大学が開催する学園祭の中でも、東京藝術大学(藝大)で実施される「藝祭」は、規模や質、学生たちの気合などにおいて、特別な存在であり続けています。2022年度の藝祭は、9月2日(金)、3日(土)、4日(日)の3日間、現地とオンラインのハイブリットでの開催。実地での開催は実に3年ぶりで、大いに盛り上がることでしょう。
以下、藝祭実行委員会の皆さんに、藝祭の魅力や見どころ、藝祭に寄せる熱い思いなどを語っていただきました。
※アイキャッチ画像:藝祭2018「日本画・工芸・邦楽・楽理」による、烏天狗御輿。
前提:そもそも藝祭とは?
藝祭は、藝大の美術学部の前身である東京美術学校が開催した「第一回美術祭」に由来する学園祭です。第一回美術祭は1903年に開催されており、2022年の今年で実に119年目を迎える、大変伝統のある祭典です。藝大は、東京美術学校と東京音楽学校が統合されて一つの大学になったという経緯があり、藝祭も、美術学部と音楽学部の学生たちが共同で参加するイベントとなりました。
藝祭は、毎年9月上旬の3日間の期間に実施され、会場である東京上野にある上野キャンパスでは多種多様なイベントが行われますが、とりわけ有名なのは、ものづくりの達人が集結した藝大生たちによる、限りなくレベルが高い御輿(みこし)です。
藝祭の柱「御輿」とは?1年生が制作して自ら担ぐ、祭りの華
――藝祭の有名な御輿について、教えていただけますか。
藝祭実行委員会:御輿と、御輿の担ぎ手が着る法被を制作するのは代々1年生で、全員参加で製作にあたります。藝祭当日に御輿を担ぐのも1年生で、それ以上の学年は見守る形ですね。1年生は、御輿をつくることで縁ができます。
御輿のチームは4つに分かれており※、それぞれのチームで1体の御輿をつくるのですが、各チームは必ず美術と音楽の生徒が混合して組まれることになっていますので、どのチームでも美術と音楽の接点があります。例えば「日本画・工芸・邦楽・楽理」の御輿に関しては、パフォーマンスに際して音楽が和テイストであったりしました。
※御輿のチームは4つに分かれており……御輿のチームは、各学部学科をグループ分けして構成されている。2022年は「日本画・工芸・邦楽・楽理」「建築・油画・声楽・打楽器・オルガン・古楽・指揮」「デザイン・芸術学・作曲・弦楽器」「彫刻・先端芸術表現・管楽器・ピアノ・音楽環境創造」の4チームである。
御輿のテーマはコンペで選んで形にするのですが、制作が本当に大変で、1年生は入学して5か月程度で完成させなければならないので、学生生活で最初に突き当たる壁ですね。夏休みも帰省せずに制作しているとも聞きますし、過去には、藝祭当日に間に合わないかもしれないということで、泊まりで制作したこともあるようです。
そして藝祭の1日目に完成した御輿を担ぎます。上野公園の噴水の前で、法被をまとった学生たちが御輿と共にパフォーマンスを行うのです。今年は昼の13時くらいからの実施を予定しています。パフォーマンスの際の音楽は、その御輿を担当している音楽学部が作曲していることもあります。例えば過去には声楽であれば歌が入ったりもして、そのチームの特色が出るところでした。パフォーマンスも評価対象に含まれ、良かったものは授賞式で賞を与えられます。
――藝祭は2020年と2021年はオンラインでした。その間、御輿はつくらなかったのでしょうか。
藝祭実行委員会:どうしてもつくりたいという声はあって、昨年はマケット(模型)は制作頓挫し、御輿実物は結局つくれませんでした。今の学年ですと、4年生だけが御輿をつくっていますので、3年ぶりに制作する今年は、彼らにも手伝ってもらっていますね。藝祭実行委員会のメンバーの2年生も御輿はつくっていないのですが、昨年、一昨年と御輿を中心でつくろうとしていた学生たちが、御輿制作統括の先頭に立っている形になります。
なお、御輿をつくったり、御輿の上に乗りたくて藝大に入学した人もいると聞くぐらいなので、御輿にかける皆の熱意は非常に高いです。また、御輿の予算はあるのですが、そちらから出すというよりも、1年生によるカンパが主体です。今年は委員会からクラウドファンディングを行い、目標額は50万円だったのですが、皆さんに応援していただいて、最終的に250万円以上もの金額が集まりましたので、とても感謝しています。
御輿以外のイベントは?音楽学部・美術学部による魅力的な企画が目白押し
――御輿以外のイベントなどは、何が行われるのでしょうか。
藝祭実行委員会:藝大は、音楽学部・美術学部という2つの学部がある大学なので、音楽学部で有志の団体がホールで演奏会を行い、美術学部で作品展示などを行います。また、野外ステージもあって、音楽学部だけではなく美術学部のバンドなども参加して演奏します。
また、美術学部のキャンパスに「リブ居間」という休憩所を設けて演奏などを行います。例年、この空間はアットホームな雰囲気作りを目指しており、昨年は建築学科の一年生がつくった椅子などを置いていました。
その他、トークショー企画では、今年はゲストとして糸井重里さんをお招きしています。あとは「藝コレ」といって、出場者が野外ステージ上でパフォーマンスを行う演目もありますね。この企画の内容と致しましては、他の大学ではミス・ミスターコンテストなどを行っていますが、藝大の場合は、作品の美でコンペティションを行います。美術学部も音楽学部も関係なく出場します。審査の際の審査員を依頼するのも藝祭実行委員会で、今年は「コンドルズ」の近藤良平さんに審査員をやっていただきます。
今年は状況が状況ですし、食事関連のものを出すことは難しいのですが、来年以降には出せる体制をつくろうと考えていますね。
――藝大は豪華な出演陣が期待できますよね。そういったイベントを企画・運営する藝祭実行委員会とは、どのような組織なのでしょうか?
藝祭実行委員会:藝祭実行委員は、2年生が主体となって構成されています。1年生の時に委員会へ入り、2年生の後についていろいろ学びながら活動していくイメージですね。今年は1年生が100人くらい、2年生は40人くらいが参加しています。
委員会は12課くらいで構成されていて、例えば藝祭の中の大きなイベントはイベント課が取りしきっています。そのほか、パンフレットやポスター、ウェブサイトの構成やグッズなど、ビジュアルに関わるところは広告プランニング課が担当しているのですが、そこにはデザイン科の学生がほぼ全員関わっていますね。
――藝祭の2022年のテーマは「ふれる」だとお伺いしました。そういったテーマはどうやって決まるのでしょうか。
藝祭実行委員会:テーマは募集ではなくて、藝祭実行委員会内の企画課が決定します。「ふれる」というのはいろいろな意味があると思うのですが、今回はこのコロナ禍において、「ふれる」ということはどういうことか、という問いをもう一度考えようと思ってこのテーマにしました。
――今年の藝祭は現地開催を予定しているかと思います。2年間リモートが続いた後の藝祭はとても重要なものですね。
藝祭実行委員会:ええ、藝祭はいろいろと破天荒なことをやっていたようで、昔の話を聞くと、最後に御輿を壊して不忍池の中に飛び込むようなこともやっていたそうです。今はそんなことはできないですが、この時代だからこそできることをやりたいですね。
――是非、学長ですらびっくりするようなことをやってほしいと思います。
藝祭実行委員会の皆さんが語る、藝祭への思い
今回お話を伺った藝祭実行委員会の皆さんに、藝祭への思いや、藝祭にかける情熱、今後の展望などを語っていただきました。
■藝祭実行委員会 委員長 音楽学部 楽理科 安間誉和さん
藝祭はこの2年間オンライン開催だったので、藝大生の中で藝祭の認識も変わっていると思います。それを踏まえつつ、過去の藝祭の話を聞くと、藝祭には爆発力があるのだと実感しています。
藝祭は、今年は9月2日(金)、3日(土)、4日(日)に開催されますが、学生には、1年間を通して、頭のどこかで藝祭について考えていてほしいですし、藝祭はそういった位置づけのものであることが望ましいです。藝祭は、学生がすべて運営しているものであり、藝大生全員にとってのよりどころになってほしいですね。その意味で、今年の藝祭は特別なものですし、気合を入れなければと思っています。
■藝祭実行委員会 副委員長 企画課副課長 音楽環境創造科 遠藤玄大さん
僕は裏方のほうで、上野公園のパフォーマンスなどを担当しています。また、今年から宣伝戦略班を立てて、皆で宣伝について考えました。現状はYouTubeも動いていますし、SNSも計画を立てて発表していったところ、フォロワーなども順調に伸びました。
宣伝などを行う中で、藝祭は藝大生が行うものではありますが、藝大生だけのものではないということを実感しました。藝大の中で連絡を取るのも、外部に届けるのも、それぞれに難しい部分はありますが、接点を見つけるのは楽しいですね。
今回、企業さんや商店街さんなどにお声掛けをしたら、参加してくださる方もいらっしゃいましたし、いろいろな方々にどうやって情報を届けるのかを考えています。
■藝祭実行委員会 広報課長 音楽学部 声楽科 宮本芽衣さん
私は広報課で広告掲載などを担当し、SNSで外部発信などを行っています。藝祭は学生が自分の意志で行うものであり、そうした意志の橋渡しとなる場に関わることができて、とても良かったです。
芸術は作者の心を高めるものであると同時に、世界に触れることで、より広がるものです。藝祭は、芸術を世界に発信する一つのきっかけであると考えています。コロナ禍で「不要不急」という言葉が定着している中、今回、多くの方に応援していただいて、芸術は必要なものだと言えるし、藝祭を行って発信することは胸を張っていいことなのだと感じました。藝祭という場は、学生にとっても見てくださる方にとっても、特別なものだと思っています。
■藝祭実行委員会 全体会計 音楽学部 楽理科 相川咲季さん
昨年の2021年は夏頃に感染が急拡大してしまい、準備をしていた方々の悔しさを目の当たりにして、やりきれない気持ちに共感しました。
私は、御輿はつくっていないのですが、運営の中で会計という形で携わらせていただく中で、藝祭ができないかもしれない、今後も難しくなっていくかもしれない、という危惧を抱き、クラウドファンディングを行いました。クラウドファンディング実施にあたり、最初は不安だったのですが、そこでいただいたメッセージが温かくて大変励みになりましたし、現地開催はやっていいことなんだ、藝祭はいろいろな方に応援されているんだと実感しています。
「藝祭2022」詳細
【日程】2022年9月2日(金)、3日(土)、4日(日)
【会場】上野キャンパス
【アクセス】〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8
JR上野駅 公園口から徒歩10分 東京藝術大学上野校地 案内地図
【公式サイト】https://geisai2022.geidai.ac.jp/
【公式SNS】
Twitter @geisai_koushiki
Instagram @geisai_koushiki
YouTube https://www.youtube.com/c/geisaiofficial
【御輿Twitter】※藝祭終了後、御輿は買取先を募集することもあります。
2022 日本画×工芸×楽理×邦楽 @2022nkghmikoshi
藝祭2022 CR東京藝大 神輿・法被制作隊(建築・油画・声楽・打楽器・オルガン・古楽・指揮) @GeiSai2022_
藝祭神輿2022『蝶獣御輿』デザイン&芸学&作曲&弦楽 @geisai_DGSG
2022藝祭『地球爆発太郎』御輿(彫刻・先端芸術表現・管楽器・ピアノ・音楽環境創造) @senkanchoonpi