力作が勢揃い!藝大アートプラザ大賞展が始まりました

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藝大アートプラザ
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主夫アートライターの“かるび”こと齋藤久嗣と申します。

1月24日から、「藝大アートプラザ大賞展」が始まりました!
2020年第1回目の企画展です!

学内から作品を公募し、審査によるコンペティション形式で大賞・準大賞などが選ばれる藝大アートプラザ大賞。今年度も多数の応募作の中から、「入選」以上の作品約80点の展示・販売が行われています。

早速、その概要をレポートしてみたいと思います!

藝大アートプラザ大賞とは?

藝大アートプラザ大賞展内観

「藝大アートプラザ大賞」とは、毎年、学生の制作活動の一端を学外に発信することを目的として、東京藝術大学の全学生を対象に、学内で開催されるアートコンペティションです。2006年の第1回展から毎回欠かさず開催され、今年で14回目となります。

審査には、藝大の美術学部の先生方が全面的に協力。毎年、「大賞」「準大賞」やその他入選作が厳正なセレクションの結果選ばれ、展示販売されています。

本展は、東京藝術大学から世界へと羽ばたいて行こうとする若手アーティストにとっての登竜門的なコンペティション。実際、歴代「大賞」「準大賞」に輝いた優秀者の中からは、超絶技巧で知られる自在置物作家・満田晴穂さんや、博多人形の大胆な現代風アレンジで大人気の人形師・中村弘峰さんなど、現在第一線で活躍中の若手アーティストが多数輩出されています。未来の巨匠が出品者の中に含まれているとなっては、作品を見るわたしたちアートファンも気合いが入りますよね!

第14回は約80点の作品が入選しました!

さて今回の第14回でも、例年通り多数の応募がありました。2019年春に入学した各学部の1年生から、大学院生、社会人になってから大学へ入り直した個性的なキャリアの持ち主まで様々なバックグラウンドを持つ学生が作品制作にチャレンジしてくれました。

学生が制作した作品といっても、そこはハイレベルな学生が集い、ハイレベルな講義が行われている東京藝術大学。中にはすでにギャラリーで作家デビューしていたり、プロ顔負けの実力者が多数いるわけですから、美術学部の先生方の審査にも非常に力が入ります!

1点1点応募作のコンセプトや技術を確認しながら、慎重に審査が進められました。

藝大アートプラザ大賞審査
審査風景。応募作を全て並べ、真剣な眼差しで検討を重ねる審査員。

結果として選ばれたのは、大賞が1名、準大賞が2名、第14回のゲスト審査員としてお迎えした芥川賞作家・堀江敏幸さんが選んだ堀江敏幸賞が1名、そして小学館賞が2名。それに加えて、展覧会で展示・販売対象となる入選作品約70点が選出されました。

大賞・準大賞はこちら!

では、早速大賞から見ていきましょう!見事、第14回藝大アートプラザ大賞で「大賞」に輝いたのはこの作品です!

大賞・瀧澤 春生「双子」

瀧澤 春生「双子」(110,000円)
瀧澤 春生「双子」(110,000円)

本作は、かやとくるみの木を素材に、木彫で丁寧に掘られた親子の彫像。母親の両腕に収まる双子の子供からは、聖母マリアが幼子ヨハネとキリストを抱きかかえる西洋美術の定番「聖母子像」にも通じる穏やかな雰囲気が感じられます。安定感のある構図で、子供をしっかり小脇に抱きかかえて真正面を見据える母親のりりしい顔つきが印象的でした。

瀧澤 春生「通勤ダンサー」(110,000円)
瀧澤 春生「通勤ダンサー」(110,000円)

実は作者の瀧澤さん、もう1点ユニークな出品作が入選しています。それがこちらのちょっと風変わりな姿勢の小さな男性の木彫像。これ、何をやっているんだろう?とじーっと見ていたら、作品につけられたタイトルを見て「あぁ、なるほど!あるある!!」と納得。日本の大都市圏特有の通勤事情が生み出した非常にユーモアあふれる作品でした。写真ではなく、現場で見るともっとクスッとしますよ。

準大賞・VIKI「The Sigh Fragments」

VIKI「The Sigh Fragments」(58,300円)
VIKI「The Sigh Fragments」(58,300円)

続いては、準大賞に輝いた作品をご紹介します。在学中から個展やグループ展を重ね、「感熱紙アート」「レシートアート」などテレビ出演やライブパフォーマンスでも注目されてきているVIKIさんの作品。(ちなみにVIKIさんは外国人ではなく日本人です)

本作は、ベールに包まれたパネルの上に、様々なレシートの断片が貼り込まれコラージュされた、絵画でも版画でもない不思議なオリジナル平面作品。この「レシート」を活用するという発想、ありそうでなかった見事なアイデアですよね!

熱を加えることで劇的に変化する素材自体の面白さや、名もなき人々の思いのかけらを寄せ集めることで、毎回必ず違ったメッセージ性を持たせることができる表現媒体としての意外性など、着目点が非常に素晴らしいと思います。

生きていく上で誰もが毎日のように大量に受け取るので、世の中に最もありふれた「記録」でありながら、実は世の中に全く同じものが存在しないというレシート特有の性質をうまく活用した作品だと感じました。

準大賞・鈴木初音「月夜」

鈴木初音「月夜」(49,500円)
鈴木初音「月夜」(49,500円)

そしてもう一つの準大賞作品が、鈴木初音さんの本作。見た目以上に忍耐力を必要とする作業工程を経て制作されています。2層以上の違う色を重ねてから、上の層を掻き落とすことで絵を描いていくフレスコ技法の一つ、グラフィート技法が用いられており、単に油絵を描くより何倍もの時間と労力が必要なのだそうです。

画面いっぱいに描かれたモチーフは、立体感が抑えられ、中世の西洋絵画を思わせる適度にユルく幻想的な絵柄に惹かれました。西洋のどこかの古代遺跡から発掘されたかのようなユーズド感も魅力的です。

ちなみに、鈴木さんの作品は藝大アートプラザの常設展示でも現在1点展示中。こちらも同じくグラフィート技法で制作された作品です。ぜひ、併せてチェックしてみて下さい。

鈴木初音「ふりつもる」64,800円
鈴木初音「ふりつもる」64,800円

2019年度の入選作の特徴は?

上記でご紹介した大賞・準大賞作品以外にも、多数の入選作品を楽しむことができます。僕が感じた今年の「藝大アートプラザ大賞展」出品作品の特徴を簡単に整理しておきますね。

特徴1:気軽に自宅で飾れる小品が中心

寺倉京古「振出 ちょんまげ坊や」(各16,500円)
寺倉京古「振出 ちょんまげ坊や」(各16,500円)

たとえば日展などの大きな公募展などでは、絵画なら100号クラス、彫刻なら2mくらいの非常に大きな作品が出品されますよね。でも本展はどちらかというとアットホームな小品が中心。自宅のいろいろな場所で気軽に飾っておくことができそうです。

横橋成子「藤色の星」(33,000円)
横橋成子「藤色の星」(33,000円)

なぜ大きな作品がないのか?!というと、募集要項で大きさに制限が課されているからですね。「作品のサイズ(額縁等の外枠を除く)は、概ね 30(D)×30(W)×30(H)cm 以内であること」となっているんです。

だから、たとえば本展に出品されている作家がもし2019年度の卒業生だった場合、卒業制作の作品(第68回 東京藝術大学卒業・修了作品展1/28~2/2)と見比べてみるのも面白いですね。

特徴2:留学生が大躍進!

今回、非常に目立ったのが、留学生による入賞作品が非常に多かったこと。金工、ガラス、染織、版画、油絵など各方面でまんべんなく入選作が目立ちました。

袁 方洲「Circle and square-study period」(121,000円)
袁 方洲「Circle and square-study period」(121,000円)

たとえばこちらの作品。くしゃくしゃに丸めたあと、もう一度包み紙を広げたようなユニークな質感の皿のくぼみに丸いガラス玉がちょこんと置かれている作品。不思議な浮遊感が漂っていました。灰色と白のモノクロの世界なので、案外和室などにもぴったり合うかもしれません。

蔡 瑩臻「Laputa-sky」(165,000円)
蔡 瑩臻「Laputa-sky」(165,000円)

こちらも留学生の作品。容器に水を張り、その中に水草を水耕栽培することで作品が完成するのだとか。確かに水草が緑色の根を張ると、タイトルの通りまるで、あの有名な宮崎アニメの天空の城を彷彿とさせる景色が現れるのかもしれません。「使う」ことで楽しみが増えるアート作品です。

特徴3:身近な等身大の作品が多かった

鈴木七実「宇宙の夢」(39,600円)
鈴木七実「宇宙の夢」(39,600円)
安らかに眠る子供が見ている夢の世界を表現しているのでしょうか?無垢な子供の寝顔が素敵な作品。

現代アートというと、美術史の文脈を意識しながらコンセプトが練りこまれ、様々な解釈ができそうな抽象度の高い作品を頭に思い浮かべがちですが、今回の「藝大アートプラザ大賞展」入選作には、どちらかというと明快でわかりやすいテーマが多いように感じました。

それぞれの専攻分野に合わせて自身の技術力・表現力を全て投入しつつも、作品のテーマは作家の今の学生生活の延長線上にあるような、そんな等身大で親しみやすい主題が多いようです。

堀口晴名「はらぺこ」(46,200円)
堀口晴名「はらぺこ」(46,200円)

たとえばこの作品。見事小学館賞に輝いた作品です。文化財の保存修復を学ばれていることもあり、専攻分野で学んだ知識を応用して、まるで初期ルネサンス時代の絵画を思わせるような金地の上にテンペラ技法で丁寧に描かれていますよね。

でも、描かれているのは非常にかわいいクマなのです!お腹をすかせたクマが、なにかおいしそうなものが描かれている本を読んでいるのでしょうか?まるで児童書の挿絵から飛び出てきたような、そんな作品でした。

見るだけではなく買える!良い作品は早めにどうぞ!

藝大アートプラザ大賞展外観

藝大アートプラザ大賞展のユニークな点は、コンペ形式の学内公募展であるにとどまらず、入選した作品をわたしたち学外のアートファンが購入することで応援できる!ということなんです。つまり、出品者たちが本展で目指す最終的なゴールは、「入選」することではなく、「作品が売れる」ことなんです!そして、もちろん、それをきっかけの一つにして、アーティストとして自信をつけ、より大きく成長していくことでもあります。

伊藤店長にお聞きしたところ、「年によって差はありますが、だいたい会期中に半分くらいは売れていきますね」とのこと。今購入しておくと、後で大作家として大成した時、「幻の学生時代の初期作品」になるかもしれませんね?!良い作品から先に売れていくのはどの展示も同じです。ぜひお早めにいちど覗いてみてくださいね。

第14回 藝大アートプラザ大賞展

藝大アートプラザ大賞展DM

会期:2020年1月24日~2月16日
※2月4日~16日は、10:00~17:00までの短縮営業です。
第14回 藝大アートプラザ大賞展 特集ページ


取材・撮影/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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