中国や日本の考え方とは違うかなと思いました。また、よく、日本人は自分の意見がはっきり言えないと言われますが、私自身、伝えたいことがあっても話や文章ではっきりいうタイプではなかったので、その曖昧な感じも合っているなと思いました。


李雨晨「野菊」

明治時代以前の画家は中国絵画に対して強い憧れを持っていました。そのことを考えると、中国の人が日本に学びに来るというのは興味深いことです。

李さん:唐代には岩絵具を使った絵画もありましたが、いろいろな原因で、その技術は途絶えてしまいました。しかし、20世紀頃、中国から多くの画家が日本にやってきて、文化財の保存修復を学びました。そのときに岩絵の具と膠の使い方を学んで、それを研究して今は「岩彩」という名前で中国に復活しています。技術の逆輸入のような状況ができています。


「随感随筆」展示風景

最後に、ドローイング展をご覧になるお客様や読者へのコメントがあればお願いします。

大嶋さん:普段描いている本画と違って、ドローイングはほどよく力が抜けているので、また別の魅力があると思います。また、A4サイズという制限のなかでみんな各々のドローイングを描いていますので、素材や表現のバリエーションの魅力も楽しんでもらえればと思います。

●惠羅由記プロフィール

1994 年  香川県出身
2019 東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻 卒業

●大嶋直哉プロフィール

1995 年  岐阜県生まれ
2019 東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業
2017 グループ展「Kizuna Art」Phnom penh InterContinentalHotel
2019 第45回東京春季創画展 入選
Seed山種美術館日本画アワード 入選
第46回創画展 入選
グループ展「Will+s展2019」西武池袋本店
2020 第26回東京春季創画展 入選
グループ展「夏の会」ギャラリー青羅

●李雨晨プロフィール

1991 年  中国生まれ
現在 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻日本画 在籍
2019 東京藝術大学 「日本画第一研究室発表展」
グループ展 「氣畫イズム」 アートコンプレックスセンター
第46回創画展 入選
2020 第46回東京春季創画展 入選
明日をひらく絵画 第38回上野の森美術館大賞展 入選
第24回創画会東京研究会夏の会

●渡邊美波プロフィール

1991 年  東京都生まれ
2019 東京藝術大学絵画科日本画専攻卒業
2019 藝大の猫展 猫アートプラザ賞
石本正日本画大賞展 奨励賞
第43回三菱商事アート・ゲート・プログラム 入選
第46回創画展 入選
第44回全国大学銅版画展 優秀賞
2020 第3回松伯日本画展 入賞
第46回春季創画展 入選


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

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