COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

重箱だけじゃない!漆の可能性を広げる、「うるしのかたち展2020」のユニークな作品を一挙紹介!【かるびの「秘境」藝大探検 Vol.24】

2021/01/13 コラム

「NIPPONシリーズ」の最終回となる「うるしのかたち展2020 - Forms of urushi -」も年が明けて会期後半がスタートしています。

前回コラムでは、多くの出品者が取り組んだ「箸」に焦点を当てて紹介してきましたが、本展では、お箸以外にも多数のバラエティ豊かな漆芸作品が楽しめます。

ところで、漆といえば、博物館や美術館でもおなじみの重箱や酒器、お盆といった伝統工芸を思い浮かべる人もいるのではないでしょうか?あるいは仏像好きなら奈良~平安初期に作られた脱活乾漆像や木心乾漆像の仏像をイメージされるかもしれませんね。

実際、本展に出展している漆芸研究室の皆さんにお聞きしても、藝大に入学して漆と出会うまでは、こうしたステレオタイプなイメージを抱いていた人が多かったようです。

しかし、本展を見てびっくり。青や黄色などバラエティに富んだ色使い、不思議な形をしたオブジェなど、こんなものまで漆で作れてしまうの?!と驚くような作品群が並んでいるのです。

そこで、今回は「うるしのかたち展2020 - Forms of urushi -」で見つけた、とても面白い漆の作品をガッツリ紹介してみたいと思います!

これって漆なの?!まるで「漆」に見えない作品達

まず、こちらの作品を見て下さい。見た目の質感は革製品にしか見えませんよね。

でも、実はこれ全部漆で作られているんです。


佐々木岳人「Icarus」990,000円
外側は「変わり塗り」という手法で、革製品そっくりな質感に仕上げていますが、中身はその分漆作品らしさを表現。蝋色仕上げでツヤツヤになっています。

佐々木さんは、これまでもずっと革製品にしか見えないような、一種の「だまし絵」的な漆作品を手掛けてきました。

それにしても、なぜ敢えてこうした変わり種の作品をつくり続けているのでしょうか。佐々木さんに聞いてみました。

「実は、江戸時代にもこうした変わり塗りで茶道具などの『だまし漆器』を作っていた人がいたんです。どう見ても陶磁器の茶筒や茶碗にしか見えないのに、持ってみると軽い。それではじめて漆で塗られているということに気づく・・・といった作品がありました。」

それは、平和だった江戸時代ならでは遊びですよね。

「そうです。装飾の遊び心ですね。江戸時代は、様々な質感の漆塗りの技法が発達した時代でした。大学時代に、たまたま現代まで継承されている江戸時代の技法を見学したことで、『変わり塗り』の可能性を感じました。他にやっている人も少なかったので、大学院に進学した時にこの『変わり塗り』の技法を自分なりに研究して掘り下げてみようと思ったのがはじまりなんです。」

いや、それにしても本当に凄い。もっと近づいて見てみましょう。


佐々木岳人「Icarus」(部分拡大)

「ボディ自体は、麻布を漆で何枚も重ね形にしていく乾漆技法で、スライダー部分は乾漆板を作って、切ったり張り合わせたりして表現しています。唯一つまみの可動部だけは金属の棒を仕込んでいますが、それ以外はちゃんと全部漆特有の技法で形をつくっていますね。」

いや、見れば見るほど漆には全く見えません。おそるべき超絶技巧ぶり、参りました・・・。


野田 怜眞「Vanana 刺」385,000円

続いてはこちらのバナナ。つい手を伸ばしたくなりますが、作品全体にまんべんなく取り付けられた銅製のトゲが、触らせるのを全力で拒んでいるような、コンセプチュアルな香りが漂う現代アート的な工芸作品です。

注目ポイントは、バナナ本体の艷やかな質感。ロウや合成樹脂で作る食品サンプルなどとは比較にならないような、非常にリアルな仕上がりです。もちろん、漆でできています。

それにしても、なぜバナナなのでしょうか。野田さんにお聞きしてみました。

「バナナって、現代アート作品のモチーフとして頻繁に登場しますよね。アンディ・ウォーホルがシルクスクリーンで作ったバナナは有名ですし、つい最近だと2019年のアート・バーゼルでマウリツィオ・カテランが何の変哲もないバナナを壁にテープで貼りつけて、それを1600万円で販売する事件がありました。でも現代アーティストの遊びじゃなくて、バナナを工芸として本気でつくったら、凄いものができるのではないかと思って、試してみたかったんです。」

そこで、野田さんはバナナをテーマに作品を作ると決めてから、バナナ園へと足を運びます。現地で見たバナナの命としての力強さに感動して、バナナをそのまま乾漆技法でまるごと型どって作品をつくろうと決意したのだとか。こうして、生命感あふれるリアルなバナナの力作が誕生したのです。

続いては、奥の展示コーナーに目を向けてみましょう。すると何やら重量感たっぷりのクラシカルなツボが2つ並んでいます。こちらの大作は田中舘亜美さんの修了制作。

あれっ、漆の学科なのに陶磁器を作るのか・・・と思っていたら、こちらも、両方とも乾漆で制作されたれっきとした漆作品でした!


田中舘亜美「乾漆蒔絵飾り壺『自律雅量』」2,200,000円 (2点組)/左は棕櫚(シュロ)というヤシの木の葉がモチーフに、右はボケの花が器の全面に咲いています。左右で形が違うのは、制作当時の田中舘さんの揺れ動く内面の反映なのだそう。左の男性的な形状は自分を律して「格好良くしていたい」という気持ちを、右の女性的な形は「優しくありたい」というもう一つの気持ちを表しています。

「漆とはかけ離れたイメージにしたかったので、金工や陶芸のような質感を前面に出してみました。表面の仕上げには炭の粉や銀消粉をまぶして、テカリを抑えた渋みを出しています。」

また、それぞれの壺の中を覗き込んでみると、底の方までしっかりと美しく磨き込まれていました。制作中はヘッドライトを頭に巻きつけ、一日中この飾り壷と格闘していたそうです。ハンドクリームが使えない(漆に油がつくと乾かないので作業中は使えない)ので水仕事で手がボロボロになりながら仕上げた渾身の作品なのだとか。

かわいい!女性作家が手掛けた個性的なオブジェがズラリ!

本展では、出品者中の女性比率が非常に高いのが特徴。

ここからは、女性ならではの感性を生かした、「かわいい」力作を紹介していきましょう。日本美術にありがちな、地味なイメージを持たれがちな「漆」に対する先入観を壊してくれる作品揃いです。


下村史「穏やかに」198,000円/コロナによる自粛期間中、もっと穏やかな気持ちで今を楽しみたい、と思ったところから着想した作品。

まずは、こちらの下村史さんの制作した抽象的な形をしたオブジェ。あなたなら何にみえますか?

僕には、巨大な甘栗に見えました。(多分その時お腹が減っていたのだと思いますが・・・)

ご本人に感想をぶつけてみると、

「一応、穏やかな女の子の頭部をイメージして作ったのですが、見る人には、ぜひ自由に観て頂きたいなと思います。他には、銀杏に見えるって言われたりすることもありますね。」

それ以外にも、人によっては「貝」や「山」、「人間の頭部」など色々な見え方ができそうです。そして、オブジェの頭頂部にちょこんと載っているリボンが可愛さを演出する良いアクセントになっています。


下村史「穏やかに」(部分拡大)

よくこれだけ乾漆板をぐにゃっと曲げて自在に結ぶことができたな・・・と思っていたら、実は、ここは本当に結んでいるわけではないのだそうです。全部で5つのパーツに分解した乾漆板を、貼り合わせて固定することで、結び目のように見せているのですね。結び目が綺麗に見えるように何度もシミュレーションを重ねたのだとか。見た目以上にすごい労作なのです。

「漆って、結構堅苦しいイメージがあると思うんです。でも、そうでもないよ、というところをもっと見てほしくて。私の作品が、漆に対するイメージが変わる入り口となればいいなと思っています。」

さて、つづいては時田早苗さんが制作したかわいいうさぎのオブジェ。作品全面に卵殻(らんかく)と螺鈿が丁寧に貼り込まれた労作です。


時田 早苗「乾漆卵殻おきあがりこぼし『兎』」308,000円/ウサギの「白」を表現するために、白漆を塗った上から無数の卵殻を根気よく貼りつけるなど、とてつもない労力がかかっています。曲面へと卵殻を1枚1枚貼り付ける作業は困難を極めたそうです。

半球形の底部は、木の重み自体がおもりの機能を果たしており、指でつつくとユラユラ揺れるのがまたかわいい。子供向けの伝統民具「おきあがりこぼし」をイメージして作られているんです。

時田さんは、元々は木工芸をやりたくて藝大の門を叩きました。学科選択を決める大学2年生の時、木工芸に一番近い分野だったので、漆芸科を選択。それ以来、彼女は「漆」と「木」の組み合わせにこだわりながら作品をつくり続けています。

「漆作品なので非常に軽いですし、小さなお子さんでも気軽に遊べると思います。購入した方には、ぜひ何度も触って遊んでいただきたいですね」と時田さん。

丸っこくデフォルメされたウサギの大きな足を見ていると、無性に足や頭をつかんでゆらゆらと揺らしてみたくなりますよね!


大崎 風実「となりの星のふたり」66,000円

こちちは、本展の企画立案~実行の中心メンバーの1人である大崎風美さんの作品。春に開催された「花と蕾展」に続いて、藝大アートプラザでは本年度2回目の登場です。

本展では、お箸以外に3作品を出品。いずれも壁にかけて展示するタイプの、漆の特性を活かした絵画と彫刻の中間的な作品です。

元々、動物をモチーフに作品を構想することが多い大崎さん。本作で画面から飛び出てきそうなぐらいしっかりと立体感がつけられた高蒔絵で表現されるのは、動物の形を借りた自分自身の姿です。自分の中にあるその時の気持ちや物語といった要素を、動物に仮託して表現しています。

本作では、大崎さんの好きなサン=テグジュペリ「星の王子さま」の世界観から着想を得て、制作されました。安らかな顔をした2匹の犬(「星の王子さま」だからキツネ?)を観ていると知らず知らずのうちに心が癒やされてくるようです。

これぞ漆!漆黒の現代アートはいかが?!

漆といえば、やはり入念に磨き上げられた黒光りする漆黒の「黒」ですよね。

展示準備中、青木宏憧先生に漆特有の「黒」の魅力や鑑賞法をお聞きしたところ、こんなコメントを頂きました。

「漆黒って「漆」の「黒」と書きますよね。漆黒っていうのは、透明な黒なんです。霧の闇みたいな。ガラス板に黒い漆をつけて、光にかざしてみると、漆には顔料が入っていないので、向こう側が透けて見えますから。今回は鑑賞して頂くなら、ぜひ、漆の黒だけが持つ独特の透明感に着目して見ていただけるといいかなと思いますね。」

なるほど、ではまず青木先生の作品を見てみましょう。2点出品されていますが、いずれも青木先生が特にこだわる漆黒の黒で全面的に覆われたオブジェ。非常に量感のある大作です。順番に見ていきましょう。


青木 宏憧「守箱 兜蟹」2,530,000円

「守箱」という言葉には、一種のタイムカプセルのような意味合いが含まれています。独特の有機的な形は、カブトガニなどの甲殻類をイメージしているそうです。巨大な蓋の下には、未来に運ぶための大切なもの(自分の思いや気持ちでもOK)を入れる箱が隠れています。

どうもお正月にSFもの映画を見すぎたせいか、僕にはこの磨き上げられた漆の漆黒が、宇宙から飛来したエイリアンのような未知の生物に見えました。


青木 宏憧「心境」1,760,000円

続いては、蝋色仕上げで極限まで磨きあげられた黒の曲面が眩しい作品。

黒漆の魅力がしっかりと引き出され、鏡面のように美しく黒光りしています。僕がカメラを構えているところが丸映りです。

テレビ画面みたいだな、と思って見ていたら、まさに昔のブラウン管テレビをイメージして制作しているのだそうです。

本作と向き合うと、美しすぎる故か、タイトルにある通りその時の自分の心がそのまま映し出されているようです。全て見透かされているようで、なんとも言えない落ち着かない気分になる人もいるかもしれませんね。作品下部につけられているトゲトゲも、そんな不穏な空気感を倍加させる効果がありそう。

「トゲトゲした嫌な形や、触ったら指紋が残ってしまうような、触れるのをためらってしまうようなものを敢えて選んで作っています。特に、黒く艶上げした面積が大きい本作では、触りたくない意思表示みたいなものを黒色の肌で表現してみました。」


川ノ上拓馬「乾漆透飾菓子器」110,000円

さて、最後にご紹介するのは、シンメトリーな工業系のデザインが印象的な、スタイリッシュな菓子器です。

といっても、本作は底面が平らになっておらず、安定感がまるでありません。グラグラとゆれます。しかも、竹細工のように加工された輪花模様の周縁部は、お菓子を載せるとポキっと折れてしまいそうな繊細さです。

うーん、これはひょっとして実用ではなくて、鑑賞専用なのでしょうか?

「そうですね。造形では用途性のある形を借りていますが、今の僕の関心は、漆の素材としての強度がどれくらい持つのかというところなんです。だから、この菓子器も底を丸くして使えなくしました(笑)。鑑賞専用ですね。」

おおっ。ハッキリと割り切っているのですね。そういえば、第23回のコラムでも紹介させて頂いたとおり、川ノ上さんはお箸でも摺り漆のみのシンプルだけど技法にこだわり抜いた作品を制作されていました。

「実は、僕は絵を作るのが元々好きではないんです。絵の図案を考えるのがそれほど面白いと思えなかったので、絵を描いたり柄をつけたりするのを思い切ってやめて、黒一色にしました。そのかわり、そのエネルギーを全て造形や素材の探求にあてているんです。」

なるほど!シンプルな造形なのに、見ているとじわじわ凄さが漂って見えてくるのはそういったこだわりもあるのですね。

まとめ

いかがでしたでしょうか?本稿では、いわゆる私たちが一般的な漆芸に抱いている先入観を壊してくれそうなユニークな作品をいくつか紹介させていただきました。

考えてみれば、こうした現代アート的なアプローチで作られた作品は、たしかに生活の中で実際に使うことはできないかもしれませんが、オブジェとして目につく場所に置いておくだけで、私達の生活を豊かにしてくれるアイテムであることには違いありません。

特に、漆作品は軽くて丈夫なので、取り扱いもけっして難しくはありません。今回の展覧会を機に、ぜひもっと気軽に漆の面白さを体感してもらえたらいいなと思います!

展覧会名:NIPPONシリーズ③ 「うるしのかたち展2020 - Forms of urushi -」
会期:2020年12月18日(金)~2021年1月17日(日)
休業日:2020年12月21日(月)、12月28日(月)~ 2021年1月5日(火)、 2021年1月12日(火)
開催時間:11~18時
入場無料


取材・撮影/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。