COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

アートと本が競演!上質な空間で心の旅を楽しめる「旅展」が絶好調!【かるびの「秘境」藝大探検 Vol.27】

2021/04/16 インタビュー

毎年、桜が咲く季節になると人々は様々な「旅立ち」を経験します。春の暖かさに後押しされてちょっとした小旅行に出かけてみたくなりますし、異動や転職、進学・就職・卒業といった、出会いと別れを伴う「人生の旅」での印象的な出来事が重なるのもこの季節ならでは。

しかし、今年はどうも様相が違っているようですね。長引くコロナ禍の影響により、大勢の人が集まる式典で人生の門出を祝うことが難しかったり、遠方への旅行も厳しい状況が続いています。

藝大アートプラザでは、こんな状況下だからこそアートの力が必要になる、と考えました。そこで企画されたのが、様々な切り口で「旅」を連想させるアート作品を通して、旅気分を満喫できる企画展です。タイトルは、ずばり「旅展~ここではないどこかへ」。

藝大アートプラザのホームページには、こう書かれています。

「旅の景色と出会いを思い出し、想像し、アートに封じ込めてみます。誰かの旅の思い出を覗いてみたら、そこには自分の姿が見つかるかもしれません。藝大発着空想便、心の旅を楽しむ展覧会を開催いたします。」

なるほど!『心の旅』とは粋ですよね。 では、どんな展示になっているのか、早速展示室内を見ていきましょう!

藝大アートプラザ初の「本」と「アート」の競演!

あれっ・・・?なんだかいつもと様子が違います。

そう、展示室には、いつものように所狭しと藝大ゆかりの作家たちによる作品群がたっぷりと展示されているのですが、各作品の周囲には、「旅」を連想させるような、たくさんの書籍が!!

藝大アートプラザには、店舗の一番奥に、企画展に関連した書籍を取り揃えた、非常に充実した書籍コーナーがあります。このコーナーは、都内で働くベテラン書店員さん→都内のアートブック書店のブックディレクターが毎回監修してくれているのですが、なんと今回はそのプロフェッショナルと作品を制作した作家がセレクトした書籍群が、展示室にまで広がっているんです。

これは面白いですよね!

最近、「銀座蔦屋書店」に代表されるように、本をきれいに並べるだけでなく、書籍と一緒にアート作品や雑貨類などをお洒落に展示販売する書店が増えてきていますよね。ですが、書店の場合、あくまで本が主役でアートが脇役。

「旅展」は、まさにその逆なんです。まず、主役であるアート作品がしっかり展示されている。次に、その合間を作家本人による「アーティスト選書」やプロの書店員がセレクトした上質な書籍群で固める、という構成になっているんですね。これは新しい。こんな展示室、美術館でもギャラリーでもちょっと今までに見たことがありません。

6つのテーマで旅気分を味わう!珠玉のアート作品群


各テーマ別に、展示エリアが大まかに分けられています。

さて、思わず書籍で埋め尽くされた展示室内に目を奪われてしまいましたが、もちろん主役のアート作品も素晴らしい作品揃いとなりました。

今回は、「景色」「乗り物」「地図・移動」「おみやげ」「温泉」「エトランゼ」という、旅にまつわる6つのテーマで、約50名の作家が多数の作品を出展。

それでは、早速、僕がいいな、と思った作品をいくつかピックアップしていくことにいたしましょう。

まず、入口近くの一番目立つ場所に展示されているのが、樹脂で制作された田中綾子さんの繊細な彫刻作品。


共に田中綾子さんの作品、手前:「君の_靴」38,500円 奥:「あの時の_ケース」38,500円

触れた瞬間、今にも崩れ落ちてしまいそうな危うさを感じます。ずっと見ていると、かつて確かにそこにあったはずの物質が消え去り、かろうじて記憶や想いの痕跡だけがその場に残されているような儚いイメージを思い起こさせますよね。

この靴はどうやって作ったのだろう、と思ってスタッフの方にお聞きしたら、田中さんは、光に触れると瞬時に固まる特殊な樹脂で空間に線を引ける「3Dペン」を使って、あらかじめいくつかのパーツに分割した靴の表面をペンでなぞり、それから本物の靴を取り除いて、各パーツを最終的に組み合わせて作っていくのだとか。


田中綾子「君の_靴」部分拡大

しばらく見つめていると、靴やカバンといった、「旅」を連想させる造形から、気づいたら自分の中の風化しかけた大切な記憶を無意識に探っている自分がいました。田中さんの作品は、自分自身の大切な思い出を心の奥底から引っ張り出してくれる、強力な触媒なのかもしれません。

さて、続いては、岩崎広大さんの写真作品。


LANDSCAPER -(33°05'08.0"N 129°53'25.6"E)WGS84- 38,500円(左上)
LANDSCAPER -(35°15'01.8"N 139°35'16.5"E)WGS84- 22,000円(左下)
LANDSCAPER -(35°35'53.1"N 140°05'47.1"E)WGS84- 22,000円(中央下)
LANDSCAPER -(35°30'33.7"N 139°23'15.8"E)WGS84-22,000円(右)


LANDSCAPER -(35°25'44.0"N 139°34'32.9"E)WGS84- 99,000円(左)
LANDSCAPER -(35°25'44.0"N 139°34'32.8"E)WGS84- 38,500円(右)

藝大アートプラザで写真作品が展示されるのは珍しいですね。

出品された6点は、いずれも、焦点を大幅にぼかして撮影され、どこかで見たことがあるようなノスタルジックな風景です。こちらも、田中さんの作品同様に、鑑賞者自身の内面の心象風景を呼び起こしてくれそう。

実は、本展に出品されている岩崎さんの作品は、すべて昆虫が幼虫~蛹から成虫になる時、木の幹に残された「羽脱孔」をピンホールとして、その「羽脱孔」ピンホールから映し出した風景写真なんです。昆虫たちが外界に飛び出す瞬間に最初に浴びたであろう光と同じ光線で映し出された画像には、独特の温かみがありますよね。

ちなみに、6点ともアクリル板に写真プリントがはめ込まれた状態で販売されているので、購入後に額装の必要がなく、購入したその日からすぐに飾ることができるのも非常にありがたいです!


中澤瑞季さんの奇抜な人型の木彫像。異世界感漂うオーパーツ的な作品。

一転して、今回が藝大アートプラザ初出品となる中澤瑞季さんの作品も目を引きました。今回は、全部で4点出品されているのですが、どれもちょっと見たことがないような、ある意味異形の人間像が非常に強烈な印象を残しました。


共に中澤瑞季、左:「ひとと鱗」右:「ひとと羽」各93,500円

人型をした木彫像の中央に入れ子のように人体がもう一つ彫り込まれ、異様なヘアースタイルがゾクゾクする「ひとと鱗」「ひとと羽」や、眼光鋭く、何かを守るような仕草に強い母性を感じさせる「おもいで」など、プリミティブな造形は、まるで異国の古代遺跡から発掘されたかのような生々しさ。


中澤瑞季「おもいで」110,000円

手の跡を残しながらラフに彫られた木材の質感も相まって、作品からただならぬパワーが放射されているように感じました。自宅の玄関などに飾っておけば、魔除けにもなってくれそうです。


白井翔平「Symbol」66,000円

中澤さんの木彫に負けず劣らず存在感を放っていたのが、白井翔平さんの石彫作品です。白井さんは、自身の卒業制作「みたま」が2013年度の東京都知事賞を受賞するなど、早くからその芸術的才能を評価されてきた気鋭の若手彫刻家。白井さんの作品は、東京都美術館の裏手を通って東京藝術大学へ向かう上野公園内「藝術の散歩道」でも1年間展示されていましたので、実は多くのアートファンが彼の作品を一度は目にしているんです。


左:白井翔平「Symbol」右:「Column」各66,000円

そんな白井さんの作品が本展では3点登場。抽象的な造形のパブリックアートから、猫やパンダなどの愛らしい動物まで、様々な引き出しを持つ白井さんが本展のために用意してくれたのは、御影石から彫り出された乗り物やタワー、古代遺跡のような具象彫刻。

それぞれの形は大胆に抽象化され、デフォルメされていますね。また、磨き上げればピカピカになる御影石が、あえて打ちっぱなしのザラザラの状態で仕上げられています。石本来の持つ温かみを感じながら、旅へのイマジネーションを広げてくれそうな作品でした。

さて、一番奥の絵画コーナーを見てみましょう。

こちらでまず注目したいのは、藝大アートプラザでも人気作家の一人となった須澤芽生さんの作品群。彼女が得意とする清楚な女性が描かれた人物画と、春らしい色彩が美しい小鳥の作品など、大量6点もの作品が登場。気合が入っています。


人気作家・須澤芽生さんの新作もたっぷり登場!

彼女が「アーティスト選書」として特別に持ち込んでくれたのがメーテルリンクの名作『青い鳥』です。見てみると、非常に古い絵本です。なんと発行日は戦前の日付。博物館に収蔵されていてもおかしくないような、非常に貴重な本です。

挿絵がかわいいな・・・と思ってよく見てみると、2019年に逝去した日本画家・堀文子が挿絵を担当していました。


須澤芽生さんのアーティスト選書、メーテルリンク『青い鳥』


『青い鳥』の各ページには、堀文子さんのイラストが満載。パラパラとめくっていくと、本書のイメージが須澤さんの現在の創作活動に大きな影響を与えているということがよくわかります。

本書は須澤さんがまだ小さな頃、寝る前に母から読み聞かせしてもらった絵本の一つで、彼女は特に「表紙のダイヤモンドのような、ステンドグラスのようなキラキラした鳥の絵が好きでした」と選書理由を語ってくれています。


須澤芽生さんの作品群(部分)。多くの作品で、小鳥が登場します。

そういえば、須澤さんの作品で、時折画面上を覆い尽くす「青」や、たくさんの小鳥は、まさにこの「青い鳥」から得られたインスピレーションだったのだな、と腑に落ちました。

このように、本展では、特に作家が大切にしている本を「アーティスト選書」として、作品の横に置いて展示・販売しています。作品と併せて手にとってみると、各作家の作品世界にもっと深く入り込めると思います!

最後に、とっておきの作品を紹介します。それが、「アート」と「木工玩具」を融合させ、動植物をモデルとしたユニークな作品を次々と発表している岡田敏幸さんの新作「エイ型潜水艇」です。


岡田敏幸「エイ型潜水艇」550,000円

岡田敏幸さんの作品の特徴は、単に目で見て楽しむだけでなく、ハンドルやツマミを動かして、触って楽しめるということ。コミカルな動きをする手足や目などの可動部の動きは、いつまで見ていても見飽きません。

そんな岡田さんが、本展のために制作した「エイ型潜水艇」がまさに会心のクオリティ。

「旅展」らしく、今回は動物をかたどった乗り物の作品なのですが、エイのような形をした潜水艦は、これまでになく複雑でユニークな造形です。ハンドルを回すと歯車が回り、背びれの骨が波打つように細かく上下に動くだけでなく、頭部に備え付けられたコックピット部分のハッチを開くと、小物も入れられる仕組みになっているのがなんとも心憎い。


岡田敏幸「エイ型潜水艇」各部分

いや、しかしよくこんな複雑怪奇な機構を、スマートで美しい外観を保ちながら軽々と作ってみせる岡田さんの頭の中はどうなっているのでしょうか。凄すぎます。

こちらは、専用の動画も用意されています。

展示室内では、実際に岡田さん渾身の力作「エイ型潜水艇」を手にとって動かしてみることもできます。ぜひ、気軽に試してみてくださいね。

緊急開催!さくらマーケット!

前回展「芸大アートプラザ大賞」展の後期展示で、同展入賞者による1.1万円均一の「アートのかけら-1.1万円アートマーケット-」という展示が開催されました。

本展は、出品作を作り上げる中間過程の下絵やドローイング、スケッチといったエスキース類や習作、そこからの派生作品などを対象に、「一律11,000円」で販売してみよう、という藝大アートプラザ初の実験的企画でした。

本企画は非常に好評でした。アーティストのアイデアのかけらや、試行錯誤の過程がわかる資料は、熱心なコレクターにとっては見逃せないものですし、これから初めてアートを買うという初心者にとっても、非常に優しい価格設定となっていたからです。

僕も「また第2弾があったら面白いな」と思っていました!

すると、なんと早くもその第2弾が登場したではありませんか!しかも、季節感にバッチリあった、思わず購入したくなるような作品群が!


「さくらマーケット」展示風景

棚一面、上野公園のソメイヨシノをイメージさせるような鮮やかなピンク色で染まっています!ぜひ、あなただけの掘り出し物を探してみてくださいね!

まとめ

藝大アートプラザ初の「アート」と「本」が展示空間に同居することで、双方の相乗効果で空想の旅を演出するという、非常に画期的な展示構成となった「旅展」。ちょっとした宝探し気分も味わえる、今までにない趣向の展示となりました。

本展は約2ヶ月間のロング開催。ゴールデンウィーク前には、特別企画「旅と猫」も加わり、後期展示として大量に新作も届くとのこと。なお、書籍も参考出品作以外は、すべて購入が可能。売れ行き好調な書籍については、随時再入荷されていく予定とのことです!ぜひ、意外な1作/1冊と出会ってみてくださいね!

展覧会名:「旅展/ここではないどこかへ」
会期:2021年3月20日(土)~5月16日(日)
休業日:月曜日※ただし5月2日(月)は営業、4月27日(火)は展示替えのため休業
開催時間:11~18時
入場無料


取材・撮影/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。