漆入門はお箸から!気鋭のアーティスト達が手掛けた箸はいかが?「うるしのかたち展2020 – Forms of urushi -」

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藝大アートプラザ
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作品紹介

2020年秋から、「NIPPONシリーズ」と題して全3回で藝大の絵画や工芸の研究室を特集した展覧会シリーズが好評です。2020年12月18日からは、いよいよ全3回のトリを飾る「うるしのかたち展2020 – Forms of urushi -」がスタート。

今回は、歴代の漆芸研究室出身者から、錚々たるアーティスト総勢29名が出品メンバーに顔を揃えています。

人間国宝にもなっている増村名誉教授を筆頭に、歴代教授・講師陣から将来が嘱望される気鋭の大学院生まで多士済済。

幅広い世代の作家陣から、酒器や花瓶、お皿といった実用的な工芸作品から、個性的な現代アート作品まで、「漆」をテーマに多彩な作品群が藝大アートプラザに届きました!

そんな中、本展のため多くの出品者が共通して制作に取り組んだ作品があります。

それが、「箸」なんです。

展示室内の窓際に目を向けてみましょう。「うるしのお箸」と名付けられたコーナーに、たくさんの箸がずらりと並んでいる様子は圧巻。

今回の「うるしのかたち展2020 – Forms of urushi -」は、「生活に寄り添う」という企画コンセプトの元で構想されました。そこで、本展企画運営の中核メンバーの大崎風実さんや川ノ上拓馬さんの発案によって、展覧会の目玉企画として、みんなで「お箸」を作って展示しよう・・・ということに決まったのです。

それにしても、なぜ「お箸」なのでしょうか。大崎さんにお聞きしてみました。

「お箸は、漆を専門に作品を作る人なら、誰もが一度は必ず漆の塗りのお箸を作った経験がありますし、小さい作品の中にも自分のこだわりがしっかり出せます。また、日本人なら日常生活の中で食事の時に誰でも使うものなので非常に親しみやすいと思うんです。制作者、鑑賞者の両方にとっていちばん「生活」を実感できるものだと思うので、提案してみました。」

なるほど!確かに、私たち日本人はみんな物心ついたときから漆塗りのお箸に親しんできていますからね。

それにしても非常にたくさんのお箸。

これだけあれば、自分にとって「ビビッ」と来る作品もきっと見つかるはず。

ですが、これだけ多くの作品が並んでいると、どこを見て選べばいいか、あるいはどういったポイントが鑑賞上の注目点なのか、ちょっと戸惑うこともあるかもしれません。

そこで、ここからは、各作家さんからお聞きした内容をもとに、注目点を5つのポイントにまとめてみました!

注目点①:お箸の「形」に注目!


田中館亜美「箸」13,200円(部分)

まずは、お箸の形をじっくりとチェックしてみましょう。お箸は、たいていの場合、円筒形ではなくて、四角錐や八角錐のかたちをしています。つまり、角がちゃんと作られている「角箸」になっているのですね。

なぜ、わざわざ角がつけられているのでしょうか?

それは、完全な円筒形だと、ものが非常につかみにくいからなんです。お箸につけられた「角」の部分でひっかけて、食べ物を効率よく掴めるようになっているのですね。

でも、その分、漆を研ぎ出したり、摺り込んだりする工程では、それぞれの角面ごとに行わなければならないので大変。四角箸なら、4面ずつ、八角箸なら8面ずつ分けて各工程の作業をやらないといけないのですね・・・。

箸の形状の秘密と、そこから発生する手間暇に思いを馳せて観て頂くと、鑑賞がもっと味わい深くなると思います。本展に出品されているお箸は、大半が「八角錐」か「四角錐」の形をしているはず。ぜひ、形に注目してみて下さい!

注目点②:お箸の持つ部分や先端部分は、なぜざらざらしているの?


小林このみ「色漆8角箸」各5,500円(部分)

続いては、箸の先端から根本まで、じっくりと素材の質感をチェックしてみましょう。たとえば、食べ物をつかむ先端部分や手で持つ根元の部分だけ、少しキメが粗く、ざらざらとした質感に仕上げられている作品を結構見かけるのではないかと思います。

実は、お箸のザラザラした部分には、箸の耐久性を向上させるとともに、滑り止めの機能を持たせているんです。

このざらついた質感を演出するのは、箸の表面に蒔かれた「乾漆粉」(かんしつふん)という、漆の塗膜を粉状にした物質です。この乾漆粉の上にさらに漆を塗り、研ぎ出し・・・という工程を何度か繰り返すと、程よい口当たりのざらつきに落ち着くのです。

つるつるした麺類などを良く食べる、という方は、お箸の先端部分の加工にも注目してみるといいかもしれないですね。

注目点③:自分にぴったりあった重さや長さを探そう!


関口雄希「箸 蝋色」(上)、「箸 蒔絵」(中)、「箸 和紙 角」(下)各3,300円
同じ作家の作品でも、様々な長さ、重さの作品が用意されていることも!

箸は、日常生活の中で毎日使うものです。だから、手にしっくりくるような大きさや重さであることが大切です。

ぜひ、使う人の手に馴染む大きさ、太さになっているのかチェックしてみてください。手の大きさに応じて、使いやすいサイズは変わってきます。手の大きさに応じて、男性は大きめ、女性は少し小さめのサイズを好まれる方が多いようですね。

また、今回出品されているお箸は、全て天然木の木地を使用。サクラ、ヒバ、ヒノキ、アテ、マラス、タガヤサン、竹など非常に多岐にわたります。持った時の硬さや重さなども、木地の材質によって微妙に違っていますので、ぜひじっくり手にとってピンとくるのを選んでみましょう。

それぞれのお箸で使われている木地について詳しく知りたい場合は、藝大アートプラザのスタッフにぜひ尋ねてみてくださいね。

注目点④:お気に入りのデザインを選んでみよう!


奥窪 聖美「箸『トーテム』3」(上)、「箸『トーテム』2」(中)、「箸『トーテム』1」(下)各9,900円

ここまで、主に箸の機能面に焦点を当てて見どころを紹介してきましたが、もちろん見た目の美しさやデザインを見て、直感的にビビっとくるものがあれば、それを選んで頂くのが一番!


奥窪 聖美「箸『トーテム』3」(部分)
作品名でわかるように、箸の根本がトーテムポールのようなユニークな形をしています!

なぜなら、今回出品されている箸はどれも技術を磨き続けたプロのアーティストが精魂を込めて塗り、研ぎ上げた逸品揃いだからです。


池 庭旼「箸」各8,800円


池 庭旼「箸」(部分拡大)
箸の根本には、七色に光るキラキラした螺鈿がぎっしり!美しいだけでなく、手で持った時の滑り止めにもなっています。

建築家にとって最も身近で小さなテーマの建築作品が「椅子」であるように、漆芸家が作る「箸」には漆芸家一人ひとりの、アーティストとしてのDNAが凝縮されているといえるでしょう。

わずか20cmほどの小さな作品の中に込められた彼らの技術とプライドをぜひ感じてみてください!

注目点⑤:個性派のお箸もあります!


野田怜眞「竹の箸」(上)11,000円、「竹の菜箸」(下)13,200円

29名も出品者がいると、中にはやっぱり規格外の面白い箸を手掛ける作家もいるはず・・・そう思って、ズラーッと並ぶお箸を見ていくと、やっぱり規格外の面白い作品もありました。

たとえば、こちらの菜箸。ほとんどの作家が、木材から加工された木地を使う中、野田怜眞さんは、藝大取手キャンパス内に自生する若竹を探し出し、自ら切り出しました。切った後、鍋で煮詰めて木地へと加工する手の込んだ工程も含め、全て自分の手で手掛けました。


野田怜眞「竹の菜箸」(部分拡大)
竹の「節」をデザイン面でのアクセントに活かして仕上げるなど、見た目の個性や美しさも抜群。

しかも、持ってみるとしなやかで軽く、竹の特性が活きています。藝大で生まれた素材を使い、藝大で販売されるという、まさに地産地消のエコロジカルなアーティスト菜箸、おすすめです!


川ノ上拓馬「摺漆のお箸」各7,700円

また、こちらはどうでしょう。凝ったデザインの作品が多い本展の中では、特に絵柄なども描かれておらず、一見地味に見えるかもしれません。しかし、これまた変態的(いい意味で!)に工程を積み重ねた凄い箸なんです。

なんとこちら、摺り漆を1面につき30回も行っているのだとか!!

箸を磨くだけで2ヶ月間かけられているんです!


川ノ上拓馬「摺漆のお箸」(部分拡大)

なるほど、細かいところまで観察していくと、箸の表面からは、非常に洗練された高級感が漂っています。ずっと凝視していると、つややかなオーラが沸き立っているようでもあります。

デザインが非常にミニマムに抑えられた分、飽きが来ず、ずっと末永く愛用できるマイ箸として重宝しそうです。

まとめ

お箸の良いところは、アーティストが作り上げた作品でありながら、気軽に日常生活の中で楽しみながら使えるところです。電子レンジと食洗機さえ避ければ、洗剤でも洗えるし、滅多なことでは破損したり折れたりすることもありません。取扱も難しくないのです。

また、比較的手に取りやすい価格帯で並んでいるのも魅力。まさに「生活に寄り添ってくれる」小さなアート作品といえるでしょう。

非常に多数揃っているので、ぜひ見比べながら楽しんでみてくださいね。

展覧会名:NIPPONシリーズ③ 「うるしのかたち展2020 – Forms of urushi -」
会期:2020年12月18日(金)~2021年1月17日(日)
休業日:2020年12月21日(月)、12月28日(月)~ 2021年1月5日(火)、 2021年1月12日(火)
開催時間:11~18時
入場無料


取材・撮影/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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