デザイン科見本市 出品作家インタビュー 山田勇魚さん

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藝大アートプラザ
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「デザイン科見本市」の出品作家の選定やキュレーションにも関わっていただいた、山田勇魚(やまだいさな)さん。日本の民間伝承である「付喪神」とクジラを組み合わせた作品を発表しています。作品について、なぜデザイン科で作家活動をすることになったのかなど、伺いました。

クジラのなかに何が入っているのでしょうか?

沈没船です。テーマは沈没した船の「付喪神」です。付喪神とは、古くなった物や道具に魂が宿っていると考える日本の民間伝承です。『ゲゲゲの鬼太郎』の「一反もめん」や「ぬりかべ」も付喪神の一種です。この作品ではないですが、いままでつくっていたシリーズでは、実物を使うことにこだわっていて、本当に使われていた古道具に、目や鼻をつけて付喪神にしていました。学部の卒業制作の「付喪神の部屋」は、丸ごと一部屋を建込みからつくって、そこにある電話やテレビ、日用品などを加工して付喪神作品にしました。そのとき、一部屋ぐらいが、個人で一年につくれる付喪神の最大サイズかなと限界を感じました。

ですので、家や船など大きな物の付喪神をつくるとなると、本物ではなく模型を使うことになると思って、でも、目とか鼻を船の模型につけてもあまりおもしろくなさそうなので、発想を転換して生き物の姿にしようと考えました。そんなときに、沈没した船が鯨の姿の付喪神になって自分の港にかえっていくというストーリーが思い浮かんで、沈没船をモチーフにすることにしました。

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山田勇魚「帰港 マッコウクジラ」

なぜ岸に帰ってこようとするのでしょうか?

沈没した船が付喪神になって動けるとしたら、どうするかと考えたときに、きっと故郷に帰ろうとするのではないかと思いました。なので、作品のタイトルは母港に帰るという意味をこめて「帰港」としています。

なぜクジラにしたのですか?

僕の名前「勇魚(いさな)」が、むかしの言葉でクジラを意味していたこともあり、クジラをモチーフにしたいと常々思っていました。クジラはもともと陸上に生きていた哺乳類で、それが海に出て適応して戻ってこなくなった生き物です。ただ、普通は戻ってこないのですけど、ニュースなどで見るように、陸地に近づきすぎて打ち上げられることもままあります。戻りたいけど戻ってこられない沈没船と、鯨が岸に打ち上げられる話が重なって、クジラという姿を借りて沈没船の付喪神をつくろうと思いました。

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山田勇魚「帰港 ザトウクジラ」

付喪神に興味をもったきっかけはありますか?

子どものころからものに対する愛着が強かったです。着られなくなった服とか使わなくなったおもちゃを捨てられると、かわいそうで泣いちゃうような子でした。大人になってそういう感情がどこから来るのかなと思ったときに、付喪神という話を知って、自分の中で合点がいきました。だから今も付喪神のテーマをやっているのでしょうね。

デザイン科出身でアーティストとして作品を発表する方は多いのでしょうか?

多いですね。僕の考えですけど、入学試験で1000人から45人を選ぶとなると、実力があることはもちろんですが、面白いことをやってくれそうな人を選んだり、オリジナリティの強い人が集まることになり、そうすると自然と作家色が強くなります。もちろん半分以上の学生は企業に入るのですが、年間2、3人は作家をやる人がいます。一回企業に入ってから、やはり違うなと思って作家になる人や、務めながら作家活動をする人も多いですね。

山田さんは、デザイン科に入学したときから、作家としての作品を発表しようとしていたのですか?

学部に入ったときは、まだデザイナーになろうという気持ちがありました。じつは、僕、藝大に入る前に、多摩美(多摩美術大学)のグラフィック(グラフィックデザイン学科)に1年だけいたんです。そのときグラフィックがあまり向いていないなと思って、立体の個展を銀座でやりました。それが思いのほか楽しくって、一個だけ作品も売れて、依頼を受けてデザインして製品をつくるよりも、自分で作品をつくって「これどうですか?」と提案して、「いいね」と思った方に買っていただく方が、僕にとっては健全な流れだと思いました。それで多摩美1年生のときの個展から、藝大1年生、2年生とグループ展などをやって、作家でなんとか生きていけないかなと思い始めました。

大学1年で個展を開催したということは、早い段階から、つくりたいものが決まっていたのですね。

付喪神という言葉は知らなかったのですが、最初の個展でもジャンク・アートですね、壊れた車の部品などをもらってきて、つなぎ合わせて魂を持つというテーマの作品をつくっています。それから11年くらい経ちますが、根本的には同じことをやっていますね。

今後もこのテーマを続けていくのでしょうか?

そうですね。付喪神を軸にしつつ、いろんなバリエーションを出していければと思っています。たとえば、日本にはダムがたくさんありますよね。干ばつになると、ダムのなかから沈んだ家とか車とか出てくるのが面白いなと思っていて、そのような家の一部を削って、森の生き物の中に入れるとか。いまは沈没船の模型をつかっていますが、レプリカではなく本物の沈没船をサルベージ(引き上げ)して入ることも考えています。

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●山田勇魚プロフィール

1988 年  生まれ
2016 年  東京藝術大学大学院美術研究課修士課程デザイン専攻 修了

[ 受賞歴 ]

2014 年  東京藝術大学卒業制作展 デザイン賞
2016 年  東京藝術大学修了制作展 デザインN賞


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

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