芸術家たちの頭の中が丸裸に?藝大アートプラザ初のこころみが面白い

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藝大アートプラザ
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今年度は約2ヶ月間のロングラン開催となっている「第15回藝大アートプラザ大賞展」。早くも会期の半分が終了しました。緊急事態宣言下であっても、熱心なアートファンの方が連日展示を見るために足を運んで下さっているようで、日々値札には売約済を表す赤いシールが増えていっています。

さて、そんな中展示後半の目玉として始まった企画が、「アートのかけら-1.1万円アートマーケット-」という展示。タイトルが示す通り、展示室の窓際にズラリとならんだ作品群は、どの作品も一律11,000円(税込)で統一されています。

各出品作のキャプションを見てみると、全て「第15回藝大アートプラザ大賞」に出品した学生さんの手によるものばかりです。

なぜこれほどお手頃価格になっているのかな…と思ってスタッフの方に聞いてみたところ、この企画は藝大アートプラザ大賞入賞者に声をかけ、本展出品作を作り上げる中間過程で構想した下絵やドローイング、スケッチといったエスキース類や習作群、あるいは派生作品群などを対象に、「一律11,000円」という手に取りやすい価格で販売してみよう、という藝大アートプラザ初の実験的企画なのだそうです。

なるほど、従来なら作品未満の存在として、作家の手によって処分されてしまっていたようなアートの「かけら」であっても、そこに価値を感じて買ってくれるお客さんがいるかもしれないですよね。

では、早速どんな作品が出ているのか、いくつか見ていくことにしましょう!


今宮 有葉「愛の夢 第3番 初期エスキース、色彩練習、転写用線画」11,000円(税込)

まずは、こちらの作品。最終成果物としての入選作は、フランツ·リスト作曲「愛の夢 第3番」から触発された抽象的なイメージが描かれた絵画作品に仕上がっていますが、こちらの「アートのかけら」コーナーで販売されていたのは、入選作を仕上げるための準備段階で今宮さんが試行錯誤した過程がわかるようなスケッチ帳や下絵類一式です。


今宮 有葉「愛の夢 第3番」11,000円(税込)※藝大アートプラザ大賞入選作品

これを見ると、本番作品へと仕上げる前に綿密に構想を練って、何十回とラフなドローイングやスケッチを繰り返しては、少しずつ修正しながら作家の中で理想的なイメージを固めていったのだな、という制作プロセスがよくわかります。

続いては、こちらの作品です。


いぬうな 左:「月りす」中:「太陽りす」右:「地球りす」各11,000円(税込)

いぬうなさんの手掛けた入選作は、キルンワークによる淡い水色をしたガラスのかわいいオブジェでした。しかし「アートのかけら」出品作では、ガラスではなくフェルト製で登場。


いぬうな「やめて!りすを殴らないで…」16,500円(税込)※藝大アートプラザ大賞入選作品

これは凄い。ガラスとフェルトって全く違う素材なのに、まるで兄弟のように瓜二つの造形に仕上げられています。いぬうなさんの引き出しの広さが感じられた作品でした。


千葉理子さんの作品群

こちらは、藝大アートプラザ大賞では、フレームのアクリル板いっぱいになぐり書きされたメッセージが目を引いた千葉理子さんの作品群。大量7点の出品です。今回の「アートのかけら」展では、一人何点でも出品OKとしたところ、意欲的な作家さんからはこうして多数の作品が届いています。


千葉理子「”IINE”」33,000円(税込) ※藝大アートプラザ大賞入選作品

藝大アートプラザ大賞入賞作品とはテイストが違いますが、どの作品からも独自の世界観が感じられます。アニメやゲームなどの世界観からの影響や、サブカル色を取り込んだポップな香りが漂う作品群はどれも非常に個性的。


千葉理子「edu」11,000円(税込)

それでいて、まな板に描かれた魚は、藝大美術館が所蔵する高橋由一の名作「鮭」を参照しているようで、サラリと藝大の伝統への目配せも忘れないバランス感が心憎いです。


韓 蘊澤「MAN」11,000円(税込)

そして、ただならぬ妖気を感じた作品がこちらの韓さんの作品。「藝大の猫展2020」、「藝大アートプラザ大賞」と、国籍不明のエスニックな作品で楽しませてくれましたが、これまた凄い!


上:韓 蘊澤「CAT AMULET」55,000円 ※藝大の猫展2020出品作、現在常設展示コーナーにて販売中  下:韓 蘊澤「CONNECTION」55,000円(税込)※藝大アートプラザ大賞入選作品

鉄分を多く含み、焦茶色をした不気味な半獣半人の異形のやきものは、超古代の地層からたった今出土したばかりのような、オーパーツのようなオーラを放っています。


韓 蘊澤「MAN」(部分拡大)

しかし、よく見ると頭にはパイナップルのような未知の果物が貼り付けてあったり、足首のあたりには毛糸のような繊維で体毛(?)のようなものまで表現されるなど、ディテールも突き詰められているんです。とにかくこのただならぬ妖気。玄関に飾っておけば、ちょっとやそっとの悪霊なら退散していきそうな強烈な守り神になってくれるかもしれません!


三澤 萌寧「マスクピープル·逆マスクピープル」(マスクピープル、逆マスクピープル1体ずつ2点で11,000円)

さて、続いてはこちらの作品群。 マスクをした様々な人形と、マスクの部分が反転した「逆マスク」の人形が大量にならんでいます。こちらは、2つワンセットで11,000円。これはお得ですね。


三澤 萌寧「3-mitsu-girls」16,500円(税込)※藝大アートプラザ大賞入選作品

彼女の場合も、藝大アートプラザ大賞入選作とは、一見コンセプトも素材もバラバラにみえますね。入選作は木彫に彩色された子供の積み木玩具のような温かみを感じる作品でしたが、「マスクピープル」たちは石膏で作られています。

でも、よく見ると、複数のオブジェで心地よいリズム感を生み出し、一つの作品として統一感をもたせる作風や、時事的なテーマが造形へと織り込まれている点で、一貫した作家性を確かに感じることができました。


Kanae kamikawaさんが今回企画のために用意した作品群。物凄い点数です!!

最後にご紹介するのが、藝大アートプラザ大賞でも、合計4作品の入選作を送り込むなど多作だったKanae kamikawaさん。今回は、入選作を遥かに上回り、約20点と非常に多くの作品群を出品してくれました。


Kanae kamikawa 左:「Fire flower」右:「Blue clouds」各11,000円(税込)

感服したのは、非常に多作なのに、バラエティに富んだラインナップになっているということ。所属する先端芸術表現科での発表作品や、ネット上でも見つかる彼女の過去作品を見てもわかりますが、同じような傾向の作品が少なく、常にいつも新しいものを生み出しているような作家さんなのです。


Kanae kamikawa「1年間温めた1本1万円の絵の具」11,000円(税込)

どの作品も荒削りながら、クリエイティブなエネルギーが充満しているようなオーラが感じられました。彼女の頭の中には、きっとアイデアの「かけら」がギッシリと詰まっているのでしょう。1点購入して手元に置いておくだけで、彼女の溢れ出る情熱から力を分けてもらえそうです。

見比べてたのしむ「おかわり」的な好企画!

今回の「アートのかけら-1.1万円アートマーケット-」は、藝大アートプラザ大賞の「プラスワン」的な実験的な展示企画でしたが、非常に可能性のある取り組みだと感じました。

なぜなら、この取組は「誰も損をしていない」からです。売り手よし、買い手よし、世間によしと、まるで近江商人の商売原則を地で行くような好企画なのですね。

従来なら、陽の目を見ずに無意識に処分してしまっていたような作品未満の中間生成物や習作も売れるとなると、若手作家にとっては活動原資の足しになるので、非常にありがたい話だと思います。

一方、アートを購入する初心者にとっても、こうした小品が気軽に買えるとなると、ぐっと敷居が下がるはず。また、自宅に大きな作品を飾るスペースがない人でも、この大きさの作品なら買ってもいいかな、と思えるはずです。

さらに、熱心なコレクターにとっても嬉しい企画となったでしょう。なぜなら、好きな作家の生み出したものならば、たとえ紙切れ1枚でも欲しいというのが、コレクター心理だからです。お気に入りのアーティストの息遣いが感じられるモノを手元に置いておけるなら、大いに価値を感じられるでしょう。もちろん、こうした小品は、将来作家がビッグに成長を遂げた時に、「作家活動最初期のレア作品」に早変わりするはずです。これこそ、コレクター冥利につきますよね。


CAI QINさんの作品群。水彩での素朴な風景画は生活に潤いをもたらしてくれそうです。

そして、何よりも、これからプロの作家を目指す学生さんにとっては、とにかく今は自分の作ったものが少しでもお客さんに認めてもらえる、という機会は、多ければ多いほど自信になるはずです。藝大にゆかりある作家を、作品を販売することで全面的に応援する、という藝大アートプラザの存在意義にもバッチリ沿っていますよね。

スタッフの方によると「第15回[藝大アートプラザ大賞展」が2月23日にテレビ放送で取り上げられた相乗効果も手伝って、「アートのかけら-1.1万円アートマーケット-」は、現在非常に売れ行きも好調とのこと。

ぜひ、機会があれば、将来の「大物作家」候補たちの個性がキラリと光る「アートのかけら」をチェックしてみてくださいね。入賞作品と見比べながら鑑賞してみるのも凄くおすすめです。思わず入選作品と「アートのかけら」と両方とも欲しくなってしまうかもしれませんね?!

また、「第15回藝大アートプラザ大賞展」も、まだまだ3月14日まで開催中。

コロナ禍がまだまだ予断を許さない状況下ですので、オンラインでの作品鑑賞および購入もスムーズに行えるようにWebへの取り組みが強化されています。

藝大アートプラザのホームページで気になる作品があれば、小学館が運営する「PALSHOP」でそのまま作品の購入も可能です。ぜひオンラインも合わせて活用してみてくださいね。 (https://artplaza.geidai.ac.jp/gallery/exhibited-works/15.html

展覧会名:第15回藝大アートプラザ大賞展
会期:2021年1月23日(土)~3月14日(日)
休業日:月曜日
開催時間:11~18時
入場無料


取材·撮影/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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