COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

藝大×子ども展vol.1 森の宝物をさがしに 出品作家インタビュー 高橋綾さん(修士課程デザイン専攻修了)

2019/08/10 インタビュー

「虹のクネリ」という、店内で子どもが遊ぶことのできる品を出品している高橋さん。藝大デザイン科の学生時代に玩具の制作に目覚め、それから一貫して、美術の垣根を低くするような親しみやすい作品を制作しています。今回の出品作について、学生時代のこと、そして今後の抱負について伺いました。

高橋綾

主に、子供対象の遊べる作品を作っているのですか?

特別子供向けにつくっているわけではないのですが、子どもにウケが良いので、最近は美術館で子ども向けの展覧会をやることが多くなっています。

「マテリアル100の積み木」は、透明のキューブの中にいろんなものが入っていますね。

群馬県に、産業廃棄物や家庭でいらなくなったゴミを収集して、きれいにタッパーに入れて何百種類も売っている業者があります。それを活用して、アートやデザインに還元する「産廃サミット」というプロジェクトでつくった作品です。今回の展覧会のワークショップでは、子どもたちと一緒につくりました。実際に藝大の森を散策して拾ったものや、自分が持ってきたものを詰めてもらいました。散策では子供達と一緒に「宝物」を見つける気持ちで楽しく散歩ができました。

マテリアル100の積み木
高橋綾「マテリアル100の積み木」

高橋さんの「ツミキノコ」は傘の部分が回転するのが珍しいですね。

黒い傘にチョークで好きな絵や模様を自由に描いて回すと、描いたものの見え方が変わります。自然光のもとで見るのか、蛍光灯のもとで見るのかによっても、残像に変化がでます。白と黒の模様のものを回すと、人によって青っぽく見えたり、黄色っぽく見えたりして面白いです。iphoneで撮って見るのと肉眼で見るのとでも違ってきます。科学的な理由があると思うのですが、よくわかりません。深く考えずに実験して楽しいと思えるものを作品にしています。

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3作品とも・高橋綾「ツミキノコ」

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「虹のクネリ」はどのような経緯で生まれたのですか?

細い積み木が世の中になかったので、どうやって作れば良いか試行錯誤の中で生まれた作品です。最初は、曲木で作ってみたのですが、うまく形ができず、偶然広がった形で現在の曲線が生まれました。それを、自立できるように端を切ってできた形です。両掌にのるくらいの小さな積み木でした。それをもっと大きくしようと思って、3年前に予備校の後輩が社長を務めるダンボール印刷ができる会社に依頼してつくりました。なので、カラフルな紙を貼った中にダンボールの層が詰まっています。耐久性もありますし、大人が乗っても問題ないです。僕は、工芸科のように一つの素材を追求しているわけではありません。つくりたいものの発想をもとに素材を決めて、どうやってつくろうか考えて、必要があれば制作はプロの手に任すことも多いです。

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高橋綾「虹のクネリ」

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「カードスタンド」もいろんな動物がいてかわいいですね。

これは高崎にあるレーザー加工をしている会社とつくった作品です。2枚の板を磁石でくっつけて、その間にカードを挟めるようにしています。鉄板の端材を切り抜いて、再利用しています。東日本大震災のあと、藝大の卒業生が集まって震災のサポートをする「サポサポプロジェクト」に入りまして、そのときのチャリティーに出すためにつくった作品です。それまで作品を売ろうと思ったことがなくて値段もつけたことがなかったのですが、売れないとチャリティーにならないので、売れる作品にするにはどうすれば良いか考えてつくりました。

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高橋綾「カードスタンド」

作品を売るのは珍しいということですか?

珍しいです。作品を売って生計を立てるのは難しいので、作品制作とは違う仕事もして、作品も作る、そういうスタイルで活動しています。卒業後2年間藝大で助手をやり、そのあとはエアコンメーカーのデザイナーをやっていました。上場企業で忙しく、仕事と作品制作を両立できないことがわかったので、群馬県立女子大学の教員の募集に応募して採用され、現在もそこで教員をやっています。生計を立てながら、教員がやるべき研究の一環として、作品をつくって展覧会をやることもできます。学生の指導、学校の運営、作品制作、その3つをバランス良くやることで、気持ち的には安定しています。

デザイン科在籍中から、回ったり、動いたりする作品をつくっているのですか?

そうですね。入学してから1年間くらいで、玩具をやっていこうと思いました。たまたま玩具専門の田松昌三先生が非常勤でいて、その先生と話すことができ、学部2年生のときに2つ仕事を紹介していただきました。一つは学童保育の工作の先生で、もう一つは今のBenesse(当時福武書店)の子供向け科学雑誌の実験付録作りのお手伝いの仕事です。子どもたちと接し、社会勉強をしながら、実験しながら、どんなものが子どもにとって大事なのか勉強できました。

学部の3年からはゼミに分かれます。指導教員は動く彫刻で有名な伊藤隆道先生でした。伊藤先生はおもちゃを研究しても良いけれども、動いた方が良いとお話をされたので、モーターとかベアリングの仕掛けを勉強して、動く玩具をつくりはじめました。それによって、知育玩具や積み木をつくっていたところから、発展することができました。また、当時、田松先生が、スイスのネフ社のクオリティの高い玩具を作っていて、それを越えるようなものを作っていきたいと思っています。子供だましではない、クオリティの高いアート作品として玩具を展開していけば、美術の敷居を低くできると思うんです。子供か大人かどうかは関係なく、誰もが美術に親しみを持てるように展開できるのが理想です。

藝大を目指した理由は?

小学校のときに親のすすめで油絵を習っていたのですがあまり面白くなくて、それで絵を描くのが好きじゃなくなっちゃったんです。なので、高校のときは美術の授業を選択していなかったぐらいなのですが、高校2年生のときに幼馴染から美術予備校に一緒に行こうと誘われて、そこからすべてが始まりでした。

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デザイン科を受験した理由は?

予備校に通い始めた頃に家のリフォームがありました。そのときに、自分の部屋の壁紙、床材、家具などを自由に選んだのが楽しくて、美術大学で家のことを考えたいと思い、デザイン科を目指しました。結局、家については、誰かのためではなく自分のためにつくりたい思いが強かったみたいで、空間デザインの方面には行きませんでした。でも、いまも自分の家は好きなようにつくっています。

今後の抱負を教えてください。

今年の秋に、おかざき世界子ども美術博物館で、僕の過去最大の個展があります。まずはその個展のために新作の制作を頑張りたいです。また、教員をやっていますので、教育や社会貢献的な活動も展開していきたいです。病院とコラボレーションして、病院に必要なデザインを学生たちと一緒に考えたり、幼稚園に必要な美術を提案したり、未就学児童や高齢者への美術のアプローチを増やして、美術を身近にして日常をもっと面白くしていきたいです。

●高橋 綾プロフィール

1970 年  神奈川県生まれ
1997 年  東京藝術大学大学院美術研究科修士課程デザイン専攻 修了

造形デザイナー
群馬県立女子大学 美学美術史学科(デザイン教科担当)教授
「Kinetic Toy」(玩具と動く造形を組み合わせた作品)の研究開発を行う
病院や幼稚園、様々な地域にデザイン提案する実践研究も行う

【主な受賞歴】
東京藝術大学卒業制作展 デザイン賞
Contemporary Toy of the Year 2009 創作玩具公募展 佳作
神戸ビエンナーレ創作玩具国際コンペティション 大賞
環境芸術学会 学会賞奨励賞
第1回 スギ・ヒノキの創作玩具公募展 グランプリなど多数
年に数回の個展、グループ展、ワークショップ、セミナーなども開催
環境芸術学会 理事、グッドデザインぐんま 審査委員長、宇宙芸術研究部会 会員、環境芸術素材研究部会 会員、人と社会の活性化研究部会 事務局長、 実践女子大学大学 講師、日本デザイン福祉専門学校 講師、群馬県景観審議会 委員、伊勢崎市景観審議会 委員、グッドデザインぐんま推進委員長


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。