筋肉美を東西の画家はどう描いた?西洋絵画 VS. 日本美術筋肉対決!【誰でもミュージアム】

ライター
安藤整
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コラム 誰でもミュージアム

筋肉は決して裏切らない——。

世の中で真に信じられるものは、もしかすると自ら鍛え上げた筋肉だけかもしれません(悲観?)。

この筋肉の美しさに、古今東西多くの絵描きが魅了されてきました。
特にかなりの「筋肉フェチ」と後世に伝わるのが、ミケランジェロ。

「美とは、余分なものの浄化である。(Beauty is the purgation of superfluities.)」

という彼の名言は、贅肉を極限まで削ぎ落としていくボディビルの格言にも聞こえます(こじつけ?)。

今回の誰でもミュージアムは、西洋絵画と浮世絵の筋肉美対決。

対決とは言ったものの、巧拙よりも画家が人間の体のどんな部分に注目し、それをどのように表現しようとしていたのかを比べてみてもらえればと思います。

腹筋対決

アルブレヒト・デューラー『アダムとイブ』(1504)シカゴ美術館

デューラーはルネサンス期に活躍したドイツ(当時は神聖ローマ帝国)の画家で、美術史上非常に重要な画家の一人。版画をひとつのジャンルとして確立させたことでも有名で、この版画も彼の代表的な作品。筋肉の描き方はかなり精密で、当時の理想を表している。鍛えるのがかなり難しいと言われる腹斜筋もガッツリ割れている。アダムは斜め腹筋も結構しっかりやるタイプかも。

月岡芳年『魯智深爛酔打壊五臺山金剛神之図』(1887)シカゴ美術館(一部)

腹筋を描いた浮世絵を見つけることができず、日本人はあまり腹筋に興味がなかったのかもしれないということに思い至った一方で、ハイテンションにデフォルメされた腹筋を見つけた。横隔膜のあたりに横向きにシックスパックが出来るとは。こう見ると、筋肉は人を飾り立てるコスチュームの意味合いも持っているのかもしれない。ちなみに、「ろちしん らんすいし ごだいさん こんごうじんを うちこわすのず」と読むそうです。 

背筋対決

ミケランジェロ『リビアの巫女のための習作』(1510-11)メトロポリタン美術館

誰もが知るルネサンスの大巨匠・ミケランジェロは筋肉の描写にむちゃくちゃこだわった。絵画・フレスコ画だけでなく、ダビデ像をはじめとする彫刻の筋肉も見どころが多い。この習作も、研究への熱意が伝わってくる。肩甲骨を覆っている僧帽筋も緻密。ただし、この習作を経て完成した『リビアの巫女』は、巫女というだけあって女性。……え、女性!? システィーナ礼拝堂の天井に描かれています。

月岡芳年『神明相撲闘争之図 四ツ車大八 小天狗平助』(1886)ロサンゼルス・カウンティ美術館

こちらも月岡芳年の作品。幕末から明治中期にかけて活動した浮世絵師である月岡芳年は、歌川国芳に師事し、先ごろ直木賞を獲得した澤田瞳子氏『星落ちて、なお』の主人公・河鍋暁斎らとは兄弟弟子の関係にあった。力士の僧帽筋を色分けして描いていて、筋肉だけでなくツヤ感を求めているところが出色。ボディビルダーも大会では光ってるし。

マッスルとマッスルのぶつかり合い1

ドラクロワ『ヘラクレスとアンタイオス』(1852)メトロポリタン美術館
ウジェーヌ・ドラクロワはフランスのロマン主義を代表する画家。代表作『民衆を率いる自由の女神』は「フランス革命」をイメージすると誰でも必ず思い浮かぶ名画。この絵で描かれているのは、ギリシャ神話に出てくる英雄ヘラクレスと、巨人アンタイオスの決闘の場面。猛烈に強かったアンタイオスだが、大地に足がついていないと力が発揮できないことを見抜き、ヘラクレスは彼を持ち上げて絞め殺す。英雄はスネの筋肉「前脛骨筋」もしっかり発達している。

葛飾北斎『高根山与一右ェ門 千田川吉五郎』(1790~93)メトロポリタン美術館
浮世絵の大家・北斎は風景だけでなく相撲力士も多く描いている(というかありとあらゆるものを描いている)。がっぷり四つの大相撲で、しっかり踏ん張る千田川の両足の筋肉に注目。膝下の「下腿三頭筋」つまり「ヒラメ筋」と「腓腹筋」をしっかり描き分けていて、筆の運びはさらさらっとしているのに張り詰めた筋肉の緊張感が伝わる。往年の千代の富士関の下半身を彷彿させる天才・北斎の観察眼。

マッスルとマッスルのぶつかり合い2

ヘンリー・フュースリー『ディオメーデースの人喰い馬を殺すヘラクレス』(1800)シカゴ美術館
フュースリーはイギリスで活躍したドイツ系スイス人の画家。19世紀頃の伝統的なヨーロッパ画壇では聖書や神話の場面をモチーフにするのがセオリーなので、筋肉を探すとかなりの確率でギリシャ神話最強の英雄「ヘラクレス」に行き着く。「西洋画に描かれたマッチョ、だいたいへラクレス説」を提唱したい。

月岡芳年『芳年武者无類 野見宿称・当麻蹴速』(1883)国立国会図書館デジタルコレクション
ギリシャ神話がヘラクレスなら、日本書紀は野見宿禰(のみのすくね)でしょう(無根拠)。当麻蹴速(たいまのけはや)と相撲をとるため、垂仁天皇の命により出雲国より呼び寄せられた野見宿禰は、蹴速と互いに蹴り合った末にその腰を踏み折って勝ち、蹴速が持っていた大和国当麻の地(現奈良県葛城市當麻)を与えられたという。相撲だけど大昔は蹴るのもOKだったんですね。蹴速の「下腿三頭筋」を見ると、「岩のような筋肉」というイメージを持って描いたのであろうことが想像できて面白い。というか、腰を「踏み折る」ってどういうこと…???(恐ろしすぎる)。

彫刻対決

オーギュスト・ロダン『アダム』(1880もしくは1881)メトロポリタン美術館

『考える人』で有名なロダンの作品。あの『考える人』のポーズ、やってみるとかなりつらく(左膝の上に右肘を乗せている)、不自然だということは有名。このアダムも日常生活では絶対しないポーズ。でも「なぜロダンはこんなポーズの作品を作ったのか?」と考えると、「もしかして上腕二頭筋から前腕への流れを見せたかったんじゃないか?」という推測も浮かんでくる。やはりロダンには「見せたい筋肉=推し筋」があるのだろう。

作者不明『仁王像』(14世紀)アムステルダム美術館

作者は不明だが、口を閉じておられるのでこちらは吽形像。対になる阿形像も同美術館に保存されている。仁王像で最も有名なのは東大寺南大門の金剛力士像では。同像は運慶・快慶の作。筋肉の描写から「あ、これは慶派の作品だねー」などと言えるようになってみたい(勉強不足ですみません)。

筋肉は美しい——?

人体を緻密に観察して描いた筋肉。デフォルメされた筋肉。

絵画や彫刻の中でさまざまな描かれ方をしている筋肉に注目してみると、単なる「力強さ」の表現としてだけではなく、画家や彫刻家がそこに「美しさ」を見ていたであろうことが想像できます。

「腕の筋肉、絵で描いてみて」と言われても、スラスラ描ける人ってなかなかいません。

一度じっくり眺めてみると、画家たちが見た「美」を見つけることができるかもしれません。

「美」は案外身近なところにあるのです。

本記事は「和樂web」の転載です

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