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藝大出身者も活躍!2024年に京橋で竣工予定のTODAビルが展開するアート事業

ライター
菊池麻衣子
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2024年、東京都中央区京橋に、芸術文化の一大拠点が誕生します。

戸田建設(株)が、自社ビル建替えを含む大規模オフィスビル開発を進めているのです。「ART POWER KYOBASHI」をコンセプトに自社ビルであるTODA BUILDINGの低層部でアート事業を展開するという内容で、京橋を拠点にアーティストが集い、創作・発表し、評価を受けて自立成長していく仕組みを作ろうと、各種プログラムが準備されているのです。

その主要なプロジェクトの一つに「パブリックアート・プログラム」というものがあり、それは、エントランスロビーや広場等の誰もがアクセスできる共用部にアート作品を展示するというシンボリックな内容です。これがただのパブリックアートではないのです。
ユニークなポイントの一つは、「更新性がある」ということ。大きな立体作品をボーンと置いてずっとそのままというのではなく、定期的にテーマを持った新しいパブリックアートに入れ替えていくというのです。一回だけでもコストがかかる大規模なお話なのに、チャレンジングですね。なぜここまでするのでしょう?

その答えは「来訪者には新鮮な刺激を、アーティストには作品発表の機会を提供し続けるため」。この素晴らしいポリシーに筆者は心を射抜かれました!

2024年竣工のTODA BUILDING(以下、TODAビル)の全体イメージはこのような感じです。

京橋一丁目東地区では、都市再生特区制度を活用し、ミュージアムタワー京橋(事業者:[株]永坂産業)と、TODA BUILDING(事業者:戸田建設[株])の2街区で「(一社)京橋彩区エリアマネジメント」を設立。街区名称を「京橋彩区」とし、「芸術文化の拠点」形成に取り組みます。


TODAビルは、8-27階のオフィスフロアと、1-6階までのミュージアム、ホール、ギャラリー、ショップ、広場等様々な文化関連施設のある芸術文化エリアで構成されています。

さてさて、この「パブリックアート・プログラム」第1回目のキュレーターは、飯田志保子(いいだしほこ)さんです。東京藝術大学准教授を務められた経験もある、「藝大アートプラザ」とも縁のある彼女のお話を軸に、選ばれた4名のアーティストの作品も紹介していきます。

キュレーターの飯田志保子さん Photo:ToLoLo studio

【飯田志保子プロフィール】
東京オペラシティアートギャラリー、豪クイーンズランド州立美術館/現代美術館内研究機関の客員キュレーター、韓国でのフェローシップ・リサーチャーを経て、主にアジアや豪州各地域で共同企画を実践。第15回アジアン・アート・ビエンナーレ・バングラデシュ2012、あいちトリエンナーレ2013、札幌国際芸術祭2014のキュレーターを歴任。2014年から2018年まで東京藝術大学准教授。あいちトリエンナーレ2019及び国際芸術祭あいち2022のチーフ・キュレーター(学芸統括)を務める。

恒久展示ではないパブリックアート

まず最初に、戸田建設が飯田さんにキュレーターを依頼した経緯を伺いました。
戸田建設のアート事業を推進している久木元拓(くきもとたく)さんによると、「『パブリックアート・プログラム』は、複数キュレーターのプロポーザル提案による指名コンペ形式で弊社事業部と有識者アドバイザーの方々により選定いたしました。飯田さんの、テーマに沿って複数のアーティストや作品を選択し繋げていく明確で鋭い視点と、制作までのプロセスを共有し我々との関係性を構築していこうとする姿勢がひとつの評価ポイントとなりました」とのこと。

なるほど! これは、アーティストが企業と仕事をする際にも大切なポイントになりそうですね。

ところで、飯田さんは現在のようなインディペンデント・キュレーターになるまでにどのような経験を積まれたのでしょうか?

「最初に携わったのは、東京オペラシティアートギャラリー開館準備室でした。企画展と、寺田小太郎氏の寄贈による収蔵品展の仕事を中心に、1998年から11年間美術館での経験を積みました。その中で、豪クイーンズランド州立美術館/現代美術館のアジア・パシフィック・トリエンナーレ(APT)を担っていたスハーニャ・ラフェル(Suhanya Raffel)さん(現在は香港の「M+」視覚文化博物館の館長)と知り合いました。当時は、日本で現代美術の企画を中心に館を運営していくのがまだまだ困難な時代だったので、アジアとパシフィック地域に特化した現代美術を旗印としたAPTがなぜ継続できているかを深く研究したいと思い、クイーンズランド州立美術館/現代美術館に客員キュレーターとして受入れてもらい、2年間在籍しました。そこでは、APTが館のコレクション形成と増強に大きく寄与していることを知ると同時に、周期開催されるビエンナーレやトリエンナーレという国際展のあり方にも興味を持ちました。2012年にあいちトリエンナーレ2013のキュレーターとしてお声掛けをいただいたことを契機に帰国して以来、研究対象だったトリエンナーレを実践する側となって、あいちトリエンナーレ 2019、国際芸術祭あいち2022のチーフ・キュレーターも務めました」と飯田さん

2014年から2018年まで務められた東京藝術大学准教授のお仕事はどのような経験だったのでしょうか?

「日本で芸術家を志す人が最も多い教育機関の一つである芸術大学の内側から、どのような制度を通して美術家が育まれるのかを知ることができて貴重でした」と答えてくださいました。

このように国内外で様々な経験を積まれた飯田さんですが、戸田建設の「パブリックアート・プログラム」は新しいチャレンジとのことです。
まず第一にまだ建物も空間もできていない新しい場所であること。それから、通常の美術館の展覧会とは違って1年という長期間の展示である一方、「パブリックアート」という位置づけながら恒久展示ではないという点が、飯田さんが手掛けられてきたプロジェクトの中でもユニークだそうです。

実は、戸田建設としても継続的なアートプロジェクトを手掛けるのは今回が初めて。
だからこそ、これまでのいわゆる「アート事業」にとらわれず、純粋に人々が魅了されるようなアイデアが出てくるのかもしれません。

それではここで、「パブリックアート・プログラム」の具体的なコンセプトやアーティストについてご紹介していきたいと思います。

「螺旋の可能性」タイトルに込めた思い

飯田さんが打ち出したコンセプトは「螺旋の可能性――無限のチャンスへ」です。どのような思いを込めたのでしょうか?

「ポジティブにどうやって生きていくかをみんなで考えていきたいと思いました。ここ数年はコロナ禍に見舞われましたし、不安定な世界状況も長引いていますが、戸田建設の新社屋は未来であり、前を向いて行くきっかけだと思うのです。ただし、高度経済成長期のような右肩上がりの時代ではありません。迷ったり回り道をしたり、軌道修正しながら、ひとつの解答を目指すのではなく、無限の可能性を探っていく未来です」と飯田さん。

来街者やオィスワーカーが楽しめるように仕込んだインタラクション(双方向性)のこだわりとして、3つのポイントを挙げてくださいました。

①さまざまなバランスをとること。例えばスケールの点では、大きくて遠くからでも存在感がある作品と、親密な距離で見る両方の作品があること。
②時間や期間の観点からは、人が行き交う場所なので、長時間を要さないこと。同時に、見るたびに違う表情を発見できるような、何度でも見たいと思える作品であること。
③そして、若手の育成と中堅の活躍の両方を実現できるような世代やキャリアのバランスを考えた。

1Fエントランスロビー、屋外広場、2Fおよび3F回廊等、共用スペースを活用して展示するとのこと。

そして今回選ばれた4名のアーティストたちは次の通りです。
奇しくも、藝大出身者が3名入っています!

選ばれたアーティストたち

持田敦子さん

まず1Fのロビーをシンボリックに演出するのは、持田敦子(もちだあつこ)さんの作品。

参考作品:《Steps》2021/TERRADA ART AWARD 2021
Photo:Tatsuyuki Tayama

飯田さんによると「ダイナミックな仕事ができて、建築に関与できるアーティストです。螺旋のテーマに応答した、上昇志向をイメージさせる作品を検討しています。実際の階段として機能するのではなく中空にあるので、あくまでもイマジネーションの中でのインタラクションとなります。持田さんの世界観は、内と外をつなぎながら屋外広場まで広がり、外の作品では座るなど、フィジカルなインタラクションができる予定です」とのこと。
インタラクションが、「フィジカルなものだけではない」という発想が新鮮!

《持田敦子プロフィール》

Photo: Pezhman Zahed

1989年東京都生まれ。長野県在住。2018年バウハウス大学ワイマール大学院、東京藝術大学大学院修了。2018年から2019年にかけて、平成30年度(公財)ポーラ美術振興財団在外研修員としてドイツ、シンガポールにて研修。プライベートとパブリックの境界にゆらぎを与えるように、既存の空間や建物に、壁面や階段などの仮設性と異物感の強い要素を挿入し空間の意味や質を変容させることを得意とする。

毛利悠子さん

参考作品:《Copula》2021 Photo©Tai Kwun Contemporary

次は毛利悠子(もうりゆうこ)さんの作品です。

飯田さん曰く、「毛利さんは、長細い空間に展示します。前後、左右など直線方向の流れを感じる空間の中で、パイプのような素材が鍵となる作品を展開し、『目に見えない力』を表現します。これまでにも、浮力、重力、遠心力といった物理学のフォースや、都市の可視化されないインフラやエネルギーなどを作品に取り込み、たまに鈴がチリンとなったり、羽箒がパタパタはためいたりする、ブリコラージュでできた生態系のような作品を作ってきました。動きがちょっとずつ違ってくるなど、エラーや偶然性も含めて成り立つ面白さがあります。何か目に見えないものとのインタラクションを感じて頂けるのではないでしょうか」。
そうか! 「インタラクションする相手は人でなくてもいい」のですね。

《毛利悠子プロフィール》

Photo©新津保建秀

構築へのアプローチではなく、環境などの諸条件によって変化してゆく「事象」に焦点を当てるインスタレーションや彫刻を制作。カムデン・アーツ・センター(ロンドン)や十和田市現代美術館(青森)での個展のほか、「シドニー・ビエンナーレ」「サンパウロ・ビエンナーレ」をはじめとする国内外の展覧会に参加。2017年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

野田幸江さん

参考作品:《腐っていくことやここからの眺め》2021/ANB Tokyo

次は、野田幸江(のださちえ)さんの作品。

飯田さんによると「今回のパブリックアートの中で、おそらく一番近い、親密な距離で見ることができる作品になると思います。植物を加工してオブジェを制作する野田さんですが、出来上がるものは具体的な花や木ではありません。それでも、種から芽が生えて成長して枯れて土に還る、自然の有機的で長期的なサイクルを感じることができます。彼女は、戸田建設のパブリックアート制作のために、季節ごとに京橋に来てTODAビル工事現場や周辺で雑草や土を採取しています」。
戸田建設の久木元さんも、野田さんと一緒に同行されたそうですが、「京橋という都会の雑草は大抵道路と建物の敷地の間のちょっとした隙間に生えていました。とても強い生命力を感じて、人がいなくなったらあっという間に街を覆いつくしてしまうのではないかと想像し、そのような光景も浮かんできました」とのこと。

オフィスワーカーが、休憩時間にコーヒーを買いにフラっと出てきて彼女の作品に出会い、植物に占領された建物にたたずむ自分を思い浮かべた妄想トリップをしばし楽しめたりすると、ユニークな息抜きになるかもしれませんね。

《野田幸江プロフィール》

1978年滋賀県生まれ。画家として絵画制作の傍ら、家業である花屋「ハナノエン」で植物に携わるようになる。日常にある植物に触れ、風景についての創作を行っている。主に、自然の要素を配置する空間的な表現や、営みから生まれる植物作品、庭づくりなどを含めて、循環するモノの感触を探っている。2021年、ARTISTS’ FAIR KYOTO 2021 Akatsuki ART AWARD最優秀賞受賞。

小野澤峻さん

参考作品:《演ずる造形》2021 Create with Shoki Hattori

ラストは、小野澤峻(おのざわしゅん)さんの作品。

飯田さん曰く「《演ずる造形》を更新したバージョンを予定しています。複数のステンレスボールが上部から吊り下がり、振り子運動をしながら行き交う様相をパフォーマンスとして鑑賞する作品です。ぶつかりそうでぶつからないボールの動きを見守っているうちに、ぶつかる瞬間に出合うことがあります。そうすると一旦動きが乱れるのですが、しばらくするとそれぞれのボールがまた自らの軌道に乗ります。人や社会のメタファーとして、自己回復力や修復力が感じられる作品です」

《小野澤峻プロフィール》

1996年群馬県生まれ。ジャグリングパフォーマーの身体感覚を起点とした、上演型の彫刻作品を制作。東京藝術大学大学院の先端芸術表現専攻を修了後、「Media Ambition Tokyo」(2020、渋谷スクランブルスクエア/2021、森アーツセンターギャラリー)、国際芸術祭「あいち2022」などに出品。2021年には「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」の一人に選出。

パブリックアート・プログラムの展望

戸田建設の久木元さんは、「このパブリックアート・プログラムにはまさに無限の可能性があると感じています。更新しつつ積み重ねていくことで、新たな歴史が創られていくのだと思います」と語ってくれました。

「成長していく」新しいタイプのパブリックアートの歴史が幕を開けようとしているのですね。そして、作品と私たちが双方向でコミュニケーションをとれるよう積極的に意図されたパブリックアートの出現で、京橋の街はどのように進化していくのでしょうか? 2024年の到来を楽しみに待ちましょう。

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