台東区谷中。東京メトロ千代田線根津・千駄木のどちらの駅からも約8分、駅前の喧騒から少し離れた立地に、「大名時計博物館」はあります。
不思議な雰囲気が漂う門、草木が生い茂る庭を抜けた先で、時間が止まったような空間があなたを待ち構えています。
江戸時代の大名が愛用した時計がズラリ
こちら「大名時計博物館」は、江戸時代に大名お抱えの時計師が作った「大名時計」を展示しています。
なんの知識もなく見ても、その美しさに見とれてしまいますが、そのすごさやおもしろさを理解するため、江戸時代の時刻制度を知ることをおすすめします。
少々、説明します。
現在の日本において、時刻を示す方法は世界基準である「定時法」を採用しています。これは、1日を24時間に等分割する方法です。しかし、江戸時代まではそれとはまったく違った「不定時法」という方法で時間を数えていました。
不定時法とは、夜明けから日暮れまでの昼を六等分、日暮れから夜明けまでの夜を六等分した時刻です。季節によって、夜明け時間と日暮れ時間が変わるため、昼と夜で一時(いっとき)の長さも変わるのです。
江戸時代、庶民は城や寺、町などにある「時の鐘」で時刻を知りましたが、大名は時計師を雇い、時計を造らせました。
これら、江戸時代の大名時計を展示しているのが、大名時計博物館というわけです。
希代の趣味人、上口愚朗氏のコレクション
大名時計博物館は、地元谷中の陶芸家・上口愚朗(かみぐち ぐろう)氏のコレクションがベースとなっています。愚朗氏没後、愚朗氏の子息により勝山藩下屋敷跡に博物館が開館しました。
愚朗氏について、『嗤う茶碗―野人・上口愚朗ものがたり』という評伝が出版されており、「もともと最高級テーラーとして活躍したのち、古陶磁器の収集、作陶の世界に入り、大名時計収集といった趣味的世界に入った」と記述されています。
展示されるのは、東京都有形指定文化財88点を含む、櫓時計、枕時計など。ここでしか見られない希少なものも少なくありません。
お香を使う「香盤時計」、印籠型の時計なども
展示品を細かく見てみましょう。博物館の先代館長がそれぞれの時計について手書きの説明書を作成しているので、これを手がかりに鑑賞するといいでしょう。
まず目を引くのが、正面にある三つ葉葵の紋が誇らしげな「大型櫓(やぐら)時計」。
内部の柱に、「天保七年丙申十二月」と銘が記されているそうです。
こちらは、「枕時計」。
その名の通り、寝室の枕元に置くための時計です。和時計の動力は、大きいものは重り、枕時計のような小さいものはゼンマイを使います。枕時計一つとっても、天秤が1つだったり2つだったりするほか、デザインは多様。
小型で愛らしい「印籠時計」は、中に小型の大名時計が仕込まれた日本式の懐中時計です。
変わったところでは、香が燃える速さが一定であることを利用する「香盤(こうばん)時計」。
香炉の中に、香型とよばれる定規を使ってジグザグ模様に粉末状の香を埋め、一端から火をつけ、時刻を知るシステムです。
順路に沿って館内を見ると、最後の方に明治・大正時代の日本製時計もあります。このあたりまでくると、普段見慣れた時計に近くなってきます。歩数計や懐中時計船舶用標準時計などのコレクションもなかなかの見ごたえです。
すべて一点ものの大名時計を見に行こう
どの時計も製作技術、メカニズム、材質など、あらゆる角度から見ても魅力あふれる大名時計。工業的に大量生産されたものではなく、一点一点が職人たちの手造り。数は限られているうえ、明治6(1873)年に時刻制度が変わった時に廃品化したり、海外に流出したりしたものが少なくないため、現存するものは非常に貴重といえます。
優美で独創的な大名時計の数々を見学しに行ってみてください。
大名時計博物館 Information
住所:東京都台東区谷中2-1-27
https://t-navi.city.taito.lg.jp/spot/tabid90.html?pdid1=335