明治の酒屋を移築!令和7年にリニューアルオープン予定「下町風俗資料館付設展示場」

ライター
チヒロ(かもめと街)
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立派な瓦屋根が迫り出した軒先。

店の佇まいから、ただならぬ風格が感じられます。

徳利を下げて酒を買いにきたものの、突然の大雨に降られ、大急ぎで酒屋の軒下に入り、雨の滴を払って一息つく。そんな町の人の姿を思い浮かべました。

谷中の有名なカフェといえば、カヤバ珈琲。上野から谷中方面へ向かい、交差点の角にある商家建築の佇まいが印象的です。

東京・谷中「カヤバ珈琲」の記事はこちら

そんなカヤバ珈琲でたまごサンドを食べていると、窓ガラスの向こうに見える大きな建物に目を奪われました。

カヤバ珈琲のことばっかり見ていたから、全然気づいてなかったけれど、ここも実はなかなかすごいのでは……?

ガラス戸から見える二階建ての古い建物の正体を探りに、こちらへ訪れました。

下町風俗資料館付設展示場です。

明治時代の酒屋を移築

下町風俗資料館付設展示場として公開されているのは、江戸時代に創業した「旧吉田屋酒店」の建物です。
この酒屋は問屋で、酒造元から酒を仕入れて小売りし、塩や砂糖などの調味料も販売していたと記録に残っています。

また、戦時中では配給などの対応もしていました。

現在展示されている建物が新築されたのは、明治43(1910)年のこと。

もともとは今の台東区谷中6丁目のあたりにありました。昭和61(1986)年に営業を終え、翌年に建物の一部が現在の場所へ移築されました。

のちに階段の付け替えやガラス戸を付けるなどの改築はあるものの、模型ではなく実際に使われていた建物がそのまま残っています。

建物の注目ポイント4選

1.重厚感のある出桁造り

「出桁(だしげた)造り」と呼ばれる建築デザインが特徴の「旧吉田屋酒店」。
『建築デザインの解剖図鑑』によれば、出桁造りとは「軒を大きく出すために梁(出梁)を突出し、桁(出桁)を受ける構法」。同著によれば、関東に多く関西にはあまり見られない様式で、軒の出の長さでその家の「格」を著したといいます。

「旧吉田屋酒店」が残された理由が、江戸の商家建築の特徴を残しているからで、その一つがこの出桁造りなのです。

本来、この構法のもつ利点という観点では、合掌造りなど積雪量の多い地域で、重い屋根を支えるのに適しているという意味合いがあるようですが、江戸時代に流行したのは「格好いいから」という理由だそう……!うん、確かに格好いいですよね。店の格式の高さは令和のわたしたちにも伝わってくるようです。

江戸時代では、出桁造りが粋な建築デザインとして流行り、庇がぐっと前に出た部分までが店の敷地を示していました。

現在、東京でこういった出桁造りの建物が残っているのは、大正12年の関東大震災による被害の少なかった地域で、谷中エリアや山の手のあたりに見られます。

商家建築は関東大震災をきっかけに、ファサード(建物の表側)が平面で構成された、いわゆる看板建築に流行が移ってゆきます。看板建築に関しては、下町エリアで今でもあちこちに残っていますが、東京小金井にある江戸東京たてもの園では、その特徴的なデザインをじっくりと見学することができます。

2.揚戸

そしてもう一つの特徴が揚戸(あげど)と呼ばれるもの。

揚戸の下半分を降ろした状態

木製のシャッターともいえる揚戸は、外と内の境界線を指し、上下に分かれていて、その両方とも上に仕舞われる形になっています。なぜ上に揚げるかといえば、間口を広げられるためで、横に開く構造だとどうしても両側に戸袋が必要になって狭くなるから。

揚戸は、木製の留め具で押さえられている。このような留め具を造る職人が減っている

入口にある敷居と真ん中の柱も取り外しが可能なため、たくさんのお客さんを出迎えることができるほか、大八車で荷物を運び入れるときにも便利なのが揚戸の特徴です。

3.帳場

帳場を囲うように置かれた衝立(ついたて)は、帳場格子と呼ばれるもの。「お金を扱う大事なところですよ」と示すものです。ここは店の人でも番頭さん以上の人しか入れない場所で、文机(ふづくえ)にそろばんが置かれています。

その隣にあるのが銭箱です。

中央に開いた穴にジャランとお金を入れ、1日の終わりに箱を開いて今日の売り上げを計算したそう。「結構大ざっばに入れるんだな」と思ったのですが、江戸時代の商家では掛売りが基本だったので、その場で精算する機会はそれほど多くなかったのかもしれません。年の終わりなどに帳簿を確認し、節目に取り立てるのが掛売りの基本でした。

帳場の奥は大広間、2階は奉公人の住む部屋ですが、現在開放しているのは店先のみになります。

階段の急角度にも注目を

4.備品

壁にずらりと並ぶ酒樽や日用品のパッケージなど、当時の面影を感じられる展示物にも注目しましょう。

こちらは一斗瓶! 

ずいぶんと大きいのですが、こちらは一升瓶10本分の容量。実際に使うというよりは、ディスプレイとして置かれました。

木製やホーロー製の看板やポスターなど、酒蔵などの製造元が作った販促物も展示されています。

次は徳利をご紹介しましょう。
こちらは町の名前が書いてある徳利です。

画像提供:下町風俗資料館

いわゆるマイボトルとして使われていたとのこと。徳利を持参し、入る分だけ売ってもらうシステムがあったそうで、通い徳利と呼ばれていました。

中央の棒のようなものが竿秤

量り売りで使っていた竿秤にも注目を。小学校の理科の実験でやったような記憶が蘇ってきましたが、使い方は重さが釣り合う場所を探して、測りたいものの重さを測るというもの。下町風俗資料館の研究員の方によれば、バランスを取るのはなかなか難しいようです。

当時の空気感が伝わる展示

建物の外観から内部に至るまで、見どころたっぷりの下町風俗資料館敷設展示場。この空間に入ると、その当時の空気感が伝わってくるようで、建築や昔の風俗に詳しくなくても充分に楽しめます。
そして、この展示場から徒歩20分の場所に位置する下町風俗資料館の展示も併せてぜひ見学を!

あわせて見学したい!下町風俗資料館の見どころ

上野公園にある下町風俗資料館では、大正時代末ごろの長屋の様子を再現しています。

画像提供:下町風俗資料館

1Fには商家の店先の再現展示も。こちらでも出桁造りと揚戸が見学できるようになっています。また、2階には銭湯の番台を再現した展示もあり、実際に番台に登る体験もできます。(感染症対策のため変更の場合あり)

画像提供:下町風俗資料館

下町風俗資料館はコロナ禍で延期になっていたリニューアルが決まり、来年4月に休館し、2年後の令和7年にリニューアルオープンの予定のため、ぜひお早めにどうぞ。

余談ですが、下町風俗資料館の2階からは不忍池が見下ろせるので、蓮が咲く頃に行くと一度で二度美味しい体験ができるかもしれません。

■下町風俗資料館付設展示場
公式サイト:https://www.taitocity.net/zaidan/shitamachi/shitamachi_annex/
住所:〒110-0002 台東区上野桜木2丁目10番6号
電話:03-3823-4408
入館料:無料
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
休館日:月曜日(祝休日と重なる場合は翌平日) / 12月29日~1月3日

主な参考文献
・『建築デザインの解剖図鑑』 スタジオワーク著 エクスナレッジ 2013年
・『台東区むかしむかし お話と遊びⅠ』 台東区 1997年

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