第14回藝大アートプラザ大賞展出品作家インタビュー チェ・ハナさん

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ブロンズを鋳造した花瓶「祈り」で、堀江敏幸賞を受賞したチェ・ハナさん。インタビューをしたときは、藝大アートプラザと目と鼻の先にある正木門のところで、「祈り」と関連する修了作品も展示されていました。両方の作品に込めたチェさんの思いとは……。

堀江敏幸賞を受賞した感想を教えてください。

いままでも公募展に出品して入選したことはあったのですが、賞をもらうのは初めてでしたので、嬉しかったです。また、賞のなかでも学外のゲスト審査員の方に選んでいただいたということは、美術や鋳金を本業にしている人ではない人に認められたということなので、それも嬉しかったです。美術関係者ではない一般の方に見せる機会はいままであまりなかったので、自信が持てるようになりました。

チェ・ハナ「祈り」
チェ・ハナ「祈り」

積み上げる形がテーマなのですか?

日本に来た当初から、塔や石を積み重ねることに興味を持っていました。仏塔、ピラミッド、石塔など、上に積み重ねたかたちには、古来、空に自分の祈りを捧げようとする意味が込められています。そこを出発点に作品をつくりたいと思いました。まず、積み重ねるパーツが一つ一つに分かれている作品を考えました。外に展示している修了作品はこのようにしてつくったのですが、組み合わせる自由がある一方、バラバラになってしまったり、紛失する可能性もあります。そこで「祈り」は修了制作と雰囲気は同じにしながらも、一つのパーツにして「花瓶」という用途のある工芸品的なものにしようと思いました。

韓国にも五重塔があるのですか?

韓国の寺には必ずと言ってよいほど、石でつくられた塔があります。日本の五重塔みたいなものです。中には金属製の供養塔が収められていることもあるのですが、私は韓国にいたときにそれらを再現する仕事をやっていて、それをきっかけに組み立てる塔に興味を持ち、現在の研究をし始めました。

日本の神社でも、拾ってきた石を積み上げて1円玉を乗せたりした石の塔がありますよね。それも天にメッセージを届けるイメージがあるのですかね。

神社などにあるそういったものも、石一個一個に願いを込めているのだと思います。人々の祈りはみな違うので、私の作品の場合は積み上げるパーツも少しずつ形を変えています。

「祈り」はとても端正なかたちですね。どうやってつくるのですか。

蝋真土鋳造法(回転体)という、茶釜などをつくるときの技法でつくりました。「真土(まね)」は、川砂や土をまぜた鋳物に適した伝統的な土です。その土の真ん中に棒をさして、板状の型をぐりぐりと360度回しながら、中子をつくります。さらに、それよりも2~3mmくらい大きな型をつくって、中子に蝋を貼って、中子と外の型との間に金属を流して鋳造します。型を回転させているので、蝋を触って型を作るものよりもきれいなかたちになり、安定感がでます。

表面につやつやした部分やざらざらした部分がありますね。

全体として1つのパーツではなく、細かなパーツが組み重なっているように見せたかったので、着色した後の磨き方を変えています。外で展示していた修了作品は、パーツごとに素材や着色法を変えているので、もっと違いがわかるかもしれません。

審査員のうちの一人は、「祈り」が仏具に見えると言っていました。

この作品を買ってくださった人も、これを仏具として使うとおっしゃっていました。どこにも説明を書いたわけではないのに、よく、仏教の祈りをイメージしてつくったものだと感じてくださったなと思います。

韓国の大学でも鋳造の勉強をしていたのですか?

韓国の学校では漆と彫金を勉強していました。交換留学で藝大の鋳金研究室に研究生として来て、そのときに「私には鋳金が合っている」と直感しました。藝大以外で鋳金を専攻として学べる大学は、日本でも鋳物の産地にあるぐらいですし、韓国の大学にはもっとありません。韓国にも鋳金という技法自体はありますが、工業製品をつくるためのものという感覚が強いです。土の型を使ったり、昔ながらの技術は工業製品をつくるためには効率が悪いのでどんどんなくなっています。藝大では伝統的な技法を守っていて、それを勉強できるので、大学院は日本に行ったほうがよいと思いました。

チェ・ハナ

今年度で卒業ですね。

今年で修了して韓国に帰ります。このシリーズは好きなので今後も続けていきたいです。いままでは修了作品のためにオブジェをつくってきたのですが、今後は工芸品のような用途のあるものをつくりたいなと思っています。花瓶だけではなくて、もうちょっと大きいものとか、着色で雰囲気を変えようと考えています。頑張って名前が日本まで聞こえるようにしないといけないですね。

●チェ ハナプロフィール

1991 年  韓国生まれ
2015 韓国文化大学伝統美術工芸学科(彫刻)卒業

2020年現在 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程工芸専攻2年


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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