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学生のうちにギャラリーで展示を経験すべき、その理由。「haco -art brewing gallery-」小能一樹さんに聞く

ライター
森聖加
関連タグ
谷中 インタビュー ギャラリー

台東区谷中の「haco -art brewing gallery-」は、大正時代に建てられた二軒長屋の一戸をリノベーションして営むギャラリーだ。東京藝術大学上野キャンパスからは歩いて3分ほどのロケーション。2021年3月に本格始動したこの場所は、東京藝大絵画科油画専攻卒業の小能一樹(このう・かずき)さんが運営をしている。ギャラリーはだれもが利用可能だが、小能さんは特に美術大学在学中の学生に声がけをし、展示を行う。その狙いとは? 

展示の《きっかけ》を後押しする場として

「ギャラリーで個展、グループ展を開く」。作品を制作し、発表の場を考えるとき、多くの美大生の頭にこの選択肢が浮かぶことだろう。「作家として活動したいという気持ちは、特に藝大の学生は高いと思います。ただ、実際にギャラリーでの展示となると、きっかけがありません。自分で探せばいくらでも借りられる場所はありますが、動く勇気がなかったり、作家活動はしていても展示を面倒に思う人もいます」と小能さん。その肌感覚では、藝大生が在学中にギャラリーで展示を経験する割合は、学部にもよるが50%弱ではないか、と話す。

「haco」展示風景 写真提供/haco -art brewing gallery-

小能さん自身は学部3年生のときに、友人との2人展を銀座の「ギャルリー志門」で初めて開いた。「友人とは早い時期から展示をしようと話してはいたのですが、踏ん切りがつかなくて。3年生になった時にやってみようと、なけなしのお金をはたいてギャラリーを借りました」

自らが描いた作品を壁面に展示することは大学でも当然、経験はしていた。しかし、「実際に試みると、ギャラリーによって空間の大きさが異なり、壁面の印象がまるで変わることに気付かされます。ギャラリーは白い壁であることが多いですが、《白》といっても微妙な違いがある。室内寸法を見て配置を決め、作品を現場に置いてみて『なんかこの作品じゃないな』と感じたり、計画していた配置も違うように思えてくるんです」。搬入の段階から予想を上回ることの連続は、行動を起こして得られた実感だった。「作品を飾ることはとてもシンプルなことですが、シンプルがゆえに難しい」と小能さん。

規模の大きなギャラリーの利点で顧客が多く、2人展には400人ほどの来場があり、手ごたえを感じることができた。「自分のことを振り返っても展示は一大イベントでした。ですから『haco』では学生が展示に踏み切るためのきっかけを作れれば、と活動をしています。学生という身分も比較的守られた、自由に動ける時間があるうちに展示にチャレンジすることを勧めます」

取材した当日は、東京藝術大学絵画科油画専攻3年生の義村環さんの初個展「Pretties」が開かれていた(2022年8月2日―8月7日)

若い人の才能を醸し、成長をうながす「haco -art brewing gallery-」

ギャラリー「haco」がある、通称「谷根千(谷中・根津・千駄木)」と呼ばれる地域は、根津で生まれ育った小能さんのまさに地元。4軒隣には大正時代の古民家を活用した「カヤバ珈琲」があり、歴史ある銭湯を改装した現代アートのギャラリー「SCAI THE BATHHOUSE(スカイザバスハウス)」もすぐ近くに。多くのレトロ建築が街の顔となるエリアに遺された二軒長屋の意義ある活用を考えていたのが、小能さんが属する株式会社Brewの代表、小松栄子さんら運営メンバーだった。

「代表と母が知り合いで、ギャラリーとしての活用を考えているものの運営が進んでいない場所がある、と私が藝大生だったので相談を受けたのです。それで、私のほうから声を掛け、『haco』の運営を担うことになりました」。社名やギャラリー名にあるbrewには醸すという意味がある。「若い世代に私たちのこれまでの経験を伝えて、若者が何かに取り組むためのきっかけを作りたい。そういう気持ちで立ち上げられた会社です。若い学生やアーティストの作品が醸され、におい立つように成長する。そのサポートを『haco』ではしていきたい」

ギャラリー「haco」外観(右)。東京藝大と「SCAI THE BATHHOUSE」をつなぐ動線上にあり、通りに面しているので、地域住民、アート鑑賞を趣味とする人、アートコレクターなどがふらっと立ち寄ってくれるそうだ

個展開催は「現在の自分の立ち位置」を知る機会

ギャラリーでの展示で得られるものは具体的には何だろうか。「自らを客観視でき、現時点の自分の立ち位置が明確になること」、と小能さんは強調した。「作品を制作するときは客観視できているかが大事です。ギャラリーで展示をするとさまざまな人に観てもらえ、価値観の異なる見方、感じ方による意見を直接聞くことができます。自分では気付けなかったことに気付けます」。

展示は一旦の区切り、作品に結末をつけることだとも言う。「制作を続ける中で作家は変化をしていかなくてはならないし、また、していくものです。けれど、変化を起こすのに、こもって制作を続けるだけでは自分がどこに向かって行きたいか、どんなことをしたいのかが分からなくなる時がある。観てくださった方々の意見を聞き、『どういうことだろう』と考えるうちに、自分や作品のことが客観的に見れるようになり、進むべき方向がクリアになっていきます」。展示をし俯瞰をすると、もっとこうしておけば良かったと感じることは、しばしば。「展示は、その連続」なのだ。

同じ作家としての立場から、できる限りのアドバイスを

「haco」は建物の構造はそのままに、古くからの素材を生かした空間だ。天井はぶち抜き、高さを上げているので広がりがある。「うちは他のギャラリーに比べて自由度が高いと思います。ギャラリー内に壁を立てることも可能です。スペースも独特なので、やりたいことがあればどんどんトライして欲しいですね」。展示は絵画などの平面作品が多いが、彫刻や工芸の展示も行っていて、ジャンルは問わない。

学生が初めてギャラリーでの展示を考えるとき、設営の仕方だけでなく、作品の値付けも頭を悩ませる点だろう。「値付けは大学では教わりませんから、知らなくて当然です。搬入のときに立ち合って作家さんと話しますが、アート市場ではこんな付け方をする、今後に役立つ値付けはこう、と具体的にアドバイスします」

ただ強制はせず、あくまで一般的な付け方を伝えるそうだ。「最初は高めに値を付けがちなのですが、それは普通かなと思います。いいものをつくり、価値があると現状考えるものを出展しているわけですから。作家はそれぞれにプライドがありますし、そこを尊重して。プライドがあることも、僕自身、作家として活動しているのでわかる部分が大きい。まったく知らない人からは、無神経に言われることもありますので、同じ立場にあることを評価してもらっています」。

小能さんの作品。近年はアクリル絵具や押し花を使い、多彩な表現に取り組む

利用料金は平日が8800円、土日祝の休日は1万1000円(ともに税込み)。6日間では5万7200円となる。スタートから間もないことと、作家の在廊が必須なことを加味して現状の設定となっているが、今後は価格改定の予定だ(学部生には学割あり)。

「ビジョンとしては、今、登竜門的な立ち位置にある『haco』の知名度を上げ、スペースもよりよいものにして、作家がここでの展示経験を踏まえ外に飛び出し活躍してくれたらうれしいです。学生に言えることは、hacoでなくていいからとにかく展示をしてみて欲しい。行動しなければ、ズルズルと学生を続けることになり、成長もしづらい。作家活動している/していく実感を得るためにも、一歩踏み出してみてください」

haco – art brewing gallery -基本情報

住所:東京都台東区谷中6-1-27
開廊時間:11:00~19:00
日・月・祝日 休廊 ※展示替えの間は休廊
公式サイト https://www.haco-yanaka.com/about

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