COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

「密 IX〈ミックス〉取手校地工房スタッフによる、創造の思索展」(東京藝術大学共通工房三枝先生、田中先生インタビュー)

2021/08/03 インタビュー

7月16日から開催中の「密 IX〈ミックス〉取手校地工房スタッフによる、創造の思索展」は、東京藝術大学取手校地にある共通工房の教育研究助手、講師陣がグループとしてはじめて藝大アートプラザの展示に参加された画期的な展覧会です。そこで、これを機に取手校地の共通工房に訪問させていただき、三枝一将先生、田中航先生にインタビューをさせていただき、展覧会に込めた思いや見どころ、共通工房の魅力などについてわかりやすく教えていただきました。

本日は、お忙しい中インタビューに応じていただきありがとうございます。早速ですが、本展のタイトルに込められた狙いや、展覧会でのテーマを教えて頂けますでしょうか?


田中航先生

田中航先生(以下「田中」と表記):もうお気づきかもしれませんが、本展タイトルの「密IX」(ミックス)というのは、「密」と「MIX」を混ぜた造語です。「密」という言葉は、コロナ以後によく聞かれるようになった言葉ですが、最初の展示のイメージとしては、アンティークショップやインテリアショップの様にテーブルがあって、その上に商品が並びつつ、棚やテーブル自体も作品として販売するイメージを持っていました。


三枝一将先生

三枝一将先生(以下「三枝」と表記):いわゆる、作品on作品という状態ですね(笑)。

田中:通常の展示だと、いわゆる展示台があって、そこに各自の作品を置いていきますよね。たとえば、今回のような20人規模のグループ展になると、別々のテーマで制作された作品が一つの場を共有しているだけで、作家ごとにそれぞれの展示スペースを確保して作品同士の距離がある程度取れれば、それで良しとする、というケースが多いように感じます。ですが、本展では作品の上に作品を置いてしまいます。

展示風景。什器(作品)の上に多数の作家の作品が載っている。

なので、実質ゼロ距離。作品同士の距離がなく、かつ、別にここは誰々のスペースといった取り決めもしないので、あちこちに他の作家の作品と入り混じって自分の作品が置かれることになります。それによって「密」であり、「MIX」された空間を作りあげます。さらに、通常のアートプラザの展示台に各素材のイメージをプリントした布を被せることによってオリジナルの展示台に作り変え、いつもと少し違った空間になる事を意識しました。


藝大アートプラザの展示台が各素材をイメージしてプリントされた布で覆われ、いつもとは違う雰囲気の展示空間作りが徹底されている。

あらゆる分野にまたがる共通工房の皆様の作品が、同じ展示スペースで一緒に展示されるわけですね。

田中:そうです。そういう意味でも「密IX」(ミックス)ですね。共通工房には、金工工房(金工機械室、鋳造室、金属表面処理室)、木材造形工房、塗装造形工房、石材工房と、専門的な工房が全部で6工房あるのですが、専門的であるが故に、自分の工房で仕事を完結してしまいがちな傾向もあるんです。他の工房へのリスペクトが強いと、他分野には手出しをしづらい遠慮のような感情も生まれがちなので、本展の開催は他の工房を使ったり、自分の専門外の素材を取り入れてみたりするための大きな機会になりました。


三枝一将「Basket Shell s-01」88,000円/竹ザルの外側の雌型の形が真鍮で鋳造されている。

三枝:全く分野が異なるバラバラの工房が6つもあるので、共通テーマって難しいじゃないですか。なので、それを逆手にとってごちゃっとさせる。「密IX」(ミックス)にはそういったイメージもありますね。

本展での協力が工房間のコミュニケーションをさらに活発にさせるきっかけにもなったのでしょうか?

田中:「密IX」という言葉には、工房間に交流をもっと生み出したいという狙いも込めています。実際、本展を通じて僕自身もバラエティに富んだ素材を使うようにしましたし、工房同士でコラボして一つの作品を作った人もいました。色々な意味で実験的な展示にしたいと思っていました。

上:田中航「ガラステーブル」1,320,000円/様々な素材(木、石、アルミ、ステンレス、真鍮、ガラス)を組み合わせ、本展のために田中先生が制作されたテーブル。
下:田中航「LED照明」385,000円/什器だけでなく、本展では照明にもこだわってオリジナル作品が制作された。むき出しになったカラフルな配線がポップな味わいを生み出している。

三枝:本展をきっかけに、出品者の間で、ちょっと一緒にコラボしてみようか……という雰囲気が自然な形で出てきていましたね。そういうところからも、田中先生が仰る「密IX」という意図が出品者にちゃんと伝わっているなという印象がありましたね。


異なる工房のメンバー3名で協力して制作されたスツール。コラボの成果が現れている。/全て橋本遥・石川将士・北村真梨子、左「mishmash」(770,000円)、中「phantom」(693,000円)、右「spectrum」(726,000円)

本展では、先生方が制作された什器も見どころになっているのですね?

上:田中航「樹脂テーブル」660,000円/鋳造したアルミを樹脂で封じ込めている。
下:薗部秀徳「木製ショウケース2021」660,000円

三枝:田中先生が大半の什器を作ってくださり、園部秀徳先生による木製の什器もあります。この上に、今回のために制作された作品群が載っていくわけです。

共通工房が一つのグループとして藝大アートプラザで展示に臨まれるのは初めてですが、展示を企画されようと考えられた経緯を教えて頂けますか?

三枝:取手校地のファクトリーラボが、ちょうど今節目の段階に入っていて、陳列館(東京藝術大学陳列館)でこの秋に展覧会をやるんですね。その展示と併せるかたちで、藝大アートプラザでは共通工房の成果を発表することにしました。

藝大最後の「秘境」?! 共通工房の特徴や魅力について

ところで、東京藝術大学の取手校地の存在は、本コラムを読まれる学外のアートファンの方々には、まだまだよく知られていないところがあると思います。そこで、実際に長く関われられている先生方から、共通工房の魅力を教えて頂けますでしょうか?

三枝:藝大の美術学部の中では細かく学科が分かれていますよね。上野校地では、各学科がそれぞれの学生を学科内で教育するんです。でも、ここは、学科ではなくて「場」なので、各科の学生個人が自由に各工房を利用できます。ご覧の通り、大型機械や特殊加工ができる機械などもあってスペースも広いので、何かを作るのが好きな学生は、一度来るとハマって「取手っ子」になるんです。

基本的には設備は、手続きに従って申請したり、工房の講習を受けたりすれば、学生は使い放題なのですね?

三枝:そうですね。だから学生が卒業制作などで受賞した作品なども、実はここで制作されたものが多いんですよ。たとえば、大きなものでいうと東弘一郎さん(東京藝術大学大学院 美術研究科 先端芸術表現専攻2年)が一昨年の卒展のために制作した、自転車を使った巨大なインスタレーション『廻転する不在』はここで作りました。というより、学内ではここでしか作れないんです。

三枝:田中先生が懇切丁寧に指導されていましたね。東さんは、田中先生に計画を相談して、この材料ならできるんじゃないか、こういうふうにすれば強度が出るから……等々様々なアドバイスを受けながら制作していましたね。ああいうのが実現してしまうところが面白いところです。

先端芸術表現科は2年生から取手キャンパスに校舎が移りますが、先端芸術表現学科の方は、東さんのように共通工房をよく利用されるのですか?

田中:よく来ていますよ。僕が着任した当初はまだ少ない印象でしたが、その後先端の先生たちとここで一緒に仕事をする機会があって、その中で交流が進んで利用者が増えていきましたね。ただ、今は1年生も上野校地スタートに変わったので、取手校地にある共通工房を知らない学生もいるかもしれないですね。外部の方もそうですが、そうした内部の学生にも取手の良さをどう知ってもらえるかが、今の課題かもしれません。

どんな学生さんが、よく共通工房を活用されるのですか?

田中:学生だと、意欲のある人達が多いですね。別に来なくても制作はできますから。それを敢えて取手まで来て工房を利用しに来るというのは、本当に作りたいものがあるか、知らない場所に飛び込んでいくことができる学生なのかなと思いますね。

少し前までは、藝大に入学すると1年生はまずこちらの取手校地からスタートしたとお聞きしました。

三枝:そうなんですよ。建築学科以外の1年生は、ここでまず1年間学んでから上野校地に移るんです。その頃は学食も含めて活気がありましたね。だから、今の取手校地では学生は大学院生が中心ですね。だけど、藝大食堂がリニューアルされたり、「ヤギの目で社会を見るためのプロジェクト」という活動が始まったり、ファクトリーラボが本格的に稼働したりと、取手校地もいろいろと面白くなって来ていると思います。

今、お話の中で出たファクトリーラボですが、企業が共通工房とコラボするというのがファクトリーラボの基本的なコンセプトなのですか?

三枝:そうですね。これだけの施設がありますから、外部の企業に協力して制作を請け負ったり、共同研究を行ってプロダクトを制作したりしています。教育分野でも、公開講座やワークショップは好評です。毎年夏には高校生向けに2泊3日のサマーキャンプも実施しています。小沢先生と一緒に実施した「えどがわアートプロジェクト」では、子供向けにメダル鋳造のワークショップを行った後、江戸川区内の文化施設の中に、ワークショップで子供たちと制作したメダルを使ったインスタレーションを展示しました。

学生だけでなく、外部から一般の人達を招いた見学会などは実施されているのですか?

三枝:取手校地では、毎年12月に「アートパス」という取手校地独自の学園祭があって、そのときには外部の方も楽しめるようオープンキャンパスとワークショップを各工房でやっています。工場見学のような観光と組み合わせた企画などの話もあるので、コロナが落ち着いた際は、ぜひそういった企画もやってみたいですね。

最後に~展示に対する思い~


展示風景

最後になりますが、本展「密 IX〈ミックス〉取手校地工房スタッフによる、創造の思索展」を見に来る来場者に向けて、メッセージを頂けますか?

田中:アートファンの方や内部の学生分け隔てなく、いろんな方に展示を見ていただきたいです。学内では、工芸科など、今は専門的に一つの分野だけに取り組んでいる人には、特に見てもらいたいですね。分野横断的な作品や展示がちょっとした刺激になってくれたら嬉しいですね。

三枝:作品展示を行う上で、作品の上に作品を載せるといったタブー的な試みへ挑戦したことも、一つの鑑賞ポイントとして見ていただきたいですね。また、ありがちな言葉かもしれないですが、わりと「素材感」を感じられる作品が多いかなと思います。素材と素材のリンク、コラボみたいなものが一つの見どころだと思います。作品に触っていただくことはなかなかできないかもしれませんが、素材のスケール感や重さなども感じてもらえるといいですね。

インタビューと同時に、共通工房の各工房内を見学させていただきましたが、共通工房見学は、一種のカルチャーショックに近い驚きもありました。工場顔負けの専門的な機械設備が揃っており、意欲のある学生にとっては可能性が詰まった刺激的な空間だと感じました。

共通工房のエッセンスが詰まった本展は、藝大の「奥の院」でもある取手校地の雰囲気や魅力が「密IX」された面白い展示に仕上がっています。ぜひ、こちらのインタビューと共に、藝大アートプラザで作品を見て、共通工房の魅力を肌で体感してみてくださいね!

●三枝 一将プロフィール

1997 年  東京藝術大学大学院美術研究科修士課程 鋳金修了
1997 〜2013年 同大学工芸科にて助手、講師、助教を務める
2007 金沢まちなか彫刻作品国際コンペティション2006 最優秀賞
2013 第29回佐藤基金淡水翁賞 最優秀賞
2014 〜 2015年 文化庁在外研修員としてイタリアにて制作
2016 〜 東京藝術大学 藝大ファクトリーラボ マネージャー、RESONANCE MATERIALS Projectプロデューサー

●田中 航プロフィール

1978 年  東京都生まれ
2000 桑沢デザイン研究所中途退学
2003 サロン・ド・プランタン賞受賞
2005 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程工芸専攻鍛金 修了
2006~12 ゲーム制作会社勤務
2013~15 東京藝術大学共通工房金工工房金工機械室 教育研究助手
2016 年~ 同大学共通工房金工工房金工機械室 非常勤講師

【主な展示】

2014 年  夏の芸術祭2014(日本橋三越)
鍛鋳彫木塗石 -東京藝大取手共通工房教員展-(藝大アートプラザ)
2018 RESONANCE MATERIALS Project ~素材の乗算~(OPIFICIO 31/ミラノ)
2019 RESONANCE MATERIALS Project ~Sensory~(Spazio Rossana Orlandi/ミラノ)他


「密 IX〈ミックス〉取手校地工房スタッフによる、創造の思索展」
会期:2021年7月16日 (金) - 8月22日 (日)
営業時間:11:00 - 18:00
休業日:7月26日(月)、8月2日(月)、10日(火)~16日(月)
入場無料、写真撮影OK


取材・文/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)

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