一研の精鋭が描く、バラエティ豊かな日本画ドローイング展が開催中!

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藝大アートプラザ
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作品紹介

しつこい暑さが続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?酷暑にも負けず、今日も藝大アートプラザは元気に営業中。上野駅から約10分、炎天下を歩いてきてお店の自動ドアをくぐった瞬間、そこは別世界が待っています。肌に染み入るようなひんやりした冷気は、まるで砂漠のオアシスにたどりついたかのようです。

新たに企画展「NIPPONシリーズ」が全3回で開幕!

さて、展示室内では特別企画「アトリエから」が9月13日(火)までのロングラン開催中ですが、8月下旬から、同時にあと2本の企画展示が進行中です!

一つは、入口近くの特設コーナーで開催されている藝大生の支援を目的とした『がんばれ藝大生「エールのアトリエ」』。そしてもう一つが、本稿で詳しく取り上げる『NIPPONシリーズ① 一研展企画ドローイング展「随感随筆」』です。

この「NIPPONシリーズ」という展示企画は、東京藝術大学美術学部における日本美術系の各分野の「研究室」単位で作品を展示・販売する全3回の企画展シリーズです。本展が第1回となり、その後は「陶芸」をテーマにした第2回展(11/20~12/13)、「漆芸」をテーマにした第3回展(12/18~1/17)が開催される予定となっています。(※いずれも正式な企画展名は後日藝大アートプラザのHPで発表予定)

「NIPPONシリーズ」第1回は通称「一研」が主役の展示企画!

さて、「NIPPONシリーズ」の第1回でクローズアップされているのは、植田一穂教授と海老洋准教授が率いる、通称「一研」こと日本画第一研究室です。(※以下、通称名の「一研」と表記)

お二人とも、創画会所属ですね。ちなみに、「創画会」とは、日本画を専門として独創的な表現を目指すために設立された美術団体「創造美術」(1948)を前身として、1974年に発足した日本画の公募展団体です。日本画では、日展・院展と並んで、非常に有力な公募展となっていますね。

前置きはそれぐらいにして、早速展示室を覗いてみましょう。

一研メンバー総勢17名によるドローイング作品を一挙展示!

さて、本展の作品が展示されているのは、藝大アートプラザの絵画展示コーナー。一研所属の教員2名と非常勤講師、教育研究助手、修士1年生、2年生の合計17名が手掛けたドローイングを主体とした作品群が所狭しと展示されています。

実は一研では授業カリキュラムの一環として、毎年8月~9月頃、修士2年生が主体となって大学構内で「一研展」という自主企画展を企画運営するのが通例となっています。2020年度も、大学構内の正木記念館2Fの和室展示室にて、8月29日(土)から9月11日(金)で一研展が開催中。今年で実に18回目となる一研伝統の行事でもあります。

一研展の詳細はこちらの特集ページから!

その一研展では、出展者によるオリジナルポストカードを制作しています。せっかくなので、今年度はそのポストカードの「原画」として各メンバーが描いた作品を藝大アートプラザで展示・販売したい!ということになりました。それが、本展『一研展企画ドローイング展「随感随筆」』なのです。

一研メンバーの個性が反映された、バラエティ豊かな作品群!

さて、そんなポストカードの原画として手がけられたドローイング展ではありますが、展覧会名に「随想随筆」とある通り、非常にバラエティに富んだ内容の作品が集まりました。

ほぼ「本画」(※日本画用語で、完成した絵画作品を指します)同様にしっかりした構成で岩絵具を使って本格的に仕上げている人もいれば、日常的なスケッチの延長線上のような雰囲気の気軽な作品を出品している人まで様々です。各作家の「ドローイング」に対するアプローチの仕方、感覚の違いが感じられます。


長澤 耕平『「街のあかり(仮)」のための習作』55,000円/よく見ると裏側からも彩色されていたり、印刷された文字のようなものがチラリと見えていたり、細かく計算されて制作されています。


岡地貴理「dessert」37,400円/クレヨンと岩絵具を使って柔らかい色彩仕上げられた、心落ち着く作品です。日本画ならではのホッとするような暖かさを感じます。


松原瑞歩「アガパンサス」37,400円/初夏の花壇を彩るゴージャスな園芸品種。スケッチブックから飛び出てきたようなライトな仕上がりです。

現役の大学生ではありますが、既に何名かは藝大アートプラザの他の企画展に出品した経験のある方もいますし、中には百貨店や画廊などのグループ展などで活躍されている方もいます。たとえば、伊藤春香さん。2020年になってから、東京の大丸や三越など百貨店の若手日本画家を特集した展覧会で作品をお見かけしました。


伊東春香「みじかい夜」55,000円/東京の夜に巨大な花火が打ち上がっています。今年は花火大会が中止になってしまったので、絵画で楽しめるのはいいですね。デフォルメされたかわいい建築物に、作家の揺るがない建物愛を感じます。

そういえば、偶然なのでしょうか?先生方は、お二人とも揃ってネコのドローイングを出品されていますね。


海老洋「ネコトキカ」88,000円/昨年の一研展に続いて、今年もネコを描かれています!


植田一穂「椅子猫」88,000円/いすにちょこんと乗って漠然と宙を見つめています。じわじわと可愛さが伝わってくる作品。

しかし、創画会でバリバリ活躍されている2人の先生方の作品がこの価格で買えてしまうのは、かなりお買い得なのではないでしょうか?!

そして、ここにももう1匹ネコを見つけました!


山田卓人「クロさん」37,400円/不機嫌な顔をしていますが、ポーズは完全に画家に心を許しているかのようなツンデレ構図!ネコ好きにはたまらないですね。

実に17名中3名がネコを描くという高確率!!偶然ではありますが、藝大アートプラザの次回展「藝大の猫展2020」(9/19~11/15)のちょっとしたプレ展示みたいな趣にもなっていて面白かったです。

また、素材の選び方やユニークなアイデアが面白かった個性派作品も。こんなA4サイズの小さな平面のスペースであっても工夫次第で記憶に残る面白い作品ができるものなのだな、と感心させられたのがこちらの2点。


重政周平「area」55,000円/抽象的な図形が薄く複数枚折り重なったような構図から、様々なイメージが立ち上がります。地形も街並みも、時が経つと驚くほど変化していきますが、その土地(地層)はそれを全部記憶しているんですよね。色々と考えさせられる作品でした。


菊池玲生「drawing ヒト」41,800円/麻布のキャンバス地に岩絵具で描いたり、デニム地のような布を貼り付けたり、自由でユニークな着想は見ていてワクワクさせられました。ポストカードにした時と原画を見た時の感想が大きく違いそうなのも面白いです。

最後に、本展の見どころを伊藤店長に聞いてみました。

伊藤:「非常にバラエティに富んだ作品群が揃いました。面白いのは、ドローイング作品に関しては、額装やサイズがすべて統一されているところですね。展示フォーマットを統一することで、逆に各作家のドローイングに対する距離感や作家性の違いが見えてきていると思います。」

なるほど、敢えて「額」を同じもので揃える、というのは見栄えの統一感だけでなく、逆に作家の個性を際立たせる効果もあるのですね!

また、本展で展示されているのは、新型コロナウイルスの感染拡大によって、普段と制作環境が変わってしまったり、精神的にもモチベーションを保つのが難しい中で取り組まなければならなかった作品が多いはずです。作品を鑑賞しながら、そうした彼らの制作に対する想いなども感じ取ることができるかもしれませんね。

★NIPPONシリーズ① 一研展企画ドローイング展「随感随筆」開催記念座談会

本稿の前に、展覧会の開催を記念して行われた座談会でも、こうした制作時の心境の変化について、各メンバーの素直な気持ちが語られています。ぜひ併せて読んでみてくださいね。

また、展示室内では、ドローイング以外の作品(本画)もいくつか展示販売されています。大作も用意されていますので、併せてチェックしてみてくださいね。


展示風景


展示風景

本展は9月13日まで。特に、ドローイング作品は非常に手に取りやすい価格で展示・販売されているので、掘り出し物を見つけるチャンスかも!まだまだ暑い日々が続きますが、ぜひこの機会を逃すこと無く、藝大アートプラザまで足を伸ばしてみてくださいね。

がんばれ藝大生「エールのアトリエ」も9月13日まで開催中です!

同時開催中の学生支援企画・がんばれ藝大生「エールのアトリエ」も、展示販売がいよいよ大詰めを迎えています。8月27日に第2弾作品の展示をスタートさせましたが、続いて9月8日(火)からいよいよ最終となる第3弾の作品群の展示販売を開始。(詳しくはこちら!)第1弾&第2弾に続いて、力作が多数到着しています。9月13日(日)まで、入ってすぐの場所に特設展示コーナーが設置されている他、小学館の総合通販サイト「PAL SHOP」でも第1弾~第3弾まで全作品を販売中。Web経由でもかなり売れているようですね!

がんばれ藝大生「エールのアトリエ」第1弾取材記事はこちらから

小学館の総合通販サイト「PAL SHOP」での特集ページはこちらから!

展覧会名:NIPPONシリーズ① 一研展企画ドローイング展「随感随筆」
会期:2020年8月27日(木) ~9月13日(日)
11:00~18:00、月曜定休

展覧会名:「特別企画 アトリエから~いまアートにできること~」
特設コーナーでの展示期間:~9月13日(日)
※それ以降も常設展示コーナーにて随時展示販売を行う他、小学館の総合通販サイト「PAL SHOP」で販売


取材/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥

※掲載した作品の価格は、全て「税込価格」です。
※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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