東京・上野エリアの美術館・博物館おすすめ6選!歴史や見どころも解説

ライター
中野昭子
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JR上野駅の公園改札を出ると、動物園や音楽ホールなど、たくさんの文化施設が集結していることに驚かされます。上野恩賜公園付近には特に美術館や博物館が多く、年間を通して多様な展覧会が開催されているのです。今回は、上野にある彩り豊かな美術館や博物館をご紹介します。

国立西洋美術館 
ル・コルビュジエ設計の建物に名品が集結

駅を出て公園に入り、すぐ右側に見える四角い建物は、国立西洋美術館。
昭和34(1959)年に開館した同館は、実業家・松方幸次郎のコレクションを収蔵するために建てられました。

国立西洋美術館

遠くからでも目をひくスタイリッシュな建物を設計したのは、スイスに生まれ、フランスで活躍し、20世紀の建築界の巨匠と謳われるル・コルビュジエです。
ル・コルビュジエの建築は、計7か国17件が世界遺産として登録されており、同館もその中に入っています。日本におけるル・コルビュジエの建物はここだけですので、その意味でも建物自体が重要な作品といえます。なお、ル・コルビュジエが設計したのは国立西洋美術館の本館で、後にル・コルビュジエの弟子である前川國男らの設計で新館と企画展示館が増設されました。

同館は特別展も毎回見どころがありますが、常設展も素晴らしいのが特徴。常設展では、中世から20世紀初頭にかけての西洋絵画を中心とする充実した松方コレクションを堪能できます。(現在常設展示にある作品は、HPの館内地図で確認することができます。)

前庭のパブリックスペースでは、オーギュスト・ロダンの『考える人』・『地獄の門』、エミール=アントワーヌ・ブールデルの『弓をひくヘラクレス』などを鑑賞することができます。ロダンやブールデルの名品を無料で観ることができるこのスペースは、日本のみならず世界でも珍しい場所といえるでしょう。

国立西洋美術館の中庭 中央:オーギュスト・ロダンの『地獄の門』

国立西洋美術館 基本情報

住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園7番7号
公式HP:https://www.nmwa.go.jp/

上野の森美術館
多様な展示と豊富な自主展で美術界に貢献

駅を出て公園内を左へ向かうと、モダンなつくりの建物が見えてきます。
東京文化会館と西郷隆盛像の間くらいに位置するこの建物は、昭和47(1972)年に開館した上野の森美術館。公園内で唯一の民間の美術館で、常設のコレクションを持たず、企画展や特別展を専用とする美術館です。

上野の森美術館

同館がある場所は、もともと日本美術協会の会館が建っていましたが、関東大震災や第二次世界大戦などで大破しました。その後、「日本美術協会美術展示館」として再建されますが、運営権が移り、「上野の森美術館」として再スタートします。
再開時はクラシカルな展示会場だったそうですが、平成5(1993)年の『MoMA ニューヨーク近代美術館展』開催にあたり、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の展示にふさわしい場所にするために改装が行われ、今の姿になったそうです。
そして改装の結果、『怖い絵展』や『フェルメール展』など、多くの来場者を呼ぶ展覧会や、『進撃の巨人展』や『キングダム展 -信-』といった漫画作品が元になっている展覧会など、幅広い展示が可能になりました。

同館は、美術界の将来を担う作家を顕彰・助成する『上野の森美術館大賞展』、美術を好きな人が広く参加できる『日本の自然を描く展』、40歳以下の若手による平面作品を紹介する『VOCA展』といった自主展を開催し、美術界の活性化に貢献しています。

上野の森美術館 基本情報

住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園1-2
公式HP:https://www.ueno-mori.org/

東京都美術館
「美の殿堂」と呼ばれた日本初の公立美術館

国立西洋美術館から公園の奥へ進むと、赤い煉瓦造りの建物、東京都美術館(都美)があります。
都美は大正15(1926)年の開館当時、「東京府」だった東京都が建設した、日本で最初の公立美術館です。

東京都美術館

都美が設立されたのは、明治以降の日本画や西洋画などの美術品を展示する美術館の必要性が議論されていた時期でした。そんな折、寄付などの申し出があり、当時の東京府が美術館を建設することになったといいます。もともとは「東京府美術館」という名前でしたが、東京都制施行によって「東京都美術館」に改称されました。

都美は、日本の三大美術団体展とされる『日展』『二科展』『院展』の開催会場となり、官展から大学の卒業制作展などに幅広く利用されてきました。その後、収蔵品や展覧会の増加に伴い、東京都現代美術館に現代アートの作品や展示などを移し、国立新美術館に公募展などの一部を引き渡しました。
現在も、国内や国外のアートを楽しめる特別展のほか、公募展や企画展などの多様な展覧会を数多く開催しています。

最初に建築された時は、岡田信一郎が設計した、神殿のような柱が並ぶクラシカルな建物で、その風格のある姿は「美術の殿堂」と呼ばれたそうです。
後に老朽化に伴って大規模改造を行い、昭和50(1975)年、ル・コルビュジエの弟子である前川國男が設計した新館として開館しました。そして平成24(2012)年にリニューアルし、既存の建物を残す形で改修工事が行われ、設備面での全面的な更新や、ユニバーサルデザインの適用などが実施されています。

東京都美術館

東京都美術館 基本情報

住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
公式HP:https://www.tobikan.jp/

国立科学博物館
日本の科学研究を担う、生涯学習の博物館

国立西洋博物館から右へ曲がると、機関車やシロナガスクジラの模型に挟まれた建築物が。
このクラシカルな建物は、国内で唯一「国立」と名のつく科学系の博物館、国立科学博物館(科博)です。

国立科学博物館 日本館

科博は、現在の東京藝術大学の音楽学部がある場所に設立された「教育博物館」が前身であり、教育博物館が一部竣工された明治10(1877)年を創立年としています。
教育博物館はその後、「東京教育博物館」「東京博物館」「東京科学博物館」と名前を変え、昭和6(1931)年に今の場所に開館し、昭和24(1949)年に「国立科学博物館」として設置されました。

「国立科学博物館」という場合、上野本館が広く知られていますが、実際は上野本館と、東京都港区にある附属自然教育園、茨城県つくば市の筑波実験植物園・昭和記念筑波研究資料館も含まれています。
上野本館は、上から見ると飛行機のかたちをしている「日本館」と、奥にある「地球館」で構成されています。日本館の傍らにあるのはD51形蒸気機関車231号で、奥には実物大のシロナガスクジラの模型が。地球館の裏側にあるのは、赤色のラムダロケット用ランチャーです。

国立科学博物館 シロナガスクジラの模型

科博は特別展のほか、化石や剥製、マンモスのレプリカなどが見られる常設展や、年間10以上も実施される企画展も開催されています。生涯学習の施設なので、未就学児から高校生までは常設展を無料で鑑賞することができます。
なお、こちらで働いている研究員の方の大半は、子ども時代に科博に来て興味を抱き、その道に入ったとのことですので、科博は日本の科学研究の発展を担っているといえるでしょう。

国立科学博物館 基本情報

住所:〒110-8718 東京都台東区上野公園7-20
公式HP:https://www.kahaku.go.jp/

東京国立博物館
日本最古の博物館にして、最大規模の保管施設

公園から大噴水(噴水池)の方へ歩くと、奥に大きな建物が見えます。信号を渡って入場するこの施設は、東京国立博物館(トーハク)です。
明治5(1872)年3月10日、東京の湯島聖堂にて、日本で初めての博覧会が開催され、多くの来場者で賑わいました。トーハクは、この博覧会の恒久的な展示を行う博物館と位置付けられ、日本最古の博物館とされています。
トーハクが開館したのは博覧会の10年後の明治15(1882)年で、「帝国博物館」、「東京帝室博物館」と名前を変えた後、昭和22(1947)年に今の名称になりました。

東京国立博物館 本館

トーハクが開設されたきっかけは、明治4(1871)年から明治6(1873)年にかけて、欧米を視察した大久保利通らが、博物館を設立して博覧会を実施することで産業を盛り立てようとしたことにあります。
博物館の建築に力を注いだのは、イギリス留学経験があり、イギリスの博物館やフランスの植物園に感銘を受けた官僚、町田久成でした。町田久成は、明治10(1877)年に公園で内国勧業博覧会が開催された後、ジョサイア・コンドル設計による博物館建設を開始し、明治14(1881)年に開館させます。
ジョサイア・コンドルの建築は関東大震災で大破し、その後、昭和12(1937)年に渡辺仁の設計による今の建物(本館)が完成しました。

約12万点以上ものコレクションを持ち、その中に数多くの国宝や重要文化財が含まれているトーハクは、文化財の収集・保管において日本最大規模の施設です。
敷地内には、本館(日本の美術)、平成館(日本の考古・特別展)、東洋館(東洋の美術)、法隆寺宝物館(法隆寺献納宝物)、黒田記念館(洋画家 黒田清輝の作品)、表慶館(特別展・イベント)の六つの建物があります。
展示は大きく分けて、収蔵品を見せる「総合文化展」(平常展示)と、美術品を集めて期間限定で実施する「特別展」の二つになります。

敷地の外になりますが、東京藝術大学の近くにあり、黒田清輝の遺産によって建築された黒田記念館は、平成19(2007)年に東京国立博物館へ移管された施設です。こちらでは黒田清輝の油彩画やデッサン、写生帖などを所蔵し、特別室と黒田記念室で展示が行われています。

黒田記念館

東京国立博物館 基本情報

住所:〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
公式HP:https://www.tnm.jp/

東京藝術大学大学美術館
藝大の教員・学生による日本最高峰の作品が集結

トーハクの敷地に入らず、左に曲がってしばらく歩くと、東京藝術大学(藝大)の門が見えます。左側の敷地にあるのが東京藝術大学大学美術館です。
同館では常設展を開催せず、「藝大コレクション展」で収蔵品の一部を公開するほか、ユニークなテーマの特別展や学生の卒業制作展、教員の退任記念展などを開催しています。

東京藝術大学大学美術館

藝大や同館には、藝大の美術部の前身である東京美術学校時代に収集した古美術品や、歴代の教官の作品や学生の卒業制作などが収蔵され、日本最高峰の美術品が多数集結しています。髙橋由一の『鮭』や狩野芳崖の『悲母観音』なども所持しており、現状の収蔵品は3万点以上にものぼるといいます。

藝大は、もともと所持する収蔵品を文庫と言われた図書館内に納めていましたが、後に芸術資料館が発足して資料の研究や保存、公開などにあたりました。しかし収蔵スペースが狭くなり、また十分な展示空間の要望が高まったことから、平成11(1999)年、六角鬼丈によって設計された東京藝術大学大学美術館 本館がオープンしました。なお六角鬼丈は藝大の卒業生で、名誉教授も務めています。

本館は一階部分に展示スペースがなく、地下と二階・三階で展示を観る形になっており、学生食堂(カフェテリア)やミュージアムショップ、画材店なども入っています。また本館の他には、本館オープン前は芸術資料館のメインギャラリーとして活用されていた陳列館、二階に和室がある正木記念館、 そびえる柱が強い印象を与える取手館があります。

東京藝術大学大学美術館 基本情報

住所:〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8
公式HP:https://museum.geidai.ac.jp/

上野ではさまざまな展覧会が行われているので、何かしら好みの展覧会や作品を鑑賞できる可能性が高いといえます。オフの日には上野に足を運び、公園の緑や噴水などの景観を楽しみながら、文化的な空気に浸ってみてはいかがでしょう。

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