美術館の絵ってどうやって収集しているの?アート作品購入の極意を聞いてみた!

ライター
黒田直美
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コラム

多くの美術館では、この時期『新収蔵品展』を開催していますが、そこでふつふつと湧いてくるのが「新しい作品はどんなタイミングで購入しいるの?」「どうやって選んでいるの?」といった疑問。美術館の運命をも変えるかもしれない収蔵品がどのように購入されているのか。専門家である豊田市美術館の北谷正雄学芸員に、ズバッと聞いてみました。私たちが絵を買う時のヒントにもなりそうです!

豊田市美術館「新収蔵品展」会場風景

収蔵品収集は学芸員の地道な画廊巡りから始まる

――豊田市美術館では『新収蔵品展』を開催していますが、購入する美術品に関しての特徴などあれば教えていただけますか。
北谷 豊田市美術館では、作家や作品の理解が深められるよう、一人の作家あるいは一つのテーマについて、時代や技法、表現の異なる複数の作品を収集することを心がけています。これはいろいろな角度から紹介することで、鑑賞する側も作品の比較が出来たり、作家の特徴がより理解できるようにとのことからです。

――購入する作品はどのように決められているのですか。
北谷 美術館の学芸員は、常にいろいろな作家たちの作品をリサーチし、美術館の所蔵品として収集したい、購入したいという作品のリストを作っています。その中で、私たちは公立の美術館ですから、予算として毎年決められた購入額の範囲内で、選んでいくことになります。

――具体的にはどのくらいの点数を購入されるのでしょうか。
北谷 作品によって価格も違いますし、予算も年度ごとに増減があったりしますので、毎年、何点というのは決まっていません。今年度は19件、立体作品から絵画、素描などさまざまな作品を購入しました。

――実際の購入までの流れを教えていただけますか。
北谷 まず、個々の学芸員が収集方針に沿って、作家をリサーチし、画廊や作家のアトリエなどで作品を見て回ります。今まで、コレクションしてきた作品との関係を考えながら、「この作品はうちの美術館にあると活きる」とか、「この作家は重要だから収集しよう」という感じで、調査研究した作品を会議に持ち寄ります。全員でその作品についての議論を重ね、作品を絞り込んで購入候補のリストを作り上げます。最終的に、第三者機関である「美術品収集委員会」に諮り、豊田市美術館の収蔵品としてふさわしいと認められた作品が、購入の手続きに入っていくんです。

作品が発する力強さや勢いが決め手となる

――豊田市美術館は、現代美術を中心に収蔵されていますが、購入する場合、どこに注目していますか。
北谷 作品をぱっと見て、力強さを感じるとか、惹かれるものがあるとか、まずはそういう感覚で見ていきます。言葉では説明しづらいですが、光っているもの、新しい表現、今までにないコンセプトなどです。その裏付けとなるのは、学芸員がこれまでどれだけ多くの作品を見てきたか、美術の歴史を学んできたかといった自身の蓄積によります。

ただ、私たちも専門家ではあるけれど、今まで知らなかった作家の作品を一目見て「これはこういうことなんだな」と100パーセント理解できるようなことはないです。何か惹かれるものがあるが、どういうコンセプトなのかなということを作家と直接話していきます。その中で「うちのコレクションと並べると、今の時代をより深く、伝えることができる」とか、「美術館に置くと、他の作品を刺激して、より良い展示が展開できそうだ」といったことを考えながら、選んでいくんです。作家と話をしながら作品に近づき、理解を深めていくことも大切です。

豊田市美術館「新収蔵品展」会場風景

私たちは50年後、100年後に評価される美術品を選んでいる

――昨今、予算が厳しいということをよく聞きますが、美術館が購入を続けていく意義ってなんでしょうか。
北谷 一般論として、美術館が購入を続けないということは、世の中に美術品はもうこれ以上要らない、作家たちに作品を作るな、と言っているようなものです。美術館が「今までの収蔵品だけで充分です」と言ってしまったら、作家は必要ないと言われているようなものではないでしょうか。今の世代だけでなく、次の世代の新しい作家たちも作品を生みつづけるわけで、世の中に美術館がある限り、作家たちが作り出す作品を収集し、後世に残していくということが役割でもあるわけです。私たちが選んだ作品が50年後、100年後にも評価されている、そう願いながら収集しています。

お話を伺った豊田市美術館の北谷正雄学芸員

――美術館の収蔵品は、どこで購入することが多いのですか。
北谷 多くは画廊になります。作家から直接買うということも稀にありますが。また、卒展などを観に行き、若い作家がその後どう伸びていくかを追いかけることはあります。作家には画廊がついていることが多いので、画廊で展覧会を開きながら、作家も育っていきます。

――最近は作家自身がネットなどで、直接発表の場を持ったりもしますが、それに関してはどう思われますか。
北谷 先に名前が出てしまって、マーケットに乗っかってしまうと、美術の評価とは関係なく、売れることばかりに注力してしまうこともありますよね。今の若い作家たちの作品を見ていると、こじんまりしているというか、内向きな作品が多いなという気はしています。個人的なモチベーション、関心を元にしながらも、それを普遍的なものへと昇華させ、さらに個性的でオリジナルな表現を追求してほしいですね。

豊田市美術館「新収蔵品展」会場風景

アートの購入はズバリ所有欲。好きか嫌いかそこが大事

――アートを個人で購入する人も多くなっていますし、アート市場と呼ばれるように購入することが投資のように言われることもありますが、そのあたりはどう思われますか。
北谷 個人的な意見ですが、美術品に投資をするというのは、やはり抵抗がありますね。作家を育てるための投資ならわかりますが、出来上がった作品に投資するって、金銭的な価値でしか見てないってことになりますよね。アートが好きな人は、作品を自分の手元に置きたいという所有欲のようなもので購入すると思うんです。例えば、スニーカーを収集している人と同じように。そういう感覚で買ってもいいのではないかなと思います。さらに、作家に投資するという気持ちで買うのであれば、美術文化を育てることにも繋がっていくんですよね。

――アートを買うということも含め、アートの見方がよくわからないという人も多いのかなと思うのですが。
北谷 美術館に来てもどうやって鑑賞したらいいかわからないという人はいます。私は「自分の部屋に飾りたいかどうか、という感覚で見てください」とよく言うんです。そういう視点で見ると作品に近づきやすい。普通の鑑賞でも、購入する場合でも、好きか、嫌いか、まずはそこから始まると思います。美術館で200点ぐらいの作品が展示されている中で、全部好きになる人なんていませんし、その必要もない。その中に1点でも自分の好きな作品が見つかれば、今日の1日はとても実りあるものだったのではないでしょうかと伝えているんです。

――私自身も美術に対して抵抗感があって、それはなぜかと思ったら、私の学校の授業では「上手い」「下手」という評価でしかなかったんですよね。授業で、美術への親しみが湧かないまま大人になってしまった気がします。
北谷 日本の学校って、音楽の授業では楽譜の読み方、演奏や歌唱そしてレコード鑑賞の比重が多く、作曲の勉強はあまりしないですよね。でも美術の授業は、なぜか作ってばかりで、鑑賞の勉強をしないんです。でも世の中に出て、90%以上の人は鑑賞側に回るわけで、そこが教育できていないということにも問題があると思います。小さいうちから、アートに親しみ、触れる機会が増えれば、部屋にアートを飾りたいなという感覚も自然に身についていくような気がします。

豊田市美術館東口にて

info

豊田市美術館
〒471-0034 愛知県豊田市小坂本町
開館時間:10:00~17:30(入場は17:00まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)
公式サイト https://www.museum.toyota.aichi.jp/

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